6.N1/N2事件(平成30年(不)第71号及び令和元年(不)第16号事件)命令要旨

更新日:2020年11月25日

1 事件の概要

 本件は、(1)N1社とN2社が、団体交渉に応じなかったこと、(2)N1社とN2社が、組合員2名を懲戒解雇したこと、(3)N2社が、組合事務所について、明渡しを通知し閉鎖したこと、がそれぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
 
2 判断要旨

(1)N2社の使用者性について

ア 会社らは、組合員らと雇用契約を締結しているのはN1社で、N2社は出向先であって、使用者には当たらない旨主張する。

イ N1社とN2社は、業務上、密接な関係にあるということができる。

ウ 組合員Aの雇入れ時の、組合等とN2社との間の確認書には、組合員Aの身分については、N1社とN2社が連帯して責任を負う旨定められているのだから、雇用主はN1社とされたとしても、N2社が組合員Aの雇入れに関与したことは明らかである。
 組合員Bについても、組合等とN2社との間で、N2社は組合員Bを正規雇用にする旨等が記載された協定書が作成されていたこと等が認められるのだから、同様に、雇用主はN1社とされたとしても、N2社が組合員Bの雇入れに関与したことは明らかである。

エ また、N2社はN1社とともに、組合員らに対し、懲戒処分の可能性に触れ、業務命令を行っていたとみるのが相当である。さらに、団交や書面回答等からすれば、N2社は、組合員らの就労についての団交申入れに、使用者として対応していたというべきである。

オ 以上のとおりであるから、N2社は、本件組合員らの基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に、現実的かつ具体的に支配・決定できる地位にあるというのが相当であって、N2社は、組合員らの労働組合法上の使用者に当たると判断される。

(2)N1社が組合の労働者供給事業から供給された者を就労させること等を要求事項とする団交申入れに応じなかったことについて

 数年前に締結された確認書の内容からすると、後に組合を脱退することになる従業員1名が、組合の関与により、N1社又はN2社で就労するようになった経緯があったとは解されるが、当該元組合員は組合の労働者供給事業により就労していたのではなく、N1社に日々雇用労働者として雇用されていたというべきであるので、当該元組合員に係る経緯と組合の労働者供給事業の運営との間に直接の関係があるとの疎明はないといえる。そうすると、当該元組合員の組合からの脱退をもって、組合が、組合の労働者供給事業からの組合員の就労を期待できるとする合理的な理由があったとまでいうことはできない。
 以上のとおり、組合の労働者供給事業から供給された者の就労を求めるという議題を義務的団交事項に当たるとみることはできないのであるから、団交申入れにN1社が応じなかったことは、正当な理由なく団交に応じなかったものとはいえず、この点に関する組合の申立てを棄却する。

(3)N2社が日々雇用労働者の未払賃金についての解決金の支払を要求事項とする、団交申入れに応じなかったことについて

ア 当該団交申入れの要求事項は、組合を含む労働組合とN2社も加盟する経営者団体の間の集団交渉にて、日々雇用労働者の未払賃金に相当する解決金の支払に合意したとして、N2社に対し、同社の日々雇用労働者分の解決金の支払を求めたものというのが相当である。そうすると、この団交申入れの議題は、N2社の日々雇用労働者の賃金に関するものであって、義務的団交事項に当たるというべきである。

イ まず、集団交渉の内容についてみると、組合が集団交渉にて、日々雇用労働者の未払賃金に相当する解決金の支払に合意したとすることには理由があるといえる。次に、この合意の効力の帰属についてみれば、集団交渉の後、作成された協定書には、合意事項として、日々雇用労働者の賃上げも含まれており、当該協定書はN2社から委任を受けた当該経営者団体が締結したものであり、その効果はN2社に帰属するといえる。これらのこと等からすると、組合がN2社を交渉の相手として、集団交渉における日々雇用労働者の未払賃金に相当する解決金の支払についての合意に関して、団交を申し入れることには理由があり、当該団交申入れにN2社が応じるべき法的義務はないとする会社らの主張は採用できない。

ウ 以上のとおりであるから、当該団交申入れにN2社が応じなかったことは、正当な理由なく団交に応じなかったものと判断され、かかる行為は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する。

