これからの地域福祉のあり方とその推進方策について/ II これからの地域福祉の理念

更新日:2023年4月12日

【目次】
1. 今なぜ地域福祉なのか
2. 地域福祉に関するこれまでの大阪府の取組み
3. これからの地域福祉の理念
4. これからの地域福祉の方向
5. 地域福祉の計画的な推進

II これからの地域福祉のあり方

  1. 今なぜ地域福祉なのか
    (1)地方分権の推進
     明治時代以来続けられてきたわが国の中央集権的な行政制度を改め、今後は国と地方公共団体の役割分担を明確にし、地方公共団体の自主性と自立性を高め、個性豊かで活力に満ちた地域社会をつくっていくためにいわゆる「地方分権一括法」が平成12(2000)年4月に施行されました。
     これは、中央省庁主導の縦割りの画一的な行政制度を改め、少子高齢社会への対応など、地域住民の様々なニーズに素早く的確に対応できるように、地域住民主導の個性的で総合的な行政制度に180度転換するものです。
     特に、地域住民の生活と密接に関わる福祉分野は、原則として、地域住民に最も身近な市町村が中心となり、住民自身の参加のもとにつくり上げていくことになります。
     このように、これからの地域社会はまさしく地域住民主導でつくり上げていくものであるということが、法律や制度の上でも確立されつつあります。
     これからは、地域に関わる様々な団体や人が集まって、地域の課題に取り組み、住民自治を高めていくことが求められています。
     まず、その第一歩となるのが地域住民の主体的な参加による地域福祉への取組みなのです。
    (2)社会福祉制度の改革
     このような地方分権の流れの中で、社会福祉制度においても、今後増大・多様化が見込まれる福祉ニーズに対応するため、社会福祉の共通の基盤となる制度について利用者の立場に立った大規模な改革が進められています。
     この改革は「社会福祉基礎構造改革」と呼ばれています。その内容は、これまで行政が提供するサービス内容を決めていた「措置制度」を改め、利用者がサービス内容とサービス提供事業者を選択する「利用制度」へと転換するものです。そして、利用者の立場に立った福祉システムを確立するために、利用者を保護する仕組みの構築やサービスの質の向上、社会福祉事業の充実・活性化、そして地域での生活を総合的に支援する地域福祉を推進するものです。
     こうした改革を推進するため、平成12(2000)年に関係法令が改正され、その中で社会福祉事業法は「社会福祉法」と改められて「地域福祉の推進」が明記されるとともに、その計画的な推進を図る「地域福祉計画」の策定が盛り込まれました。利用者の立場に立った制度改革にあって、住民主体の原則で進める地域福祉にはこれからの社会福祉を根底で支える大きな役割が期待されています。
    (3)課題を抱える人々の多様化と見えにくさ
     長引く景気低迷の影響や、家庭・地域の果たす役割意識低下などにより、今日、地域で様々な課題を抱えている人々が増えてきています。例えば、厳しい経済状況の下で、野宿生活を余儀なくされている人、リストラや倒産により失業した人、その結果消費者金融などから多額の借金をして返済に困っている人、あるいは現実の世界から逃避しようとしアルコール依存症となった人もいるでしょう。
     また、家族から虐待を受けている子どもや高齢者もいます。そこには子育てや介護疲れから精神的・肉体的なストレスを抱えて虐待するにいたるといった問題もあります。
     さらには、引き続き重要な課題である同和問題があり、厳しい社会経済環境の中で福祉的課題が集中的に現われてきている状況にあります。また外国人に対する排除や摩擦の問題などがあります。
     そして、さらに問題の解決を困難にしているのは、これらの課題を重複して抱えている人がいることや、これらの人が都市化の進展と地域住民の無視・無関心があいまって、社会や地域から孤立し、見えに くい状況となっているということです。
     このように日常生活において様々な課題を抱えている人々が増加する中で、行政だけで対応するには限界があり、地域に住むみなさん一人ひとりの理解と行動が必要になっています。
    (4)総合的なサービスの必要性
     これまでの福祉課題への対応は、原則として高齢者、障害者、児童といった対象者別に分けて取り組まれてきました。
     また、課題の中身が複雑化する中で、それに対する様々な制度も専門分化してきています。
     このことは、個別の課題への対応としては有効ですが、反面、制度の狭間ができており、一人の人が有する課題が複雑多様化している今日では、その狭間にあって十分な対応が困難な状況が生じています。
     このため、これらの課題に対応するためには、専門分化したサービスを総合化して提供する、あるいは、サービス提供の条件を緩和して、現行の対象者以外にも適用するといったことが必要となっています。
     その場合、地域住民、利用者にとって本当に必要な福祉サービスとは何かという視点からサービスのあり方そのものを考えていく必要があります。地域住民自身がサービスを考え、それを行政や民間のサービスに活かせるような仕組みを考えていくことも必要となるでしょう。
     また、抱えた課題に対処するだけでなく、例えば、健康づくりといったように、課題を抱えないようにするための予防的な取組みも重要です。
     さらに、地域において自立生活を送っていくためには、福祉の問題だけではなく、就労の問題や住宅の問題、教育の問題であったりしますから、その人の生活や人生に関わる総合的な取組みが必要となります。
     つまり、単に福祉という狭い領域にとどまることなく、課題を抱えた人が地域においてよりよい暮らしを送れるための「地域づくり」、「まちづくり」の視点で地域における様々な取組みを総合的に実施していくことが今求められているのです。
     行政も、これまでの枠組みにとらわれることなく、柔軟な発想による対応、取組みを考えていく必要があります。
     
