5.D事件(令和3年(不)第1号及び同年(不)第28号併合事件)命令要旨

更新日:2022年10月12日

1 事件の概要

 本件は、会社が、(1)組合からの団体交渉申入れに応じなかったこと、(2)その後行われた団交において不誠実な対応をしたこと、がそれぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。

2 判断要旨

(1)会社が団交申入れに応じなかったことについて

ア 団交申入れに応じなかった理由の当否について

(ア)協議事項「親会社への出向契約書の内容確認について」は、契約書の内容を開示する必要はないし、組合員が別件訴訟事件の証拠として契約内容を確認しており、さらに「内容確認」との抽象的な要求は義務的団交事項に該当しないとの主張について

 契約書の内容を開示する必要があるか否かや既に組合員が所持しているので必要がない旨の会社の主張は、一旦、団交に応じた上でその団交において、会社が出向契約書を提出しない理由として主張すべき内容であり、団交に応じる必要がないことの根拠とはならない。
 また、「内容確認」との要求は抽象的で、それだけで義務的団交事項と判断するのは困難であるが、組合は、回答書により、当該要求事項については、組合員に対する未払残業代を会社に要求する趣旨のものであることを説明しているといえ、この要求事項は、未払残業代の支払いという「労働条件その他の労働者の待遇に関する事項」であるのだから、義務的団交事項に当たるといえ、団交拒否の正当な理由とはいえない。

(イ)協議事項「工場人員削減による労働負担問題」は経営上の専権事項であり労使間の運営に関する事項ではなく義務的団交事項ではないとの主張について

 出向契約の期間中も組合員と会社との間に雇用契約関係が存在することについては当事者間に争いはなく、かかる状況においては、上記協議事項が、工場に出向している組合員の労働条件に関する事項であることは明らかであるから、義務的団交事項であることはいうまでもなく、団交拒否の正当な理由とはいえない。

(ウ)協議事項「コロナ禍による休業時の出勤体制の不公平問題」は会社の裁量権の範疇の問題であり義務的団交事項ではないとの主張について

 出勤体制について会社の裁量権があるとしても、同時にそれが労働者の労働条件に関する事項であることが否定されるものではなく、出向契約の期間中も組合員と会社との間に雇用契約関係が存在する状況において、上記協議事項が、工場に出向している組合員の労働条件に関する事項であることは明らかであるから、義務的団交事項であることはいうまでもなく、団交拒否の正当な理由とはいえない。

(エ)団交申入れの要求の内容が不明瞭で団交応諾の判断ができず、会社に応じるべき義務がないとの主張について

 要求事項の内容に不明確な部分があったとしても、その点については、事前に組合に確認すればよいのであり、組合の要求内容が会社にとって不明瞭であることを理由に、会社の団交応諾義務が免ぜられるものではない。
 しかも、組合は、会社が協議事項について具体的に問題提起するよう求めたのに対し、回答書を提出して説明等しており、会社が組合に対して行った具体的な問題提起の要求に対して、相当程度応じているというべきであって、この点からも、会社に団交を拒否すべき理由はないと言わねばならない。

(オ)以上のとおりであるから、会社が団交申入れに応じなかったことに、正当な理由はない。

イ 事件の申立てから約1か月後に、組合と会社が団交を行ったことが認められるが、会社は、回答書によって明確に団交拒否の意思表示をしており、本件事件の申立て以降に団交が開催されたことにより、会社の不当労働行為性が当然に消滅したとはいえず、当該行為に関して、組合が謝罪文の交付等を請求していることについてまで被救済利益が消滅したものとまではいえないのだから、本件事件の申立てによって救済されるべき団交拒否の事実がないとの会社の主張は、採用できない。

ウ また、未払残業代の問題と本件事件の争点である組合に対する団交拒否という不当労働行為の問題とは別の問題であり、組合員と会社とが民事上の権利関係の確定について和解をしたことにより、団交応諾について組合が救済を受ける利益は消滅しているとはいえないから、この点に係る会社の主張は採用できない。

エ 以上のとおりであるから、団交申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たると言わざるを得ず、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。

(2)その後行われた団交における会社の対応について

ア 組合は、未払残業代支払要求に対して会社が事実に反した理由でゼロ回答をしたことが、団交に誠実に対応する義務を果たしていない旨主張するので、この点についてみる。

(ア)団交は、組合員の未払残業代について、時間外勤務が事前申請制であるかどうかをめぐって労使の主張が対立して双方が譲らぬまま、会社が、時間外勤務が事前申請制であるとの自らの主張を前提に、組合の主張する未払残業代を支払うべき特段の事情があるかどうか確認をした上で、支払うかどうかを回答することで終了したものということができる。

(イ)回答書には組合員の未払残業代を支払うかどうかについては明記がないものの、会社は、時間外勤務が事前申請制であるとの自らの主張を前提に、団交での約束に従い、未払残業代を支払うべき特段の事情があるかどうかについて、事実確認をした上で回答しているのであるから、そのことを理由に組合員の未払残業代を支払わないことを実質的に回答したものと解するのが相当であり、会社は、回答書において、団交において約束していた回答をしたものということができる。

(ウ)上記(ア)、(イ)記載の経過の中で会社が殊更に虚偽説明を行った事実は認められないことに、誠実交渉義務が使用者に譲歩や合意までを強制するものではないことを併せ考えると、会社が未払残業代を支払う旨回答しなかったからといって、団交での対応として不誠実であるとはいえない。

(エ)したがって、未払残業代支払要求に対して事実に反した理由でゼロ回答をしたことが団交に誠実に対応する義務を果たしていないとの組合の主張は、採用できない。

イ なお、組合は、会社の団交に係る不誠実な対応として、(a)組合員の始業前及び終業後の出勤データがありながら、ごまかすために「申請残業」との発言をし、(b)団交に出席した会社代理人弁護士が、ごまかす発言に終始し、(c)判例を無視する無責任な対応をし、(d)社長が、管理職であった当時、始業前の朝礼及び午後1時前の昼礼を行っていたのを承認していたにもかかわらず、ごまかした嘘の答えをし、(e)会社代理人弁護士が、会社の認識論及び朝礼実態と関係のない発言をしたこと、の5点を挙げるが、(a)については、「申請残業」との発言は、団交での会社の基本的立場を表明したものとみるのが相当であって、出勤データの記録をごまかすための発言とはいえず、(b)については、会社代理人弁護士の発言は、会話録音反訳についての自らの解釈を述べたものとみるのが相当であって、何かをごまかすための発言とみることはできず、(c)については、会社の発言は、判例について、一般論として意見を述べたものとみるのが相当であって、特段、不誠実なものとはいえず、(d)については、組合とは違う会社の立場を説明したものとみるのが相当であって、ごまかしや嘘の返答をしたものとはいえず、(e)については、会社代理人弁護士の上記発言は組合の質問に回答するためのものであり、その中で朝礼の開始時間について会社の認識を述べるのは不自然なことではなく、また、朝礼の実態とは別に、始業時間前の出社について業務命令として強制されているのか否かが判断の対象になると述べることが、団交での対応として、特段、不誠実であるとはいえないから、組合が挙げる上記(a)から(e)の会社の対応をもって、団交における会社の対応が不誠実団交に当たるということはできない。

ウ 以上のとおりであるから、団交における会社の対応は不誠実団交に当たるとはいえず、この点に係る組合の申立ては、棄却する。

3 命令内容

(1)誓約文の交付

(2)その他の申立ての棄却

このページの作成所属
労働委員会事務局 労働委員会事務局審査課 運用グループ

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