未受診や飛込みによる出産等実態調査について(2010年調査報告(平成22年度))

更新日:2015年1月27日

目的

【はじめに】

 今問題になっている周産期医療資源の枯渇に伴い、医療現場に多くの負担を強いるいわゆる未受診妊婦が大きな社会問題になっている。大阪府と大阪産婦人科医会ではその実態を詳らかにするため、平成21年度に未受診妊婦に関する調査を行い、報告書を作成するとともに各学会・研究会で報告を行った。

 平成21年1月から12月の1年間に、大阪府で発生した未受診妊婦の頻度は、府内の500分娩に1例であった。うち69.0%は周産期学的ハイリスク群で、続発した母体新生児合併症のいくつかは予防できたと考えられた。周産期死亡率は19.7で、これは40年前(1970年)と同等である(2008年は4.0)。低出生体重児や早産児、NICU入院も多く、未受診が母子共に極めてリスクの高い事象であることが浮き彫りになった。

 また、平成21年度調査では未受診妊婦が医学的にハイリスクであると同時に、社会的に大きな問題であることを明らかにした。すなわち、未受診の理由として「経済的理由」を挙げた者は3割であり、経済的支援のみでは解決しない事例が多いと考えられた。

 さらには、世代間での「未受診の連鎖」の報告が複数あり、これらは世代間を超えての『縦の連鎖』と複雑な環境因子による『横の連鎖』が『負』のスパイラルとして存在していることを示している。なお、平成22年7月に公表された,厚生労働省による「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第6次報告)」では、実母の妊娠期・周産期の問題として、「妊娠健診未受診」「望まない妊娠」「母子保健手帳未発行」などが提起された。

【目 的】

今年度調査では、前年度調査結果を踏まえ、未受診妊婦の背景を具体的に浮かび上がらせ、対応策への足がかりを掴むことを目的として、府内すべての分娩取り扱い施設に昨年度同様の調査を行うとともに、個別の事例のうち、特に医学的・社会学的に問題点の多いものについてのレポートを求めた。また、付随的ではあるものの、児童虐待との類似性を示し、『胎児虐待』の位置づけを探ることも目指した。

調査方法

【調査対象】

大阪府内の全産婦人科医療機関へのアンケート調査、個票調査を行う。

【調査対象期間】

平成22年1月1日から12月31日までとする。
ただし、問題事例については、対象期間に限定せず集約した。

【定義】

今回の調査に当たり、昨年同様未受診妊婦を以下のように定義した。すなわち

  1. 全妊娠経過を通じての産婦人科受診回数が3回以下
  2. 最終受診日から3ヶ月以上の受診がない妊婦

のいずれかに該当する場合とした。

【医療情報の収集】

 大阪府内の産婦人科医療機関にアンケート調査依頼をした上で協力医療機関から詳細情報を得る。カルテベースで情報収集をはかる。その際個人情報について漏出無きよう徹底した。

 調査に協力頂けなかった医療機関は、過去に未受診妊婦を受け入れたことがなく、今後も受け入れないということで調査対象には入っていない。厳密にゼロであったか確証はないものの調査協力医療機関における今回の調査は大阪府内における1年間の全数把握を反映しているものと考えてよいと評価している。

 問題点の多かった事例調査は調査期間を限定せずに、各医療機関の医療ソーシャルワーカーから頂いた。これも個人情報について漏出無きよう徹底した。

調査内容

【調査準備】

 調査は個人名や分娩日などの個人情報を伏せた形で行い、未受診妊婦の推定分娩週数、発生元医療圏、搬送先医療圏、搬送先施設名、分娩時年齢、経妊、経産、国籍、現在の居住地、現在の職業、婚姻の有無、最終学歴、パートナーの国籍、パートナーの職業、健康保険加入、既往出産時の既往の有無、今回妊娠での母子手帳交付の有無、母子手帳に関するコメント、受診回数、今回の妊娠での産婦人科初診週数、今回の妊娠での産婦人科受診週数、既往歴、合併症、常用薬、感染症、その他患者背景で特記すべき事項、初発症状、分娩様式、帝王切開の場合その理由、新生児体重、アプガースコア1分後・5分後、新生児合併症、新生児NICU入院の有無、出血量、分娩時合併症、その他分娩前後の特記事項、産褥合併症、母乳哺育の有無、ソーシャルワーカーの介入の有無、退院後の本人の行き先、母児分離の有無、退院後の乳児の行き先、家庭内の援助者、退院後の生活設計、助産券の使用、生活保護の取得の有無、退院時における要支援ケースとしての地域への連絡があったか、養育上の問題・課題、本人の言い分(未受診理由)、未収金について回答を求め、アンケートを開始した平成22年1月から12月までのケースを集計した。

 問題事例に関しては、複数病院の医療ソーシャルワーカーと医師で話し合いの場を持ち、その結果から共通フォーマットで問題点の整理を図ることにした。

【調査内容】

  1. 医師記入項目
    年齢、妊娠回数、出産回数、流産回数、死産回数、今回の妊娠の状況、過去の妊娠・出産、上の子どもの発達、合併症、通院状況、初診妊娠週数、受診回数、感染症、初発症状、分娩週数、分娩様式、新生児体重、アプガースコア、新生児合併症、NICU
    入院、出血量、分娩時合併症、産褥合併症、母乳哺育等
  2. 医療ソーシャルワーカー記入項目
    ソーシャルワーカー介入の有無、国籍、居住地、居住形態、最終学歴、職業、婚姻状況、パートナー状況、家族構成、医療制度、福祉制度、収入、生活保護、助産券、未収金、母子手帳、未受診理由、アルコール・たばこ、薬物、生育歴、育児歴、母児の退院後の行き先、援助者・相談者、関代行政機関、生活設計、子どもへの想い、子育て不安、次回妊娠等
  3. 問題事例調査項目
    助産券、先天奇形、出生届、本人の理解度、居住地の問題、行政の問題、家庭内での虐待・ネグレクト、未収金、避妊、特記事項、施設の取り組み等

