1.N事件(令和2年(不)第50号事件)命令要旨

更新日:2023年12月27日

1 事件の概要

 本件は、(1)会社が、団体交渉において、経営状況の今後の見通しが出てから交渉すると回答しながら、交渉することなく合理化施策を実施したこと、(2)会社が、組合員1名の解体工事現場への異動命令を議題とする団交で再度検討して回答するとしながら、譲歩しないとの電子メールによる回答のみで終了したこと、(3)総務部長が、協議中の事項である組合員らの労働条件について、組合員ら3名と直接個別に話をしたこと、(4)同部長が、組合員1名に対して組合脱退を求める発言をしたこと、(5)社長が、組合員1名との電話での会話で怒鳴るなどしたこと、(6)統括部長が、組合員1名に対して、カメラで監視した上で、カメラに写っているなどと発言したこと、(7)社長が、朝礼において、自分の主張ばかり言う奴は辞めてほしいなどと発言したこと、(8)工場への送迎車両の運転手が、組合員1名に対して、組合脱退又は退職を迫る言動をしたこと、(9)会社が、組合員6名に対し、休業を指示して給与を減額したこと、(10)会社が、上記(2)の組合員に対し、建設部工事課への異動を命じ、さらに、団交での協議中に、同異動命令に従わないとして、けん責の懲戒処分をしたこと、(11)会社が、組合員2名に対し、夜勤から日勤への異動を命じたこと、がそれぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
 
2 判断要旨

(1)経営再建計画の見通しを議題とする団交における会社の対応について

(a)団交申入れが、再建計画の途中経過についての以前の団交以来の継続的な交渉の一環としてなされたものであること、(b)会社が、再建計画の一環をなす希望退職者募集を、団交では触れることなく、組合に一切の説明もせずに、団交から1週間あまり後に、突然行ったこと、(c)団交の時点で、人員削減策の実施など、再建計画について新たな予定が具体的に決まっている場合、その情報がなければ実質的な交渉は成り立たないのであって、組合から計画の進捗状況についての質問があれば、会社は、希望退職者募集の実施を含めた新たな予定について当然に説明すべき義務があったといえること、(d)希望退職者募集の計画が以前の団交において説明されていたとは到底いえないこと、(e)会社が、希望退職者募集の実施を含めた新たな予定について、当然にすべき説明をしなかった結果、組合は、希望退職者募集等の組合員の労働条件に影響を及ぼす再建計画について交渉する機会を逸したものと言わざるを得ないこと、から、団交における会社の対応は、誠実な対応を通じて組合との合意達成の可能性を模索する態度に欠けるものと言わざるを得ず、不誠実団交に当たり、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。

(2)組合員の異動を議題とする団交申入れに対する会社の対応について

ア 団交における建設現場への異動に係る協議では、会社は、異動自体は既に決まっており従事してもらう必要があると述べる一方で、組合からの賃金引上げの提案については改めて協議することを了解したものとみることができる。

イ しかしながら、異動後の賃金に係る協議において、譲歩の余地がないのであれば交渉の必要はない旨の組合の発言を、組合が主張するような、実質的な交渉ができなくなるような団交拒否の対応を取ることのないよう会社に警告する趣旨に解することは困難であって、会社が文字どおり、譲歩の余地がないのであれば交渉をしなくてもよいとの趣旨に解したとしても無理からぬところである。

ウ 組合は、団交で新賃金を提案して検討を求めたにもかかわらず、提案には応じられず、譲歩の余地はないとメールで回答した会社の対応が不誠実団交に当たる旨主張するが、団交において組合が行った発言を、会社が文字どおり、譲歩の余地がなければ交渉をしなくてもよいと考え、提案に応じられず譲歩の余地もない旨メールで回答し、その後協議の場を持とうとしなかったとしても、あながち不当とまではいえないから、組合の主張は採用できない。

エ したがって、団交申入れに対する会社の対応は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に当たるとはいえず、この点に係る組合の申立ては、棄却する。

(3)総務部長が、組合員ら3名と、個別に、夜勤から日勤への異動に係る労働条件について話をしたことについて

ア 不誠実団交について
 総務部長の行為はそもそも団交におけるやり取りではないのであるから、不誠実団交に当たるとはいえず、この点に係る組合の申立ては、棄却する。

イ 支配介入について

(ア)総務部長が会社における人事及び労務に係る事項の責任者として組合との団交に出席していたことからすると、組合員らと個別に会社の給与に係る提案について話合いをした総務部長の行為は、会社の人事及び労務に係る事項の責任者としてなされたものであり、したがって、会社としての行為であったとみるのが相当である。

