必見!食中毒予防対策を考える

更新日:2010年3月3日

食中毒事例から学ぶ

事例1

<はじめに>

 大阪府内の保健所に、管内の医師から食中毒を疑われる患者を診断したとの連絡がありました。保健所の調査結果、及び検体から原因物質の特定ができたことにより食中毒と断定されました。
そこで聞き取りをした内容について、お示しします。

<事件内容>

話の舞台になるのは、中学生Aさんの家族。Aさんは父、母、高校生のお兄さんの4人家族です。
お盆休みにお母さんの実家に帰省することになりましたが、高校生のお兄さんは受験生で塾があったため、帰省しませんでした。
帰省する前日、20時にみんなで夕飯を食べました。22時に明日は朝早くに出発するため、お母さんは多めに炊いていたご飯でおにぎりを8個作り、その後、冷蔵庫に保管し、就寝しました。
実はこの数日前にお母さんは包丁で指を怪我してしまいました。
出血が止まらなかったので、絆創膏を貼り、そのまま毎日炊事を続けていました。

さて、翌日ですが、お兄さん以外の家族3人は早朝5時半に前日に作ったおにぎり(6個)を持って、出発しました。
出発してすぐに車内でおにぎりを1個ずつ食べました。
10時、4時間近く運転したので、ドライブインで少し休憩することになりました。お盆ということもあり、10時でも既に暑くなっていました。

一方、留守番のお兄さんは9時に起床し、朝食にトーストとコーヒーを喫食しました。

10時半、休憩を終えて、車に戻ると車内は非常に蒸し暑くなっていました。お父さんはすぐにエンジンをかけて、涼しくしてから再出発しました。
11時半、運転しながら車内でおにぎりを1個ずつ食べました。
すると、1時間後の12時半に3人とも気分が悪くなったため、近くのサービスエリアに行き、そこで嘔吐しました。
3人とも嘔気、嘔吐が主症状でした。

一方、高校生のお兄さんは12時に昼食を食べました。昼食は前日にお母さんが作っていたおにぎりが2個、冷蔵庫の中に置いてあったので、それを食べましたが特に体調不良になることはありませんでした。

 事例は以上となります。それではこの事例に関する質問をしたいと思います。皆さんに配布しています資料の中に「食中毒を防ぐには」というテキストがございます。

そのP4をお開きください。

質問:まず3人は嘔吐をしましたが、嘔吐を症状とする食中毒菌は何があるでしょうか?
   複数の食中毒菌の可能性が考えられますが、前日からの行動や食事内容を踏まえて、推察してください。

会場:黄色ブドウ球菌だと思います。


そうですね。みなさんもお分かりかと思いますが、この事件は、黄色ブドウ球菌によるものだと推察されました。
実際にこの後、吐物から黄色ブドウ球菌が検出されました。

嘔吐による症状は、潜伏時間が短いという特徴があります。
それは、喫食した食品が胃に入り、そこで刺激されることにより起こっているからです。
逆に下痢を症状としている食中毒の潜伏時間は嘔吐を主症状としているものよりも長いことがテキストを見てもわかります。

質問:今回の事例で保健所はおにぎりを原因食品とした食中毒であると推定しました。
   では、同じおにぎりを食べたお兄さんが食中毒にならなかったのはどうしてでしょうか?

会場:冷蔵庫で保存していたため、黄色ブドウ球菌が増えなかったのかと思います。


黄色ブドウ球菌は付着していても、適正な温度管理により保存しておけば、増殖を抑えることができます。黄色ブドウ球菌は増殖しなければ、毒素を産生しませんので、今回お兄さんは食中毒にならなかったと考えられます。

<黄色ブドウ球菌について>

黄色ブドウ球菌は食塩卵黄培地と呼ばれる培地に塗布し、35℃・48時間の条件で培養することで目玉焼きのような形をしたコロニーを形成します。
ここで、菊地先生に黄色ブドウ球菌は何故「黄色」と呼ばれているのか、また、「ブドウ球菌」と呼ばれる理由、又他の色は存在するのか教えていただきましょう。

