人権問題に関する府民意識調査報告書(分析編) 2.2-5「逆差別」意識を維持・強化する情報経路

更新日:2023年5月24日

人権問題に関する府民意識調査検討会委員
大阪府立大学人間社会学部准教授 西田芳正

2.「逆差別」意識の構造と背景

2-5「逆差別」意識を維持・強化する情報経路

■伝聞と噂、マスコミ情報

 ある認識が抱かれるためには、何らかの情報が元になっているはずである。それでは、「逆差別」意識として検討してきた同和地区に対する認識は、どのような経路で得られたものだろうか。
 記述の内容からは、親族、職場や近隣の人々から差別的、否定的な情報が伝えられる傾向を読み取ることができる。9ケースの記述があった。この調査には「同和地区の人はこわい」あるいは「同和対策は不公平だ」というような話を聞いたことがあるかどうかを問う質問が用意されており、6割の人が聞いたことが「ある」と答えている。さらに、「誰から」を問う質問への回答は、「友人」、「近所の人」、「職場の人」が3から4割ほどで、それに「家族」(25%)、「親戚」(13%)と続いている。
 身近な人達とのやり取りを通して同和地区についての否定的な情報が伝えられていることがわかるが、自由記述に記された経験もそうした傾向を裏付けるものである。

○ 関東方面では余り聞かなかったように思う。結婚をする頃に関西に居た伯母達から聞き知った。〔70歳以上女性〕
○ 同和問題の事は良くわかっていません。私は地方から18歳で大阪に来ましたが、同和の事は大阪に来て初めて知りました。現住所に結婚を期に本籍を移す際に大阪の人はやめた方がいいよと言いましたが、特に気になりませんでしたし、現在まで何も不便や不自由はありませんでしたし、一体、具体的にはどこが同和地区なのかわかりませんし、あまり身近な問題でないので良くわかりません。〔60歳代女性〕
○ なぜ、部落の方だけ税金や家賃などetc優遇されるのか。そんな事をするから差別的な言動が減らないと思う。現に、目上の人からそのような事をよく聞かされた。〔40歳代男性〕
○ すぐ近隣に同和地区があるらしいが、具体的にわからない。今だに問題や差別がつづいているのか感じたことはないので、普通に同じように生活しているものと思っていた。【略】今だに差別を言いつづけている高齢者はたしかに多い。〔40歳代女性〕
○ 年配の方も、こそこそと子供に教えている。まるで自分の知識をひけらかす様に。教え続け、継承し続けることが不自然だ。〔30歳代男性〕
○ ‐市は同和に手厚すぎると言う話を聞いた事があります。〔30歳代男性〕
○ 私は同和問題について結婚をしてから知りました。新居を探す際、あの辺りは部落だからとか、あまり良くない所だから車で通らないようになど。実家(府外)の近くにはそういう所がない(知らない)からか、実父母とはそのような話をした事がありません。〔20歳代女性〕

 9ケースの中には、情報の出所についての言及がない「今では過剰に待遇が良いと聞く」、「【住宅の家賃の】金額を聞いてびっくり」、「【助成金が暴力団の】軍資金の一部になっている話をよく聞くから」といったコメントも含まれる。
 マスコミやインターネットを通して情報を得たという記述も、2ケースあった。特に若い世代については、いわゆる「ネット言説」として同和地区に対する否定的なメッセージが流されているようである。2つ目のコメントは、そうした「ネット言説」に批判的な立場からのものだが、ネット上でどのような情報がやり取りされているのかについて、改めて把握することが必要だろう。

○【小学校で狭山事件について学び】「差別は決して許してはいけない」と強く心に思いました。ただ、私自身が大人になって色々な事を見聞きし、報道などで弱者と呼ばれている人たちの中には疑問に思うこともあり、真実がよくわからなくなる時があります。〔40歳代女性〕
○ 同和問題にしても、外国人問題にしても、何々人だからだめとか、何々地区の人だからだめではなく、その人個人がどうなのかで判断するべき。最近インターネットで見かけるとそう感じます。〔30歳代男性〕

