食の安全安心シンポジウム2009基調講演概要

更新日:2010年1月14日

 基調講演「最近の食物アレルギーの現状について」

  亀田 誠 さん (大阪府呼吸器・アレルギー医療センター小児科部長・医師)

 本日は様々な立場の方が聞きに来られていますので、広く浅くお話しさせていただこうと思います。
 まず、どんなお子さんを見たときに食物アレルギーを疑うかというところから始めましょう。保育士さんにお伺いすると、よくアトピー性皮膚炎を持っていると食物アレルギーを持っていると疑うということを聞きます。果してそれは正しいのでしょうか。

 食物アレルギーとアトピー性皮膚炎という2つの病気を持ち出しましたが、この2つの関係というのは以下のように3つの考えをもっておられる方にわけられると思います。どの考えが、正しいと思われますか。

1.食物アレルギーを持っておられるお子さんの中に、アトピー性皮膚炎を患っているお子さんがいる。
2.アトピー性皮膚炎を患っているお子さんの中に、食物アレルギーを持っておられるお子さんがいる
3.食物アレルギーとアトピー性皮膚炎というのは必ずしもどちらかに含まれるわけではなく一部重なる部分があると考えられる。

 この会場の皆様は3の方が多いようですね。正解は、3の一部重なる部分があるという考えです。

 それでは、食物アレルギーっていったいどういうものなのでしょうか?
 食物アレルギーとは、食物が(主として口から食べることによって)アレルギー反応の原因となり、様々な症状を引き起こす病態をいいます。ですから、症状は、なにか合併症がないと、例えばアトピー性皮膚炎のような合併症がないと、その食べ物を食べない、触れない限りは症状はないわけです。普段はまったく普通にみえる方が、実は食物アレルギーをもっておられるということがよくあります。食物アレルギーは、「その食べ物を食べない限り症状はない」ということをぜひご理解していただきたいと思います。

 一方アトピー性皮膚炎を患っておられて、そして食物アレルギーの合併症をお持ちの方では、(中には食物アレルギーによって皮膚炎が悪くなる方もおられますが)単に食べた時にはじんま疹がでるだけでアトピー性皮膚炎が悪化するわけでないという方が結構多くおられます。

 食べ物を食べて、何か具合が悪くなるのがすべて食物アレルギーかといえば、そうではないということは、皆さんご存知のことと思います。食べ物によって引き起こされる生体に不利益な反応は2つに分類されます。

 一つは毒性物質による反応で、全てのヒトに起こる現象です。例えば、細菌や自然毒などで引き起こされる食中毒です。どなたにも同様に症状がでます。
 もう一つは、多くの方は普通に摂れるもの、通常は毒性物質とは思われないものによる反応で、ある特定のヒトにだけ症状が起こる現象です。中でも、免疫学的機序を介することによって症状が出てくるものを食物アレルギーといいます。
 他には、免疫学的機序を介さないものに食物不耐症というのがあります。例えば、乳糖不耐症ですが、乳糖を分解する酵素を欠損している方にみられ、酵素が欠損していることが問題であって、決してアレルギー反応を起こしているわけではありません。ということで食物アレルギーではありません。
 消化機能と食物アレルギーを考えましょう。食べ物を食べると、口から食道を通って胃、小腸、大腸を通って行きます。栄養は小腸で吸収されるのですが、それまでに消化酵素によりタンパク質がどんどん細かくアミノ酸にまで分解されます。また、小腸壁の粘膜・粘液バリアやIgA抗体によって、十分に消化されていない大きなタンパク質が吸収されないようになっています。それでも、体内へ入ってきてしまったタンパク質に対しては、反応する抗体やリンパ球の働きを抑え、身体が反応しないようにする、経口免疫寛容があります。
 ところが、小さい乳児・幼児の場合は消化酵素が十分発達していない、バリアが十分に発達していない、免疫学的にIgA抗体という物質が十分に存在していないために、多量のタンパク質が体内に入ってきて、それにより症状が発現することが考えられます。
 このことから、一般的に小さいお子さんの場合に、食物アレルギーが多い。そして、ある程度年齢が高くなってくると、少しずつ消化機能が発達して、徐々にアレルギー反応をおこさなくなると推測されます。