(イ)人事及び労務の責任者である総務部長が、団交議題にもなっており、会社が組合に回答を求めている事項について、組合が回答をする前に、当該組合員らと個別に会って、話をすること自体、組合員らに圧力を感じさせるものであり、組合としての交渉力を弱めるものであることは明らかである。

(ウ)したがって、総務部長が、組合員らと、個別に、日勤への異動に係る労働条件について話をしたことは、組合に対する支配介入に当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

(4)会社関係者等による発言について

ア B組合員に対する総務部長発言について

(a)組合対策の会議の開催を会社幹部に通知する電子メールが送信された時点で、会社は、組合員を職場から排除する方針を固めていたこと、(b)総務部長が、A組合員に対して脱退勧奨を行い、別の日にも、A組合員の自宅において、以前にB組合員に組合からの脱退を勧奨したことを組合に報告されて、組合から謝罪を求められたという趣旨の発言を行っていることからすると、総務部長発言は、B組合員に対して組合からの脱退を促す発言であったとみざるを得ず、組合に対する支配介入に当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

イ C組合員に対する社長通話発言について

(ア)社長通話発言が行われた当時の労使関係についてみると、(a)上記電子メールの送信時点で、会社が、組合員を職場から排除する方針を固めていたこと、(b)同メールの写しを分会長に渡した課長が社内の個人情報を外部に漏えいしたことを理由に依願退職したことを通知する旨記載した「社内報」を会社が掲出したことから、その時点で既に、会社が組合の動きに対して強い警戒感を抱いていたことがうかがわれること、(c)総務部長が、A組合員及びB組合員に対して、それぞれ組合からの脱退を促す発言を行っていること、(d)社長通話発言と同時期に、C組合員に対して、賃金面で不利益を与える労働条件の変更が相次いでなされていること、(e)かかる労使関係の下では、社長による防犯カメラを利用した確認は、組合員の社内での動きを監視することを目的の一つとしたものであったとみるべきであること、からすると、社長通話発言は、社長が社内に設置した防犯カメラを利用して組合員らの社内での動きを自宅から監視した上で、組合員の活動をけん制する意図でなされた行為とみるのが相当であり、組合員に対して、組合の活動を威嚇的な表現を用いて非難したものであって、組合活動を萎縮させるものと言わざるを得ない。

(イ)以上のとおりであるから、C組合員に対する社長通話発言は、組合に対する支配介入に当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

ウ D組合員に対する統括部長発言について

(ア)(a)統括部長発言は、D組合員の社内での行動を監視していることを示唆する発言であり、D組合員に威圧感を与えるものであることは明らかであること、(b)D組合員は、組合の中心的存在として、勧誘活動をすることにより、組合組織の拡大に貢献していたのであり、こうした積極的な活動は、当然、会社も認識していたものとみることができること、(c)会社が、D組合員を懐柔の余地のない「主要者」として認識しており、かかる労使関係の下では、統括部長発言を、D組合員が自らの組合活動に対する威圧と捉えるのも自然であること、(d)統括部長発言が、支配介入の不当労働行為であると判断した社長通話発言のわずか2時間程度後に、立て続けに行われていること、(e)社長による防犯カメラを利用した確認が組合員の社内での動きを監視する目的を持っていたことを併せ考えると、統括部長発言は、組合を意識し、組合員の活動をけん制する意図で、社長通話発言に続いてなされた一連の行為とみるのが相当であること、からすると、統括部長発言は、D組合員を狙い撃ちにし、組合活動をけん制するものであったというべきである。

(イ)以上のとおりであるから、D組合員に対する統括部長発言は、組合に対する支配介入に当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

エ 社長朝礼発言について

(ア)社長朝礼発言の内容についてみると、社長は、朝礼という非組合員も複数いる場において、組合がB組合員の建設部工事課への異動について撤回した上での団交開催を求めていることを念頭に置いて、組合員の活動をけん制する意図で、従業員に組合への加入をためらわせるような発言を意図的に行ったということができ、組合の主張どおり、自分の主張ばかり言う奴は辞めてほしい旨の発言があったとみるのが相当である。そして、A組合員の自宅を訪れた総務部長が、組合に入っている人間は会社にとって本当に「しんどい」存在である旨述べたことを併せ考えると、社長の上記発言が「組合に入って自分の主張ばかり言う奴は辞めてほしい」という趣旨であることは明らかである。

