13.K事件(令和2年(不)第45号事件)命令要旨

更新日:2022年7月19日

1 事件の概要

 本件は、法人が、(1)新法人設立に伴う新たな就業規則について、組合と団体交渉を行っていたが、組合と合意していないにもかかわらず、法人組織内ウェブサイトに新就業規則を掲載し、周知を行ったこと、(2)これに係る団交でも、合理的な説明を行わず形式的な回答に終始し、誠実に対応しなかったこと、がそれぞれ不当労働行為に当たるとして申し立てられた事件である。

2 判断要旨

(1)法人が、新就業規則を法人のウェブサイトに掲載したことについて

ア 労働基準監督署が法人に対し、就業規則が周知されていないとして是正勧告を行ったことが認められる。そこで、労基署からの是正勧告への対応として、新就業規則を掲載したことについて検討する。

(ア)新就業規則をウェブサイトに掲載する前の団交において、「大綱合意」と称する合意があったことに争いはない。もっとも、「大綱合意」の内容をみると、法人と組合が、就業規則全般についてまで合意に至ったとみることはできない。
 しかしながら、当該団交に至る経緯をみると、法人は、新就業規則の周知・届出を行うために再提案をしたといえるところ、そのことを組合に対して繰り返し伝えていたといえる。そうであれば、団交における「大綱合意」は、新就業規則を周知することを前提になされたものであることを組合も容易に認識できたといえるのであるから、かかる状況において、法人が、新就業規則をウェブサイトに掲載するとしたことが、不合理であったとはいえない。
 また、団交後、ウェブサイト掲載までのやり取りをみると、組合も、法人が提案する就業規則の届出に係る意見書を書くこと自体は拒否しておらず、また、ウェブサイト掲載前の事務折衝の段階では、法人が提案する就業規則の周知そのものに対してまで反対しているとはいえない。
 以上の経緯を併せ考えると、合意には至っていないものの、法人が、新就業規則をウェブサイトに掲載したことは、無理からぬところであったといえる。

(イ)組合は、労基署からの是正勧告に対しては旧就業規則を再度掲載すれば足りる旨主張する。
 しかし、就業規則未周知に係る是正勧告があった時点では既に法人の他の事業場では、新就業規則が適用されていたことになる。かかる状況において、法人が、他の事業場に係る対応との平仄を踏まえ、旧就業規則ではなく新就業規則を法人のウェブサイトに掲載したことが、不合理であったとまではいえない。
 また、組合は、労基署からの是正勧告への対応として旧就業規則を掲載することを法人に提案していたといえるが、法人は、必ずしも組合の提案する方法を取る必要まではなく、他の方法で就業規則の未周知の状態を是正することも許されるというべきである。そして、法人が、旧就業規則ではなく新就業規則を掲載したことが不合理であったといえないことは上記のとおりである。加えて、事務折衝において、法人は、組合に対し、旧就業規則ではなく新就業規則を掲載する理由を説明している。以上のことからすると、法人は、組合提案には応じなかったものの、かかる法人の対応が不当なものであったとまではいえない。

(ウ)以上のことからすると、法人が、労基署からの是正勧告への対応として、新就業規則を法人のウェブサイトに掲載したことは、やむを得ないものであったといえる。

イ 次に、新就業規則を掲載したことによる組合への影響についてみる。
 法人の対応によって、就業規則の協議について、一般組合員と組合執行部との信頼関係に一定影響を与えたことは否定できない。
 もっとも、組合は、就業規則に関して、法人から一定の譲歩を引き出したともいえる。
 また、新就業規則を法人のウェブサイトに掲載した後も、団交において協議が行われており、かつ、これらの団交における法人の対応が不誠実団交に当たらないことは後記(2)判断のとおりであることからすると、法人が、新就業規則を法人のウェブサイトに掲載したことをもって、就業規則を巡る協議自体に著しい影響を与えたとまではいえない。

ウ 以上のことを総合して判断すると、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に当たるとまではいえない。
 したがって、この点に関する組合の申立ては棄却する。

(2)団交における法人の対応について

ア 一般職給料表の切替について

(ア)団交において、法人は、一般職給料表の設計に当たっての考え方や切替に当たって不利益が生じる場合の緩和措置について説明するとともに、組合がなお納得していない部分については、引き続き協議を行う姿勢をみせており、かかる法人の対応が不誠実であったとはいえない。

(イ)組合は、法人の説明は、単なる制度設計の説明にすぎず、なぜ不利益に変更するかの説明になっていない旨主張するが、法人は、一般職給料表の制度設計の趣旨や必要性を説明することでもって、不利益を受ける者がいることの理由についても説明しているといえ、法人が、不利益変更の理由を説明していないとまではいえない。

(ウ)以上のとおりであるから、団交における、一般職給料表の切替に係る法人の対応は、不誠実団交に当たるとはいえない。

イ 課長代理級の職員の非管理監督者化に伴う給与減額について

(ア)団交において、法人は、課長代理級職員を労働基準法上の管理監督者から除いた理由を説明するとともに、その結果、管理監督者としての管理職手当を支給すべきではないとの取扱いとなったこと、また、激変緩和措置を設けていることを説明しており、かかる法人の対応が不誠実であったとはいえない。

(イ)組合は、課長代理級職員は従前と同様の業務内容と責任が求められているのに、管理職手当の支給分を削減する理由が説明されていない旨主張するが、法人は、部下に対する管理監督責任を負うとしつつ、管理職手当を支給しないこととしたのは、設立団体の動向や、設立団体に法人の給与制度について理解を得る必要がある旨述べているのであるから、理由について説明していないとまではいえない。

(ウ)加えて、法人は、団交以降も、協議を続けていく姿勢を見せている。

(エ)以上のことからすると、団交における、課長代理級職員の非管理監督者化に伴う給与減額に係る法人の対応は、不誠実団交に当たるとまではいえない。

ウ 以上のとおりであるから、団交における法人の対応は、不誠実団交に当たるとはいえず、この点に関する組合の申立てを棄却する。
  
3 命令内容

 本件申立ての棄却

※ なお、本件命令に対して、組合は中央労働委員会に再審査を申し立てた。

このページの作成所属
労働委員会事務局 労働委員会事務局審査課 運用グループ

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