 食物アレルギー以外に食物不耐症とよく似た内容で、仮性アレルゲンがあります。アクの強い食品が、口のまわりについただけでちょっとかゆくなったりした経験があると思います。子どもでも、大人でもおこるもので、これは食物アレルギーではありません。
 薬理学的物質としては、ほうれん草などに含まれるヒスタミンや、チョコレートなどに含まれるフェニルエチルアミンなどがあります。
 事前に、本日参加された皆さんからいただいている質問にありましたが、食品添加物もアレルギー様の反応が出ることが、ごくまれにですがあります。食べ物によるものに比べ圧倒的に少ないが、そういったことがないわけではありません。しかし、頻度は極めて少ないし、本来の食物アレルギーとは違うものです。

 食物アレルギーというのは、年齢によってずいぶん様相が違ってきます。何か食べて症状があらわれて、病院を受診した方の年齢を調べた報告があります。年齢の低い方が圧倒的に多い。年齢が高くなるにつれ人数は減少しますが、40、50、60、70代になっても、何か食べて具合が悪くなって受診される方は、少ないけれどおられます。
 何を食べて具合が悪くなったのか。全体では、多い順に鶏卵・乳製品・小麦・甲殻類・果物です。そして、大豆より魚類、ピーナッツ、魚卵の頻度が高くなっています。年齢別に原因食品をみると、乳幼児は、鶏卵・乳製品・小麦が3大アレルゲン(原因食品)となっている。平成10年、11年の調査ですが、4から6歳に至るまで、この3食品が9から6割を占め、大人では、そば・エビ・魚介類の順になっています。子どもと大人では、原因となる食品が違っています。

 しかし、最近ではその様相が違ってきています。平成14年の調査では、0歳では鶏卵・乳製品・小麦の順ですが、1歳で魚卵・魚類が出てくる。2から3歳になると、魚類がなくなり魚卵とそばになります。1歳以降で、魚卵が現れるのは、おそらく外食で、1歳ぐらいのお子さんに大人と同じようにイクラや数の子などの寿司を食べさせて発症する場合、あるいは1歳では生ものは食べさせていなかったが、2から3歳になってもういいだろうと食べさせて具合が悪くなった場合とが推測されます。一方、2から3歳で魚類が減るのは、大抵1歳ぐらいには判明し、対策が取られているからだと思われます。4から6歳ぐらいになると、甲殻類・果物・ピーナッツという大人と同じような食品が現れます。頻度も原因食材も多様化しているのが現在の特徴です。

 しかし、大人の食物アレルギーも決して少ないとは言えません。2000年(平成12年)の全国調査では、約2万人の成人を対象に調査していますが、何かを食べて1時間以内に症状が出た経験がある方が9.3%と3歳のお子さんの8.6%と同じ程度に多く、10歳前後が一番少なく、中学くらいから少し増えています。実のところ、私は、「本当にそうだろうか」と疑問に思っていました。2006年(平成18年)に藤井寺保健所が管内の小学校・中学校の養護教諭に調査を行った結果、「本当にそうだったんだ」ということがわかりました。
 平成16年の全国調査によると、小から高校まで全部集めると食物アレルギーを持つ子どもが2.6%であり、この調査でも、食物アレルギーを持つ子どもは、小学校4.4%,中学校4.98%と増えていることが分かりました。年齢が上がっても減っているわけではありません。
 この調査では食物アレルギーの詳細も調査しましたが、小学校では多い順に鶏卵・牛乳・そば・エビですが、中学校では鶏卵・そば・エビ・牛乳となっています。中学生以上になると顕著に増えるものは果物で、キウイ、リンゴが多くなっています。症状の程度は別にして、何か食べて症状が出る頻度というのは中学生が高いというのが間違いないと改めてわかった次第です。