     
  2. 地域福祉に関するこれまでの大阪府の取組み
     大阪は、現在の民生委員制度のもととなった方面委員制度の創設や、早くから社会のためになる事業・活動に熱心な人が社会福祉施設を建設し、社会福祉活動を活発に行ってきました。また、福祉をはじめとした総合的な生活相談や地域住民に密着した活動を展開する隣保館事業、さらに、近年は府の拠出金と府民の寄附金により「福祉基金」を創設し、府民が行うボランティア活動に助成を行うなど、「民間」と「行政」が協働して福祉を築いてきた全国にも誇る「公民協働型福祉」の伝統があります。
     その伝統を活かして、昭和58(1983)年には全国に先駆けて大阪府地域福祉推進計画(ファインプラン※)を策定し、「参加する福祉(参加と連帯による福祉社会づくり)」、「総合的な福祉(生活基盤整備のシステム化)」、「在宅福祉(ノーマライゼーション※の実現)」の3つを柱に、身近な地域で支え合い、ともに生きる福祉を進めてきました。その後、このファインプランの理念は、「ふれあいおおさか高齢者計画」、「ふれあいおおさか障害者計画」、「子ども総合ビジョン」に受け継がれ、これらの計画に基づき、現在まで地域福祉の推進に取り組んできています。
    ※ファインプラン:
     FINE−PLAN。“FINE”は、次の言葉の頭文字を取ったものである。
     F・・・Full Participation(完全参加) みんなが自ら進んで福祉活動に加わり互いに支え合う。
     I・・・Integration(統合化) いろんな施策をうまくかみ合わせ福祉のレベルを高める。
     N・・・Normalization(ノーマライゼーション) 高齢者も障害者も全ての人々が地域の中で手をたずさえてともに暮らす。
     E・・・Equality(平等) 全ての人々にわけへだてなく必要なサービスを保障する。
    ※ノーマライゼーション:
     「ある社会が、その一部の構成員を締め出して構成されるとしたら、その社会は弱くてもろい社会である」という考え方に代表されるように、高齢者も障害者も全ての人々が地域の中で手をたずさえてともに暮らす考え方。
     特に、先駆的な取組みとしては、民間の社会福祉施設を拠点として、地域の在宅サービスの総合相談機能を発揮するとともに、高齢者と障害者のサービスの総合化を目指した「在宅サービス供給ステーション事業」、住み慣れた地域で高齢者の自立生活を支えるため、住民参加によるきめ細かなサービスを提供する団体を支援する「街かどデイハウス支援事業」、知的障害者、痴呆性高齢者、精神障害者など意思能力にハンディキャップを有する人々の権利と財産を守る「大阪後見支援センター」の設置があります。また、校区福祉委員会を核として、地域住民が寝たきりや一人暮らし高齢者に対して見守り声かけ訪問などを行う「小地域ネットワーク活動」などがあげられます。
     こうした大阪の福祉の伝統と先駆的な取組みを今に活かしながら、当事者の自立意欲やその家族らによる「自助」、地域住民やボランティアなどによる社会的な助け合いの「共助」、行政や制度的なサービスの「公助」、さらには民間企業・事業所によるサービスなどが新しい形で重層的に組み合わされた大阪らしい地域福祉を進めていく必要があります。
     
     
  3. これからの地域福祉の理念
     これからの地域福祉は、「地域と関わる全ての人が地域社会の構成員として日常生活を営み、あらゆる活動に参加することができるよう、社会の新しいつながりを構築し、よりよい暮らしづくりを実践する地域社会を創造する」ことを目指し、次のような視点のもとで進めていく必要があると考えます。
    • 人権の尊重
       地域福祉を推進していく上で最も大切なのは「一人ひとりの人権を最大限に尊重する」という視点です。先にも述べましたが、地域で暮らしている人は誰でも社会を構成する一員として平等であり、お互いの人権を尊重し合わねばなりません。地域で様々な課題を有し、困難な状況に陥っている人たちの存在をしっかりと認識し、同じ社会の構成員として包み支え合っていくこと(ソーシャル・インクルージョン ※)の思想と実践が重要です。
      頭の中では分かっていても、実際に様々な問題にぶつかった時に具体的な行動を取ることができるでしょうか。例えば、自分たちの住んでいる地域のそばで社会福祉施設の建設計画が持ち上がったとき、利用する人のことをよく理解しないまま、偏見や間違ったイメージをもって、あるいは他人ごとといった気持ちで反対していないか考えてみることが大切です。
      ※ソーシャル・インクルージョン:
       社会的な援護を要する人々に対する社会福祉のあり方に関する検討会(厚生省社会・援護局)報告書(平成12年12月8日)で用いられた言葉。「イギリスやフランスなどのヨーロッパ諸国で近年の社会福祉の再編に当たって、その基調とされている概念。貧困者や失業者、ホームレス等を社会から排除された人々として捉え、その市民権を回復し、再び社会に参入することを目標としており、その実現に向けて公的扶助や職業訓練、就労機会の提供等が総合的に実施されている。」(同報告書より)
    • 地域福祉の主人公