【調査実施機関】

大阪産婦人科医会内未受診実態調査委員会において実施
委員長 光田信明(OGCS運営委員会委員長)
委 員 高木 哲(大阪産婦人科医会会長)
委 員 藤本 昭(大阪産婦人科医会副会長)
委 員 米田嘉次(大阪産婦人科医会母子保健理事)
委 員 久松正典(大阪産婦人科医会母子保健理事)
委 員 荻田和秀(りんくう総合医療センター市立泉佐野病院)
委 員 北田文則(済生会吹田病院)
委 員 早田憲司(愛染橋病院)
委 員 中後 聡(愛仁会高槻病院)
委 員 岡田十三(愛仁会千船病院)
委 員 山枡誠一(阪南中央病院)

医療ソーシャルワーカー
川口真理子(済生会吹田病院地域医療支援部)
北出 泉(りんくう総合医療センタヸ市立泉佐野病院医療相談室)
上原 玲(愛染橋病院医療サービス部医療福祉相談室)
青木興子(阪南中央病院医療福祉連携部)
藤江のどか(大阪府立母子保健総合医療センター)
春名由美子(愛仁会千船病院地域医療課)
田口眞規子(愛仁会高槻病院地域医療室)

調査結果

【1】回答施設

 大阪府内では、年間約7万7千件の分娩を約160の施設で行っているが、今回の調査ではその全ての施設へ調査依頼を行い、31の施設から計148件の未受診妊婦と未受診類似症例21件の報告が寄せられた。そのうち136件はOGCS加盟病院で、12件は一般診療所が取り扱っており、最も多い病院では、年間20例の未受診妊婦を取り扱っていた。

【2】発生頻度と地区別分析

 大阪府内1,000分娩あたりの未受診妊婦発生頻度は2件程度有り、「大阪でお産する人の500人に1人は未受診妊婦」と言え、その頻度は昨年度と変わっていない。また、今回の調査では未受診妊婦の居住地が調査票に記入されているものが62例あり、その分布は昨年同様大阪市に多く集積しているが、各二次医療圏での発生数はほぼ同じであった。

【3】母体の背景

  • 未受診妊婦の平均年齢は28.6歳と昨年度の調査とほぼ同じであった。その分布も昨年同様15歳から44歳までと幅広く、未成年は22人(15%)とこれも昨年とほぼ同様であった。
  • 未受診妊婦の40%が初産婦であり、未婚は69%に及んだが、これも昨年度の調査と同様の値であった。
  • 未受診妊婦の96%(不明除く、以下同じ)が、無職あるいはアルバイトのような非正規雇用などで、不安定な就労状況であった。併せてパートナーの82%も、無職あるいはアルバイトのような非正規雇用という状況であった。
  • 生活保護受給率は、38%に達した。
  • また、全未受診のうち58%が、助産券の申請により分娩費用をまかなっていたが、後に示すように「窓口で助産券の利用を拒否された」といった事例もあり、結果的に受け入れ病院側の負担として、調査票に記入された分だけでも11件134万円の未収金が発生しており、未収金の平均額は12万円となっている。
  • 国籍は、昨年同様、ほとんどが日本人であった。
  • また、昨年度未受診妊婦の母子手帳の所持率は43%であったのに対し、今回の調査では分娩前の所持率が60%と上昇し、分娩後取得したものを合わせると93%になった。
  • 今回追加した調査項目「生まれた子どもに対しての感情」は、43%(不明を除くと75%)が「かわいい」と感じていた。

<未成年(19歳以下)妊婦の背景>

  • 「予定外の妊娠」:77%(不明を除くと94%)で、20歳以上の51%より高い割合を占める。
  • 「在学中」:32%(不明を除くと58%)
  • 「パートナーも未成年」:32%(不明を除くと58%)
  • 「主な未受診理由」(複数回答):不明を除いた場合…「経済的問題(32%)」 「家族に言えず、どうしていいかわからなかった(27%)」「妊娠に関する認識の問題(23%)」 「パートナーの問題(18%)」

【4】分娩事象

 帝王切開率は20%で、80%は経腟分娩であったが、分娩時産科医の判断で急速遂娩になったものが12例であった。 推定される分娩週数は平均で37週(10ヶ月目)であるが、39例(26%)が早産であると考えられた。

 22%が妊娠高血圧症候群などの何らかの母体合併症を伴っていたが、今回の調査では、特に母体の精神疾患が11例と多く報告された。死産は4例で、調査期間中の周産期死亡率は26.8と昨年度の19.7を大きく上回り、極めて高い周産期死亡率であった。弛緩出血や子癇・産褥熱などの産褥合併症は6%と昨年の13%よりは低かった。胎児への影響が懸念される感染症キャリアは8例あったが、HIVキャリアはいなかった。

【5】新生児事象

 未受診妊婦148例の新生児平均出生体重は2619.5g、推定在胎週数の平均は37.3週で、アプガースコアは、1分後5分後それぞれ平均7.5/8.5と、昨年度調査と同様の結果となった。

