10.K事件(令和元年(不)第19号及び同年(不)第31号併合事件)命令要旨

更新日:2022年7月19日

1 事件の概要

 本件は、学校法人が、(1)組合が申し入れた一時金等についての団体交渉を、申入れ後おおむね3週間以内に開催する旨の和解協定書を遵守せず放置し、団交を拒否したこと、(2)組合が不当労働行為救済申立てをしない旨の誓約書を提出しなければ、組合員にのみ夏期一時金を支給しないとの条件を提示し固執したこと、(3)学校法人の提案で、全教職員に組合ニュースを学内便で配布することについて合意が成立したにもかかわらず、組合ニュースを配布せず廃棄したこと、(4)組合が入試手当支給に関する労働協約の締結を、意思決定過程を証する書面の提示と併せて事前に行わなければ、同手当を支給できない旨書面で通知したこと、が不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。

2 判断要旨

(1)組合の団交申入れに対する学校法人の対応について

ア 和解協定書違反について

 (ア)学校法人が、本件団交申入れのわずか4日後に、団交開催に向けて具体的な対応に着手したものといえること、(イ)本件団交申入れの13日後に行われた団交以降の3回の団交において、本件団交申入れよりも先になされた団交申入れの議題についての協議が行われたのであるから、この間、本件団交申入れについて団交で協議がなされなかったとしても、学校法人の側だけがその責めを負うべきものとまではいえないこと、(ウ)組合が、本件団交申入れの前には2件の、後には5件の新たな団交申入れをそれぞれしたこと、を併せ考えると、本件団交申入れに対する学校法人の対応が、団交申入れ後おおむね3週間程度で開催することを定めた和解協定書に直ちに反するとまでいうことはできない。

イ 組合の謝罪がない限り団交を行わないとの通知書について

 組合の団交での発言が適切なものであるかについて疑問の残るところであるが、(ア)同発言がどのようなやり取りの中でなされたか不明であること、(イ)同発言については、団交での労使の主張が対立する中で学校法人側の対応を批判する意図でなされ、これら発言によって交渉が中断するなどの混乱が生じることもなく協議が進行していること、(ウ)団交要求書の「詐欺的行為」等の記載についても、あくまでも帰属収入の予測と現実との乖離を批判したものとみられ、その後の団交を拒否する理由にはならないこと、から、学校法人が団交を拒否する必要まではなかったというべきであり、組合の団交での発言等が団交拒否の正当な理由となるとはいえない。
 したがって、学校法人は、通知書を組合に提出することによって正当な理由なく団交を拒否したものと言わざるを得ない。

ウ 学校法人が通知書を撤回していないことについて

(ア)学校法人は、本件申立てに至るまで、通知書における組合に対する謝罪要求を撤回していないが、現に、学校法人は本件団交要求書に係る団交の実施に向けた働きかけをしていたのであるから、学校法人の一連の電子メールにおいて、組合からの謝罪がなくても団交に応じる旨が明記されていなくとも、学校法人は、謝罪要求を一旦保留した上で団交の開催を提案したものとみるのが自然である。

(イ)組合は、学校法人が通知書で団交を拒否する意思表示をしたのに対して抗議をし、その後の団交実施に向けた学校法人の働きかけに対しては、団交に応じないという姿勢をみせていたものということができる。
 また、仮に、開催した団交の場で学校法人が謝罪を要求したとしても、組合はこれを拒否することができるのであるから、組合が学校法人の提案する団交に応じることには、特段の支障はないというべきである。

(ウ)以上を併せ考えると、学校法人が通知書によって団交拒否の意思表示をした後に団交が開催されなかったのは、組合の対応に起因するものとみるのが相当であり、この時期の学校法人の対応が正当な理由のない団交拒否であるということはできない。

エ 団交拒否について

 以上のとおりであるから、本件団交申入れに対する学校法人の対応のうち、通知書で、団交での発言等について組合の謝罪がない限り団交に応じられない旨組合に通知したことは、正当な理由なく団交を拒否したものと言わざるを得ない。

オ 支配介入について

 上記の学校法人の対応は、団交拒否の正当な理由とはならない組合の団交での発言等をとらえて、組合に対して単に謝罪を求めただけでなく、団交実施の差し違え条件として謝罪を迫ったものであって、組合の運営に介入したものと言わざるを得ず、組合に対する支配介入に当たる。

カ 以上のとおりであるから、本件団交申入れに対する学校法人の対応のうち、通知書によって、組合の謝罪がない限り団交に応じられない旨、組合に通知したことは、労働組合法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為である。

(2)学校法人が、組合に対し、書面、電子メール及び協議において、不当労働行為救済申立て、支配介入等の主張等を一切行わない旨の誓約書の提出を、組合の意思決定過程を証する書面の提示と併せて求めたことについて

ア 不利益取扱いについて

 学校法人のこれら行為は組合に対して行われたものであって、個々の組合員に対して直接行われたものではないのであるから、そもそも組合員であるが故の不利益取扱いと評する余地はなく、この点に係る組合の申立ては、棄却する。

