3.Y事件(令和2年(不)第38号事件)命令要旨

更新日:2022年5月9日

1 事件の概要
 本件は、医療法人が、組合からの団体交渉申入れについて、直ちには応じられない旨回答したことが、不当労働行為に当たらないとされた事例

2 判断要旨

(1)本件団交申入れの内容は、主に新型コロナウイルス感染症に関する医療法人の対応についてであり、組合員の労働環境や労働条件に関する事項が含まれているため、義務的団交事項に当たる。

(2)医療法人が本件団交申入れに対し、すぐには対応できなかった事情について

ア 医療法人は、団交申入れにすぐには対応できなかった事情として、理事、顧問弁護士、担当課長ら関係者全員で感染状況及び感染対策について協議する必要があったことを挙げる。
 本件団交申入れ当時の医療法人の状況について、医療法人において新型コロナウイルスの集団感染が発生した約10日後であり、医療法人は、保健所の指導のもと検査を進め、ホームページ等に随時情報を掲載し、感染拡大防止のため病院における救急搬送や新規入院患者の受入れ禁止等新たな体制を組むなど、緊急な対応を行っていた状況であったとみることができる。
 また、本件団交申入れの内容は、主に新型コロナウイルス感染症に関する医療法人の対応についてであり、これは職員や患者の生命に関わる重要な事項であるとともに、医療法人がまさに対応を行っている最中の事柄であった。
 特に、本件団交申入れの内容には、自宅待機分の補償や危険手当の支給も含まれており、このような人事労務制度の改正を含み、医療法人の財務状況とも関連する事項について回答するに当たっては、医療法人の経営に携わる理事の関与が必要であったと推認できる。
 したがって、医療法人が、団交開催前に、医療法人内の責任者や関係者、特に経営に携わる理事や新型コロナウイルス関連の業務に携わっていた課長も含めて、感染状況及び感染対策について医療法人内で協議する必要があるとしたことは、不自然であるとはいえない。

イ また、医療法人は、担当課長について団交に参加する時間の調整が困難であったことも主張する。
 これについては、医療法人が本件団交申入れから本件申立てまでの6日の間に、日程調整が完了しなかったことは、一定理解でき、本件団交申入れに対し、団交に参加する時間の調整が困難であったことから、すぐには対応できなかったという医療法人の主張は、理由がないとまではいえない。

(3)団交日程調整の経過について
 本件団交申入れより前に申し入れられた団交について、開催が不可能となったことは、医療法人が団交開催を遅延させるために意図的に行ったというよりは、組合と医療法人の日程の折り合いがつかなかったため、やむを得ないものであったとみるのが相当である。
 しかも、本件団交申入れのあった当日から6日後の本件申立てまでの間や本件申立て後にも、医療法人代表交渉員と副執行委員長とは、団交の日程について電子メールや電話でのやり取りを行っており、医療法人は、日程調整に前向きに対応しているとみることができる。
 これらのことから、本件団交申入れの時点で団交日程が決定されていなかったことは、医療法人が組合の要請を全て拒否し、意図的に団交開催を遅延させたとまではいえず、組合との医療法人の日程調整の結果であったとみるのが相当である。

(4)以上のことから、団交の日程調整中に本件申立てが行われたものであるというべきであり、医療法人が正当な理由なく団交を拒否していたとまではいえない。
 したがって、本件団交申入れに対する医療法人の対応は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当せず、本件申立ては棄却する。

3 命令内容

 本件申立ての棄却

このページの作成所属
労働委員会事務局 労働委員会事務局審査課 運用グループ

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