7.Y事件(令和2年(不)第13号、第22号、第35号及び第40号事件)命令要旨

更新日:2023年7月24日

1 事件の概要

 本件は、社会医療法人が、(1)組合員Aが行ったパワーハラスメントに係る相談対応等について、業務時間中の組合活動であるとして、同組合員に対し戒告処分として反省文を提出するよう指示したこと、(2)同組合員が(1)の反省文を提出しなかったところ、業務命令違反であるとして減給処分を行ったこと、(3)戒告処分に関する団体交渉において、誠実に対応しないこと、(4)戒告処分を巡る当委員会の審査が行われている中、法人職員に対して組合への批判的意見を促し、当該意見を書証として当委員会に提出したこと、が不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。

2 判断要旨

(1)組合員Aに対する戒告処分について

ア 組合員であるが故の不利益取扱いに当たるかについて

(ア)組合員Aは、社会医療法人に分会が結成された当時の分会長であり、また、戒告処分通知が交付された当時、組合の副執行委員長であったことからすると、戒告処分は、組合活動の中心的人物に対する処分であったといえる。

(イ)社会医療法人が組合員Aに対する戒告処分をした当時の労使関係をみると、組合と社会医療法人は、緊張関係にあったといえる。

(ウ)社会医療法人は、組合員Aが、(a)業務時間中に、(b)他部署の職員を業務権限を超えた用件で呼び出し、(c)他部署の職員を動揺させ不安を与えたことが戒告処分に相当するとしているので、これらについてみる。

a まず、業務時間中の行為であるとして、これを処分理由としたことについてみる。
 組合員Aが他部署の職員を呼び出して行った面談の時間は判然とせず、また、仮に就業規則で定められた時間外に組合員Aが休憩時間を取得したのであったとしても、社会医療法人がこれを黙認していたと解されてもやむを得ない状況にあったといえるから、社会医療法人が、ことさら、業務時間中の行為であるとして、これを処分理由としたことには疑問が残る。

b 次に、他部署の職員を業務権限を超えた用件で呼び出したとして、これを処分理由としたことについてみると、組合員Aが他部署の職員を呼び出したことは、業務上の行為といい難い面があったことは否定できないものの、それまでの経緯を考慮すると、処分理由としたことには疑問が残る。

c さらに、組合員Aが他部署の職員を動揺させ不安を与えたとして、これを処分理由としたことについてみると、本件審査において、当該職員が、組合員Aの行為によって動揺したと認めるに足る疎明はない。

d 以上のとおり、社会医療法人が上記のことを処分理由としたことには疑問が残る。

(エ)次に、戒告処分に至る手続についてみると、社会医療法人は、戒告処分に当たり、十分な事実確認を行ったといえないのであるから、処分に至る手続には問題があったとするのが相当である。

(オ)以上のことを総合すると、組合員Aに対する戒告処分は、組合員であるが故になされた不利益取扱いであり、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。

イ 組合に対する支配介入に当たるかについて

 前記ア(ア)記載のとおり、戒告処分は、組合活動の中心的人物に対して行われたものであることからすると、社会医療法人は、戒告処分により、社会医療法人における組合の影響力を低下させ、組合活動に影響を及ぼしたといえる。
 したがって、組合員Aに対する戒告処分は、組合に対する支配介入にも当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

(2)組合員Aに対する減給処分について

ア 組合員であるが故の不利益取扱いに当たるかについて

(ア)前記(1)ア(ア)記載のとおり、組合員Aは、分会結成当時から、社会医療法人における組合活動の中心的な役割を担っていたのであるから、減給処分は、組合活動の中心的人物に対する処分であったといえる。

(イ)社会医療法人が組合員Aに対する減給処分をした当時の労使関係をみると、戒告処分当時よりも、さらに緊張関係が高まっていたといえる。

(ウ)減給処分の理由についてみると、前記(1)記載のとおり、戒告処分は不当労働行為に当たるのであるから、これに従わなかったことを理由になされた減給処分は、合理性を欠くものといわざるを得ない。

(エ)さらに、減給処分の手続についてみると、社会医療法人は、何らの根拠もないまま、就業規則の規定に反して、組合員Aに対して始末書の提出を求めていないとみざるを得ず、そうであれば、社会医療法人の就業規則の運用に、恣意的な面があることは否めず、減給処分の手続に問題がないとまではいえない。

(オ)さらに、戒告処分から減給処分までの経緯をみると、社会医療法人は、組合からの「労使紛争の休戦」提案を考慮することなく、また、午後に実効確保措置申立てに係る事情聴取があることを認識した上で、事情聴取の日の午前に、その前日付け減給処分通知書を組合員に交付しようとしており、かかる社会医療法人の対応は、あまりに性急な対応であるといえる。

(カ)以上のことからすると、組合員Aに対する減給処分は、組合員であるが故になされた不利益取扱いであり、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。

