大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第227号)

更新日:2013年10月25日

大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第227号)

〔学校体罰関係文書部分公開決定異議申立事案〕(答申日 平成25年10月25日)

 

第一 審査会の結論

  大阪府教育委員会(以下「実施機関」という。)は、本件異議申立てに係る部分公開決定において非公開とした部分のうち、別紙2において「非公開が妥当」とした部分を除き公開すべきである。

 実施機関のその余の判断は妥当である。

 

 

第二 異議申立ての経過

1 異議申立人は、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により平成24年5月7日、実施機関に対して、以下の文書の公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。

 ア 大阪府小・中・高等学校にかかる学校事故(体罰)報告書(加害教師の反省文、顛末書等を含む。また政令指定都市である大阪市を除く市町村教育委員会より提出されたものを含む。)のうち平成23年度提出分(平成24年3月28日付け「部分公開決定通知書」(教委総第4113号)別表1において「市教委報告書」「校長報告書」「本人顛末書」「校長顛末書」「遅延理由書」「嘆願書」「示談書」「現場の状況」「和解記録」「出席簿」とされたものと同種文書)

 イ 教職員に係る係争中の争訟事件等の調査について(回答)うち、体罰に係る懲戒処分等(文部科学省が行った調査に対する回答文書)のうち平成23年度提出分(平成22年4月1日〜平成23年3月31日)       

 

2 同年5月16日、実施機関は、本件請求について、条例第14条第2項の規定により、決定期間延長を行い、異議申立人へ通知した。

 

3 同年6月5日、実施機関は、条例第13条第1項の規定により、本件請求のうちアに対応する行政文書として別紙1(1)の行政文書(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、同(2)の「開示しないことと決定した部分」を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、同(3)のとおり「開示しない理由」を付して異議申立人に通知した。

  また、同日、実施機関は、本件請求のうちイに対応する行政文書として、行政文書「【様式3】懲戒処分等(体罰に係るもの)」を特定の上、条例第13条第1項の規定により、全部公開するとの公開決定を行い、異議申立人へ通知した。

 

4 異議申立人は、本件決定を不服として、平成24年7月21日、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)を行った。

 

 

第三  異議申立ての趣旨

 本件決定を取消し、変更するとの決定を求める。

 

 

第四  当事者の主張要旨

 異議申立人の主張は概ね以下のとおりである。

 

1 異議申立書における主張

 異議申立人は、本件行政文書の部分公開範囲は、平成18年12月22日大阪高等裁判所判決(平成18年行コ第26号事件、同第68号事件)および平成23年2月2日大阪高等裁判所判決(平成22年行コ第153号事件)に違背するものであり、これら判決に沿うように、本件決定を取消し、部分公開範囲を変更するよう求めるものである。

 これら2件の高裁判決は、本件行政文書の中にも同じものが含まれる、兵庫県教育委員会における体罰事故報告書につき、学校での教員の体罰は教育公務員の職務遂行行為であるから、非公開事由に当たらず、体罰事故報告書の教員の所属学校名・校長名さらに加害教員の氏名も公開されるべきだ、等とする原審判決の判断を支持した。この判決は、公立学校における体罰問題の重大性と、その公開の意義・必要性を正面から認めたものと評価できる。

 ちなみにこれら高裁判決のうち第一のものは上告棄却・上告受理申立不受理により確定し、第二のものは、学校名・校長名の公開については争われず、加害教員氏名の公開部分についてのみ、上告受理申立されたが上告受理申立不受理により確定した。末尾に示した新聞報道にみられるとおり、兵庫県教育委員会は、学校体罰事故報告書の公開において、複数にわたる裁判所の判決と、兵庫県情報公開・個人情報保護審査会の答申を踏まえ、昨年から全ての管理下の学校において学校名と学校長名を公開するように判断を変更している。

 またこうした公開範囲の変更の結果、兵庫県下においては、一時神戸市教育委員会のみが、体罰事故報告書において学校名・学校長名の非公開を行っている状況になっていたが、しかるにこれも末尾添付の新聞報道にあるとおり、神戸市教委は、司法判断を待つことなく自発的に兵庫県教委と同じレベルにまで公開範囲を広げる決定を、行った。