 前述の如く死産は4例、低出生体重児は26%で、推定在胎週数36週未満の早産児は26%にのぼった。また、昨年度の31.7%に比べて減尐はしているが、22.8%の新生児がNICUに入院となっている。子宮内胎児発育不全などの新生児合併症は11例にのぼり、これらは何らかの新生児合併症が存在する率が、27.0%(40例)に達することを示している。昨年の調査同様、未受診は新生児にとっても極めてリスクが高くなる事が示された。

【6】妊婦健診を受けなかった理由

 妊婦健診を受けなかった理由としては、複数回答可能として聞き取り調査を実施した。その結果は、「お金がない」「失業し経済的に苦しかった」などの経済的な理由を挙げる者が最も多く30%であった。次いで、未婚や相手方に家庭があったなどの「家庭の事情」16%、「妊娠事実の受容困難」が16%となっており、「誰に相談して良いかわからない」「相談相手が居ない」など、社会的に孤立していた妊婦が12%、妊娠に対する「知識の欠如」や「認識の甘さ」があったと答えたものがそれぞれ10%、7%あり、「育児で忙しかった」「引っ越しで忙しかった」「介護で忙しかった」などの多忙を理由に挙げる者が6%、精神疾患の悪化や犯罪で収監されている間に受診機会を失ったなどの者が3%いた。

【7】未受診妊婦を取り巻く諸事情について

 今回の調査では、未受診妊婦をとりまく諸事情を知るために、特に医療ソーシャルワーカーの意見を聴取した。社会的リスクのある患者に対しては、医療ソーシャルワーカーが個別に対応するケースが多く、個々の症例を通じて制度上の問題点が見えてくると考え、敢えて聴取した内容をそのまま記載する。「出産後であるから助産券は受け付けない」と行政の窓口で申請を拒否され、当該患者も支払い能力が無く病院の未収ケースとなった例、退院後出生届も出さずに行方不明になった例、退院後の乳児死亡になった例など医療現場だけではどうしようもないケースも多く、また未受診そのものが、虐待やネグレクトにつながっている事実がより顕著になっている。未受診を胎児虐待ととらえれば当然の帰結とも言える。

<問題事例調査結果>

未受診妊婦の内、特に対応に難渋した事例の中から、調査票とは別にソーシャルワーカーから聞き取った内容を「本人の能力・意識」「居住形態・家族」「経済面」「行政の対応」「現状では対応困難な課題」の5項目の問題別に整理した。ただし、これらの問題項目は、1事例につき単独で存在しているのではなく、複合して複雑に絡み合いながら、問題をより一層困難なものにしている。