イ 支配介入について

(ア)学校法人が労使紛争の回避を理由に、憲法第28条における団結権等の保障を実効的にするために労働組合法によって労働組合に認められた、不当労働行為の救済を申し立てる権利を事前に放棄することを一方的に組合に迫ること自体、労働組合法を無視した行為というほかなく、また、別訴判決の内容を理由に組合の意思決定過程を証明する書面の提示を求めた学校法人の対応は、直近に出された同判決の内容を自らに有利に解釈し、それを理由に組合の内部文書の提出を求めたものと評するほかない。

(イ)学校法人が、一時金支給の条件として、労働協約の締結についての組合の意思決定過程という組合の内部手続について、それを証明する書面の提示を求めること自体、組合の自治を侵害するものと言わざるを得ない。

(ウ)組合が暫定協約を締結し、後日、総会で承認を得る努力をする旨表明しているにもかかわらず、学校法人は、組合に対し、暫定協約書の効力について組合執行部としては争わないことを約する執行委員長名の書面を自ら準備した上で組合に提示し、押印を一方的に求めたのであって、かかる学校法人の対応は、組合執行部、ひいては組合そのものを軽視するものというほかない。
 そして、組合は、学校法人からのかかる不合理な書面の提出要求を拒否した結果、令和元年度夏期一時金の要求を含む本件団交申入れを撤回することとなり、組合活動を大きく制約されたものと言わざるを得ない。

(エ)以上のことからすると、学校法人の行為は、正当な理由がないばかりか、組合の内部手続を証明する書面の提示を求めたものとして組合の自治を侵害するものであり、かつ、それによって組合は組合活動を大きく制約されたのであるから、組合に対する支配介入に当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

(3)組合ニュースの配布に係る学校法人の対応は、組合に対する支配介入に当たるかについて

ア 団交で学校法人が組合ニュースを配布することを認めていたかについて

 団交における労使間の合意は、総務課の各部署宛てのメールボックスに、組合が組合ニュースを投函することを学校法人が了承したにとどまり、学校法人が組合ニュースを全教職員に配布することまで含むものではなかったとみるのが相当であり、学校法人が組合ニュースを全教職員に配布することを認めていたとの組合の主張は、採用できない。

イ 組合ニュースを配布しなかったことについて

 団交において学校法人と組合との間で、学校法人が責任をもって全教職員に組合ニュースを配布することが合意されたとみることができないのであるから、そもそも、学校法人に組合ニュースを全教職員に配布する義務はない。
 そうすると、組合が総務課の各部署宛てのメールボックスに投函した組合ニュースが全教職員に配布されなかったとしても、そのことについて学校法人が責めを負うとはいえず、学校法人の対応に不合理な点はない。
 したがって、学校法人が組合ニュースの一部を教職員に配布しなかったことは、組合に対する支配介入に当たるとはいえない。

ウ 組合ニュースを廃棄したことについて

 組合ニュースの配布は本来組合自身が行うべきものであること及び学校法人に組合ニュースを全教職員に配布する義務があったといえないことを併せ考えると、組合ニュースの一部を教職員に配布せず廃棄した学校法人の対応は、適切であったと言い難いとしても、殊更に組合の情宣活動を妨害することになることを認識、認容してなされたものとまではいえない。
 したがって、学校法人が組合ニュースの一部を廃棄したことは、組合に対する支配介入に当たるとまではいえない。

エ 支配介入について

 以上のとおりであるから、組合ニュースの配布に係る学校法人の対応は、組合に対する支配介入に当たるとはいえず、この点に係る組合の申立ては、棄却する。

(4)入試手当について、学校法人が、組合に対し、書面において、その支給に関する協約の締結を、組合の意思決定過程を証する書面の提示と併せて行わなければ、支給日に支給できない旨通知したことについて

ア 学校法人は、書面において、労働協約を締結することとともに、組合総会決議の議事録等の組合の意思決定過程を証明する書面を5日以内に提示することを、入試手当を支給予定日に支給するための条件として求めたものとみることができる。

イ そこで、学校法人のこの対応に正当な理由があるかについてみると、そもそも、団体名義の書面の効力が争われるという事態は、判決を引き合いに出すまでもなく、一般的に生じ得るものであり、しかも、判決の内容を理由に組合の意思決定過程を証明する書面の提示を求めた学校法人の対応は、同判決の内容のうち自らに有利な部分のみを殊更取り上げ、それを理由に組合の内部文書の提出を求めたものと評するほかなく、正当な理由があるとはいえない。

ウ さらに、入試手当の支給の条件として、労働協約の締結についての組合の意思決定過程という組合の内部手続について、それを証明する書面の提示を求めること自体、組合の自治を侵害するものであるし、また、5日以内という通常では考え難い短期間での対応を一方的に求めたことは、組合を軽視するものと言わざるを得ない。

エ しかも、組合は、学校法人のこの対応により、組合活動を大きく制約されたものと言わざるを得ない。

オ 以上のとおり、入試手当について、学校法人が、組合に対し、書面において、その支給に関する協約の締結を、組合の意思決定過程を証する書面の提示と併せて行わなければ支給できない旨通知したことは、正当な理由がないばかりか、組合の内部手続を証明する書面の提示を求めたものとして組合の自治を侵害するものであり、かつ、それによって組合は組合活動を大きく制約されたのであるから、組合に対する支配介入に当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

3 命令内容

(1)誓約文の手交

(2)その他の申立ての棄却

このページの作成所属
労働委員会事務局 労働委員会事務局審査課 運用グループ

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