4.O事件(令和2年(不)第51号及び同3年(不)第18号併合事件)命令要旨

更新日:2022年10月12日

1 事件の概要

 組合と会社の間で以前に締結された確認書には、会社は今後、賃金・労働条件について事前に組合と協議すること、人員補充について協議すること、業務委託契約・労働者派遣契約及びパート・アルバイト契約を結ぶ場合、事前に組合と協議すること、を定める条項が含まれている。
 本件は、このような状況下で、(1)会社が、正規従業員を雇い入れ、出向社員を受け入れたこと、(2)組合役員に対する社長の発言、(3)組合の執行委員長に対する出勤停止処分、(4)従業員らに対する労働条件変更通知書の配布、がそれぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。

2 判断要旨

(1)正規従業員の雇入れと出向社員の受入れについて

ア 組合と会社との間の協定書等についてみると、会社が正規従業員を雇い入れ、出向社員を受け入れる際に事前協議が必要であるとまではいえないにしても、経営状況について労使が共通認識を持った上で、人員補充について協議を行うことが定められていると判断される。
 そこで、団体交渉での会社の対応についてみると、組合が人員補充を問題にしているところ、会社が、組合からの指摘に対し、真摯に対応しようとしていたとは到底解せない。また、組合が提出した抗議文には、組合と協議することなく、社長の一存で人員の採用行為をし続けていることが挙げられているところ、社長は、人員補充等に関して、会社側の見解を明らかにするどころか、こういった指摘や抗議を行う組合を非難する態度を取っているというのが相当である。

イ 会社は当該期間に雇用された正規従業員と受け入れられた出向社員計12名を同じ課に配属し、会社が、この時期、この課について、急激に増員したことは明らかであるところ、この課の業務が増大したとする疎明はなく、また、会社の経営改善計画書には、人件費を中心とした販売管理費の削減を行う旨記載されていることが認められるのであるから、この急激な増員は、著しく不自然というべきである。

ウ 組合活動への影響についてみると、この間に従業員に占める組合員の割合は過半数を割ったといえる。また、組合と会社は対立基調にあり、組合がストライキ通告を行うなどしているが、社長の発言からすると、社長が組合のストやストによる業務への影響を意識していたことは明らかで、人員補充により会社と対立する組合の影響力を削ぐことを企図していたと推認できる。

エ 以上のとおりであるから、会社が、当該期間に正規従業員を雇い入れ、出向社員を受け入れたことは、人員補充について組合との協議を行うことを定めた協定書等を無視ないしは軽視し、また、組合の組織率の低下を招き、これらのことにより組合を弱体化させるものと判断され、かかる会社の行為は、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

(2)社長の組合役員に対する発言について

ア 第一の社長発言の発端は、翌週月曜日の勤務について本件常務から問われた社長が、従業員を早出させて早く退社させるよう指示したことであるというべきである。
 部長でもある組合役員はこれに対し、就業規則で決まっている勤務時間を変更するとなれば、組合との協議が必要である旨述べたというべきところ、社長は、「就業規則を変えようとするのは、その時、その時、決めるんやないか。」と言い、当該組合役員が、「言うても僕も組合員ですから、その組合の立場」と言いかけたところ、社長は、「組合も何も、お前は部長やろ。」、「下っ端にあごで使われてどないするねん。お前、どっちや。社員か社員でないんか、どっちや。」等と言ったことが認められる。また、社長が「決めたんやから、それで行かんかい。」と言ったのに対し、当該組合役員が「申し訳ありませんが、行かないと思います。」と言ったところ、社長は、「それなら休まんかい。ストライキでもせんかい。」、「ボイコットするんやったら、ボイコットやれ。」等と言ったことが認められる。
 そうすると、当該組合役員の指摘の趣旨や内容を検討することもなく、自分の指示に反対したとして、「社員か社員でないんか、どっちや。」とまで発言した社長の対応は行き過ぎたものであり、その言葉遣いの荒々しさからも、相手方にとっては、相当に圧迫を感じるものではある。しかし、両者のやりとりは、従業員を早出させて早く退社させるという人員配置に関する業務指示についてのものであって、「組合も何も、お前は部長やろ。」等の発言はあるにしても、当該組合役員の発言に応じたもので、社長から当該組合役員が組合員であることに言及したわけではなく、従業員の人員配置に関する業務指示に部下として即座に従うよう、強く命じる会話の中でのものとみるのが相当である。また、社長のストに関連した発言も、早出し、早く退社することに反対する組合員がストを行ったとしても、勤務時間についての方針は変えないとの趣旨とみるのが相当であって、当該組合役員自身の組合活動に関連した発言とも同人が組合員であることを非難した発言ともみることはできない。
 以上のとおりであるから、第一の社長発言は、労働条件の変更等に関して組合と協議する姿勢を欠いていることを窺わせるもので、また、言葉遣い等において行き過ぎた点はあるものの、当該組合役員とのやり取りとしては、一貫として、従業員の勤務時間の変更について、組合との協議が必要であって応じ難いという当該組合役員に対し、社長が、自分の指示に部下として即座に従うよう強く求めたというべきもので、当該組合役員が組合員であること自体を非難したとまでは、みることができない。
 したがって、第一の社長発言が不利益取扱い及び支配介入に当たるということはできず、この点に関する申立ては棄却する。