 ■直接の体験・見聞

 ここまで見てきたのは伝聞情報であったが、直接に自身が経験あるいは見聞きした事柄についても記述されている。
 まず、威圧的な態度、同和地区を理由とした理不尽な要求について直接目にしたとする記述があった4例を示す。

○ 身近に起きた同和問題(30歳代)で同和地区団体の相当の身勝手さに、以後、同和問題、同和地区、同和地区団体に余り良い印象は持っていない。〔70歳以上男性〕
○ 通りがかりでのいざこざで、同和地区の方が「私はその地区の者だ」と代紋であるかの様に使っていたのを目にしたことがあります。それもおとなしそうな、平凡な会社員風の人であったので、ほとんどの同和地区の人は切り札の武器としている様に思いました。地区外の人の意識改善も必要ですが、同時に地区内の人の意識改善もかなり必要なのでは。そのとりくみが最優先なのでは。〔40歳代男性〕
○ 同和の人達が文句ばかりつけているだけだと思う。この前役所から出た時に車に箱乗りしてた同和の若い人達を見てやくざかなと思った。〔30歳代男性〕
○ 税金も払わず、何かあれば市役所にたくさんの人でおしかけたり、大きな声でどなりつけたりしてる事を見たことがあります。〔30歳代男性〕

 また、自身が同和地区の中や近辺に住んで人々の暮らし振りを目にする、地区の人からの話を聞いて「逆差別」意識を強めた、ルールを守らない人がいる、住民の被害者意識の強さに驚いたという経験が5ケース記されている。

○ 同和対策は不公平だと思う。優遇されていると思う(同和地区に住んでいる人の話を聞いて)。〔50歳代女性〕
○ 同和問題を知ってから大変関心がありましたが、実際同和地区といわれる地域に住み、逆差別ではないかと感じることが多々ありました。それ以来、同和問題に関心はありません。〔40歳代女性〕
○ 現在、同和地区の近所に住んでいます。同和の人も普通に暮らしているし、子供の学校にも同和の人はたくさんいますが、友達にも同和の人はいるようです。ただ一つ気になるのは、同和の人の逆差別です。なぜ、うちの市の公務員には同和の人がとても多いのでしょうか。水道代や税金を払っていないというのは本当ですか。同和の人は金持ちばかりですよ。そろそろ国や大阪府は同和事業や生活保護に対してきびしく対応していくべきだと思います。〔30歳代女性〕
○ 高校生の時に怖い思いをしたので、今でも同和地区の人は嫌いです。主人が転勤が多いので、色んな県に住みました。ある県で仲良しになったママ友が同和地区の人でした。ショックでしたが、みんながみんな怖いのではないのだと感じましたが、少しズレている所があったのは事実です(禁止されているのに運動会でビール飲んだり等)。だからといって友達をやめたいとは思いません。離れてもメールや年賀状のやりとりは続いています。〔30歳代女性〕

 単なる噂レベルだけではなく、実際の体験、見聞を元にした印象が抱かれ、さらにそれが近しい人々に伝えられているという一面があるのだろう。同和地区住民であることを理由とした理不尽な要求などの行為があったとすれば、同和地区への差別を助長するものとして厳しく批判されるべきだろう。ただし、例えば同和地区への差別的な言動により深く傷つけられた人がいるといった場合には、抗議の言葉が激しいものになることもあるだろう。それぞれの出来事や情報について、その背景や文脈についての知識が得られていれば、印象は大きく変わったものとなった可能性もあり、一面的な情報が独り歩きし広められているという場合も考えられる。
 さらに、2−3で例をあげた地区住民の「ルール違反」についても、地区外の住民にも見られる行為や生活実態がことさらに同和地区と結び付けられて語られてしまう傾向も指摘できるだろう。
 また、過去になされていた同和対策に関する知見を元に、今もそれが引き続き行われているという認識となっていることも考えられ、この点は、同和問題の解決に向けた施策の現状を正確に伝える啓発の課題ということができる。


前へ 次へ》 目次へ

このページの作成所属
府民文化部 人権局人権企画課 教育・啓発グループ

ここまで本文です。


ホーム > 様々な人権問題に関する施策 > 人権問題に関する府民意識調査報告書(分析編) 2.2-5「逆差別」意識を維持・強化する情報経路