 この食物アレルギーですが、結構誤解されているところがあります。何か食べて具合が悪くなったら、食物アレルギーだと思われることもしばしばです。牛乳を飲んだら具合が悪くなるが、牛乳を使ってシチューを作って食べても別に問題がない。卵焼きは具合が悪いが、プリンが食べられるという方がおられますが、それは実は食物アレルギーでなかったりします。
 このように診断は非常に難しい。では私たちはどのように診断しているのか、まずはどういう状況で症状がでたのか等の摂取食物と症状に関する話をしっかりと聞きます。そして、何か因果関係がありそうだとある程度確認しながら、血液検査や皮膚テストを行います。血液検査はキャップラスト(CAP RAST)と言いますが、これが陽性であったら、この食品が原因でアレルギーを起こしたのではないかと推定をします。あくまでも「推定」でありこの段階ではまだ「確定」ではありません。
 さらにこれを確実なものにするためには、実際にその食物をやめて症状が無くなるかどうか(食物除去テスト)、また改めて摂った時にその症状が再現するのか(食物経口負荷テスト)を確かめて、そこまでやって初めて本当の意味での「確定」をおこなうことができるのです。
 残念ながら、この検査をしっかりとできる医療機関はそう多くはありません。なぜなら、この負荷テストは、3時間ぐらいかかります。そして、実際に具合が悪くなる方もおられるわけです。私どもの病院では、外来で週6人、入院で週12人の方を最大限にさせていただいています。まったくその枠では足らないぐらいの方が来られます。本当はもっと多くの医療機関で行えればいいのですが、小さな開業医では、非常に具合が悪い状態になった場合に対応できない等の問題があり、実際には実施できないのが現状です。

 多くの人はおそらくこの血液検査の結果を持って、食物アレルギーであるといわれていると思われますが、それが正しいのでしょうか。血液検査では、値(血中のIgE抗体の濃度)が0.7以上の方を陽性としています。ある調査では卵白による血液検査の結果をみると、0歳のお子さんでは、「13」という値が出ると95%の方が食べられない可能性があります。しかし、値が「3」に下がると、8割弱の方が食べられない程度まで下がり、逆にいえば2割強の方が食べられる可能性があります。
 年齢が高くなると、1歳では、95%の方が食べられない可能性がある値は「23」まで、2歳では「30」にまで上がります。牛乳による血液検査の結果では、2歳ぐらいになると95%の方が食べられない可能性がある値は「57.3」とずいぶんあてになりません。
 アトピー性皮膚炎を患っておられる方の食物アレルギーとの関与を調査したところ、血液検査で食物アレルギー陽性であった方のうち、実際に食べられない方は、0歳では100%に近いが、1歳では80%強、2歳では60%程度と、年齢とともに血液検査陽性(0.7以上)であってもその食物を食べられる方が増えています。血液検査だけでは、その食物を食べられるかどうか判断できないということがわかっていただけると思います。

 先ほどからの話は、ほとんどが食べて1時間以内に症状が出る場合の話をしていますが、アレルギーによる反応はそれだけではありません。この場合は、食物と症状の因果関係がわかりやすいので、調査を行っているだけです。
 症状の発現時間により食物アレルギーを分類すると、アナフィラキシー型(即時型)は、食べ物をとって2時間以内に生じてくる場合。遅発型は、食べ物をとって4から6時間たって発症する場合。遅延型は、食べ物をとって1日以上(24から48時間)たって発症する場合に分類されます。
 食べてから24時間以上経って症状が出てくる場合は、本当にその食物が原因かどうか、なかなかわからないため、遅々として研究が進んでない分野です。しかし、アナフィラキシー型についてはずいぶん研究が進んでいます。最初に話をしたように、消化酵素、粘膜・粘液バリヤ、免疫系の成熟あたりが関係してきているのだろうと随分わかってきました。
 アナフィラキシー型の症状で、最も多いのがじんましん、紅斑、かゆみ、発疹、目のむくみ、唇の腫れといった皮膚症状が大体8から9割、喘鳴、咳、息苦しさという呼吸器症状が3割強、嘔吐、腹痛という消化器症状が3割弱と言われています。なかでも息苦しさや、ぐったりとしている状態はアナフィラキシーと考えられ、私たちでも緊張します。