(1)本人の能力・意識の問題

  1. 理解力の問題
  2. 対人関係能力の低さ
  3. 計画性の欠如
  4. 養育能力・意識の問題
  5. 精神疾患
  6. 薬物依存

⇒現状認識力が弱い・正確な知識の不足
⇒妊娠継続・出産が、自分や子どもの人生にどう影響していくか考えられない
⇒家族関係の悪化・社会的な孤立

1理解力の問題
  • 本人にとって都合の良い解釈をする傾向が強い。
  • 疾病や障害はなさそうだが、説明への理解には時間がかかっていた。
  • 知的障害があるものの、療育手帳取得なし。
  • 話はかなっているが、反応が乏しく、理解度に疑問があった。
  • 被虐待歴・生育歴から理解度には、少し問題がある印象。
2対人関係能力の低さ
  • 質問には返答があるが、コミュニケーションが良好な印象ではない。
  • 理解度は悪いとは感じられないが、あまり多くを語らず、本心がわからない。
  • 本人は非常に友好的で関係がとりづらいということはないものの、対人面では他者との信頼関係を築けておらず、関係性も長続きしていない印象がある。実家等の家族が全く出て来ず、ネットでほんの数回程度で意気投合した相手に子供を預けようとするといったその場しのぎの考えで動こうとしているところからも、本人が『社会的孤立』をしていると感じられた。そういった意味では、親だけがメインで育児をするのでなく、地域社会全体で子育てできる体制ができれば虐待のリスクは軽減できるのではと感じた。
3計画性の欠如
  • 現状認識は出来てはいるが、全般的に見通しが甘い。
  • 現状認識が甘く、「どうにかなる」というような考えを持っていた印象。
4養育能力・意識の問題
  • 14歳の出産。本人の理解度は問題ないが、妊娠を隠しており、救急車内での出産になった。
  • 第3子出産において未受診・飛び込みで救急車を呼んだ時は逆子で頭がつかえ胎児仮死状態、現在も発達遅滞があると聞いている。
  • 前回出生児(現在小学生)に対し、通学させていなかったのでネグレクトで要保護児童として行政で見守りをしていた。
  • 2010年3、5月と第1子置き去りにし、児相が連絡をとっていたが今回の第3子妊娠・出産まで本人は無視。今回の妊娠も望まない妊娠であったが放置し、産後施設入所させたいと希望した。
  • 元々、第1子は里親に、第2子及び第3子は産後すぐ養育ギブアップで児相による施設入所の措置をしている。今回の第4子も、本人は産褥2日目で精神的にしんどい等訴えていた。退院後パートナーの母宅で養育してもらっていたうちは何とかなったが、パートナー宅に戻って数日で嘔吐により時間外受診され、病状に問題ないが産後の経過もあり保護入院となった。入院中は上記のような経過はあったが、退院後パートナーとその母の同意が取れたため、乳児院入所となった。
  • 産後、ベビーの黄疸指数高値になったので、光線療法が必要と再三説明しても、本人被害妄想的発言ばかりで頑なに拒否。実母に同意を得て何とか光線療法を開始できた。本人も入院中に精神科服薬加療をすると症状は改善され、養育も何とかできていたが、退院後治療中断してしまうようになると、ベビーの頭から首にかけてミルクで濡れている、オムツ交換が出来ていない、沐浴が出来ていないといった状況が続く。保健師や支援員が訪問しても、本人から子供の話は一切出てこない。養育環境も猫の毛・糞やタバコの吸殻等で汚染されており、常時大音量の音楽を流すなど劣悪。子供は生後4カ月で吐しゃ物による窒息死(事件性なしとして処理)となる。
  • 出生児を病院に置いたまま産褥1日目に離院、戻らず。育児放棄と考えられる。
  • 児は当院のGCUに3ヶ月ほど入院していたが、遠方を理由に来院せず。また半年前に出産した姉の子どもの安否について本人及び本人の母親に確認しても把握できず生活状況が掴めないため、虐待・ネグレクトの可能性があると考える。
  • 転居前住所地で第6子出生後、第5子に対するネグレクトで児相介入し里子に出されている。第1子から第4子は各々前夫に引き取られている。第6子も見た目に汚れや悪臭があったり、母親の勝手な都合で保育所を休ませるといったネグレクト行為が見られた。
  • 重症妊娠高血圧症候群を放置したまま、未受診のまま経過→胎児へのネグレクト。本人の状況から、第1子への児童虐待の可能性が高い。
  • 退院後、4ヶ月目に小児科に来院され、他院へ搬送となったが、揺さぶられっ子症候群であったことが判明した。
  • 児の治療上の判断、必要な手続き、病院への連絡・面会等の親としての役割放棄という形でのネグレクト。
  • 退院後、アパートでの生活保護受給となっていたが、4ヶ月後に友人に児を預けたまま連絡がとれなくなり、児は乳児院へ入所となった。
  • 退院後の検診には来院するが、家庭訪問はできないことが多く、児の体重増加不良を見守りにてフォロー中。
  • 第2子が生後3ヶ月で夫(子供から見たら実父)から揺さぶり等の身体的虐待を受け、他医に救急搬送、急性硬膜化血腫と診断、児相通告となり、現在も乳児院入所中。障害残存。
  • 前回出生児(第一子)は実父母と特別養子縁組を組み、実父母の子として実家で育てられている。本人は実家とは絶縁関係にある。今回出生児については飛び込み出産であり、出産前より自身で養育しないと決めていた。出産直前より第一子の縁組を支援した機関に携帯電話のメールで相談をしていた。出生児は養父母に引き取られ退院し、本人は一人で元の居住地に退院となり、その後連絡がつかなくなった。
  • 第1.2子ともに本人のもとでは育っていない。施設入所には生活状況の点で、本人からも相談がでていたが、調整中に連絡が取れなくなった。
  • 第2子の飛び込み分娩、今回の第3子も飛び込みに近い分娩(外来受診1回のみ)をしているケースである。会社の寮では無理もないと思うが、第3子の養育もできないとして、最初から施設入所を希望していた。今回は区役所側から紹介されたため、助産等制度も活用しながら未収金を出す事も将来的な虐待リスクもなく、うまく進められたケースである。
    ただ、避妊に関しては関不期間が短く、時間的制約により対応できなかったのは悔やまれる。今回、出産届や出産育児一時金等申請する際に付き添ったが、子供は施設入所するにも関わらず、子ども手当金は世帯主である本人に支給されることには大きな矛盾を感じた。
5精神疾患 6薬物依存
  • 統合失調症があるが、病識なく服薬なし。産後入院中は、精神科につないだが、退院後拒薬あり、通院も中断。
  • 専門医の判断ではないが、何らかの知的障害か、精神疾患があると思われる言動で、薬物使用も疑われた。
  • 過去薬物で収監されたことがあり、その際にパニック障害を指摘されていた。狭いところに閉じ込められていると不安定になり病室がその類似環境であったことから(本人曰くの理由)出産直後に突然離院した経過。
  • 本人入院中はおおむね良好であったが、NICUでの出生児の面会時などに言動が不安定になっていた。(違法薬物使用の印象)
  • 思春期より精神科への強制入院歴2度あり。本人は入院加療で症状改善したようだが、病識なく退院後通院せず拒薬していた。入院させた両親を本人は許せず、家族関係は破綻しているような背景があった。明らかにハイリスクなケースで関係機関とのカンファレンスや連絡調整などしたにも関わらず、最悪な事例終結となってしまい連携の困難さをつくづく実感させられたケースだった。
  • 居住実態つかめず連絡が取れないので、方向性について本人や実母、関係機関と共に話し合う機会がなかなか持てなかった。当初より「児を引き取りたい」との意志を本人が示していたこともあり、各機関も“育児不能”と考えながらも当初は乳児院入所の話を強く進めていくことが困難であった。病院に戻らない事実だけを捉えると育児放棄は明確であるが、本人が精神疾患を抱えているために「来たくても来られない」思いも垣間見え、本人の辛さも多少理解できる部分があったため、精神疾患を抱えながら、また周囲のサポートの薄い状況での出産の困難さを感じた。