       地域福祉は、住民の「枠」を広げ、よりよく生きたいと考えている全ての人がつくり上げるものと考えるべきです。つまり、地域に「定住」する人々に限定するのではなく、地域と関わりを持つ全ての人や団体、企業の取組みであり、例えば、野宿生活をしている人、施設に入所している人、病院に入院している人、他の地域から働きに来たり、学びに来たりしている人、旅行者なども含むものと考えるべきです。よりよく生きたいと考えているのは自分だけではないはずです。誰であっても困ったときに助け支え合うことができる、そんな地域であれば、自分もよりよく生きることができるのではないでしょうか。
    • ノーマライゼーション社会の実現
       誰もが「よりよく生きていく」ためには、障害のある人もない人も、高齢者も、女性も、子どもも、外国人も、地域でごくあたりまえの生活をしていけるような社会をみんなで力を合わせてつくっていくことが必要です。
       例えば、基本的な社会参加である選挙投票で、障害があって投票所に行きにくい人がいれば、施設や設備を改善するとともに、近所の人たちで協力する、そうすればその人も投票に行けるのです。誰もが地域で自分の意思であたりまえの日常生活が送れる社会、物理的・心理的・制度的な障壁や情報面の障壁等の無い「バリアフリー社会」こそが、みんなが望む社会ではないでしょうか。地域福祉はこのような社会の実現を目指すものでなければなりません。
    • 新しい「つながり」の構築
       都市化の進展とともに地域コミュニティが弱体化し、他人のすることに意見を言わない、あるいは無関心となった結果、先に述べたような様々な福祉課題を抱える人の姿が見えにくくなってきています。個人のプライバシーは最大限尊重しなければなりませんが、もう一度他の人の行動や生活にも関心を持とうではありませんか。
       また、大阪は様々な人が住み、行き交うまちです。昔ながらの地域コミュニティが残っている地域がある一方で、新興住宅地で自治会がない地域もあります。また、歴史的な経緯から差別を受けてきた地域や在日外国人が多く居住する地域、中国からの帰国者が多く居住する地域、さらには、野宿生活をしている人が多く集まっている地域などもあります。
       これからの地域福祉を推進していくうえでは、このように、地域には多様な人が暮らしていることを踏まえた上で、一人ひとりの住民が、様々な地域とそこに暮らす人たちの文化、生活習慣などの違い(アイデンティティ:社会的存在、文化的存在)を認め合いながら、一緒になって地域づくり、まちづくりに取り組んでいくことが必要です。
       つまり、そうした住民のみなさんの連帯がないと地域福祉は成り立たないということであり、それを阻害するような差別や排除といったことがあっては、本当に豊かな地域づくりはできないということです。そのためには、例えばNPOやボランティア活動に参加して、色々な人たちと出会ったり、自治会同士、あるいは校区福祉委員会や自治会、PTAなどとNPOやボランティアが積極的に交流し相互理解を深めたりしながら一緒に地域のことを考え、活動を展開していくといったことを通じて、新しい人と人とのつながりを築いていくことが重要ではないでしょうか。また、地域福祉を通じて、新しいつながりを築いていくことが、差別や排除のない地域づくりにもつながるのではないでしょうか。地域をつくっていくのは住民のみなさん自身なのですから。
    • 新しい「公(パブリック)」の創造
       今日、公共の福祉、つまり社会の構成員全体の共通利益を目的とする活動を行っているのは国や自治体などの行政だけではありません。環境や国際交流等の分野でも民間企業やNPO、NGO※等が積極的な活動を展開しています。
       特に、福祉分野では、介護保険制度の導入を契機として、民間企業など多様な主体が参入してくるようになりました。
       また、企業も、地域の一員としてボランティア活動等を行い、積極的に地域に貢献する活動を始めるケースも現われてきています。
       一方、行政としても、今後ますます複雑・多様化が予想される地域住民一人ひとりの福祉課題・生活課題に対して、制度・施策の有無に関わらず、積極的かつ柔軟に応えていくという姿勢が求められます。
       このように、地域社会において、行政をはじめ社会福祉協議会、ボランティア、NPO、企業など様々な主体が行う活動が連携し、つながりを築くことによって、住民全体に共通する利益を目的として活動する主体、すなわち新しい「公」をつくっていく必要があります。
      ※NGO:
       英語のNon Governmental Organization の略で、非政府組織。政府間の協定によらずに創立された、民間の国際協力機構。
    • 福祉文化の醸成
       地域福祉を進めていく上で重要なのは、地域住民の積極的な参加を促し、そのことを通じて福祉についての関心と理解を深めていくことです。
       そこでは福祉学習・福祉教育の果たす役割が非常に大きいものがあります。
       福祉学習・福祉教育には、子どもに対する学校を中心とする福祉学習・福祉教育、地域住民に対する福祉学習・福祉教育、社会福祉職員養成教育としての専門福祉教育、職場における福祉学習・福祉教育など、色々なものが考えられます。自分の住む地域に対する関心を持ち、そこに起きている様々な課題を自分のこととして捉え、解決に向けた取組みを進めていく上で必要なノウハウ、人権感覚等が学べるようなシステムを考えていく必要があります。
       これらを通じて、社会のあらゆる分野で福祉の視点が織り込まれ、地域ごとに様々な取組みにより特色のあるまちづくりが進められることが福祉文化の醸成につながっていくのです。
       