イ 第二の社長発言に至る経緯については、執行委員長を含む従業員数名と社長との間で、業務資料の作成についてのやり取りがあり、社長は執行委員長に対し、「これから労働基準局、行ってこい。」等と発言した後、当該組合役員に対し、「みんなまとめて労基へ行ってこい。」、「文句あるんやろ、お前。文書が来とるやないか。労働組合の。」等と発言したことや、当該組合役員が、組合の抗議文は私が作ったものではない旨返答したところ、社長は、文書の中身のことを言っており、当該組合役員から聞いた意見も入っている旨述べたこと、が認められ、社長の発言の発端は、組合の抗議文にあるというのが相当である。
 その後も、社長は当該組合役員に対し、会社側に立って話すよう言っても、組合員であることを理由に逃げる旨述べ、「部長職、返上してもらわなあかん。」と発言し、さらに、数多くの業務違反をしており、このままで済ますことはできず、当該組合役員と部下2名に辞令を正式に出す旨述べ、「お前ら労働者側の意見、ぶつけてこいや。経営者側は経営者側の意見をぶつけるがな。」等と発言したことが認められる。
 したがって、社長は当該組合役員個人に対し、一方的に組合の抗議文を持ち出して、同人が組合員であって社長と反対の意見を持っていることを非難し、業務違反をしているとして報復的に人事異動をほのめかしたというのが相当である。
 なお、その直前のやり取りをみても、当該組合役員の行為に、業務違反に当たるような問題があったとはいえず、当該組合役員に、意見表明の域を超えて業務命令に違反する行為があったと認めるに足る疎明はない。また、当該抗議文の内容は、会社の行った行為を挙げて組合として抗議するものであって、この内容に使用者として承服できないとするならば、組合員個人に対してではなく、組合に対して反論書を提出するなどして、使用者の考えを明らかにして具体的に反論すべきものであることは明らかである。
 ところで、会社は当該組合役員は総務部長でありながら、組合員でもあるという利益が相反する立場を有するという特殊性がある旨主張するが、当該組合役員が総務部長であることを考慮しても、同人が組合員として社長とは相対する意見を持っていることを非難する社長の発言が正当化されるものではない。
 以上のとおりであるから、社長は当該組合役員個人に対し、本来、組合に対して反論すべき組合の抗議文を一方的に持ち出して、同人が組合員であることを非難し、報復的な降格をほのめかしたというのが相当であって、かかる行為は、当該組合役員を精神的に圧迫し、組合活動を阻害する支配介入に当たると判断される。また、当該組合役員に対し、組合活動に関連して精神的な不利益を与えるものというのが相当である。
 したがって、第二の社長発言は、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為である。