(2) 居住形態・家族の問題

  • 居住地の不安定
  • 家族との不和・離別

⇒支援者がいない(家族・親類・親しい友人・近隣・行政)
⇒地域社会からの孤立

  • 住民票は前夫と居住していたところにあるが、友人宅を転々としている。退院後は、搬送前に居住していた友人とは別の友人宅を新たな居住先として、出生児とともに退院。退院後、保健師が友人宅を訪問するが、聞いていた住所は存在しなかった。
  • 住民票は九州、ビジネスホテルやインターネットカフェで寝泊りしていた。
  • 別れたパートナー名義のマンションに一人で居住。家賃はパートナーとは別の男性が支援。よって退院後パートナーの子どもを連れて帰ることを拒否。
  • 前夫(児の父親とは別)より家を追われた時点で、保険証を持って出られなかったため、本人の身分証明となる物が一切なかったことにより、住民票の転出・転入手続きがとれない。住民票上の住所と現住所が違うままの状態が続いている。(児の退院先は現在のパートナーと同居している家である。)
  • 母親と姉、姉の子ども、妹2人と弟と本人、児の8人家族。妹2人と弟は中学生、小学生だが、殆ど学校に行っていない。
  • 保護地である自宅(生活保護受給中)へはほとんど戻っておらず、実母や友人宅を転々としている様子。携帯でも連絡がなかなか取れないため居住実態がつかめない。
  • 会社(多分、風俗)の寮住まい。
  • 産前は同じ地域に居住するパートナー(婚姻関係はない)の家で生活。退院後はパートナーの母宅に1週間ほど生活し、その後パートナー宅へ。パートナーの母が毎日ではないが訪ね育児支援。
  • 自宅に住んでいるが、夫は実家に行ったまま別居状態。実母は退院後行方不明となってしまい、本人を支援する友人等もなく、地域で孤立している。
  • 知人男性宅に居候しており、出産直前に生活保護の手続きの下、アパートへ入居。
  • 第1子から4子は、各々の父に引き取られ、第5子もネグレクトで児童相談所介入し、里子に出され、第6子もネグレクト行為あり。今回の第7子については、ネットで知りあったばかりの『友人』を頼って他県から転入。本人名義の賃貸住宅に居住。出産入院中の子供の預け先を、これもネットで知り合ったばかりの次の『友人』(前者とは別人)に預けようとした。退院後もネットで知りあったばかりの『友人』宅に2週間ほど居候。実家等家族全体が全く出てこない。
  • 夫の判決が出るまでの間は、夫の実家で生活。判決後は他市(府内)に転居。
  • 本人の両親は離婚しており、本人自身施設入所歴がある。パートナーについても、母親の精神疾患により養育できず施設で育ってきた経緯がある状況。本人の子供に対する愛着は無論問題だが、パートナーも精神疾患があるのに服薬中断するなどの問題行動があり、産後養育困難の見当がつくのにも拘わらず、経過としては後手々々になっているような印象があった。
  • 3人のパートナーとの間に子どもが6人いる。第5子出産時と状況がまったく同じ(飛び込み出産、入院までの経緯、退院後の行き先)。第5子出産時の病院との連 携で判明したケース。自身の家族(親、兄弟)とは連絡とっておらず、連絡先も知 らない。本人は詳しいことを語らず、「自分でなんとかします」「なんとかなります」という考えであり、第三者の介入を拒むため、実態がつかめない。今後も未受診出産のリスクがある。
  • 交際者とのトラブルで負債を作り、自己破産手続きなど債務処理をせず、負債を肩代わりしてくれた姉妹と人間関係が破綻した事などが起因して、家出行動をしていた、未受診、無保険、ホームレスのケースである。
  • 前夫との離婚が成立しているのかどうか(戸籍がどうなっているのか)、健康保険加入しているのか(前夫の社会保険に入ったままか無保険になっているのか)さえ不明であった。支払い方法の相談をするには不明な情報が多い上に、退院後は連絡もなかなか取れず、相談の機会も持てなかったため、打開策が見当たらなかった。
  • 保健所の介入あり、育児に関しては退院後特に大きな問題はなさそうであったが、児の戸籍のないままの状態を続けている。直接的な虐待ではないものの、ある意味育児放棄とも言える状態と感じた。
  • 第1子も未受診による分娩(緊急帝王切開)、生活実態がつかめないまま経過。所在不明後に親族が現れるも、本人と同一人物と特定できない相違が多くある状況で、分娩をしたのが誰なのかわからないという結果になった。
  • 被虐待歴と不安定な生活背景。
  • 第2子の妊娠・出産における経過では、低体重出生児でNICU入院した以外、特に目立ったハイリスク要因が見られず、1ヶ月の赤ちゃん健診で受診終結していた。今回の妊娠経過で初期に性交渉を求められたり、産後も夫からのDV行為が発覚したため、カウンセリングにつないだが1度だけで中断。
  • 住民票が他県にあり、ホームレス、無保険の事例に関して、母子生活支援施設への入所申込みから、面談調整、入所日の調整が困難であった。
(3)経済的問題

