3.A事件(令和2年(不)第37号事件)命令要旨

更新日:2024年1月17日

1 事件の概要

 本件は、会社が、(1)業務中に負傷し休業補償給付申請期間中であった組合員1名について、会社で就労したことが詐欺行為である等として解雇したこと、(2)組合員2名に対し始業時間を指示したこと、(3)組合員4名に対し土曜日の勤務を命じなかったこと、(4)組合員2名の主任の任を解いたこと、(5)会社役員及び従業員らが、組合員らに対し、組合からの脱退を勧奨し、別組合への勧誘をしたこと、(6)会社主導で別組合を結成したこと、がそれぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
 
2 判断要旨

(1)組合員1名を懲戒解雇したことについて
 本件懲戒解雇は、組合が会社に分会の結成を通告して以降、会社が本件懲戒解雇を決定するに至るまでの間、当該組合員が組合活動を活発化させ、組合との労使関係の対立が過熱し、会社が組合に対し否定的な感情を抱く状況において行われたといえる。そして、会社は、本件懲戒解雇の理由として(a)詐欺行為の問題、(b)無断副業の問題、(c)恐喝行為の問題を主張するが、いずれも正当な理由がなく、手続も適切であったとはいえない。そうすると、会社は、当該組合員を会社から排除しようという意思のもと本件懲戒解雇をしたものといえる。
 よって本件懲戒解雇は、組合員であるが故の不利益取扱いに当たり、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。

(2)組合員2名に対し始業時間を指示したことについて
 会社における従業員の始業時間に関する詳細な実態については必ずしも明らかでないものの、そもそも会社が従業員に対し、始業時間を指示することは当然あり得ることである。また、組合員2名に対して送信したメールの内容そのものは連絡に留まる程度のものであって、勤務日の前営業日に当該メールを送信したことが、業務上必要な範囲を超え組合員に不利益を与えたとまでいうことはできない。
 以上のとおり、組合員2名に始業時間を指示したことは、同組合員らに対する不利益取扱いであるということはできないから、この点に係る組合の申立てを棄却する。

(3) 組合員4名に対し土曜日勤務を命じなかったことについて 

ア 労働者が所定の労働時間を超えて労働することは、労働者に不利益である反面、賃金面においては経済的利益である。したがって、会社は従業員に対し残業を命じなければならない義務を負うものではないが、当該職場において残業が恒常的に行われ、労働者においてもこれによる賃金を経済的利益として期待しているような場合に、労働組合員である従業員に残業を行う意思があるにもかかわらず、他の従業員には残業を命じる一方、当該組合員に命じない場合、その理由によっては、不当労働行為が成立する余地がある。
 そして、会社においては土曜日勤務による残業が恒常的に行われ、労働者においてもこれによる賃金を経済的利益として期待していたことが認められる。

イ 会社は、組合員にのみ土曜日の勤務を命じない理由として、組合から週40時間以上は働かないという要求があったことから、土曜日勤務を命じないとする取扱いをした旨主張するが、いつ、どのような場で、組合から要求があったのかについて、会社から具体的な事実の疎明はない。そして、組合員には土曜日に就労する意思があったといえる。
 よって、組合員には土曜日に就労する意思があったにもかかわらず、会社は、組合員であるという以外の理由なくして土曜日の勤務を命じない取扱いをしたことが認められ、これにより、組合員の収入が減額したものであるから、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるといえ、かかる会社の行為は労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。

(4)組合員2名の主任の任を解いたことについて
 会社が組合員2名の主任の任を解いたことが人事上、経済上の不利益取扱いに当たることは明らかである。
 会社が組合員2名の主任の任を解いたことは、組合が会社に分会の結成を通告してから会社が組合員2名の主任の任を解くに至るまでの間、組合との対立関係が継続し、会社が組合員2名に対し否定的な感情を抱く状況において行われたといえる。そして、会社は、具体的な行為を特定し、客観的な根拠に基づいて組合員2名の主任の任を解いたとは到底いえない。
 よって、会社が組合員2名の主任の任を解いたことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たり、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。

(5)非組合員である従業員らの組合員らに対する言動について
 組合から、会社に勤める非組合員である従業員らの組合員らに対する言動について、組合の運営を支配若しくは介入するために会社から何らかの指示等があったとの具体的な事実の疎明はないことから、いずれも会社による組合に対する支配介入であったとまではいえず、この点に係る組合の申立てを棄却する。

(6)会長の非組合員である従業員に対する言動について
 会社の前代表取締役である会長が非組合員である従業員を呼び出して行った面談における会長の発言は、組合分会長に親しいと思われる当該従業員に対し、組合への加入や組合活動は会長の意向に背く行為であるという認識を持たせ、組合に反対の立場を取らなければ会社により何らかの不利益取扱いがあることを示唆するものであった。また、実際に会社は、面談後、当該従業員の主任の任を解いたのであるから、面談における会長の発言と、その後の行動は、会長の組合嫌悪意思を推認させるものであり、非組合員である従業員に組合への関与を躊躇させ、引いては組合組織の弱体化をもたらすものであるといえる。
 よって、会長が当該従業員に対して行った言動は、組合に対する支配介入であり労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

(7)会社が別組合の結成を主導したといえるかについて
 別組合については、どのような経緯でいつ結成されたのか明らかではなく、さらに、別組合の結成を会社が主導したと認めるに足る具体的な事実の疎明はないから、この点に係る組合の申立てを棄却する。

3 命令内容

(1)組合員4名に対し、再度土曜日の就労を命じるまでの間、土曜日の就労により得られたであろう賃金相当額の支払

(2)組合員2名に対し、主任の任を解いたことがなかったものとしての取扱い及び同人らが得られたであろう役付手当相当額の支払

(3)誓約文の手交

(4)その他の申立ての棄却

このページの作成所属
労働委員会事務局 労働委員会事務局審査課 運用グループ

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