(イ)社長朝礼発言が支配介入に当たるかについてみると、組合員、非組合員を含め、複数の社員が参加する朝礼において、会社の代表者により行われた、上記趣旨の社長朝礼発言は、組合に加入して自分の権利について主張をし、会社と交渉しようとすれば退職勧奨を受けることになるとの認識を生じさせ、組合への加入をためらわせる効果を持つものであり、組合活動を弱体化させるものと言わざるを得ない。

(ウ)以上のとおりであるから、社長朝礼発言は、組合に対する支配介入に当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

オ E組合員に対する送迎車両運転手発言について

(ア)従業員を工場に送迎する車両運転手は、会社及び社長と近しい関係にあった上、会社幹部との間で人事及び労務に係る事項について緊密な意思疎通がなされ、現に、会社と組合の労使関係について詳細かつ具体的に知っていたのであるから、組合に関する会社の認識を十分に把握した上で運転手発言をしたものとみるのが相当であり、このことからすると、運転手発言は、会社の意を体してなされたものといえ、会社としての行為とみるのが相当である。

(イ)組合と会社の間でE組合員らの日勤への異動の協議が継続する中、日勤として最初の出勤日の送迎の場で、会社及び社長と近しい関係にある送迎車両運転手によっていきなりなされた、組合活動を非難する内容の発言が、組合活動を萎縮させるものであることは、明らかである。

(ウ)以上のとおりであるから、E組合員に対する送迎車両運転手発言は、組合に対する支配介入に当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

(5)会社が、組合員6名に対し、休業を指示して給与を減額したことについて

ア 分会長について

(ア)休業指示による給与減額が、不当労働行為意思に基づいてなされたものであるかについてみる。

a 会社は、組合が組合員の存在を公然化し、減給に反対する姿勢を示して団交を申し入れたのを受けて、組合員を職場から排除する方針を固め、その後、組合の動きに対して強い警戒感を抱く中で、4回もの組合に対する支配介入発言を行っているのであるから、会社が分会長に休業を指示して給与減額を決定した時点では、組合と会社の間の労使関係は、強い対立関係にあったものとみることができる。

b A組合員の自宅を訪れた際に行った総務部長の発言は、分会長に対する嫌悪感を示すものであるとともに、日勤への異動の人選をめぐって、当時、組合脱退の意向を示していたとみられるA組合員に決断を迫るために、今後、仕事を取り上げるなどして組合員を賃金面で不利益に取り扱うという会社の意思を伝達したものとみることができる。

c 以上のことを併せ考えると、会社が分会長に対し、休業を指示して給与を減額したことは、不当労働行為意思をもってなされたものと言わざるを得ない。

(イ)会社が本件審査において証拠提出した書証はいずれも、配属先や他の担当業務を決定するまでの間、会社都合休日をやむを得ず取得させたものであるとの会社の主張を裏付けるものではなく、会社が分会長に休業を指示して給与を減額したことに、正当な理由はない。

(ウ)以上のとおりであるから、会社が、分会長に対し、休業指示をし給与減額したことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たり、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。

イ B組合員について

(ア)欠勤扱いによる給与減額が、不当労働行為意思に基づいてなされたものであるかについてみる。

a 会社が、現場に就労しようとしないB組合員を欠勤扱いとして給与減額を決定した時点で、組合と会社の間の労使関係が強い対立関係にあったものとみられることは、前記判断に同じである。

b 総務部長の発言は、組合脱退勧奨の事実を組合に報告したB組合員に対する会社の嫌悪感を示すものであるとともに、組合脱退勧奨を拒否したB組合員を、今後、賃金面で不利益に取り扱うという会社の意思を伝達したものとみることができる。

c 会社は、B組合員に対して、欠勤を理由に給与が減額されていた給与の算定対象期間中に、組合員であるが故の不利益取扱いと評価される異動が既に実施されていることを理由に欠勤扱いとし、かつ、その欠勤を理由に、組合員であるが故の不利益取扱いと評価されるけん責処分をしたものということができる。

d 以上のことを併せ考えると、会社がB組合員に対し、欠勤扱いにより給与を減額したことは、不当労働行為意思をもってなされたものと言わざるを得ない。

(イ)会社が、B組合員を、組合員であるが故の不利益取扱いと評価される異動を理由に欠勤扱いとしたことは前記判断のとおりであるから、会社がB組合員を欠勤扱いとして給与を減額したことに、正当な理由はない。