出産・今後の避妊(卵管結紮)のための費用の未収

⇒生活基盤の弱さ
 社会的孤立・理解力の問題 ⇒制度に対する認識不足
 制度上の制約

  • 5万円のみ入金し、国保出産一時金で残額は持参するとの話のまま、所在不明となり回収不能。
  • 本人が所在不明になったことで、児の病院への遺棄、未収金については、警察への児の相談、児相での施設入所の対応がとられただけで、費用については相談も不可能であった。
  • 本人の病状回復、母子生活支援施設入所待ちの間の児の入院費は、病名もつかず、保険請求がかなわず、病院にて減免とした。
  • 本人は助産制度を利用。児については養育医療の手続きを行ったが、現在も児の入院費用は未収になっている。
  • 613,290円のうち、300,000円は児の特別養子縁組を支援するNPO法人から借り入れし、当院へ入金される。その後支払いなく、313,290円未収。
  • 全額未収
  • 卵管結紮術費用の分割の残り15,000円あり、生活保護担当者より本人に対し、支払い督促が行なわれている。
  • 本人が確実な避妊をしたいと希望した時、卵管結紮を行なうことに本人の同意を得られたが、生活保護担当者は、自費診療だし転居したばかりだから認められないとの返答だった。結局、本人が分割で支払うということで卵結したが、未収金が残ったまま転居しており音信不通である。
  • 卵管結紮費用78,240円が未収。督促状を送付していたが宛先不明で返送され連絡つかず。
  • 567,300円のうち、240,000円を出産扶助でまかない、未収327,300円発生するも数ヵ月後、本人来院し完済した。
  • 支払いをどうするかについて、実母は「相手に払ってもらうまで、支払いはできない。こちらも経済的に苦しい」と話し、当初は未収金となっていた。実質手続きを色々してくれていた姉と医療ソーシャルワーカーとで相談し、父の保険組合と交渉して出産育児一時金の手続きを支援し、支払いが済んだのは、出産後2ヶ月以上経ってからだった。
  • 第2子の飛び込み出産の際に支払いの約束をしながら反故にされ、243,070円の未収金が発生。今回の第3子出産において、助産制度を利用し、出産育児一時金を当院未収分と今回の医療費、助産利用のための支払いに充てたので、未収金解消された。
(4)行政の対応の問題

  1. 行政担当者のリスクアセスメントの弱さ
  2. 関係機関(医療・保健・福祉・教育・地域組織等)の連携不足

1行政担当者のリスクアセスメントの弱さ
  • 保健機関の相談開始時には、妊娠33週未受診という状況であったが、本人への受診の促しや分娩機関の確認は行われておらず、新居への入居はかなっていたが、分娩間際であるため必要な準備は全く進んでいなかった。妊婦健診未受診についての認識不足と、そういう事例への行政の出産までの関わりの不足を感じた。
  • 母は、知的障がいがあり、元々第1子から3子も養育困難のため、里親・施設入所措置されていた。今回の第4子も生後2週間で時間外に受診し、保護目的入院となり、小児科主治医より医療ソーシャルワーカーへ一時保護入所が望ましいため通告をと指示があったため、児童相談所に通告し、早急に返答を求めた。しかし連絡がないため医療ソーシャルワーカーより確認すると、パートナーとその母は乳児院入所反対していて、現時点で養育不能と見なせず職権保護はしないと返答あり。その後退院で良いのか含め返答を求めても、児童相談所より連絡がないので、止む無くパートナーの母に養育の約束をさせ、退院日を決めて連絡した。帰宅後になってから、児童相談所に『えっ、帰ったんですか』と言われた。
  • 母は精神疾患あるが、現在通院なし。また、家族関係も破綻。産後から出生児に必要な治療を受けさせないため、医療ネグレクトで通告。それが解消されてからも本人の精神症状が活動的で病識なく受診につながりにくいため、虐待リスクの高いケースとして度々カンファレンスを開催していた。退院後、育児支援家庭訪問相談事業等も利用しながら育児支援をしていたが、数ヵ月後のカンファレンスで本人の被害妄想が顕著で養育困難な状況であり、警察からも保健所に対応要請していたが、『本人が以前から病識ないから対応出来ない』として介入してもらえず。養育困難な状況から子供の安全確保が必要と産婦人科医、小児科医からの意見があることを伝えたが「カンファレンス開催ありき」としてそのままになる。1ヶ月ほどして子供の受診も滞りがちになったため、児童相談所と小児科医、外来看護師、医療ソーシャルワーカーで話しあい、医師からネグレクトケースである事、脳性まひの疑いもあることが報告され、数日後の受診がなければ対応することが決まる。当日来院なく、児童相談所や市役所に連絡したが、対応しておらず子供は2日後死亡した。
2関係機関の連携不足
  • 1ヵ月半NICUで出生児入院期間があったにも関わらず、母親の面会が不十分である社会的背景や前回出生児の時から、他市で要保護児童として、家庭児童相談員、生活保護ケースワーカー、児童相談所が介入していたことが、児の退院直前に明らかにされ、すでに行政機関のみでカンファレンスの日時を決定していた。早期から行政機関と病院とで問題共有できていれば、別の支援の方法がとれたのではないか。個人情報の問題といって行政機関が情報開示しないことに疑問を感じた。
  • 遠方を理由になかなか来院しなかった経過があるため、ネグレクトになる可能性があると考え、保健師に介入を依頼したところ、保健師からも「母の姉の子供も半年前に生まれており何度か自宅に訪問するが、留守が続いている。姉の子供の安否確認も出来ていないので、今回を機に訪問したい」と申し出があった。児は低体重で生まれており、定期的に通院も必要な状態だったことから、入院中に保健師が何度か病院に訪問し母親や祖母と会い、信頼関係を築いてくれたことで、結果的には児の安全を確保することができたと考える。しかし、母(本人)の母が就労せずに何度も繰り返し出産していたり、母の姉も同じように出産したため、生活保護ケースワーカーは、「今回助産制度を認めると、母(本人)の妹たちも妊娠・出産を安易に考えることが予測される」として、助産制度の手続きが難航した。ケースワーカーの思いも十分理解できるが、児の安全、退院後の生活を最優先に考えて欲しかったという気持ちは未だに残っており、連携の難しさを感じるケースであった。
  • 母は、違法薬物使用や精神疾患があり、居住実態つかめず、連絡が取りにくかった事例にも関わらず、児相担当者も忙しくセンターに不在のことが多い(仕方がないのですが・・・)ため、本人や実母からセンターへ連絡入れることがあってもなかなか通じないことが多かった。途中からは担当者不在であっても他の職員で対応してもらえるようになり、当方からの連絡も取りやすくなった。
(5)現状では対応困難な課題
  • 母子生活支援施設の入所手続き上困難なことがあり、入所継続にならず、アパートで養育が開始されていた。
  • 継続した場所に居住していない為、支援の中心となる機関を定めることが困難だった。
  • 本人と連絡がとれないために、児の治療上の相談を児相へ行うが、施設入所中の児でもないため、病院のみでの判断で対応しなければいけなかった児の状態での受け入れ先がなく、入院が長期化し、重心施設に入所するまでの3年半の児のQOLは病院スタッフにのみ託されていた。