       
  4. これからの地域福祉の方向
    (1)住民の主体形成
    • 当事者の主体形成
       これからの地域福祉は、福祉サービスを必要とする人もそうでない人も、同じ地域住民として協力し合いながら、多様な主体を形成し進めていくことが必要です。
       これまでも一人暮らし高齢者や障害者、差別を受けてきた人たちなど、同じ課題や悩みを抱える人同士が当事者組織をつくり、励まし合ったり、交流したりしながら、課題解決に向け努力を重ねてきました。
       これらの当事者組織の中には、自ら福祉サービスなどを企画したり、提供したりするなど、地域福祉の担い手として活動しているところもあります。今後、こうした取組みがさらに広がっていくことが必要です。
       また、地域における当事者組織同士あるいは地域の他の住民や住民団体との交流・連携や組織・団体を超えた新たなつながりを築き、誰もが孤立せず安心して暮らせる社会を構築していくことが求められます。
    • 地域福祉の担い手の開拓、育成
       地域は、人材の宝庫です。高齢社会が進む中で、退職後の生きがいとして自分の長年培った経験・専門的知識等を地域福祉活動等に活かしていきたいと考える高齢者が増えるなどの動きが出てきています。
       このような高齢者、あるいは、一般には福祉サービスを利用する側として考えられる人の中でも、「地域に貢献したい」といった地域福祉活動への参画の意欲を実際の活動につなげていけるような情報提供や相談などの支援をしていくことが必要です。さらに、この地域福祉活動を他の団体や専門機関とつないでいくことが重要であり、そのためには専門的知識を有するコミュニティ・ソーシャルワーカー※を確保していくことも必要です。
       また、住民主体の地域福祉活動は、現在、個人の働きやがんばりに頼っている側面が少なからずあるため、その人が引っ越す、あるいは引退してしまうと活動の継続が困難となる場合が少なくありません。
       したがって、地域福祉活動を持続的なものとしていくには、活動の中心となるリーダーを育成する研修といった仕組みづくりが必要です。
       また、ボランティアについて関心が高まってきたものの、まだ何か堅苦しいとか、特別なことといったイメージを持つ人も少なくありません。ふと思い立ったとき、気軽に訪れ相談や情報の提供を受けられるような窓口の充実とともに、社会福祉協議会のボランティアセンターや種々のボランティア活動を支援する民間団体の相談・情報提供機能の充実も必要です。
       教育の現場においても、地域と学校の連携や総合学習の時間の導入などで児童・生徒のボランティア体験等が注目されています。学校の福祉的な活用も今後ますます重要となるものであることから、社会福祉協議会と教育委員会、地域のNPO等がボランティア活動など地域福祉活動において連携を図っていくことが必要です。
       さらに、幅広い層から多くの人たちが主体的に地域福祉を進めていくといった観点からは、活動団体も地域住民等の担い手側のニーズに応じて、伝統的ボランティアに限らず非営利有償・無償の互助活動やパートタイム就労といった柔軟な形態をとっていくことも必要です。
      ※コミュニティ・ソーシャルワーカー:
       地域において、支援を必要とする人々の生活圏や人間関係など環境面を重視した援助を行うとともに、地域を基盤とする活動を発見して支援を必要とする人に結びつけることや、新たなサービスの開発や、公的制度との関係の調整などを行う専門的知識を有する者。
       また、現在の地域福祉活動は女性が中心になっていることが多いようですが、これは「働いて収入を得るのは男性」、「家事や育児・介護を担うのは女性」といった性別による固定的な役割分担意識が依然として根強く残っていることも一因ではないかと思われます。このような性別による固定的な役割分担意識を排し、性別にとらわれず誰もが自らの意思で自由に生き方を選択し、その個性と持てる能力を十分に発揮できるような社会(男女共同参画社会)の実現が不可欠であり、男性も地域福祉活動への関心を高め参加しやすくなるような環境づくりが必要です。
    • 多様な主体の交流・連携の場の確保
       地域福祉活動は、最初は自分たちが取り組みやすい分野で、自分たちの好きな仲間が集まってするもので構いません。でも、その活動がある程度軌道に乗ってきたら、新しい分野にも目を向けてはどうでしょうか。あるいは、他の分野で活動を行っている団体と連携・協力したり、自分たちの活動に賛同する仲間を増やしたりしてはどうでしょうか。
       地域福祉活動に関わる様々な主体が連携、協力して、地域福祉活動を進めていくには、お互いの持つ情報を交換するなどの「交流の場」を持つことが必要です。
       また、この「交流の場」には、サービスの利用者や、社会福祉法人、NPO、地域住民等の担い手などの地域福祉に直接関わる者だけでなく、誰もが気軽に立ち寄ることができ、また、そこにその地域の福祉サービスの状況などを知ることができる仕組みをつくっていくことが、より幅広い地域住民の地域福祉活動への参加を促すという観点からも欠かすことはできません。
       気軽に立ち寄れるということから言えば、その「場」は地域の実情に応じて小学校区ないしは中学校区単位に一つずつあることが理想であるとともに、地域住民が様々な情報を入手したり、相談したりすることができる、地域における福祉センター機能を持たすことで、より一層効果的なものとなるでしょう。
    (2)福祉サービスの総合的提供と利用支援の仕組みづくり
    • 重層的・総合的な相談体制の整備
       地域住民が抱える課題、問題を早期に発見し、深刻な事態になる前に適切に対応するためには、相談が果たす役割は非常に大きいものがあり、また相談を受ける側にとっても、相談を通じて援助技術の向上が図られるなど、福祉サービスは相談から全てが始まるといっても過言ではありません。
       そこで、まず、誰もが何か課題に直面したときに、課題解決に向けた相談ができるような体制を整えていくことが求められています。 今日、行政においても、様々な形で相談事業が行われていますが、これに加えて、社会福祉協議会、社会福祉法人やNPOをはじめとした民間機関などで相談事業が行われています。
