1.K事件(令和3年(不)第51号事件)命令要旨

更新日:2024年4月24日

1 事件の概要

 本件は、(1)過半数代表者の選出に係る要領等の改正、(2)和解により解雇が撤回され退職した組合員への対応、(3)学校法人代理人弁護士の組合の言論活動等に対する団体交渉での発言やメールの内容、(4)団交申入れへの対応、がそれぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
 
2 判断要旨

(1)過半数代表者の選出に係る要領等の改正について

ア 学校法人と組合の間の協定書の規定からすれば、学校法人が過半数代表者選出要領を改正するに当たっては、組合と誠実に協議を行う必要があるというべきである。

イ 本件改正の経緯をみると、学校法人は、改正を組合に提案してから1週間で提案通りの改正を行ったということができる。

ウ その間の労使間のやり取りについてみるに、組合が今年度の改正に反対していたことは明らかである。また、学校法人が組合に改正案を送付した後本件改正に至るまでの間に、団交は開催されていない。一方、学校法人の提案どおりの内容で直ちに過半数代表者選出要領等を改正する必要があると認めるに足る疎明はない。

エ また、学校法人と組合のメールのやりとりの経緯からすると、学校法人が本件改正に当たって、組合と誠実に協議を行ったということはできない。

オ 以上のとおりであるから、学校法人は、組合との誠実協議を行わないまま、一方的に本件改正を行ったというべきであって、かかる行為は、組合との協定を軽視し組合を弱体化させるもので、組合に対する支配介入に当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

(2)和解により解雇が撤回され、退職した組合員への対応について

ア 学校法人は当初から当該組合員の意向を確認した後、正式の離職証明書を交付する考えであって、実際に当該組合員の意向に従って訂正を行ったというのが相当で、当初の離職証明書の離職理由が解雇とされていたことは、意向確認の途上のことであり、当該組合員に対し、嫌がらせを行うなどして不利益を与えたとまでみることはできない。
 したがって、学校法人が当該組合員に対し、離職理由を解雇とする当初の離職証明書を交付したことについて、組合員であること等を理由として不利益な取扱いをしたものとみることはできず、よって組合活動に支配介入したものとみることもできないから、この点に関する申立てを棄却する。

イ 学校法人は、人事発令や各規程の制定・改正等を掲載する学報を定期的に発行しており、当該組合員が解雇されたことも学報に掲載していたが、これについての訂正を掲載していないことが認められる。
 しかし、本件和解の協定書の学報への掲載についての条項からすれば、当事者間において、学報の記載を訂正し、周知すること自体までは合意できなかったとみるのが相当である。そして、学校法人の回答文書には、関係部署において対応等について慎重に検討を行った結果、学報の訂正と退職に関する周知は行わないことを決定した旨の記載があることが認められる。
 以上によれば、学校法人は、本件和解の協定書の学報に係る条項にしたがって検討を行った結果、訂正を掲載しないことにしたというべきで、かかる取扱いを不当であるとまでいうことはできない。したがって、学校法人が、当該組合員の解雇に関する学報の記載を訂正しないことについて、組合員であること等を理由として不利益な取扱いをしたものとみることはできず、よって組合活動に支配介入したものとみることもできないから、この点に関する申立てを棄却する。

(3)学校法人代理人弁護士の団交における発言やメールの内容について

ア 学校法人代理人弁護士の発言は、組合の言論活動全般を抽象的に非難したものではなく、本件投稿について、学校法人関係者以外の者が閲覧可能な状況では不適切となる表現が含まれているとする使用者側の見解を、該当部分を具体的に適示した上で明らかにし、組合に再考を求めたものというべきである。そして、学校法人代理人弁護士の発言は、労使双方がそれぞれの見解を明らかにし協議するという団交の場で行われたことが認められる。
 したがって、上記の学校法人代理人弁護士の発言は、認められるべき使用者の言論活動の範囲内のものというのが相当であって、組合に対する支配介入に当たるということはできず、この点に関する申立ては棄却する。

イ 学校法人代理人弁護士による本件メールは、学部に属する教授としての当該組合役員個人の行為についてのものであることは明らかで、同組合員の組合活動についてのものということはできない。また、当該組合役員が送信したメールの内容からすれば、学校法人が、誹謗中傷的な発言等は慎み、メールの書き方について注意を払うこと等を定めた当該組合役員が学校法人と締結した和解合意書に違反している可能性があるとしたことには理由がある。
 さらに、当該組合役員が、学校法人代理人弁護士を含む学校法人と組合の関係者数名あての前日のメールにて、学校法人側から呼出があったことを組合の関係者数名が認識し得る状況で持ち出し、しかも個別の呼出に応じないと返答したというべき経緯からすると、当該組合役員の個人としての行為についての記載がある学校法人代理人弁護士のメールが、当該組合役員を含む関係者数名あてとして送信されたことは特段不自然な対応ではない。
 以上のとおりであるから、学校法人代理人弁護士による本件メールを組合に対する支配介入に当たるということはできず、この点に関する申立ては棄却する。

ウ 学校法人が当該組合役員のメールを監視していたといえるかについては、学校法人が当該組合役員のメールを見ていたのは、確認のための行為であって、監視していたとまではいえず、よって、その余のことを判断するまでもなく、この点に関する申立てを棄却する。

(4)組合及び分会からの団交申入書等への対応について

ア 労使間の団交要領には、申入れ後、概ね3週間程度で団交を開催する旨の規定があるところ、学校法人は、組合及び分会からの団交申入書等に対し、それぞれ回答文書を提出しているが、本件申立てに至るまで、これら申入書等について団交での協議は行われなかったことが認められる。
 しかし、組合は学校法人に対し、この時期、約半年の間に、合計31通の要求書を提出しており、これら要求書に記載された要求事項は合計131項目であったことが認められる。
 また、学校法人は、団交において、このペースで要求書が増えていくと優先順位を付けた方がよいと思う旨述べ、それを契機に要求事項に関する協議の進め方について調整が図られたということができる。そして、この団交では、その後、本件団交申入書等より前に組合が提出した組合要求書の要求事項等について、協議が行われたことが認められる。
 一方、組合が学校法人に対し、他の要求事項よりも、本件団交申入書等の要求事項を優先して協議するよう求めたとする疎明はない。
 これらのことからすると、本件申立てに至るまで、本件団交申入書等について団交での協議が行われなかった原因が、専ら学校法人側にあるということはできない。

イ 以上のことからすると、本件団交申入書等への学校法人の対応を団交拒否に当たるとみることはできず、よって組合活動に支配介入したものとみることもできないから、この点に関する申立てを棄却する。

3 命令内容

(1)誓約文の手交

(2)その他の申立ての棄却

このページの作成所属
労働委員会事務局 労働委員会事務局審査課 運用グループ

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