【8】結果の考察

22年度の調査でも、大阪府内の未受診妊婦をほぼ全数調査し得たと考えられる。
大阪府では年間148例の未受診妊婦の分娩が取り扱われ、1年間に発生した未受診妊婦の頻度は昨年同様、府内の500分娩に1例であった。また、未受診妊婦の実に69%は周産期学的ハイリスク群で、続発した母体新生児合併症のいくつかは予防できたと考えられた。さらに大阪府における未受診妊婦の周産期死亡率は26で、これは昨年を上回っており、1960年代と同等である。低出生体重児や早産児、NICU入院も多く、未受診が新生児にも極めてリスクの高い事象であることがあらためて裏付けられた。
今回の調査で判明した課題を時系列で考察すると、以下のとおりである。

(1)妊娠から出産(退院まで)

 今回の調査では、出産前の母子健康手帳の所持率が45%(不明を除くと60%)あり、また妊婦健康診査を1回以上受診した妊婦は、60%(不明を除くと74%)あった。このことは、飛込み出産に至るまでに医療・保健機関が関わる機会があったことを示すものであり、妊婦のリスク要因を把握することにより、妊娠中からの相談・支援に繋げる可能性があったと考えられる。また未受診妊婦が、社会的に孤立している現状が明らかになり、身近に相談できる人が少なかったことを鑑みると、未受診などのハイリスク妊婦との数少ない接点をいかに捉え、支援につなげていくかが、母子ともに生命に危険を及ぼす飛込み出産や児童虐待を予防していく上で重要である。特に初めて接した時に、リスクアセスメントを行い、ハイリスク妊婦を確実に捉えること、同時に今後の継続的支援のための足掛かりを作っておくことが必要である。

 そのためには、医療機関に従事する妊婦に関わる全ての職員、市町村の母子健康手帳発行窓口担当・保健師・生活保護ケースワーカー・児童福祉担当、保健所、保育機関、教育機関等母子に係るあらゆる関係職種が、早期発見・支援に繋ぐことができるように体制を整備し、要養育支援者情報提供票等を活用しながら、関係機関が早期から連携していくことが必要である。その際、個人情報保護が問題となる。胎児に人権という概念が認められていない現状において、胎児を守るため、ひいては出生児の人権を守るため、法的な枠内で、支援を必要とする人の情報をどう共有していくかが今後の課題である。

 また、前回同様、重症の心不全・肺水腫で高度救命センターへ搬送されてきたところ妊娠が発覚したケースや、偽名で入院し本名や背景を全く話さず新生児を置き去りにして自己退院し、行方をくらませたケース、出生届も出さずに行方不明になった母親の例が複数報告されるなど、その施設の通常業務を停止して対応せざるを得ないような事例や、ソーシャルワーカーが奔走せねばならない事例が多くみられた。また、調査票に記入されたものだけで130万円以上の未収金も発生している。これらのケースは、未受診妊婦が医療資源に負担をかけ、他の妊婦への影響を懸念せしめ、あるいは今後の事故や事件に発展する可能性も想定すべきものでもある。

 さらに、複数回未受診・飛込み出産した妊婦として分娩した妊婦が、望まない妊娠を回避するために避妊希望した場合、そのほとんどが経済的に困窮しているため、その費用をどうするかといった問題点も存在する。

(2)退院後

 退院後も保育環境は厳しいと言わざるを得ない。その背景には経済的事情のみならず、母子の孤立や知識不足など、社会的弱者へ十分な教育・福祉サービスが届いていない現実があると考えられる。また、母自身に親との長期離別や被虐待歴がある事例が複数あり、未受診妊婦の母親も未受診であった例も報告されていることから、世代を超えた「未受診の連鎖」が懸念される。同胞例におけるネグレクト、虐待も散見され、そうした環境に新生児を送り出して良いのかという疑念を抱かざるを得ない現実も、周産期医療の現場には存在する。

 このような世代を越えた連鎖を断ち切るためには、生まれてきた子どもの養育面への支援が重要である。今回の調査で生まれた子どもに対して、43%(不明を除くと75%)が「かわいい」と感じていることが明らかになった。同時に母が対人関係障がいや精神疾患・薬物依存症等の精神科領域の問題を抱えている事例も複数あり、精神科領域(医療機関や保健所)との連携は欠かせないと言えるが、まだ体制ができていないのが実状である。母の子どもに対する「かわいい」と感じた思いを大事にし、養育できるように、地域の関係機関は、今後児童虐待リスクを十分に認識し、発生リスクの軽減・回避を図るため、各々の役割を生かしつつ、連携しながら継続して支援していくことが必要である。

