2.H事件(令和3年(不)第13号、同年(不)第32号、同年(不)第59号及び同4年(不)第14号併合事件)命令要旨

更新日:2023年12月27日

1 事件の概要

 会社においては、組合を含めて3つの労働組合が存在し、会社の従業員がどの労働組合に加入するかは、事実上、職種によって決定していた。
 本件は、このような状況下で、(1)会社が、組合員に対する新賃金制度に係る営業所別説明会について、組合が中止ないし延期して団体交渉で協議するよう求めていたにもかかわらず、実施したこと、(2)組合員17名を職種変更するに当たって、労働協約に基づく組合との協議を経なかったこと、(3)上記(2)の組合員17名に対するチェック・オフを中止したこと、(4)運転職組合員15名に対して個別勧奨を行い、その後、労働協約に基づく協議を経ずに、運転職組合員9名を退職させ、運転職組合員16名を職種変更し、運転職組合員6名を子会社へ転籍させたこと、(5)組合からの春闘要求に対して、賞与について、組合の特定職種(運転職)に対してのみ賞与を支給しない旨回答し、夏季賞与及び冬季賞与を支給しなかったこと、がそれぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。

2 判断要旨

(1)会社が、運転職組合員に対する営業所別説明会を開催したことについて

ア 本件営業所別説明会の態様についてみると、同説明会が、運転職時間給制度導入状況と保障給収束についてのものであったことは認められるものの、これ以外に、同説明会でいかなるやり取りがあったのかについて、組合から具体的な事実の主張も疎明もない。
 したがって、本件営業所別説明会が、組合員への個別交渉に当たるということはできない。

イ 会社は、組合の代表者である組合執行委員長に対して、事前に本件営業所別説明会を開催する旨通知し、これに対して異議が述べられていない状況で、運転職に対し、同説明会を実施するので参加するよう通知し、その後で、組合から同説明会の開催を中止するよう要請されたといえる。かかる経緯を考慮すると、会社が、同説明会を開催したことには、一定の理由があり、また、当初から、組合の意向を無視して、同説明会の開催を強行したとはいえない。
 さらに、会社は組合執行委員長に対し、団交を開催したいとして日程調整を依頼しており、かかる対応をみると、会社が組合との交渉を忌避していたともいえない。
 以上のことからすると、会社が、組合からの中止要請に対し、組合との交渉等を忌避するために、あえて無視して、本件営業所別説明会を強行したとはいえず、同説明会を開催したことは、組合の弱体化を図ったものとみることはできない。

ウ また、会社が本件営業所別説明会を開催したことにより、組合と組合員との関係に影響を及ぼしたと認めるに足る疎明はなく、さらに、会社と組合との間の、運転職時間給制度や保障給収束についての協議に影響を及ぼしたと認めるに足る疎明もない。
 したがって、会社が、運転職に対し、本件営業所別説明会を開催したことは、組合に対する支配介入に当たるとはいえず、この点に関する組合の申立ては棄却する。

(2)会社が、組合員17名を総合職に職種変更したことについて

ア 労働協約には、「組合員を大量に異動させるとき及び組合役員を異動するときは労使協議会で協議の上行う」との規定があること、会社は、組合員17名を総合職に職種変更するに当たり、労働協約に基づく労使協議会を開催していないことからすると、かかる会社の対応は、労働協約違反とみるのが相当である。

イ したがって、会社が、組合員17名を総合職に職種変更したことは、組合に対する支配介入に当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

(3)会社が、上記(2)の組合員17名のチェック・オフを中止したことについて

ア 会社が、組合員17名を総合職に職種変更して以降、同人らが組合脱退届を提出したか確認することなく、また、同人らから会社に対してチェック・オフ中止の申出がない状態で、組合のチェック・オフを中止し、別組合のチェック・オフを開始したことは、従前の取扱いに沿ったものであり、組合も容認していたと受け取られる対応をしていたといえるのであるから、会社が、同人らについて組合のチェック・オフを中止したことには、一定の理由があり、理解できるところである。

イ また、組合員17名は、組合のチェック・オフが中止されたことに対する抗議や、組合のチェック・オフ継続の申出もしておらず、かかる同人らの対応をみると、同人らは、組合のチェック・オフが中止されたことを事実上、容認していたとみるのが相当である。