(4)N1社とN2社が逮捕された組合員らの雇用・労働条件についての団交申入れに応じなかったことについて

ア 組合は、N1社とN2社に対する当該団交申入れにより、逮捕後の組合員らの雇用や労働条件について団交を申し入れたとみるのが相当であって、当該団交申入れの議題が義務的団交事項に当たることは明らかである。

イ 使用者が、組合からの要求に応じられないと判断したからといって、団交の開催に応じ、その席で使用者としての考えを述べ、組合と協議すべき義務が免じられるものではない。また、本件の議題が、協議を行えない程度に具体性を欠くとはいえない。なお、組合は、本件逮捕により、本件組合員らの雇用や労働条件等が変更になる可能性があるとして団交を申し入れたというのが相当で、交渉すべき対象が存在しないとはいえない。

ウ 以上のとおりであるから、当該団交申入れに会社らが応じなかったことは、正当な理由なく団交に応じなかったものと判断され、かかる行為は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する。

(5)組合員Aと組合員Bの解雇について

ア 組合員らへの懲戒解雇の通告に先立って、N1社が組合員らに対し、事実確認や事情聴取の機会を設けようとしたとする疎明はない。また、解雇通告書には、弁明がある場合は解雇日までに行うよう求める旨の記載があるが、そもそも、当該解雇通告書には、適用される就業規則の条項のみが記載され、懲戒解雇の理由となる具体的な行為についての記載がないことが認められ、かかる状況下で、処分の通告と同時に弁明を求めたことをもって、適切な弁明手続を経て、懲戒解雇が行われたとみることはできない。これらのことからすると、本件解雇は、適正な手続を欠いて行われたというのが相当である。

イ 本件において、会社らは、解雇理由は、威力業務妨害事件により逮捕等されたことや、業務命令にもかかわらず、業務に復帰しなかったこと等である旨主張する。
 上記のとおり、本件解雇において、N1社による事実確認は不十分であると判断されるのであって、このような状況下では、組合員らに対する有罪判決が確定するなどすればともかく、本件組合員らが逮捕されたからといって、ただちに本件組合員らに懲戒解雇に相当する行為があったとまでいうことはできない。
 また、組合員が業務に復帰しなかったとする点については、経緯からすると、就業状況を根拠に、業務復帰命令に服していないとして懲戒解雇の理由とできるかについては、なお疑問の余地があるというべきである。一方、本件解雇前の労使関係を検討すると、労使は対立していたということができる。

ウ 以上のとおりであるから、本件解雇は、労使が対立している状況下で、本件組合員らに十分な弁明の機会を与えるなど、懲戒解雇に相当するような行為があったか否かを確認することなく行われたというべきである。したがって、本件解雇は会社らによる、組合員であるが故の不利益取扱いであるとともに、もって組合を弱体化させるものと判断され、かかる行為は、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為である。

(6)N2社による組合事務所の明渡し通知と組合事務所の閉鎖について

ア N2社による組合事務所の明渡しの通知自体は、性急であるとの感は否めず、また、本件解雇については不当労働行為と判断されるところである。しかし、N2社にて実際に勤務する組合員はいなくなったといえるのであるから、かかる状況下で、N2社が、同社の敷地内に組合事務所を貸与する必要性がなくなったと判断したとしても、やむを得ないところがある。

イ その後の経緯をみると、N2社は、一定の期間を置いて、組合に明渡しに応じるよう求め、組合も最終的にはこれに任意に応じたということができ、強制的な手段を用い、本件組合事務所を閉鎖したものには当たらない。

ウ さらに、組合事務所についての組合への対応が、他の労働組合と比べて差があるとまでいうことはできない。

エ 以上のとおりであるから、N2社が、組合に対し、組合事務所を明け渡すよう通知し、その後、当該組合事務所を閉鎖したことは、組合に対する支配介入に当たるとまでいうことはできず、この点に関する申立ては棄却する。

3 命令内容

(1)N1社とN2社に対する、団交応諾

(2)N1社とN2社に対する、組合員2名に対する懲戒解雇がなかったものとしての取扱い及び原職復帰

(3)N1社とN2社に対する、誓約文の交付

(4)その他の申立ての棄却

※なお、本件命令に対して、組合及び会社らは、それぞれ、中央労働委員会に再審査を申し立てた。

このページの作成所属
労働委員会事務局 労働委員会事務局審査課 運用グループ

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