 遅発型の例を一つお話します。普段は何も湿疹のないお子さんが、鶏卵を食べたその晩に頬に発疹が出ました。そのお母さんは、この症状の原因が鶏卵であることを疑い、症状が治まったのちにもう一度食べさせ、同様に発疹が出たということで受診され、遅発型・遅延型反応であると理解できたケースがありました。このように、後になって発症する場合は、よほど注意してみていないとわかりませんが、こういうアレルギー反応もあるということを知っておいてください。

 次に、違うタイプの食物アレルギーについて説明します。
 まず吸入によるアレルギーです。そば殻や、そばを茹でた蒸気に含まれる「そばタンパク」によって生じるものがあります。喘息症状のあるお子さんが、血液検査で「そば」が陽性であったため、そば殻枕をパイプ枕に変更したら、喘息症状が改善した。その後、外泊時にそば殻枕と接触した際に、喘息症状が呈したということで、吸入によるそばアレルギーであると判断できました。
 そばを茹でる湯気を吸って、そばアレルギーの方が症状を呈するということを聞いたことがあるかもしれません。小麦でも同様にあります。このように吸入による食物アレルギーもあります。

 2つ目は口腔アレルギー症候群です。最近、話題になっている果物については、この形をとって現れる場合が多いです。これは花粉症に続発する、花粉症の後に現れるのではないかといわれています。また、ゴムアレルギーという看護師や研究職に多く、職業病と言われている病気に、合併、または続発して発症するともいわれています。
 これは消化・吸収が関与するのではなく、接触性の皮膚炎、接触性の粘膜炎といわれており、触れることで起こってくると考えられています。一般的に症状は軽いことが多いのですが、口腔内のひりひり感、腫脹、のどが締め付けられたような感じが典型的な症状です。しかし、中にはその後きわめて強い症状を呈する方もおられます。
 口腔アレルギー症候群からはずれますが、よくよく聞いてみると鶏卵や小麦でも、「最初口の中で変な感じがした」と訴える方がおられます。よく考えるとこの症状は、後々の全身反応、非常にきついアナフィラキシーの前駆症状とみておいたほうがいいだろうと思われます。何かを食べて変な感じがすると言って、子どもがなかなか食べようとしない場合、「好き嫌い言わずに食べなさい」と言って無理に食べさせるときついアレルギー症状がでるということがあります。何か変な感じがするという時は、自分の体が危険信号を出していると思っていただいていいと思います。それ以上無理して食べさせないというのはアレルギーの視点で言えば正しいということになります。

 3つ目は食物依存性運動誘発性アナフィラキシーです。特別何かを摂って具合が悪くなるわけではないし、運動して症状がでるわけではない。しかし、ある食べ物を摂ってそののちに運動をした場合に具合が悪くなるというアレルギーを、食物依存性運動誘発性アナフィラキシーと言います。頻度は少ないですが症状がきついものですから、病気を扱うバラエティ番組でも取りあげられており随分知られるようになりました。しかし、頻度は随分少ないのです。

 2006年の報告によると、小学生での頻度は0.005%、中学生での頻度は0.017%、高校生で0.009%であり、食物アレルギーの頻度が2~3%であったことから考えると、このような特殊な形をとるのは、100分の1から1000分の1であることがわかります。しかし、怖さ、重要性ではむしろ通常の食物アレルギーと同様に考えておかなければならないものと思います。
 中学生以上に多く、原因として頻度が高いものは小麦や甲殻類ですが、私たちが最初に経験したのはモモでした。それから魚は大丈夫だがフライにすると具合が悪くなるという、組み合わせによって具合が悪く方もいます。まだまだ研究が不十分ですが症状は急激に出現しかつ強烈です。小麦と甲殻類を組み合わせた料理を摂って、運動をすると具合が悪くなる場合が多いと言われています。