イ 組合に対する支配介入に当たるかについて

 前記(1)ア(ア)記載のとおり、組合活動の中心的人物である組合員Aを、社会医療法人が二度にわたり処分することで、社会医療法人は、社会医療法人における組合の影響力を低下させ、組合活動に影響を及ぼしたといえる。
 したがって、組合員Aに対する減給処分は、組合に対する支配介入にも当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

(3)団交における社会医療法人の対応について

ア 各議題における社会医療法人の対応について

(ア)師長のパワハラ問題について

 (a)組合から具体的な問題提起がなかったとする社会医療法人に対し、組合は、具体例を幾つか挙げた上で以前から問題提起をしていたことを指摘し、(b)また、組合が挙げた例の中には、ケアプラン上のサービス問題とはいえない師長の言動が含まれていたにもかかわらず、社会医療法人は、サービス担当者会議で解決する旨述べ、(c)さらに、組合が、サービス担当者会議で話をすることの問題点を指摘すると、社会医療法人は、具体的にパワハラの内容を提起せずにパワハラと言っていいのか、と述べるのみで、組合からの指摘に回答していない。かかる社会医療法人の対応は、組合からの質問に対して真摯に対応したものとはいえず、実質的な対応を行う姿勢を欠いた不誠実なものというべきである。
 したがって、師長のパワハラ問題に係る社会医療法人の対応は、不誠実団交に当たる。

(イ)戒告処分の手続について

 社会医療法人は、戒告処分までに社会医療法人が行ったとする事実確認について、一定の説明をしている。また、組合からの質問に対しても、相応の回答をしているといえるのであるから、かかる社会医療法人の対応が不誠実団交に当たるとまではいえない。

(ウ)戒告処分が正当か否か

a 就業規則上の業務時間について

 社会医療法人は、業務時間に関する社会医療法人の見解や、戒告処分に当たり、組合員Aの行為が、休憩時間中ではなく業務時間中の行為であると判断した理由について、一定の説明をしている。したがって、団交における社会医療法人の対応が不誠実団交に当たるとまではいえない。

b 公平原則の観点について

 社会医療法人は、なぜ他部署の職員は処分されなかったのかとの組合の質問に対し、組合員Aと他部署の職員では、行為の態様が異なることや、他部署の職員については所属長の判断があったことを述べており、組合員Aと他部署の職員とで取扱いが異なる理由について一定の説明をしている。したがって、団交における社会医療法人の対応が不誠実団交に当たるとまではいえない。

イ 団交出席者について

 社会医療法人は、団交には、代表交渉員とされている者を出席させており、また、団交でのやり取りをみると、代表交渉員に対し、協議に必要な情報等を十分に与えていないとまでみることはできない。
 したがって、社会医療法人側の出席者が、実質的な交渉権限を有していなかったとまではいえず、団交出席者についての社会医療法人の対応が、不誠実団交に当たるとはいえない。

ウ 以上のとおり、団交における社会医療法人の対応のうち、師長のパワハラ問題に係る社会医療法人の対応は、不誠実団交に当たり、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。

(4)社会医療法人の職員が、組合員Aの戒告処分に関する書面を作成したことが、社会医療法人の働きかけによるものといえるか。いえるとすれば、かかる社会医療法人の行為は、組合に対する支配介入に当たるかについて

 当該書面は、組合員Aに対する戒告処分に関する申立てである令和2年(不)第13号事件(以下「2-13事件」という。)の申立書を読んだ上で作成されたものであり、2-13事件の申立書は、社会医療法人が当該職員に対して提供したものであるとはいえるものの、これらのことのみをもって、社会医療法人が当該職員に対し、当該書面を作成するよう働きかけたとまではいえない。
 したがって、組合に対する支配介入に当たらず、この点に関する組合の申立ては棄却する。

(5)社会医療法人が、職員の意見交換会の議事録とする書面を、2-13事件の書証として当委員会に提出したことについて

 そもそも、社会医療法人には、本件審査において、組合の主張・立証に対して、反論・反証を行う権利があるのだから、仮に、当該書面が提出されたことにより、社会医療法人の主張に有利に働いたとしても、それは、組合が受忍すべきことである。
 また、社会医療法人が、組合員Aに対する処分を正当化するために、事実を歪曲して、当該書面を作成したと認めるに足る疎明はない。加えて、当該書面が当委員会に提出されたからといって、直ちに、組合員Aに対する処分が正当化されるものではなく、当該書面に疑義があれば、組合は、それに対して反論・反証すれば足りる。
 したがって、社会医療法人が、職員の意見交換会の議事録とする書面を、2-13事件の書証として当委員会に提出したことは、組合員であるが故の不利益取扱いにも、組合に対する支配介入にも当たらず、この点に関する組合の申立ては棄却する。

3 命令内容

(1)組合員Aに対する戒告処分がなかったものとしての取扱い

(2)組合員Aに対する減給処分がなかったものとしての取扱い

(3)誓約文の手交

(4)その他の申立ての棄却

このページの作成所属
労働委員会事務局 労働委員会事務局審査課 運用グループ

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