       これらの相談機関は、対象者や課題ごとに設定されていますが、情報がない、どこに相談したらいいのか分からないといった人や、逆に多くあり過ぎてどこが一番自分にふさわしい相談機関なのか分からないといった人もいるのではないでしょうか。
       地域において、とりあえずそこへ行けば、相談に乗ってくれる、あるいは、最適な他の相談機関を紹介してもらえるといった様々な情報を入手できるような窓口を設けることが求められます。
       また、単に待つだけではなく、地域において孤立するなど、課題を抱えていてもなかなか相談をしにくい状況にある人のところへ相談を受ける側が出向いて相談や見守り声かけなどの活動等を行うことも必要です。
       言うまでもなく、相談を受ける側は、相談する側のプライバシーに関する事柄を知る立場にあることから、個人のプライバシー保護の姿勢が求められます。
       また、相談を受ける側と相談する側とは、本来、対等の関係にあるべきです。相談を受ける側には高い人権意識が求められ、住民は相談をすることは権利であって、何ら恥ずべきことではないという意識を持てるような取組みを行っていくことが必要です。
       このような取組みを通じて、地域において課題を抱える人を発見できる住民参加型相談の仕組みを構築していく必要があります。
       また、相談内容によっては、地域の相談窓口では対応できないものも出てくることから、地域における相談と、より広域における高度専門的相談が日常的に連絡のとりあえる関係を構築し、「地域」と「広域」での相談体制を重層化していくことも必要です。
       さらに、地域住民や民間団体は、立ち入り調査権限や緊急時の「措置権」といった法に基づく権限を有していないため、民間と専門機関が連携・分担して支援できる仕組みをつくっていかなければなりません。そのためには、専門機関間の連携はもちろんのこと、地域住民と専門家が情報を共有し、民間と行政が相互に補完することができるシステムをつくる必要があります。
       また、地域において問題が現われるときには、すでに非常に深刻化しているケースが少なくないことから、それまでに緊急に対応できるシステムをあわせて構築していく必要があります。さらに、総合的な相談を行いつつ、支援の状況について、相談の目的が達成されたかどうか適宜フォローアップするような継続的支援のシステムを構築する必要があります。
       なお、これらのシステムを構築していくにあたっては、行政が果たす役割としての法に基づく監督・規制機能を明確にし、適切に行使していくことが前提となることは言うまでもありません。
    • 効果的な双方向の情報発信・提供
       どんなに有効な活動や制度をつくっていても、それを必要とする人たちにその活動や制度の情報が届かなければ利用もされず、まさに「絵に描いた餅」になります。
       実際、本当に情報を必要とする人、つまり福祉サービスを必要とする人をしっかりと把握できていなかったり、その人に必要な情報が届いていなかったりするのが実情ではないでしょうか。
       昨今は、従来の広報誌等の紙媒体に加えて、IT技術の進歩によるインターネットや電子メール等の電子媒体による情報提供も盛んに行われています。
       これらの、電子媒体による情報提供は、わざわざ出かけなくとも必要な情報が入手できるという利点はありますが、一方で、まだまだ利用する手段を持たなかったり、利用方法を知らないために、情報を入手できない人や、使えない人も出てきたりするなど、情報技術を使いこなせる人と使いこなせない人との間で格差が生じるという問題があることに留意する必要があります。
       既存の情報提供手段、新しい情報提供の手段等を効果的に組み合わせながら、地域住民の情報へのアクセスを確保・充実していくとともに、地域住民の声や情報を拾い上げていくことが必要です。
       例えば、見守りや会食サービス等の地域住民活動を通じた口コミ型の情報の提供や利用者の声や情報の集約、同じ悩みを持つ当事者同士が仲間づくりをできるような情報の提供、あるいは、スーパーやコンビニといった地域住民が立ち寄りやすい生活関連施設での日常型情報提供の仕組みも検討していく必要があります。
       また、情報が必要とする人に届いているか、正確に理解できるものとなっているかどうか確認するということも重要です。情報提供方法などについて、情報を受け取る側の意見を聞いて、実施するなどの取組みも必要でしょう。
    • 選択できる十分なサービス基盤の整備
       多くの福祉サービスは、利用者が自らの意思で選択して利用する制度に変わりつつあります。しかし、これが制度上の話だけでなく、現実問題として選択できるには、残念ながら今の施設数やサービス水準では不十分です。保育ニーズに対応しきれていない現状、特別養護老人ホームに入所したくても入所できない現状があります。
       利用者が好きな施設を選んで利用したり入所したりできるよう、また在宅福祉の分野においても必要なときに必要なだけのサービスを受けることができるよう、府としては、新しい高齢者計画、障害者計画、子ども総合プランに基づき、施設整備等を促進し、十分なサービス量を確保することが必要です。
       また、今後は、少人数で、民間の空き家などを借りてグループホーム※をつくるなど実際に生活をすることができる居住機能、デイサービス等のサービス提供機能、地域住民との交流機能など、「人びとの癒しの場」「居場所」になりうるような小規模で多機能な施設を身近な街なかに整備していくことが必要です。
       さらに、ニーズに応じたサービスを利用できるよう、介護保険や障害者の支援費制度などの公的サービスだけでなく、小学校区単位で実施されている校区福祉委員会での高齢者の見守りサービス・食事サービス、あるいは、ボランティアやNPOが実施している様々な福祉サービスなどを利用することも必要です。
       介護保険のケアマネジャー※や障害者のケアマネジメント従事者※は、福祉サービスを必要とする人が、住み慣れた地域で自立した生活を送ることができるよう、諸団体と連携・協力し、地域で提供されている様々な福祉サービスについての情報も集め、公的サービスとうまく組み合わせたケアプランを作成し、地域で利用者の自立を支援していくシステムを提案していくことが求められています。
       