 ここでアナフィラキシーの話にいきたいと思います。
 アナフィラキシーというのは、原因となる物質に暴露されてから短時間で生じる急性の全身反応と言われています。簡単に言いますと、何かの刺激で急に具合が悪くなる、皮膚症状だけでなく、皮膚症状と呼吸器症状、皮膚症状と消化器症状というように、2つ以上の違った場所に症状が出てくる全身性の反応を言います。
 これは、食べ物以外でもおこります。有名で、そして実際に日本で一番命を落とす頻度が高いのはハチです。他に薬剤があります。ではアナフィラキシーショックとはどういうものでしょうか。
 ショック症状とは、大雑把には全身に十分な酸素を供給できない状態であり、アナフィラキシーによる場合には低血圧をおこして、立ちくらみのような状況をきたし、意識がもうろうとし、ついには意識を失うなどの状態を言います。私たちが立っていられるのは、下半身の足の血管をぎゅっと締めるように身体の神経が調節し、重力で血液が下のほうにたまるのを防いで、そして頭に十分な血液を流すようになっているからです。しかし、立ちくらみというのは、神経がその緊張を保ちえない状態になって、血液が下へ落ちてしまうことから生じます。

 食物によるアナフィラキシーの場合は、末梢血管の緊張感が無くなり、血圧を保てなくなるために、血液が下へ落ちてショック症状を呈します。ですからアナフィラキシー(ショック)になった場合には、立たせたり座らせたりせずに、寝かせるのが一番望ましいのです。そして頭のほうへと流れる血液を確保するのがとても大切です。繰り返しますがこのように、脈がふれにくい、意識が落ちている状態を、ショックと言います。

 ショックを呈した症例をお示しします。10歳のころ、ほんの少しの卵白を食べ、直後にのどの違和感を訴えました。小さい頃はこの後にひどい症状を呈していたのですが、幸いこのときは60分くらい症状がなかったので安堵していたところ、60分を過ぎて次第に腹痛と息苦しさ(アナフィラキシー)が生じてきました。この症例から分かることは、アナフィラキシー反応は、食べてすぐに出るのではなく1から2時間ぐらいたってから生じてくることもあるということです。全身に反応をきたそうとすると、腸管から栄養が吸収されて、全身に廻って初めてその反応がおこると考えると理解がしやすいと思います。アナフィラキシーはすぐに起こるというのではなく1から2時間たって反応を起こすことも珍しくないということを、ぜひ覚えてほしいと思います。

 ここからは具体的な対応についてお話しします。
 学校におけるアナフィラキシー対応マニュアルによると、誤って食べてしまった場合の対応としては、口の中で変な感じがするといった場合は、全て吐き出させ、口をすすいで、口の中に残らない工夫をしてください。皮膚についた場合の対応としては、拭き取らずに洗い流してください。目に入った場合の対応としては、まず水で洗い流し、次に目薬などを使って洗い流してください。
 その間に家族に連絡し、必要に応じて緊急常備薬を使い症状の観察をします。30分以内に症状の改善が見られたら、そのまま注意深く観察します。症状がおさまらない場合は病院へ行きましょう。というのが一つの流れです。
 最近では病院に行く前に自分で注射ができるようになりました。商品名がエピペンといわれるものです。
 アナフィラキシーの緊急対応として、口の中に異物がないことを確認した後で、その場でできるだけ安静にさせ、仰向けで寝かせる。血圧の低下が疑われる時(ショック症状)には、身体を横にして足を少し高くし、頭へ血液が流れるようにすることが重要です。

