人権問題に関する府民意識調査検討会委員
大阪府立大学人間社会学部准教授 西田芳正
ある認識が抱かれるためには、何らかの情報が元になっているはずである。それでは、「逆差別」意識として検討してきた同和地区に対する認識は、どのような経路で得られたものだろうか。
記述の内容からは、親族、職場や近隣の人々から差別的、否定的な情報が伝えられる傾向を読み取ることができる。9ケースの記述があった。この調査には「同和地区の人はこわい」あるいは「同和対策は不公平だ」というような話を聞いたことがあるかどうかを問う質問が用意されており、6割の人が聞いたことが「ある」と答えている。さらに、「誰から」を問う質問への回答は、「友人」、「近所の人」、「職場の人」が3から4割ほどで、それに「家族」(25%)、「親戚」(13%)と続いている。
身近な人達とのやり取りを通して同和地区についての否定的な情報が伝えられていることがわかるが、自由記述に記された経験もそうした傾向を裏付けるものである。
○ 関東方面では余り聞かなかったように思う。結婚をする頃に関西に居た伯母達から聞き知った。〔70歳以上女性〕 |
9ケースの中には、情報の出所についての言及がない「今では過剰に待遇が良いと聞く」、「【住宅の家賃の】金額を聞いてびっくり」、「【助成金が暴力団の】軍資金の一部になっている話をよく聞くから」といったコメントも含まれる。
マスコミやインターネットを通して情報を得たという記述も、2ケースあった。特に若い世代については、いわゆる「ネット言説」として同和地区に対する否定的なメッセージが流されているようである。2つ目のコメントは、そうした「ネット言説」に批判的な立場からのものだが、ネット上でどのような情報がやり取りされているのかについて、改めて把握することが必要だろう。
○【小学校で狭山事件について学び】「差別は決して許してはいけない」と強く心に思いました。ただ、私自身が大人になって色々な事を見聞きし、報道などで弱者と呼ばれている人たちの中には疑問に思うこともあり、真実がよくわからなくなる時があります。〔40歳代女性〕 |
ここまで見てきたのは伝聞情報であったが、直接に自身が経験あるいは見聞きした事柄についても記述されている。
まず、威圧的な態度、同和地区を理由とした理不尽な要求について直接目にしたとする記述があった4例を示す。
○ 身近に起きた同和問題(30歳代)で同和地区団体の相当の身勝手さに、以後、同和問題、同和地区、同和地区団体に余り良い印象は持っていない。〔70歳以上男性〕 |
また、自身が同和地区の中や近辺に住んで人々の暮らし振りを目にする、地区の人からの話を聞いて「逆差別」意識を強めた、ルールを守らない人がいる、住民の被害者意識の強さに驚いたという経験が5ケース記されている。
○ 同和対策は不公平だと思う。優遇されていると思う(同和地区に住んでいる人の話を聞いて)。〔50歳代女性〕 |
単なる噂レベルだけではなく、実際の体験、見聞を元にした印象が抱かれ、さらにそれが近しい人々に伝えられているという一面があるのだろう。同和地区住民であることを理由とした理不尽な要求などの行為があったとすれば、同和地区への差別を助長するものとして厳しく批判されるべきだろう。ただし、例えば同和地区への差別的な言動により深く傷つけられた人がいるといった場合には、抗議の言葉が激しいものになることもあるだろう。それぞれの出来事や情報について、その背景や文脈についての知識が得られていれば、印象は大きく変わったものとなった可能性もあり、一面的な情報が独り歩きし広められているという場合も考えられる。
さらに、2−3で例をあげた地区住民の「ルール違反」についても、地区外の住民にも見られる行為や生活実態がことさらに同和地区と結び付けられて語られてしまう傾向も指摘できるだろう。
また、過去になされていた同和対策に関する知見を元に、今もそれが引き続き行われているという認識となっていることも考えられ、この点は、同和問題の解決に向けた施策の現状を正確に伝える啓発の課題ということができる。
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府民文化部 人権局人権企画課 教育・啓発グループ
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