      ※グループホーム:
       何らかの介護、援助を必要とする人が、専門職員の援助のもと、家庭的な雰囲気の中で少人数により居住する形態。
      ※ケアマネジャー:
       介護支援専門員。介護の必要な高齢者からの相談に応じて、その人に合った介護プランを策定し、自立を助け生活を向上させることを目的として、市町村や居宅介護サービス事業者、介護保険施設等と連携を図りながら、適切なサービスが利用できるよう努めるなどの職務を行う者。
      ※障害者ケアマネジメント従事者:
       障害者の地域における生活を支援するために、利用者の意向を踏まえて、福祉・保健・医療のほか、教育・就労などの幅広いニーズ(要望)と、様々な地域の社会資源の間に立って、複数のサービスを適切に結びつけ調整を図るとともに総合的かつ継続的なサービスの供給を確保し、さらに社会資源の改善及び開発を推進する援助業務に携わる者。
       
    • 地域における体系的な権利の擁護
       これからの福祉サービスは、利用者自らが必要なサービスを選択していくという主体性の尊重と、自立への支援が基本となります。
       このため、福祉サービスを利用者が主体的に利用できるための支援や、一人の人間としてその権利が保障される「利用者本位の福祉システム」の確立が求められています。
       こうしたことから、まず、自己の判断のみでは意思決定に支障のある人に必要な情報の提供と福祉サービスの利用援助を図る取組みや利用者と事業者の間の調整を図る「苦情解決」の充実、さらには利用者の選択と事業者の自主努力を促す「サービス評価」の導入が急がれます。
       あわせて、サービス利用者及びサービスを提供する側双方に対して、利用者と提供者は対等の関係にあること、サービスに対する苦情を言うことは利用者の当然の権利であること、提供者側は、利用者の意見を真摯に受け止めていく必要があることについて認識が深められるような取組みが求められています。
       
       現在、知的障害者、痴呆性高齢者、精神障害者など自己の判断のみでは意思決定に支障のある人に対し、福祉サービスの利用援助や日常的な金銭管理などを行う「地域福祉権利擁護事業※」が、府内の全ての市町村社会福祉協議会等で実施されています。
       在宅の痴呆性高齢者など約400名がこの制度を利用していますが、まだまだこの制度を必要としている人が府内にはいるはずですので、その人たちに向けての制度のさらなるPRが必要です。
       また、この制度の対象となっていない身体障害者、高齢者の中にも、日常生活に不安を抱いており、この制度を利用できれば安心だと思っている人もいるため、対象者の拡大について検討すべきです。
       ただ、地域福祉権利擁護事業は、契約を結べる人が対象であり、契約することができないほどに意思能力が低下している人については、家庭裁判所が選任する「成年後見制度」を活用して、その人の権利を擁護し、福祉サービスの利用等を支援することが必要となります。  
      ※地域福祉権利擁護事業:
       平成11年10月から厚生省が制度化し、全国の都道府県社会福祉協議会で実施されている事業。社会福祉法上の名称は「福祉サービス利用援助事業」であり、「精神上の理由により日常生活を営むのに支障がある者に対して、無料又は低額な料金で福祉サービスの利用に関する相談・ 助言、必要な手続や利用料の支払いに関する便宜供与など、福祉サービスの適切な利用のための一連の援助を一体的に行う事業」と規定されている。
       本人に家庭裁判所への成年後見人の申立を行う身寄りがない場合には、市町村長が代わって申立を行うことも可能となりました。しかしながら、その人の権利を適切に擁護する成年後見人が見つからないこ とが少なくないことから、このような事態を解決する方策についても積極的に検討すべきです。
       また、自己の判断のみでは意思決定に支障があるという意味では、子どもも同様です。いじめ、体罰、虐待など、家庭、学校、施設、地域における子どもに対する人権侵害が厳しい中で、子どもの権利擁護システムの確立も必要であると考えます。
       
       「苦情解決」については、利用者からの苦情に対し、公正・中立な立場から解決を図る「第三者委員」の役割が重要です。第三者委員を置くことは義務付けられてはいませんが、府内では約6割の施設や事業所が第三者委員を置いています。今後は、大阪府社会福祉協議会が設置・運営している「第三者委員人材バンク」なども積極的に活用し、全ての施設・事業所で第三者委員を置くよう、社会福祉事業の経営者に働きかけていく必要があります。
       また、第三者委員の活動についても、苦情のあった時だけ話を聞くのではなく、日頃から施設や、在宅サービスを受けている人の家庭を訪問して利用者と接し、その中で施設や事業所に対する利用者の意見を聞くなど、一層利用者の権利擁護のために活動してもらうことが必要です。
       苦情解決の仕組みは、まず事業者と利用者の間で解決を目指し、次にそこで解決できなかった場合は、大阪府社会福祉協議会に置かれる「運営適正化委員会」に苦情を申し出ることができるという二段階方式となっています。
       一方、介護保険制度では、保険者である市町村や国民健康保険団体連合会にも苦情相談窓口が置かれており、福祉サービス全般についても、運営適正化委員会に持ち込む前に、市町村の窓口において解決が図られる方が利用者にとっては利便性が高いと言えます。実際、府内の市町村では独自に苦情相談窓口を開設しているところもあります。
       
       「サービス評価」については、平成14(2002)年度から第三者評価事業が府内においても始まる予定です。第三者評価は、社会福祉施設の人員、設備等の最低基準等をチェックする行政による監査とは異なり、公正・中立な第三者機関が、事業者の提供するサービスの質の向上を目的として、より良いサービス水準に誘導するとともに、その評価結果を利用者がサービス選択の際の判断材料としても活用できるよう専門的・客観的な立場から評価を行う事業です。
       利用者と事業者の理解を得た上で、第三者評価事業が府内で円滑に実施されるためには、評価機関が数多く開設されることや、評価を行う調査者の技術向上、評価結果の府民への情報提供などが不可欠です。
       第三者評価事業は、ホテルや飲食店、金融・証券会社などの例を見てもわかるように、行政が直接行うものではなく、民間の会社や機関が行うものですが、福祉分野においてはこれから始まる事業ですので、事業が軌道に乗るまでの間は、府としても積極的な役割を果たす必要があると考えます。
       