 もちろん、このような症状をきたさないように対応することが大切です。
 では、どのようにして予防すればいいのかというと、これが本当にいい方法がないのです。原因となる食べ物を摂らないことが一番大事なのです。
 もう一つは、加熱や発酵などにより食物の抗原性を低下させることが有効な場合もあります。お薬はいろんなものがありますが、有効性は必ずしも高くないし、これを使えばいいというものも今のところ一つもありません。
 とりあえず原因となりそうな、あるいは原因じゃないかと思われる食物を除去すればよいのか、というとそんなものではありません。その食べ物が確かにその方に対し不利益な反応をきたすということを確実に確認する必要があります。医師との共同作業になりますが、思い込みが多くあり、ご自身で判断する方が少なくありません。一つ一つ確認をし、除去は必要最小限にすることが重要なのです。除去をするということは、十分な栄養を摂れなくなる可能性があり、成長に影響を及ぼさないように配慮をしなければなりません。栄養面に配慮した代替食をしっかりとした形で提案することが大切なのです。

 ある事例では、3カ月検診で食物アレルギーであると指摘され、除去をするようになりました。1カ月後に子どもの体重低下を指摘され、初めて「これではいけない」と気付かれて受診されました。代替食をしっかり提案することの重要性を示している例と思われます。やはり食物を摂らないというのは、多少なりとも成長に影響を及ぼす可能性があるということを示していると思います。

 平成14年に、国は加工食品に含まれるアレルギー物質を表示することを義務付けました。現在は、卵・乳・小麦・そば・落花生・えび・かにの7品目と推奨表示18品目の合計25品目を挙げられています。これらは、何を摂って具合が悪くなって病院を受診したかという頻度の高い上位25品目を定めたものです。
 これで随分除去しやすくなりましたが、摂ってはならない食品が鶏卵であっても、どれだけ厳密な除去をするかは一人ひとり違います。加熱や発酵によっても抗原性は低くなることが分かっています。例えば、生卵のような加熱していないものの反応が最も強く、しっかり加熱したもの、量が少ないもの、白身より黄身のほうが弱いことがわかっています。

 このような考え方から、今の段階でこの程度までの除去が必要であるという話をします。
 反応性の低いものから高いものがあり、大豆でいうと大豆>豆腐>納豆>しょうゆなどの調味料、小麦類でいうと強力粉>薄力粉>小麦入り調味料>大麦>オートミールというふうに、反応性の強弱がわかるようになってきました。
 事前にいただいたご質問の中に、ピーナッツで具合が悪くなるがその他ではどうかという質問がありました。交差反応性といいますが、鶏卵ですと、うずらの卵でもそれなりに反応しますが、鶏肉に反応するかというとそうでもない、魚卵に反応するかといったらそうでもないということがあります。ピーナッツは、カシューナッツ、ヘーゼルナッツには多少反応することがあります。ピーナッツは豆類ですが、他のナッツは種実類として別のものと考えてよいでしょう。
 何か具合が悪い場合に、なんにでも具合が悪くなることではないが、注意が必要なものもあるので主治医と十分相談していただきたいと思います。

 さて、そういうふうな食べ物ですが、ただただ除去だけでは私たちは満足できませんで、もう少し何とか食べられないかといろいろと考えています。
 少し以前に私が行った調査の結果をご紹介します。鶏卵経口負荷テストで何か症状が出た方について、その後の経過を調べました。陽性例の方の6ヶ月後にどのようになったかを調べてみると、鶏卵を何らか食べられるようになった方は半数弱。全体のうち13%ぐらいの方は、次第に1/2個まで食べられるようになりました。ほぼ問題がない状態と考えてよいと思います。この方々に何をしたかというと、ちょっとずつ食べていきましょうというお話をしました。それができる程度に症状が軽い、あるいはそれなりの量までは食べられる方たちだったということですが、そのまま除去を続け食べる機会を逸していれば、食べられることが分からなかったと思います。
 症状の出ない程度であれば、むしろ積極的に食べることによって、その食べ物を摂っても症状が出なくなることが期待できるとわかってきました。ということで、いろんなグループがこのような研究していますが、残念ながらまだ確立されたものはありません。

