9.K事件(令和2年(不)第12号事件)命令要旨

更新日:2022年5月9日

1 事件の概要

 本件は、学校法人が、期間の定めのない雇用に転換した後に定年年齢に達した組合員1名について、(1)非常勤講師の定年後再雇用を定めた就業規程の規定にもかかわらず、前例がないとして再雇用せず、(2)再雇用を要求事項として組合が申し入れた団体交渉において、他大学の非常勤講師採用期間が大幅に過ぎた時期になって、定年年齢を超えて再雇用することはできない旨回答したこと、がそれぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。

2 判断要旨

(1)非常勤講師の定年問題を議題とする団交における学校法人の対応について

ア 検討の引き延ばし及び時機を失した回答との組合主張について

(ア)(a)学校法人が、団交申入れ後、定年問題について検討する旨の回答を団交において繰り返し、政府の方針を見据えて定年延長について検討するとして、検討結果を組合に提示する時期については言及していない一方、組合側も、検討結果の回答期限を明示するよう学校法人に求めてはいなかったとみられること、(b)学校法人が、第1回団交において任用制限年齢を廃止する考えは現在のところはない旨回答し、第2回団交でも同様の回答をしていることも考え合わせると、直ちに定年延長をすることは考えていないという姿勢を示していたということができる。

(イ)さらに、第2回団交で組合からなされた、非常勤講師就業規程とは別に労働協約を結ぶ方法による雇用継続という新たな提案については、労務課長が組合顧問との電子メールでのやり取りの中で受入れは難しいと伝え、その後の事務折衝で学校法人が応じられない旨回答しているのであって、学校法人が第2回団交での組合要求に対する回答を意図的に引き延ばしたとまでみることはできない。

(ウ)仮に、非常勤講師への開講科目依頼が例年11月であったとしても、組合が新たな具体的な提案をした時期そのものが11月を過ぎていたのであるし、また、翌年1月の事務折衝でも応じられない旨一旦は回答しているのであるから、これに対する学校法人の最終回答が事務折衝の後となったことが、時機を失したものと直ちに評価することもできない。

(エ)以上のとおりであるから、学校法人の対応が不誠実であるとまではいえない。

イ 団交権限を有しないか回答能力を有しない者の団交出席との組合主張について

(ア)学校法人は、非常勤講師の採用に当たって年齢制限を設けることは雇用対策法に違反するとの組合の指摘に対しては論拠を示して自らの見解を述べ、また、非常勤講師就業規程の「任用制限年齢」という記載を「更新制限年齢」に書き換えるべきとの組合の主張に対しては、あらかじめ顧問弁護士と相談した上で反論をしているのであって、学校法人の団交での主張内容が組合の見解と異なるものであったとしても、そのことをもって直ちに、団交権限又は回答能力を有しない者が学校法人の団交担当者になっているとまではいえない。

(イ)第2回団交において、組合が、非常勤職員就業規程に追加された定年年齢に関する規定の適用の在り方について尋ねたのに対し、学校法人が、顧問弁護士に確認する旨述べたことが認められるが、そもそも、団交出席者が組合の質問の一つに回答できなかったことをもって、直ちに団交権限又は回答能力を有していないとまではいえない。

(ウ)したがって、学校法人の対応が不誠実であるとまではいえない。

ウ 回答のすり替え及び虚偽回答との組合主張について

(ア)事務折衝は、形式上は団交として行われたものではないが、(a)2回の団交に団交委員として出席したとみられる人物が双方から出席していたこと、(b)第2回団交以降も交渉の継続が予定されていたものとみられ、事務折衝において、学校法人が、組合員の再雇用をしないことを実質的に回答していること、からすると、事務折衝は、2回の団交の延長として、実質的な団交とみることができる。