ウ 以上のことを考慮すると、会社が、組合員17名のチェック・オフを中止したことは、組合運営に影響を及ぼすものであったことは否定できないが、不当な介入であったとまではいえない。
 したがって、組合に対する支配介入に当たるとまではいえず、この点に関する組合の申立ては棄却する。

(4)会社専務らが、運転職組合員15名に対して、個別面談を行ったことについて

ア 会社専務らが、運転職組合員2名に対して、総合職への職種変更に係る個別面談を行ったことについて

(ア)会社は、総合職への職種変更に係る個別面談を行うより前に、労使協議会を開催している。
 そして、会社は、労使協議会において、組合からの質問に答える形で、労務員のままでは不都合な点や、総合職への職種変更後の業務内容、職種変更の人数規模について一定の説明をしており、かかる会社の対応をみると、同協議会が、労働協約に基づく労使協議会として実質的な協議をしていなかったとまでいうことはできない。

(イ)また、個別面談についてみると、会社専務は、運転職組合員2名に対し、個別面談の2日後に返事がほしい旨述べたものの、同組合員らは、総合職への職種変更を断っていることも考慮すると、会社専務の上記発言のみをもって、職種変更に同意するよう圧力をかけたとまではいえない。その他、同組合員らの個別面談における詳細なやり取りは判然としない。
 したがって、運転職組合員2名の個別面談において、会社が、職種変更に同意するよう圧力をかけたとまではいえない。

(ウ)以上のとおり、会社が、運転職組合員2名に対して、個別面談を実施したことは、労働協約に反しているとはいえず、同面談において、職種変更に同意するよう圧力をかけたとまではいえないのであるから、組合に対する支配介入に当たらず、この点に関する組合の申立ては棄却する。

イ 会社専務らが、運転職組合員13名に対して、職種変更等に係る個別面談を行ったことについて

(ア)組合は、運転職組合員13名に対する「職種変更等に係る個別面談」の「職種変更等」とは、総合職への職種変更及び職種変更勧奨文書(運転手には職種変更を検討してほしい旨、子会社への転籍、作業職への職種変更、退職、運転職での継続勤務、のいずれを希望するかを記載した意向確認書を提出してほしい旨等が記載された文書)に基づく職種変更であるとするので、これを前提に、以下、検討する。

(イ)組合は、労働協約に基づく協議を経ずに、会社は個別勧奨を行った旨主張する。
 まず、総合職への職種変更についてみると、前記ア(ア)判断のとおり、会社は組合員に対して総合職への職種変更に係る個別面談を行うより前に労使協議会を開催しており、また、同協議会が、労働協約に基づく労使協議会として、実質的な協議をしていないとまではいえない。
 次に、職種変更勧奨文書に基づく職種変更等についてみると、会社は、団交において、同文書の内容を説明していないとも、また、組合からの質問に応答していないともいえない。したがって、職種変更勧奨文書に基づく職種変更等について、労働協約に基づく労使協議会での協議を行わなかったとはいえない。

(ウ)会社は、個別面談より前に、運転職に対して、職種変更勧奨文書を交付しているところ、同文書には、運転職に残る場合、賞与の支給は困難である旨記載されており、かかる記載は、運転職に留まることを躊躇させるものであるといえる。しかしながら、個別面談において、会社が職種変更勧奨文書の記載内容を説明し、意向確認書の提出を迫ったとも、運転職組合員らに対して職種変更を迫ったともいうことはできない。その他、個別面談において、会社が組合員らに対し、職種変更等を迫ったと認めるに足る事実の疎明はないのであるから、会社が、個別面談において、職種変更等に同意するよう圧力をかけたとまではいえない。

(エ)以上のとおり、会社専務らが、運転職組合員13名に対して、個別面談を行ったことは、労働協約に反しているとはいえず、同面談において、職種変更等に同意するよう圧力をかけたとまではいえないのであるから、組合に対する支配介入に当たらず、この点に関する組合の申立ては棄却する。

(5)運転職組合員9名が退職したことについて

ア 運転職組合員9名のうち、4名の組合員に対しては、それぞれ、職種変更等に係る個別面談が行われたことは認められるものの、各面談で、いかなるやり取りがあったかについて具体的な事実の疎明はない。また、それ以外の組合員5名については、いつ、どのような面談があったのか具体的な事実について主張も疎明もない。
 したがって、会社が、運転職組合員9名に対して、退職するよう働きかけたとはいえない。

