1 事件の概要
本件は、会社が、(1)組合の組合員らに対して組合脱退勧奨を行ったこと、(2)労働者供給の依頼をしなくなったこと、(3)組合員1名について就労させなくなったことが、それぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
2 判断要旨
(1)組合脱退勧奨について
ア まず、会社が、組合脱退勧奨を行ったといえるかについてみる。
(ア)A元組合員について
組合らは、社長がA元組合員を呼び出し、組合脱退勧奨を行った旨、このことはB組合員がA元組合員から伝え聞いた旨主張し、B組合員も本件審問において、その旨証言している。
しかしながら、B組合員の証言は、そもそも伝聞である上、その前後にどのようなやり取りがあったかについても明らかになっておらず、かかる証言のみをもって、社長がA元組合員に対し、組合脱退勧奨を行ったと認めることはできない。
その他、組合らから、社長がA元組合員に対し、組合脱退勧奨を行ったと認めるに足る事実の疎明はない。
以上のとおりであるから、会社が、A元組合員に対し、組合脱退勧奨を行ったとはいえない。
(イ)B組合員について
a 工場長がB組合員に対し、B組合員にも生活があるだろうから組合を辞めてうちに来ないか、いったん組合を脱退して情勢が変わればまた組合に戻ったらいいのではないかと述べたことがあったことが認められ、かかる発言は、組合脱退勧奨というほかない。
b 会社は、組合脱退勧奨をした事実はない旨主張し、工場長も、本件審問において、その旨証言している。
しかしながら、組合脱退勧奨があったとされる時期とそれほど期間を置かずに行われた組合と会社の話合いにおいて、工場長自身が、組合を辞めるよう発言していたことを認めている以上、これより2年近く経過して行われた本件審問においてなされた工場長の証言は採用できない。
c さらに、組合と会社との話合いにおける工場長の発言からすると、同人が、B組合員に対し、組合脱退勧奨をする動機も理由もないとはいえない。
d 以上のとおりであるから、工場長がB組合員に対し、組合脱退勧奨を行ったといえる。
(ウ)C元組合員について
組合らは、工場長がC元組合員に対し、組合脱退勧奨を行った旨、このことはB組合員がC元組合員から伝え聞いた旨主張し、B組合員も本件審問において、その旨証言している。
しかしながら、B組合員の証言は、そもそも伝聞である上、その前後にどのようなやり取りがあったかについても明らかになっておらず、かかる証言のみをもって、工場長がC元組合員に対し、組合脱退勧奨を行ったと認めることはできない。
その他、工場長がC元組合員に対し、組合脱退勧奨を行ったと認めるに足る事実の疎明はない。
以上のとおりであるから、工場長がC元組合員に組合脱退勧奨を行ったとはいえない。
(エ)その他の組合員らについて
B組合員は、本件審問において、工場長から組合を辞めるよう示唆するような話をされた際に、工場長は、会社で就労している組合員に同じような話をしていると言っていた旨証言しているが、B組合員の証言は、伝聞である上、その前後にどのようなやり取りがあったかについては明らかになっておらず、かかる証言のみをもって、工場長が、B組合員以外の組合員らに対し、組合脱退勧奨を行ったと認めることはできない。
また、3か月間で8名の組合員が組合脱退届を提出したことは認められるが、これをもって、工場長が、B組合員以外の組合員らに対し、組合脱退勧奨を行ったと認めることはできない。
(オ)以上のとおりであるから、B組合員については、工場長が組合脱退勧奨を行ったといえるものの、それ以外の組合員については、組合脱退勧奨があったと認めることはできず、B組合員以外の組合員については、その余を判断するまでもなく、組合らの申立てを棄却する。
イ 次に、工場長が行ったB組合員に対する組合脱退勧奨が、会社に帰責するといえるかについてみる。
本件において、工場長の行為は、使用者の利益代表者に近接する地位にある者の行為であるとして取り扱うべきところ、同人の発言を社長も容認ないし黙認しているのであるから、工場長によるB組合員に対する組合脱退勧奨に係る責任は会社に帰属するというべきである。
ウ 以上のとおり、会社がB組合員に対し、組合脱退勧奨を行ったといえる。
そこで、かかる行為が支配介入に当たるかについてみると、B組合員は組合を脱退していないものの、会社がB組合員に対し組合脱退勧奨を行えば、B組合員が心理的な圧力を受け、また、組合の組合活動を阻害することは明らかである。
以上のとおりであるから、会社はB組合員に対し、組合脱退勧奨を行ったといえ、かかる行為は、組合に対する支配介入に当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。
(2)会社が、組合に対し、日々雇用組合員の供給依頼をしなくなったことについて
ア まず、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるかについてみる。
個々の日々雇用組合員にとって、会社は、供給先の一つにすぎず、会社での就労を期待することにつき合理的な理由があったとはいえず、その他、会社での就労を期待することに特段の事情を有する組合員がいたとの疎明もないのであるから、個々の日々雇用組合員が、会社に供給され、会社において、継続して就労する個別具体的な期待権を有していたとまではいえない。
そうである以上、会社が、供給依頼をしなくなったことによって、日々雇用組合員が不利益を被ったとはいえない。
したがって、その余を判断するまでもなく、会社が日々雇用組合員の供給依頼をしなくなったことは、組合員であるが故の不利益取扱いには当たらず、この点に関する組合らの申立ては棄却する。
イ 次に、支配介入に当たるかについてみる。
(ア)会社と組合との間の労働者供給契約を裏付ける書面が存在しない上に、会社が日々雇用組合員の供給を依頼していた期間をみても、会社から継続的に労働者供給依頼が行われるとの期待権を日々雇用組合員を擁する組合らが有していたといえるほど長期間、会社と組合との間で労働者供給事業が行われていたとはいえない。
その他、会社が継続して労働者供給依頼を行うべき特段の事情があったとの疎明はない。
そうすると、日々雇用組合員が、会社において継続して就労することについて、組合らに、集団としての期待権があったとはいえない。
(イ)以上のとおり、組合らが集団としての期待権を有していたといえない以上、会社が、組合に対し、日々雇用組合員の供給依頼をしなくなったことが不当であったとまではいえない。
したがって、その余を判断するまでもなく、組合らに対する支配介入に当たらず、この点に関する組合らの申立ては棄却する。
(3)会社が、B組合員を就労させていないことについて
ア B組合員が、会社に日々雇用されていたことについては争いがない。
そこで、B組合員が会社に継続して雇用されるものと期待することについて合理的な理由があるかについてみる。
B組合員の会社での就労実績からは、会社が、実態として、B組合員を会社で継続雇用することを前提に扱っていたとまではいえない。
また、会社がB組合員に対し、継続雇用を期待させる言動があったとの疎明もなく、その他、継続雇用を期待させる特段の事情があったとの疎明もない。
以上のことからすると、B組合員が、会社に継続して雇用されるものと期待することについて合理的な理由があったとまではいえない。
イ そうである以上、会社がB組合員を就労させていないことによって、B組合員が不利益を被ったとはいえない。
したがって、その余を判断するまでもなく、会社がB組合員を会社で就労させていないことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たらず、組合に対する支配介入にも当たらず、この点に関する組合らの申立ては棄却する。
3 命令内容
(1)誓約文の交付
(2)その他の申立ての棄却
※ なお、本件命令に対して、組合ら及び会社は、それぞれ、中央労働委員会に再審査を申し立てた。
このページの作成所属
労働委員会事務局 労働委員会事務局審査課 運用グループ
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