(3)執行委員長に対する出勤停止処分について

ア 懲戒処分通知書には、処分理由として「調査面談においての度重なる遅参と回答が、勤務に誠意が認められず、懲戒処分に値するため。」と記載されており、会社は弁護士による聴取における執行委員長の態度を理由に本件処分を行ったというのが相当である。また、執行委員長に弁護士の聴取を命じた会社の業務命令書の記載からすると、会社は、抽象的に可能性が発覚したとするのみで、執行委員長のどのような行為を問題としているのかも明示しないまま、厳正に対応する必要があるとして、弁護士による聴取を受けさせたというのが相当である。

イ 弁護士による執行委員長に対する調査結果の報告書には、事前の連絡なく遅参したとする記載等があるが、執行委員長の会社への回答書には、3回の聴取が行われたところ、3回目になって初めて遅刻と判断されたのは心外である旨の記載があることが認められ、会社や弁護士が、3回目の聴取までに、執行委員長に対し、弁護士事務所への到着時刻に問題があるので改めるよう求めたとする疎明はない。また、当委員会の審査手続において、会社は、執行委員長からの遅参についての回答を踏まえても、なお、執行委員長の行為が遅参に当たるとする理由を明らかにしていない。

ウ また、本件処分に至る会社の手続は、公正・中立な立場から、当該従業員の行為を明らかにし、透明性・客観性を担保して、その行為が懲戒に当たり得るかを検討したものとは程遠い。事情聴取の当初の事由とは別の理由により本件処分が行われたことからみても、執行委員長に対して懲戒処分を行う前提で懲戒事由となり得る行為の裏付けを後付けで探していたとの疑念を生じさせるものである。

エ 一方、組合と会社は対立基調にあり、執行委員長は、組合の代表者として活動してきたことは明らかである。かかる組合の代表者に対し、弁護士による聴取を繰り返し命じたり懲戒処分を課せば、執行委員長のみならず他の組合員も動揺・委縮し、組合活動が阻害されるというのが相当である。

オ 以上のとおりであるから、執行委員長に対する出勤停止処分は組合員であるが故の不利益取扱いであるとともに、もって組合を弱体化させるものと判断され、かかる行為は、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為である。

(4)本件労働条件変更通知書の配布について

ア 会社が従業員らに対し、本件労働条件変更通知書を配布し、賃金の減額を決定事項として通知したことは明らかである。

イ 会社は、本件労働条件変更通知書の配布自体は、組合との協議を経たものではないものの、事前に、組合に対し、賃金削減や各手当削減の意向を伝えていた旨主張するが、本件労働条件変更通知書の交付時までの間の労使協議の状況をみると、会社は組合に対し、せいぜい給与規定の改正を検討している旨述べたにとどまり、改定案の詳細を明らかにして、これに基づき協議を行っていたということはできない。

ウ 組合と会社との間の協定書等についてみると、経営状況について労使が共通認識を持ち、賃金等について事前協議を行うことを定めていたことは明らかで、会社が組合との協議を経ずに本件労働条件変更通知書を配布したことは、協定書等に違反するというべきである。

エ また、本件の賃金の減額の程度は、かなり大幅なものというべきであり、さらに、従前から組合は協議を経ずに給与改定を行うべきではないと明言していたというのが相当であり、これらのことを考慮すると、組合との協議を経ず本件労働条件変更通知書を配布した会社の行為は、一層悪質である。

オ 以上のとおりであるから、会社は、組合との協議を行うことなく、従業員らに本件労働条件変更通知書を配布し、これにより、大幅な賃金削減を決定事項として従業員らに通知したものというのが相当である。かかる会社の行為は、先行事件協定書等を無視ないしは軽視し、組合を弱体化させるものと判断され、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

3 命令内容

(1)執行委員長に対する出勤停止処分のなかったものとしての扱い及びバック・ペイ

(2)労働条件変更通知についての協議

(3)誓約文の手交及び掲示

(4)その他の申立ての棄却

このページの作成所属
労働委員会事務局 労働委員会事務局審査課 運用グループ

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