イ 職種変更勧奨文書は、運転職に留まることを躊躇させるものではあったものの、運転職以外の選択肢である、子会社へ転籍する、作業職に職種変更し組合に留まる、退職する、のいずれを選択するかについては、運転職の組合員それぞれにその選択を委ねたものといえる。そして、会社が、運転職組合員9名に対して、どのような面談を行ったのか判然としないのであるから、会社が、運転職組合員9名に対して、退職するよう働きかけたとはいえない。

ウ したがって、運転職組合員9名が退職したことは、会社による組合に対する支配介入に当たらず、この点に関する組合の申立ては棄却する。

(6)会社が、運転職組合員16名を総合職に職種変更したことについて

ア 運転職組合員16名のうち、8名の組合員に対しては、それぞれ、職種変更等に係る個別面談が行われたことは認められるものの、各面談で、いかなるやり取りがあったかについて具体的な事実の疎明はない。また、それ以外の組合員8名については、いつ、どのような面談があったのか具体的な事実について主張も疎明もない。
 以上のことからすると、会社が、運転職組合員16名に対して、総合職に職種変更するよう圧力をかけたとまではいえない。

イ また、会社は、組合の組合員を減少させるために運転職組合員16名を総合職に職種変更したとまではいえない。

ウ したがって、会社が、運転職組合員16名を総合職に職種変更したことは、組合に対する支配介入に当たらず、この点に関する組合の申立ては棄却する。

(7)運転職組合員6名が子会社に転籍したことについて

ア 転籍した運転職組合員6名のうち、組合員1名に対して、個別面談が行われたことは認められるものの、これは、総合職への職種変更に係るものであり、また、職種変更勧奨文書が提示されるより前のことであるから、この個別面談において、子会社への転籍について言及があったとみることはできない。
 また、それ以外の組合員5名については、いつ、どのような面談があったのか具体的な事実について主張も疎明もない。
 したがって、会社が、運転職組合員6名に対して、子会社に転籍するよう働きかけたとはいえない。

イ また、前記(4)イ(イ)判断のとおり、労働協約に基づく労使協議会での協議を行わなかったとはいえない。

ウ 以上のとおり、会社が、運転職組合員6名に対して、子会社に転籍するよう働きかけたとはいえず、子会社に転籍するに当たって、労働協約に反することがあったともいえない。
 したがって、運転職組合員6名が子会社に転籍したことは、会社による組合に対する支配介入に当たらず、この点に関する組合の申立ては棄却する。

(8)会社が、組合に対し、運転職組合員には賞与を支給しない旨回答したことについて

ア 組合からの春闘要求に対して、会社が春闘回答書を提出した当時、労使関係は緊張関係にあったとみるのが相当である。

イ 会社が、運転職には賞与を支給しない旨回答した理由についてみる。
 会社は、自車運送事業収支が赤字であっても、一貫して運転職に対して賞与を支給していた。しかるに、会社は、前年度は年間約59万円支給していた賞与を支給しないと回答している。
 また、会社は、同じく自車運送事業に携わっている運転職以外の従業員については、前年度と同額又は増額した賞与を支給する旨回答している。
 以上のことからすると、会社が、運転職組合員について賞与を支給しない旨回答したことは、前年度までの対応からみると唐突なものであり、同じ自車運送事業に携わっている運転職以外の従業員と比較して、バランスを欠くものであるから、合理的な理由があったとまではいえない。

ウ 以上のとおり、労使関係が緊張関係にある中で、会社は、自車運送事業に携わっている運転職以外の従業員については、前年度と同額又は増額した賞与を支給する旨回答する一方で、唐突に、運転職のみ賞与を支給しない旨回答しており、かかる会社の回答は、組合員らに対して、運転職であり続けることを躊躇させ、もって運転職から他の職種に職種変更することを促すものであるといえる。
 このことに、会社の従業員がいずれの労働組合に加入するかは、事実上、職種により決まっていたことも併せ考えると、会社は、組合の組合員ではなくなる可能性があることを認識した上で、運転職のみ賞与を支給しない旨回答することで、組合員らに対して、運転職から他の職種に職種変更するよう心理的な圧力を与え、もって、組合運営に対して影響を与えたといえる。
 したがって、会社が、組合に対し、運転職組合員には賞与を支給しない旨回答したことは、組合に対する支配介入に当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

