8.K事件(令和元年(不)第14号事件)命令要旨

更新日:2021年1月13日

1 事件の概要

 本件は、会社が、組合員1名に対し、会社の前代表取締役が有罪判決を受けた刑事事件の共犯として逮捕、起訴されたことを理由に解雇したことが不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。

2 判断要旨

(1)会社は、組合員Aに対し、本件懲戒解雇通知をし、その後団体交渉を経て、本件普通解雇扱いに変更したことが認められる。本件普通解雇扱いへの変更は、会社が退職手続を進める上での形式上のものと考えられることから、判断の上で、本件懲戒解雇通知及び本件普通解雇扱いは一体的なものとして取り扱うのが相当である。
 そして、社員としての地位を失う解雇は、 組合員Aにとって不利益取扱いに当たるといえる。

(2)本件懲戒解雇通知について

ア 会社が本件懲戒解雇通知に適用した就業規則が無効であるとの組合の主張は採用できない。

イ (ア)会社が、組合員Aが起訴された段階で、刑事上の罪に問われた者に該当すると判断したことは、不合理であるとはいえないこと、(イ)会社が、組合員Aが前社長の恐喝未遂被告事件の共犯者として逮捕され、その後起訴されたことを受けて、組合員Aは有罪になる可能性があるとして懲戒解雇に相当すると判断したことは、不合理であるとはいえないこと、から、会社が上記就業規則を適用して組合員Aを懲戒解雇とするのが相当であると判断したことは、不合理ではない。

ウ 会社が、本件懲戒解雇通知を決定する過程において、団交において組合に対して懲戒解雇に値する旨述べたことは事前協議約款に沿っているといえるとしても、本件懲戒解雇通知に際して組合員Aに直接事実を確認したり、弁明の機会を与えたとの事実の疎明はなく、会社の手続が適正であったかどうかについては疑問が残る。しかしながら、組合は、弁明の機会等の有無を問題視していたとはいえず、むしろ、組合員Aが自ら弁明の機会を放棄したと言われても仕方がなく、会社の手続に重大な瑕疵があったとまで認めることはできない。

エ 以上のとおり、会社が、 組合員Aが逮捕、起訴されたことをもって上記就業規則を適用し、本件懲戒解雇通知を決定し通知したことは、手続に問題がなかったとはいえないものの、懲戒解雇に当たると判断したこと自体不合理とまではいえない。

オ 当時の労使関係についてみると、(ア)前社長の陳述の一部を殊更取り上げて、本件懲戒解雇通知の当時、会社に組合に対する偏見があったとまでみることはできず、(イ)元組合員らのいずれの脱退届にも同じ印字の文字が一部手書きで修正されていることだけをもって、同人らの組合脱退に会社の関与を推認することはできず、(ウ)組合員Aが逮捕及び起訴された当時、会社が本件組合コンプライアンス活動にはもはや与しないとの立場に立っていたのは、あくまで前社長が有罪判決を受けた後の会社の方針転換により、同活動について組合と会社の間に立場の相違が生じたものであり、この方針転換が不自然でない以上、そのことをもって直ちに会社が組合を嫌悪していたとまでいうことはできない。

カ 以上のことを併せ考えると、会社が、本件懲戒解雇通知を行ったことは、組合を嫌悪して行われた不利益取扱いに相当するものとはいえない。

(3)本件普通解雇扱いへの変更について

ア 本件普通解雇扱いと一体的なものとみることができる本件懲戒解雇通知が組合を嫌悪して行われた不利益取扱いといえないことは、前記(2)カ判断のとおりである。

イ 本件普通解雇扱いは、就業規則によらない会社の裁量による変更といえるが、一般的に普通解雇は懲戒解雇に比して被解雇者にとって不利となるものではない。

ウ 使用者が労働者を解雇するに当たり、被解雇者や労働組合の合意までは必要ではない上、本件普通解雇扱いへの変更をもって、組合員Aを不利益に取り扱ったものとはいえず、とすれば、本件普通解雇扱いへの変更をもって、会社が新たな不当労働行為を行ったともいえない。

(4)以上を総合的に判断すると、会社が、組合員Aを解雇したことは、組合を嫌悪して組合員Aを不利益に取り扱ったものとはいえないのであって、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為ということはできず、本件申立てを棄却する。

3 命令内容

  本件申立ての棄却
  
※ なお、本件命令に対して、組合は中央労働委員会に再審査を申し立てた。

このページの作成所属
労働委員会事務局 労働委員会事務局審査課 運用グループ

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