(3)妊娠に至るまで

 未成年の妊婦の状況を考えると、家族にも相談できず、対応策を見いだせないまま出産に至っている事例が多くを占めていることから、若年者が相談しやすい窓口機能が必要であり、その窓口の存在を知ることができる機会も併せて必要である。さらに、パートナーも未成年であることを踏まえると、男女ともに思春期からの妊娠に関する正しい知識や、命の大切さに関する学習の機会が必要である。

まとめ

 2年間の未受診・飛込み出産実態調査において、大阪府内の年間分娩数約7万7千件のうち、21年度152件(29施設)、22年度148件(31施設)の報告があり、府内でお産をする人の約500人に1人は未受診妊婦であり、医学的にも社会的にもハイリスクであることが実証された。
また、本調査により、未受診・飛び込み出産には、大きく2つの課題があることが明らかになった。

 まず、第1点めは、未受診・飛び込み出産が、いかに受入医療機関に大きな負担を強いる事象であるかということである。
 平成22年度の調査においては、平成21年度調査内容よりも未受診妊婦の一人一人が抱える背景を詳しく調査したことにより、各々の事例が抱える問題の複雑さ・深刻さ・困難さが明らかになり、未受診・飛込み出産を受け入れている医療機関及び医療関係者の負担の度合いは、予想通り非常に大きいことがわかった。
 未収金の問題が、受け入れ医療機関の直接的な損害となっていることに加え、母子ともに医療的リスクを抱えた状態での出産に対応する医師・看護師・助産師、さらには、産後数日間という短い期間の中で、地域の行政機関と連携をとるべく奔走する医療ソーシャルワーカーの困難な実情が浮き彫りになった。しかしその一方で、行政機関側は、役割や権限の限界、多忙などを理由になかなか介入しきれていない現状も見えてきた。

 第2点めは、未受診・飛び込み出産と児童虐待の関連性についてである。
 我々は、未受診・飛び込み出産という行為は、「胎児虐待」とも言えるのではないかと考えている。
 なぜなら対象事例のうち、死産児も子宮内胎児死亡ではなく分娩時死亡であったケースが含まれており、適切な産科管理があれば救命できたと考えられるからである。
 胎児や出生直後の新生児への健康侵害が、母体の行動によって引き起こされているとしか思えないケースは、まだ社会的にも医学的にも認知さえされていないのが現状である。
 しかし、この問題を児の側から見れば、『胎児虐待』という概念で捉える必要があるのではないだろうか。
一方、今後の児童虐待リスクの視点から、未受診妊婦の家庭環境、成育環境を見ると、妊婦本人が児童虐待やDVを受けた被害者であったり、既出生児の虐待歴を有し、且つ社会的に孤立している事例が少なからず存在する。
また、今回の調査で特記事項に記入された21例の中だけでも、3例の乳児死亡があり、乳児虐待ないしはネグレクトが危惧される症例が5例あった。

 以上のことから、未受診妊婦と児童虐待の背景因子は類似点が多く、未受診妊婦は、「未受診であること自体、胎児虐待と言える」だけでなく、「乳幼児虐待につながるリスクが高い」ことが裏付けられたと言える。
 それゆえ今後行政機関は、入院期間中という短期間の関わりにならざるを得ない医療機関からの虐待リスク情報に対して、本調査で明らかになった未受診妊婦が抱える背景や特性を踏まえ、児童相談所による迅速な介入と、乳児や母子の緊急避難を含めた対応の手続きの簡略化、市町村福祉担当課による助産制度等の弾力的運用が望まれる。
 また、児童虐待の最初の犠牲児は周産期から始まっているという認識の下、医療、保健、福祉機関は、妊娠中の僅かな機会を适さず捉え、ハイリスク妊婦を確実に把握することが重要である。
 さらに、各関係機関が必要な情報を共有し、個別の事例に応じた具体的な支援が行えるよう各々の役割を生かしながら、連携体制の整備を図っていくことも求められる。

報告書を終えて

 私自身【未受診妊婦】調査を始める時には【児童虐待】に結びつくとか、【胎児虐待】などといった概念は持っていませんでした。日々の周産期医療現場の苦悩を何とかしたいという思いだけでした。
 調査は大阪産婦人科医会所属全医療機関の協力の賜物であり、委員会を代表して改めて全ての会員各位に深謝致します。高木 哲大阪産婦人科医会会長のご指導にも深謝致します。 さらに多方面からのご助言、ご提案をいただいた大阪府健康医療部保健医療室健康づくり課母子グループ、今回貴重な情報提供をしていただいた医療ソーシャルワーカー各位にも深謝致します。出来上がった報告書は、不十分な情報収集部分もありますが、ご容赦いただけますようお願い致します。
 今回の報告書で実態調査としては、一定の成果が挙がったものと確信致しております。今後はこれを土台にして実効性のある施策実施の段階と考えます。大阪、やがては日本からこのような悲劇がなくなることを祈念して止みません。そのための第一歩は踏み出したと信じております。

大阪産婦人科医会
未受診実態調査委員会
委員長 光田 信明

このページの作成所属
健康医療部 保健医療室地域保健課 母子グループ

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