 私は今治療ということ中心にお話していましたが、実は、その家族をしっかりと支えるということが大事だと思っています。
 実際、お母さん方にアンケートをとってみますと本当に不安だらけです。知識や情報がないわけではないが、不安がないという方は極めて少ない。常に不安がある人が非常に多いことが事実です。これにどう対応するかは、社会全体の問題であるのではと考えています。

 その一つの試みとして私達は、食物アレルギー教室や座談会を行っています。いろんな機関でも実施されておりますが、食物アレルギー教室では、除去食を作るきっかけやこんな風にしたら料理がつくれるんだなというヒントになっています。座談会では、家族のつらさの共有であり、情報の交換につながっています。医師だけではできない部分が、本人やその家族に集まっていただくことでできています。
 食物アレルギー教室を私たちは病院で行っております。鶏卵や小麦を食べられないお子さんをお持ちのお母さんたちと一緒に調理を行っています。小麦の代わりにジャガイモを用いたり、鶏卵の代わりにコーンを用いたりしております。教室の最後に、お母さんがおっしゃった言葉があります。「こんなに料理を作るのが楽しいと思ったのは小学校以来である」と。それだけ苦痛に思いながら、だけど毎日食事を作っていかなければならない気持ちに、やはり私たちはなかなか気づくことができない現実があります。それだけ大変なこともあるということを、今日は一つ覚えて帰っていただきたいと思います。

 これは「さつまいものケーキ」ですが、5歳の誕生日に初めて家族そろってバースデーケーキを食べることができたといって、抱き合って泣かれたというケーキです。作るのに少し面倒ですし、パサパサしているのですが、作り方によってはとても美味しいケーキになります。

 それともう一つ、子どもたちは成長すると学校等へ行きますが、そのような場所でどう対処するかということです。きっちりと除去をしていても、新たに食物アレルギー食品が判明することもあります。どんなに頑張ってみても学校等で食物アレルギーをなくすることはできません。
 では、どうするのか。昨年の3月に学校保健会が全国の教育委員会に向けて「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」を作成し、配布しました。これは「ぜひ教育と医療との連携をしっかり作ってそれぞれの環境の中でできる最善の方法を考えてください」という内容です。保護者だけの情報ではなく、そこへ主治医等の意見や考えをつけて客観視し、学校などの現状を加えてその子に対してできる最善の方法をしていきましょうという取り組みがようやく始りました。
 これから広がっていくのではないかと期待しています。

 今日のまとめになりますが、私たちにできることですが、食物アレルギーの存在を積極的に認め、決して好き嫌いの問題で済ませられないことを理解してください。そして栄養面の配慮では、栄養士さんにお願いしなければならないことが随分あります。

 また、共働きの方も多いことから、親戚や周りの方の協力がどうしても必要になります。救急対応についても全く知らないでは済まされない状況になってくるだろうと思います。そして、安全な食生活へのシフトも念頭に置いてアレルギーについて考えていただきたいと思います。
 食べるということは大変重要なことです。それは単に栄養をとることだけではありません。五感を用いて味わうということも重要です。目で見て、匂いをかいで、食感、音も含め、そして舌で味わう。美味しいという満足感というのは、必ずやその人の情緒を安定させる、充実感、充足感を満たすものです。
 さらに大切なことは、食卓です。場あるいはみんなで食べるという時間の共有です。自分がその集団に属しているという安心感に間違いなくつながります。ぜひ食べる時ぐらいは一緒に食べるということを考えていただければ、食べるという意味合いがもっと深まるのではないかと思います。
 さらに人間にだけ許されていることですが、食事がリラックスできる場であるということも大切です。動物では、食事を取られないように気が休まるどころではない。しかし、人間は食事の時間をリラックスする時間にして利用することができます。それは、子どもたちにおいては社会性を向上させる大きな要素になるだろうと思います。

 こういうことを踏まえて、これからどういうふうに食物アレルギーに対応していくかというのを一緒に考えていただければと思います。
 ご清聴ありがとうございました。

このページの作成所属
健康医療部 生活衛生室食の安全推進課 食品安全グループ

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