(イ)事務折衝において、学校法人は、非常勤講師就業規程の定年に関する規定について、定年退職した者を必ず非常勤講師として採用することを定めた規定であると組合が主張していると理解した上で、組合の立場とは異なる自らの立場を前提にこれに反論したものとみるべきであって、回答のすり替えを行ったとの組合主張は採用できない。

(ウ)(a)非常勤講師就業規程の、定年退職者を非常勤講師として採用することに関する規定について、自らの考え方を示した学校法人の説明内容が不合理であるとはいえないこと、(b)語学教育については無期転換された非常勤講師が無期転換後再雇用されたケースはこれまでにない旨の学校法人の回答は、電子メールでのやり取りにすぎず、その後に団交が予定されていたわけでもないのであるから、そもそも、学校法人の上記対応が不誠実団交に当たるとの組合の主張は採用できないこと、(c)電子メールの回答内容をみても、学校法人は、前例がないことだけを組合員を再雇用しない理由として挙げているわけではないこと、から、学校法人の上記回答が虚偽回答に当たるとまではいえない。

エ 合意を目指さない団交姿勢との組合主張について

 学校法人は、第2回団交で組合が行った労働協約締結による雇用継続の提案について、事務折衝では応じられない旨回答するだけでその理由を述べてはいないが、その後の電子メールにおいて、組合の提案に応じられないと判断した理由について一定の説明を行っているのであって、こうした対応が検討結果を示すことなく自らの主張に固執するものとまではいえず、学校法人の対応が不誠実であるとまではいえない。

オ 以上のことからすると、非常勤講師の定年問題を議題とする団交に係る学校法人の対応は、不誠実団交に当たるとはいえず、また、組合員の組合への信頼を減少させるものとして組合に対する支配介入に当たるともいえないから、労働組合法第7条第2号及び第3号のいずれの不当労働行為にも該当しない。

(2)学校法人が組合員の雇用を継続しなかったことについて

ア (a)非常勤講師就業規程の定年に関する規定は定年退職者全員を非常勤講師として再雇用することを規定するものではないとの学校法人の主張が、不合理とはいえないこと、(b)定年退職後の再雇用等による雇用継続を例外的措置とすることも不合理とはいえないこと、(c)担当科目について組合員でなければ担当できないと判断すべき事情も認められないこと、からすると、組合員の雇用を継続しなかったことについて、担当授業を代替できる教員は多数存在しており例外的に定年退職後の再雇用を行う事情は存在しなかったとの理由が不合理であるとはいえない。

イ (a)団交申入れまでの間、組合と学校法人との間に、団交により問題解決を図る通常の労使関係以上に特段緊張した関係があったとは認められず、また、組合員は、初代支部長を務め、団交のほとんどに参加するなど、支部の中心的な役割を果たしていたことは認められるものの、団交において活発な発言を行っていたと認めるに足る事実の疎明もなく、学校法人が組合員の組合活動を嫌悪していたとみることもできないこと、(b)学校法人は、団交申入れの時点で既に組合員の雇用を継続しない方針を検討していたとみられるのであるから、団交申入れ以降の労使の見解の対立や組合員の団交での言動を理由に、組合員の雇用を継続しないことを決定したものとみることはできないこと、からすると、学校法人が組合員を雇用継続しないことを決定したのは、組合員の組合活動を理由としたものであったとはいえない。

ウ 以上のとおり、学校法人が、組合員の雇用を継続しなかったことは、その理由が不合理であるとはいえないことに加え、学校法人が組合員を雇用継続しないことを決定したのが組合員の組合活動を理由としたものであったとはいえないのであるから、組合活動をしたことを理由とする不利益取扱いであるとまではいえず、労働組合法第7条第1号の不当労働行為には該当しない。
 また、組合活動を熱心に行う組合員を学校法人から排除することで組合を弱体化させるものとして組合に対する支配介入であるともいえないから、同条第3号の不当労働行為にも該当しない。

3 命令内容

 本件申立ての棄却

このページの作成所属
労働委員会事務局 労働委員会事務局審査課 運用グループ

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