エ 組合は、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとも主張するが、会社が運転職に対してのみ賞与を支給しない旨回答したことのみをもって、運転職が不利益を被ったとはいえない。
 したがって、会社が、組合に対し、運転職組合員には令和3年度の賞与を支給しない旨回答したことは、組合員であるが故の不利益取扱いには当たらず、この点に関する組合の申立ては棄却する。

(9)会社が、夏季賞与を運転職組合員に対して支給しなかったことについて

ア 会社が、運転職以外の従業員に対しては夏季賞与を支給し、運転職に対しては夏季賞与を支給しなかったことにより、運転職の組合員が不利益を被ったことは明らかである。
 また、当時の労使関係をみると、会社が春闘回答書を提出した当時、労使関係は緊張関係にあったといえることは前記(8)ア判断のとおりである。これに加え、組合は、その後、新たに不当労働行為救済申立てを行っているのであるから、夏季賞与支給日当時、労使関係は、春闘回答書が提出された時よりも、さらに緊張関係が高まっていたといえる。
 さらに、前記(8)イ判断からすると、会社が運転職にのみ賞与を支給しない旨回答したことは、前年度までの対応からみると唐突なものであり、バランスを欠く対応であったのであるから、その回答どおり同年度の夏季賞与を支給しなかったことに合理的な理由があったといえないことはいうまでもない。
 以上のことからすると、会社は、労使関係が緊張関係にある中で、運転職以外の従業員については、夏季賞与を支給する一方で、唐突に、運転職のみ夏季賞与を支給しなかったのであるから、会社が、夏季賞与を運転職組合員に対して支給しなかったことは、運転職が組合の組合員であるが故になされたものであるとみるのが相当である。
 したがって、組合員であるが故の不利益取扱いに当たり、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。

イ 次に、組合に対する支配介入に当たるかについてみる。
 前記(8)ウ判断からすると、会社は、組合の組合員ではなくなる可能性があることを認識した上で、運転職のみ夏季賞与を支給しないことで、組合員らに対して、運転職から他の職種に職種変更するよう心理的な圧力を与え、もって、組合運営に対して影響を与えたといえる。
 したがって、会社が、夏季賞与を運転職組合員に対して支給しなかったことは、組合に対する支配介入にも当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

(10)会社が、冬季賞与を運転職組合員に対して支給しなかったことについて

ア 会社が、運転職以外の従業員に対しては冬季賞与を支給し、運転職に対しては冬季賞与を支給しなかったことにより、運転職の組合員が不利益を被ったことは明らかである。
 また、当時の労使関係をみると、夏季賞与支給日当時、労使関係は緊張関係にあったといえることは前記(9)ア判断のとおりである。これに加え、その後、組合は、新たな不当労働行為救済申立てを行っているのであるから、冬季賞与支給日当時、労使関係は、さらに緊張関係が高まっていたといえる。
 さらに、前記(9)ア判断と同様、冬季賞与を支給しなかったことに合理的な理由があったといえないことはいうまでもない。
 以上のことからすると、会社が、冬季賞与を運転職組合員に対して支給しなかったことは、運転職が組合の組合員であるが故になされたものであるとみるのが相当である。
 したがって、組合員であるが故の不利益取扱いに当たり、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。

イ 次に、組合に対する支配介入に当たるかについてみる。
 前記(8)ウ判断からすると、会社は、組合の組合員ではなくなる可能性があることを認識した上で、運転職のみ冬季賞与を支給しないことで、組合員らに対して、運転職から他の職種に職種変更するよう心理的な圧力を与え、もって、組合運営に対して影響を与えたといえる。
 したがって、会社が、冬季賞与を運転職組合員に対して支給しなかったことは、組合に対する支配介入にも当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

3 命令内容

(1)労務員運転職組合員に対する、他の従業員と均衡を失しないような令和3年度賞与の支給

(2)誓約文の交付

(3)その他の申立ての棄却

※ なお、本件命令に対して、組合及び会社は、それぞれ、中央労働委員会に再審査を申し立てた。

このページの作成所属
労働委員会事務局 労働委員会事務局審査課 運用グループ

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