(菊地先生コメント)
 バクテリアはニ分裂法という細胞が分裂しながら、増えていく。球菌の場合はどういう面で分裂するか、またどういう配列になるかによりいくつかのタイプがあります。数珠状に連なったものは連鎖球菌と呼ばれ、乳酸菌が挙げられます。ブドウ球菌の分裂面はランダムなので、配列はブドウの房のような形になります。
 色について、黄色の色素を出すため黄色ブドウ球菌と呼ばれます。黄色ブドウ球菌は毒素型の食中毒菌の代表的なものであるため、室温に置いておくと増殖は速い特徴があります。
 もう一つの特徴は環境中に多く存在します。ケガをした場合以外にもノドや鼻などの粘膜にも存在するため、直接食品を扱う場合には汚れた手で扱わないことが重要となります。
 また、黄色以外にもコロニーの色調により白色ブドウ球菌、橙色ブドウ球菌と呼ばれていたものもあります。しかし食中毒を起こすものは黄色ブドウ球菌となります。


手指の荒れ、又は傷口のある状態で直接、食品に触れた場合、ブドウ球菌が食品に付着し、食中毒のリスクが高まります。
このように黄色ブドウ球菌は身近にある菌ということですが、食中毒の発生件数はどうでしょうか。
平成11年から平成20年までの全国の黄色ブドウ球菌の発生件数の推移ですが、毎年コンスタントに発生しています。また、黄色ブドウ球菌による事件は製造業などで起こった場合、大規模な食中毒につながります。
黄色ブドウ球菌食中毒発生件数推移

<過去の事件について>

それでは過去のブドウ球菌による事件について、簡単にご紹介したいと思います。
平成2年にはお祭りでおにぎりを原因とした、患者数108名の事件。
平成12年には先ほども少し触れました乳製品を原因とした、患者数13,420名の事件。
平成17年には仕出し屋が提供した弁当を原因とした、患者数112名の事件。
昨年には仕出し屋が提供したおむすび弁当を原因とし、患者数460名の事件。

ここで大阪府の淡野課長に黄色ブドウ球菌の食中毒事件の恐さについて、お聞きしたいと思います。

(淡野課長コメント)
 黄色ブドウ球菌の特徴は毒素によって人の健康を害します。
平成12年に大手乳業会社で起こった事件では、工場で脱脂粉乳を製造している工程で停電が起こったことにより温度管理ができず、黄色ブドウ球菌の毒素が産生されたと考えられます。その後、停電が戻ったが、その脱脂粉乳を用いて、低脂肪乳が作られたことにより事件に至りました。当時、全国の自治体で調査を行ったが、黄色ブドウ菌自体は見つかりませんでした。それは製造工程の中で高温をかけるので、黄色ブドウ菌が死滅したためです。しかし毒素は残っていました。黄色ブドウ球菌の毒素は一度産生されると、高い温度をかけても破壊されません。また、耐酸性であり、酸度が高くても死滅しないため、人間の胃酸によっても破壊されることはありません。したがって、毒素を産生したものを食べた場合は防ぐことができません。
 そのため、この場合は食中毒予防原則の「つけない」、「増やさない」を徹底することが非常に重要な食中毒菌であることを認識してください。

<黄色ブドウ球菌食中毒を防ぐためには>

今回お話した事例は皆さんにわかりやすくするためにお母さんに手指に傷口をつけて、お話しましたが、実際に起こった事件では、手指に傷はありませんでした。
黄色ブドウ球菌は自然界に常在する菌ですので、手指の荒れていない人にも付着している可能性が十分あります。

調理する前は、手指の洗浄・消毒をしっかりと行いましょう。
また、家庭では手指が荒れていたり、傷があっても料理をしないといけないと思います。
そんなときは素手による調理は避け、且つ、温度管理をきっちりと行いブドウ球菌の増殖を抑えるように心がけることが大切です。
素手による調理を避ける方法として、使い捨て手袋を着用したり、ラップを用いるなどの工夫をしてください。
菌を増やさないためには、10℃以下で保存するか、調理後は速やかに食べることも重要です。

みなさんが普段から食中毒の予防に意識して取り組めば、ご家族の健康を守ることができますので、食中毒予防についてしっかり覚えて、安全安心な食生活を送ってください。

このページの作成所属
健康医療部 生活衛生室食の安全推進課 食品安全グループ

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