1.T事件(令和元年(不)第33号事件)命令要旨

更新日:2021年10月18日

1 事件の概要

 本件は、組合の分会結成後、組合と会社の間で団体交渉が継続していたところ、会社が、3回目の団交が予定されていた当日の午前中に突然、分会長を懲戒解雇処分としたことが不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。

2 判断要旨

(1)処分理由の合理性について

ア 分会長に、懲戒解雇処分に値する着服、横領及び代金の詐取があったとする会社の判断が妥当であるかについては疑問の残るところである。

イ 会社が分会長をこれらの行為について刑事告発をしたと認めるに足る事実の疎明はなく、会社が、実際に、本件懲戒解雇処分を決定するに当たって上記行為が刑法上の犯罪行為に当たると判断したのかどうかは、極めて疑問である。

ウ 以上のことからすると、本件懲戒解雇処分の理由に合理性があるかについては、相当の疑問が残るものと言わざるを得ない。

(2)手続の合理性について

ア この時期、会社においても懲戒処分の対象者に対して、処分前に事実確認のための事情聴取を行うのが通常であるとみられるところ、分会長に対してだけは、懲戒処分としては最も重い懲戒解雇処分であるにもかかわらず、本件懲戒処分通知書の交付前に事情聴取が行われていないということができる。

イ 会社が懲戒処分通知書を交付した面談において弁明の機会を付与する旨及び付与した旨繰り返し発言したのは、弁明の機会の付与について、手続としての外形を整えようとしたにすぎないというべきであり、会社が本件懲戒解雇処分の手続において分会長に対して弁明の機会を付与したものとは到底いえない。

ウ 本件懲戒解雇処分の決定過程は、他の従業員の懲戒処分の決定過程に比して不透明なものであったということができる。

エ 以上のことを併せ考えると、本件懲戒解雇処分の手続は、適式に行われたものとはいえず、合理性を欠くものであったと言わざるを得ない。

(3)他の従業員に対する懲戒処分等との均衡について

 分会長に対する本件懲戒解雇処分と、組合の組合員でないその他の4名の従業員に対する処分との間には、その理由及び手続に関して不均衡が存在するものと言わざるを得ない。

(4)労使関係について

 組合が会社に分会の結成を通知してから会社が本件懲戒解雇処分を決定するに至るまでの間の労使関係は、労使関係の運営に係る事項を中心に団交において労使の主張が対立する状況が解消されない中で、会社が組合に対して、一方的に、否定的な感情及び警戒感を抱く状況にあったものとみざるを得ない。

(5)本件懲戒解雇処分の時期について

 会社が本件懲戒解雇処分を分会長に通知したのが第3回団交当日の朝であった一方で、組合が分会の結成を通知してから会社が本件懲戒解雇処分を決定するに至るまでの間に、会社は組合に対して否定的な感情及び警戒感を抱いていたのであるから、本件懲戒解雇処分の分会長に対する通知は、当日後刻に行われる第3回団交を意識してなされたものと推認することができる。

(6)本件懲戒解雇処分と組合結成との時期的関係について

 会社は、組合結成通知の翌日から、上記事実についての調査を開始し、本件懲戒解雇処分に向けて準備を始めたものとみるのが相当である。

(7)組合員であるが故の不利益取扱いについて

 以上を総合的に判断すると、本件懲戒解雇処分は、団交において労使関係の運営に係る事項を中心に労使間の主張の相違が解消されない中で、会社が組合に対して一方的に否定的な感情及び警戒感を抱いている状況において、当日行われる予定の第3回団交を意識して分会長に通知され、かつ、分会結成通知の翌日から準備を始めて、3か月足らずという極めて近接した時期になされている。また、その理由の合理性については疑問が残り、その手続が合理性を欠き、さらに、その結果として、組合員でない他の4名の従業員に対する処分との間には大きな不均衡が存在するのであるから、会社の不当労働行為意思に基づいてなされたものとみるべきであって、組合員であるが故の不利益取扱いに当たり、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。

(8)支配介入について

 労使関係の運営に係る事項を中心に団交において労使間の主張の相違が解消されない状況において、団交開催の当日に分会長に対する懲戒解雇処分がなされれば、分会の中心的存在である分会長がいわば不意打ちで職場を追われることとなり、団交における組合の交渉力が低下することは明らかであるから、本件懲戒解雇処分は、組合の影響力を減殺するものとして、組合に対する支配介入に当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。


3 命令内容

(1)懲戒解雇処分がなかったものとしての取扱い及び賃金相当額の支払

(2)誓約文の手交

※なお、本件命令に対して、会社は中央労働委員会に再審査を申し立てたが、中央労働委員会において和解が成立し、本件命令は労働組合法第27条の14第3項により失効した。

このページの作成所属
労働委員会事務局 労働委員会事務局審査課 運用グループ

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