(ウ)以上のとおりであるから、会社が、B組合員に対し、欠勤扱いとして給与を減額したことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たり、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。

ウ A組合員、C組合員、D組合員及びE組合員について

(ア)休業指示による給与減額が、不当労働行為意思に基づいてなされたものであるかについてみる。

a 会社が組合員らに休業を指示して給与減額を決定した時点で、組合と会社の間の労使関係が強い対立関係にあったものとみられることは、前記判断に同じであり、とりわけ、会社が、C組合員に対しては社長通話発言により、D組合員に対しては統括部長発言により、E組合員に対しては送迎車両運転手発言により、それぞれ、組合活動を萎縮させる支配介入発言を行っていたことは、前記判断のとおりである。

b A組合員の自宅を訪れた際に行った総務部長の発言は、組合員らの組合活動に対する会社の嫌悪感を示すものであるとともに、日勤への異動の人選をめぐって、当時、組合脱退の意向を示していたとみられるA組合員に決断を迫るために、今後、賃金面で不利益に取り扱うという会社としての意思を伝達したものとみることができる。

c 工場に勤務する従業員のうち、この期間中に会社が休業を指示して給与を減額したのは、組合員だけであったとみることができる。

d 以上のことを併せ考えると、会社が、組合員らに対し、休業を指示して給与を減額したことは、不当労働行為意思をもってなされたものと言わざるを得ない。

(イ)会社は、休業を指示した理由として、夜間の産廃の引き取り依頼のない日に会社都合休日としたと主張するが、産業廃棄物の保管量は、必ずしも夜間の搬入量によってのみ増減するものではない。
 また、会社は、団交の中で、選別作業の担当者については強化している旨の説明をしているが、会社のこの説明を前提とすれば、選別作業を担当しているE組合員を休業させることに、合理的な理由はないと言わざるを得ない。
 これらのことから、会社が組合員らに休業を指示し、給与を減額したことに、正当な理由があるとはいえない。

(ウ)以上のとおりであるから、会社が、組合員ら4名に対し、休業指示をし給与減額したことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たり、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。

(6)会社が、B組合員に対し、建設部工事課へ異動させたこと及びけん責の懲戒処分を行ったことについて

ア まず、建設部工事課への異動についてみる。

(ア)異動が不当労働行為意思に基づいてなされたものであるかについてみる。

a 会社が、B組合員に対して異動を最初に命じた時点で、組合と会社の間の労使関係が強い対立関係にあったものとみられることは、前記判断に同じである。

b 総務部長が、A組合員の自宅を訪れた際に、総務部長による組合脱退勧奨について組合に報告したB組合員に対する会社の嫌悪感を示す発言をしたことは、前記判断のとおりであり、また、同発言の内容からは、異動が組合加入と関連してなされたことが推認される。

c 社長朝礼発言は、その辞令交付から1週間足らずの間に、B組合員が組合員であることを意識した上で、B組合員を是が非でも異動命令に従わせようとの強い意思を表明したものといえるのであって、異動に係る会社の不当労働行為意思の存在を、強く推認させるものである。

d 以上のことを併せ考えると、B組合員の異動は、不当労働行為意思をもってなされたものと言わざるを得ない。

(イ)(a)会社は、異動の前に18年にわたって事務職として勤務してきたB組合員に対し、職長や作業員の代替要員としての職務を十分に果たすことができないことを承知の上で、異動を命じたものといえ、異動の理由が工事部の労働力を増やすためであったとする会社の主張は、合理的とはいえないこと、(b)異動の時点において、B組合員を他部署に異動させなければならないほど事務部門が人員過剰となった事情が会社にあったのかどうかは判然とせず、事務部門における人員過剰や他に配属先がないことを、引き続き現場での業務に従事させる理由とすることに合理性があるとはいえないこと、からすると、異動を命じたことに正当な理由があったとはいえない。

(ウ)以上のとおりであるから、会社が、B組合員を建設部工事課へ異動させたことは、組合員であるが故の不利益取扱いであり、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。