       利用者本位の福祉システムは、まだ構築途上にありますが、平成13(2001)年1月の大阪府社会福祉審議会意見具申(「利用者本位の福祉システム」の構築に向けて)で提言された「利用者の権利宣言」を更に高め、堂々と自らの権利を主張でき、かつ、その権利が保障される、実効性あるものへと発展させていく必要があります。
       そのためには、行政としても、施策を確立しその責任を果たしていくことが求められます。その際には、例えば、福祉や法律などの専門家と連携して利用者の権利主張・意思決定支援を図っていくことが重要です。
    • 自立生活の基盤づくりへの支援
       一人ひとりが、生きがいと誇りを持って、自らの意思と責任によって、自分らしい生き方や幸せを追求できる自立した生活を送っていく上で、介護等の福祉サービスとともに健康、就労そして住宅がその大きな基盤となります。
       まず、健康に関しては、必ずしも身体的な健康だけでなく、生きがいを持ち、自立して自己実現を図ることができるような状態を意味します。
       身近な地域において、健康を損なったときの事後救済的な仕組みはもちろんのこと、例えば、地域福祉活動に健康づくりや健康増進の取組みを効果的に組み合わせていくなど、課題が起きないようにするための予防的取組みや、健康を保持・増進するための取組みを進められるような仕組みをつくっていくことが必要です。
       就労に関しては、昨今のような厳しい雇用環境の中で、特に障害者、母子世帯の母親等には非常に厳しい状況にあります。
       このような中で、行政も率先してこのような人たちの雇用機会の拡大に取り組むとともに、社会参加の場となっている障害者福祉(共同)作業所の運営の安定等に努めるほか、コミュニティビジネス※などの地域活動を雇用に活かしていけるような仕組みを検討していくことも必要となっています。
      ※コミュニティビジネス:
       地域(コミュニティ)が抱える住宅や福祉、環境、教育、中心市街地の空洞化等の問題に対して、地域にある労働力、原材料、ノウハウ、技術といった経営資源を利用し、地域住民が主体となって自発的に取り組み、ビジネスとして展開していく活動。
       住宅に関しては、バリアフリー化や生活支援体制がまだまだ進んでいないことが、高齢者や障害者等の孤立やひきこもりの要因の一つとなっています。
       このため、公営住宅等において、住戸内、共用部分等の改善やエレベーターの設置を一層進めるとともに、民間住宅についても、建築技術者の知識・技術の向上や融資制度の活用などを図り、バリアフリー化を促進し、ユニバーサル・デザイン※のまちづくりを進める必要があります。
       また、地域住民等による相談、安否の確認、外出支援、家事援助といった生活支援、交流の場づくりなどにより高齢者や障害者等の孤立、引きこもり防止に取り組むとともに、シルバーハウジングや登録住宅等においては生活援助員(ライフサポートアドバイザー)の活用により生活指導・相談等住まいにおける安心確保の取組みを進めるなど、住宅施策と福祉施策の連携強化が必要です。
       さらに、障害者等の施設から地域生活への円滑な移行を支援するため、民間住宅や公営住宅等の資源を活用したグループホームなどを整備していくとともに、この居住者の在宅生活を支える生活支援の仕組みを構築していく必要があります。
       また、野宿生活者等の自立を図るためには、就労支援とともに、地域での居住を確保することについて検討していくなど、地域とも連携を図りながら、行政として積極的に取り組んでいくことが求められます。
      ※ユニバーサル・デザイン:
       年齢や身体の状況等に関わらず、誰もが安全に使いやすく、わかりやすい、暮らしづくりのために、ものや環境・サービスを設計デザインすること。
    (3)サービス提供主体の多元化・ネットワーク化
    • 社会福祉協議会、社会福祉法人、民生委員の機能充実
      1. 社会福祉協議会
         社会福祉協議会は、今回の社会福祉法において、「地域福祉を推進する団体」として位置付けられるなど、地域福祉を進める上での中核的役割が期待されています。大阪府内の社会福祉協議会は、住民主体の理念に基づき、校区福祉委員会の組織化や一人暮らし高齢者の会、寝たきり老人介護者(家族)の会などの当事者の組織化で全国をリードしてきた実績を有しています。
         今後は、「社会福祉を目的とする事業を経営する者又は社会福祉に関する活動を行う者から参加の申出があったときは、正当な理由がなければ、これを拒んではならない」という社会福祉法の規定を遵守し、社会福祉協議会への高齢者、障害者、子ども等の当事者団体、NPO、地元企業など幅広い層からの参加を積極的に進め、住民の総意を結集した組織体へと一層、組織強化を図っていくことが重要です。
         これからの社会福祉協議会は、全国社会福祉協議会でも提唱されていますが、色々な人や団体が行き交い、話し合う駅のプラットホームのような「場」となって、地域における様々な団体が対等な立場で参画し、そこに行けば問題解決の糸口が見つかり、専門家との連携もできているという「幅広い地域福祉に対応できるネットワーク」をつくっていくことが必要です。
      2. 社会福祉法人
        社会福祉法人は、戦後から今日にいたるまで、社会福祉施設の運営など各種社会福祉事業の実施を通じて、大阪の福祉に重要な役割を果たしてきました。これからの福祉分野にはNPOや民間企業など新たな主体が参入してきますが、社会福祉法人はこれまでの伝統と経験を活かし、大阪の福祉をリードしていってもらいたいものです。
         具体的には、社会福祉事業の実施に当たっては、より一層利用者本位のサービス提供に努め、NPO、企業等新たな主体の模範となる必要があります。
         また、社会福祉施設を地域に開かれた施設とし、地域福祉の推進に貢献する必要があります。例えば、ボランティアや実習生を積極的に受け入れるとともに、地域住民からの福祉に関する相談に応じたり、市民学習の場として地域住民に福祉教育を実施したり、さらに住民福祉活動の場となり、これらの活動との連携を図ったりすることなどが考えられます。
         さらに、社会福祉法人としての使命を再認識し、地域での福祉課題に専門領域を超えて取り組むとともに、例えば、切迫した事情を抱える人やより困難な課題を抱えた人を積極的に施設で受け入れるといった姿勢も必要です。
      3. 民生委員
         民生委員は、「社会奉仕の精神をもって、常に住民の立場に立って相談に応じ、及び必要な援助を行い、もって社会福祉の増進に努めるものとする」(民生委員法第1条)とされており、地域において住民の立場に立って、その要望を関係機関に伝えるとともに、一人暮らしの高齢者や障害者等の訪問、相談など、地域住民が安心して暮らせるような支援を行う身近な地域福祉の担い手として大きな役割を果たしています。
         ところが、最近は、様々な福祉課題を持つ人が増加し、その対応に追われる中で、見舞品等の配布や各種の証明事務など負担が増え、その役割を十分に果たすのが困難な状況になっており、それに伴って民生委員の適任者を発掘するのが難しくなってきているという状況にあります。
         民生委員は、地域福祉の中心となる人であり、その果たす役割は非常に大きいものがあります。
         したがって、現状を点検し、他の機関で処理すべき事務などを整理し、改めて本来の民生委員の役割を明確にし、地域において民生委員が活動しやすいような環境づくりが求められています。
         また、民生委員は、直接地域住民と関わる立場にあり、様々な相談を受ける立場にあります。複雑、多様化する課題に対する相談に民生委員が対応していくには、研修の充実などにあわせて、専門機関がバックアップして、民生委員が相談を受けた課題を解決できるように支援していく仕組みを構築する必要があります。
         さらに、民生委員と地域住民双方の意識を変えていく必要があります。かつては、民生委員の中心的な活動として生活保護に関する協力事務があり、民生委員が訪問することなどへの抵抗感も根強くありました。一方、民生委員が住民から日常生活に関わるあらゆることを頼まれる場合もあるなど、拒否と依存の両極の意識が生まれるような状況もあります。また、最近では、一人ひとりのプライバシーを尊重し、信頼関係を築きながら、生活状況を適切に把握することがなかなか難しくなってきています。
         このような事態を打開していくためにも、民生委員は、積極的に地域住民に対して自らの活動を明らかにしていくことも必要です。また、「民生委員」の名称について、例えば、大阪府独自の愛称を用いることなどによって地域住民に親しみが持てるようにしていくことも必要でしょう。
         そして、ここ大阪では、数多くの在日韓国・朝鮮人等外国人の方々が生活をしています。外国人の方々の存在そのものによって、地域が多様化し、国籍や言語、文化の違いを認め、尊重しあう多文化共生が促進されると認識すべきであり、これらの人が誇りをもって生きることができる地域こそ、真に豊かな地域社会なのです。
         現在、様々な形で在日外国人の市民活動等への関わりが大きくクローズアップされていますが、民生委員については、現行法上、外国籍の人はなれません。同じ地域に住む市民として在日外国人の中でも、地域貢献に対する意欲を持つ人も数多く出てきている中で、今の制度のあり方は問題を抱えていると言わざるを得ません。このような人達が、民生委員として活動できるようにしていく必要があります。
    • 福祉NPO等活動主体への支援
       平成7(1995)年の阪神・淡路大震災を契機として、住民のボランティアへの関心が高まり、地域においてボランティア活動を行うグループも多くなってきており、平成10(1998)年のNPO法(特定非営利活動促進法)の制定以降、これらの任意のボランティアグループがNPO法人化するなどして、地域における相談や福祉サービスの提供主体として大きな役割を果たしています。
       今後とも、任意のボランティアグループの中で、地域における福祉活動の主体としての継続的活動を目指し、NPO法人化等を希望するところには、そのための条件整備も考えていかなければなりません。
       その際には、法人化の手続支援、法人経営のノウハウ等については、専門家によるアドバイスが必要となる場合が多いと考えられるので支援が必要でしょう。
       これらの課題を抱えるNPOの自立的発展のためには、個々のNPOに対して、同じNPOの立場で必要な支援を行う中間支援組織※の果たす役割は大きなものがあり、今後もNPOの発展に向けた推進役となっていくことが期待されています。
       また、活動を行うにあたっての拠点や他のNPOとの交流の場も必要となります。
      ※中間支援組織:
       NPOに対して様々な面からサポートする機能を持ち、かつ行政や営利組織、学術研究機関との橋渡しなどを行う組織。
       
    • 地域資源の活用
       地域には色々な資源があります。資源とは、人材、施設や設備、情報などです。
       地域には色々な職業の人や素晴らしい技術・才能を持った人、情報や知識を持った人が住んでいます。ある課題で地域福祉活動が行き詰まった時、地域にその課題を解決できる人がいないか探してみましょう。自分たちの地域にいなくても他の地域にいるかもしれません。
       また、地域には様々な施設があります。公共の施設、民間の施設など、使われずに眠っている施設があれば、有効活用のためにその所有者や管理者に聞いてみましょう。
       このような地域における資源の状況についての情報が簡単に入手できる仕組みが必要でしょうし、また、公共施設の活用については、部局を超えた行政の連携と利用制限の緩和が非常に重要です。
     
     
  5. 地域福祉の計画的な推進
    (1) 基本的な姿勢
     地域福祉は、地域に関わる全ての人の自立生活を支援するため福祉だけに限定しない幅広い生活関連分野の取組みを必要としており、行政も基本構想・計画にその推進を位置付けることが望まれます。
     そして、その推進にあたっては、地域に関わる様々な機関、団体の連携協力が不可欠ですが、単に連携・協力するというだけでなく、共通の目標を設定し、その目標達成に向けた計画的な取組みが求められます。
     地域福祉計画はその核となることから、より実効性の高いものとしていくためには、様々な機関、団体はもとより、当事者を含めた幅広い地域住民の参画を得て、行政、民間がそれぞれの特質を活かしながら、対等な立場で協働して取り組んでいくことが求められています。
    (2)行政の役割
    地域福祉は、地域住民が主役であるといっても、当然のことながら、これらの人たちだけで成しうるものではありません。
     これらの人たちの地域福祉活動がスムーズに行われるよう、初期投資や一定期間の運営に対し、行政が自ら所有する施設等の譲渡・貸与も含めた財政的支援、あるいは人的・技術的な支援を行うことや、行政として自ら相談・情報提供などの基盤整備を行うこと、さらには虐待等があった場合の公権力の行使や緊急を要する事態への対応といった役割は、他の者には委ねることのできないものです。
     このため、特に、行政は、長期的な視点に立って、継続的な実態把握、現状分析を踏まえた政策づくりの責任と情報の開示、説明責任能力を身につけていくことが必要です。
     社会福祉制度が「措置制度」から「利用制度」へと転換するのに伴って、行政の役割がややもすれば不明確になりがちですが、行政は、地域住民の安心、安全を守るため、こうした役割をしっかりと果たしていかねばなりません。そのためには、かねてから指摘されている縦割りの硬直した行政体質を克服し、住民の視点に立った行財政改革を進めるなど、絶えざる自己革新に努めるとともに、行政間等の連携・協力体制を築きながら、住民の信託に応えていくことが必要です。
    • 市町村の役割
       地域福祉活動は、自治会単位、小学校区単位、中学校区単位といった小地域を単位として行われます。このため、行政の中でも住民に身近な市町村の役割は重要です。
       市町村は、管内で行われる地域福祉活動の調整役を果たす必要があります。市町村内での民間レベルでの地域福祉の推進団体である社会福祉協議会と連携を図りながら、行政としての役割を果たしていかねばなりません。
       また、特別職の地方公務員であり、守秘義務が課されている民生委員に、プライバシー保護に最大限の配慮を払いつつ、市町村の有する情報を提供するなど、十分に連携・協力していくことも必要です。
       市町村は、管内の福祉サービスを必要とする人からの相談に適切に対応していくことが求められます。その際、役所の中で相談を待つだけといった受身の姿勢ではなく、積極的に出かけていく姿勢が必要です。また、社会福祉施設、社会福祉協議会、NPO等福祉サービスを提供する機関・団体を支援する責任を果たさなければなりません。
       そのためには、市町村は、福祉事務所などを核として、調整役としての機能をきっちりと果たせる専門家を配置するなど、住民等による地域福祉活動を支援するための体制の整備、人材の確保が求められます。
    • 大阪府の役割
       大阪府は、広域自治体として、民間や市町村では対応することが困難あるいは非効率な分野を担う必要があります。
       具体的には、子ども家庭センターや知的障害者サポートセンター、府民健康プラザ等で専門相談に取り組むこと、市町村ごとでは非効率な福祉専門人材を府として一元的に養成・確保を行うことなどがあります。
       また、市町村が創意工夫を凝らし主体的に地域福祉を推進できるよう、専門性を活かした技術的支援や財政的支援、制度改正に関する国への働きかけなどが求められます。
       さらに、社会福祉法人や社会福祉施設・事業所への監査や指導監督は、一部の市には権限委譲されていますが、利用者が安心してサービスを受けられるために府として果たさなければならない重要な役割です。
    (3) 市町村地域福祉計画の必要性
     社会福祉法では、市町村地域福祉計画を策定する場合には、あらかじめ、地域住民等の意見を反映させるために必要な措置をとるよう求めているものの、策定するかどうかは各市町村の判断に委ねられています。
     しかしながら、これから市町村において地域住民、地域団体等が明確な目標をもって地域福祉を推進していくためには、その地域住民が参画し、議論を重ねて合意形成を図りながらつくり上げた計画が是非とも必要です。
     また、この地域福祉計画は、計画の策定から、実施、評価、見直しにいたるまで地域住民が主体的に参画することから、他の福祉分野の個別計画について、住民の視点で見直していくにあたっての参考となるだけでなく、地域住民の主体的な活動を通して地域に関わる各種計画の推進に大きな役割を果たすものと考えられます。
    (4)市町村地域福祉計画の策定にあたって
    • 各市町村の有する課題に応じた策定委員会の構成
       地域福祉計画は行政計画ですが、これまでの計画とは違い、主役である地域住民等が参画して、議論を積み重ねるというプロセスが非常に重要な計画です。
       府内の各市町村にはそれぞれ固有の課題がありますが、今後の地域福祉を推進していく際には、地域住民がその課題を自分たちの課題であると認識し、ともに知恵を出し合い、解決していくことが重要です。課題としては、例えば、同和問題の解決の視点に立った差別のない地域社会づくり、文化・生活習慣等の異なる在日あるいは渡日外国人との共生社会づくり、といったことがあげられます。さらに、地域の個別の課題として、例えば、高齢者等が多数居住する公営住宅におけるこれらの人たちの生活課題、大規模な入所施設と地域社会との連携・協力のあり方などが考えられます。
       地域福祉計画の策定委員会の委員には、これらの課題の当事者や関係諸機関、学識者などが参画し、課題解決に向けての議論を重ね、計画を一緒に策定していくといった考え方が必要でしょう。
       なお、この地域福祉計画は、単に福祉という領域にとどまらない幅広い分野の連携が求められることから、その策定にあたっては、市町村の企画部局をはじめとした関係部局の参加が必要です。
    • 住民の主体的参加とルールづくり
       地域福祉計画の策定作業の中で、市町村内の各地域で住民との懇談会を開催し、幅広い住民の意見を直接聞くことも大切です。その際に は、誰もが自立生活を送ることができるという目標のもと、既存のコミュニティの人だけが中心になるのではなく、新興住宅の住民や、当事者などこうした機会への参加を種々の要因で阻まれている人たちが、幅広く参加できるようにしていかねばなりません。
       また、懇談会が行政に対する要望・陳情の場になることなく、一人ひとりが、自分たちのまちを自分たちの手で住みよいまちにするためには、どうしたらいいかという観点から発言するようなルールづくりを進めながら取り組んでいくことが必要です。
    • 地域におけるニーズや課題等の把握
       地域福祉の目的は、地域における住民のニーズや課題等を住民主体の原則により解決し、住みよいまちにすることです。このため、例えば、小地域で住民自らの手による課題や特色発見の取組みを進めるなど、地域の実態や住民の意識をきっちりと調査し、把握することが必要です。ただし、全て新たに調査を行う必要はなく、高齢者、障害者、児童等の計画の策定あるいは改定のために実施した調査や住宅、教育、就労等に関する調査があれば、それらを積極的に活用すればいいのです。そして、行政と住民、企業等の事業者、大学等の教育文化機関が課題を共有することが重要なのです。
    • 目標の設定と評価の仕組み
      計画には計画期間内の目標設定とその評価が必要です。福祉分野の他の計画では、施設整備や人材養成の年次計画といった定量的な目標設定が行われています。
       地域福祉計画においても、行政や民間が提供するサービスの目標量、例えば、ボランティアセンターの登録者数やその中で実際の活動につながった人の数、地域福祉活動拠点の整備数などの定量的な目標を設定することが考えられます。
       また、それらに加えて、地域福祉計画では、住民が自分たちのまちをこんなふうに住みよいまちにしたいという目標も欠かせません。
       例えば、「孤独死や虐待のない地域をつくる」、「たくさんの地域住民が地域活動に参加する」というような目標がそれであり、これらの目標の達成度を数字で把握することは難しいかもしれません。
       しかしながら、「わがまちの福祉ウォッチング」、「わがまちの宝さがし」といった形で、住民自身がそれらの目標にどれくらいの点数を与えるかといった評価も興味深いものと考えます。
       計画を見た地域住民が、「自分も参加したい」、「自分もこれができる」といったように、身近に感じることができ、具体的なイメージが湧くような目標を公民協働でつくっていくことが必要でしょう。

このページの作成所属
福祉部 地域福祉推進室地域福祉課 地域福祉支援グループ

ここまで本文です。


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