イ 次に、けん責処分についてみる。

(ア)けん責処分が不当労働行為意思に基づいてなされたものであるかについて

a けん責処分がなされる前の時点で、組合と会社の間の労使関係が強い対立関係にあったものとみられることは、前記判断に同じである。

b 総務部長がA組合員の自宅を訪れた際に行った発言からは、けん責処分が、B組合員が組合員であることを意識し、組合脱退勧奨の事実を組合に報告したB組合員を嫌悪し、その報復としてなされたものであるとみざるを得ない。

c 処分の手続についてみると、処分通知書に当該処分とは明らかに無関係な就業規則の条文が多数含まれており、会社が、けん責処分に当たって、社内で適正な検討がなされたのかについて、疑問を感じざるを得ない。また、(a)異動について、B組合員が、組合との交渉が必要であることを理由に指示に従うことができない旨を会社に通知しているにもかかわらず、会社はこれに一切の返答することなく、その翌日、B組合員にけん責処分を通知していること、(b)けん責処分をB組合員に通知する約1週間前に希望退職者募集を開始したことに関連して、会社が団交において必要な情報を開示することなく交渉を行ったことが、不誠実団交の不当労働行為に当たること、からすると、会社は組合との交渉を意識して、あえてかかる性急な対応をしたのではないか、との疑念を生ぜざるを得ない。

d けん責処分は、前記判断のとおり、B組合員が不当労働行為に該当する異動の指示に従わなかったことを理由に、行われたものということができる。

e 以上のことを併せ考えると、B組合員の建設部工事課への異動は、不当労働行為意思をもってなされたものと言わざるを得ない。

(イ)会社が、不当労働行為に該当する指示に従わなかったことを就労拒否として懲戒処分を課すことに、正当な理由はない。

(ウ)以上のとおりであるから、会社がB組合員に対しけん責処分を行ったことは、組合員であるが故の不利益取扱いであり、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。

(7)会社が、D組合員及びE組合員を夜勤から日勤へ異動させたことについて
 日勤への異動が不当労働行為意思に基づいてなされたものであるかについてみる。

ア (a)日勤への異動については、組合員である4名だけが対象の候補となっていたこと、(b)会社が夜勤から日勤への異動を命じたのは、D組合員、E組合員及びF元組合員の3名で、実際に、日勤での勤務を開始したのも同組合員ら3名だけであり、このうちF元組合員は、異動から3日後に組合に脱退を通知し、即日夜勤へ異動となったこと、(c)会社は、A組合員については、総務部長が工場長とともに行った脱退勧奨に応じて組合から脱退することを期待して、日勤を命じなかったものということができること、からすると、日勤への異動は、殊更に組合員を対象としたものであったと言わざるを得ない。

イ 会社が、組合員ら3名に対し日勤への異動の辞令を交付した時点で、組合と会社の間の労使関係が強い対立関係にあったものとみられることは、前記判断に同じである。

ウ 総務部長がA組合員の自宅を訪れた際に行った発言は、A組合員に組合脱退の決意を促すために、遠回しにではあるが、日勤への異動の辞令が組合員に対する嫌がらせのために行ったものであることを伝えたものとみざるを得ない。

エ 以上のことを併せ考えると、日勤への異動は、不当労働行為意思をもってなされたものと言わざるを得ない。

オ 総務部長の発言に、F元組合員が異動から3日後に組合に脱退を通知し、同日夜勤へ異動となったことを併せ考えると、この時点で、夜勤者を日勤に異動させなければならない切迫した事情はなく、会社が組合員ら3名を日勤に異動させた真の理由は、組合員に対する嫌がらせであったことが明らかであるから、工場の夜間の業務減少に対応するとともに日勤従事者を増やすことを目的としたものであるとの会社の主張は採用できず、日勤異動を命じたことに正当な理由があったとはいえない。

カ 以上のとおりであるから、D組合員及びE組合員の夜勤から日勤への異動は、組合員であるが故の不利益取扱いであり、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。

3 命令内容

(1)必要な情報を秘匿することなく団交に応じること

(2)組合員6名に対する休業指示又は欠勤扱いがなければ支払われたであろう給与額と既払額との差額の支払

(3)組合員1名に対する異動及び懲戒処分のなかったものとしての取扱い

(4)組合員2名に対する夜勤から日勤への異動のなかったものとしての取扱い

(5)誓約文の手交

(6)その他の申立ての棄却

このページの作成所属
労働委員会事務局 労働委員会事務局審査課 運用グループ

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