 なお京都市教育委員会も同じ判断をしており、京都府教育委員会では、現在この問題の扱いを上記判例をもふまえ、検討中とのことである。

 大阪高等裁判所でこのような判断が続いている以上、その司法判断は高裁管轄内の他の府県や政令市、その他市町等においても尊重されるべきものである。これと異なる決定を行政機関が行えば、三権分立のもと、司法の意義を損なうものであり、またそれが裁判所に持ち出された場合覆される可能性が高い。大阪府と兵庫県の情報公開条例の本判決関連規定もほぼ同一であり、本高裁判断はその意味でも直接に関連するものである。

 また兵庫県下の公立学校において公開しても児童生徒の利益を害さないと裁判所に判断されたと同じ情報が、近隣他府県の公立学校においてはそれを公開すると一律に児童生徒の利益を害することになると考えることは困難である。そのような特有の事情があるとは考えられない。

 仮に、学校名等を公開すれば児童生徒が特定されるような事情が例外的にあるような場合があったとしても、その場合はまさにそのようなケースにかぎり、個別判断によってごく例外的・限定的に非公開にすればよいと考える。なお上記裁判所の判断においても、学校名・学校長名を公開することで、児童生徒が特定されることになるなどとしたものは、一件も存在しない。

 従って本件行政文書のうち、これら高裁判決に関連する公文書とその記載内容については、これら高裁判決に従って本件決定が見直されるべきである。具体的には第一に、本件決定通知書「別紙1」記載の「(1)行政文書」1から11の中に含まれる、「校長報告書」及び「市教委報告書」における「被害児童生徒の氏名及びこれを特定しうる事項」以外の部分全てである。第二に、「校長報告書」及び「市教委報告書」以外の文書において、上記判決の論理からして公開されるべき部分全てである。

 仮に何らかの理由で加害教員名を公開しないこととしても、「校長報告書」および「市教委報告書」における学校名、学校長名及びこれを特定しうる事項を公開したところで、加害教員を特定することはできない。よって少なくともこれらは公開されるべきであり、加害教員も被害児童生徒も特定することのない、負傷の程度、事件発生日時その他の情報についても同様である。

※ 異議申立書には、添付資料として「1.平成18年12月22日大阪高等裁判所判決(平成18年行コ第26号事件、同第68号事件)(判例タイムズ1254号132頁)」、「2.平成22年9月14日神戸地方裁判所判決(平成21年行ウ第20号事件)(写し)」、「3.平成23年2月2日大阪高等裁判所判決(平成22年行コ第153号事件)(写し)(2.の控訴審判決)」が添付されていた(添付略)。

 また、関係新聞記事の引用の記載があった(記載略)。

 

2 反論書における主張

(1)意見書の趣旨

 「第五 実施機関の主張要旨」の非公開理由は、非公開の根拠とはなりえない不当なものであり、異議申立書に記載の通り、本件行政文書の本件決定を取消し、変更するべきとの答申を求める。

 特に学校名、校長名、加害教員名の非公開を取り消すべきとの答申を求める。

 その他児童生徒の識別にいたらない情報について、異議申立書に記載の通り、非公開を取り消すべきとの答申を求める。

(2)総論一司法判断の存在一

 本件行政文書と同種の文書の兵庫県教委の非公開処分に対しては、異議申立書で示したとおり、すでに地裁、高裁において四件もの司法判断が存在し上告等の手続を経た上確定している。それらはいずれも、貴審査会の審査・答申において尊重されるべき裁判所の判断である。貴審査会おいては、本件がそうした性質の事案であることを踏まえ、これら司法判断の内容を十分吟味した上で、情報公開の専門機関として適正な判断をされるよう期待する。これら判決は、条例の解釈として説得力があり、情報公開の精神に適い、不必要に情報公開の範囲を広げてしまう問題点ももたず、他方で児童生徒のプライバシーにも配慮した優れたものといえる。詳細は判決をお読みいただければ十分であると思われる。

 実施機関は縷々理由を述べているが、自身がこれら関連司法判断を尊重し従うのか否かという肝心な点については何も述べていない。法治行政の基本として、条例解釈に当たって直接関連する司法判断が尊重されるべきことは法律論のイロハである。この点に口をつぐみ、実質的にはそれを否定しあるいは潜脱するような解釈を行政が取るようなことは厳に戒められなければならない。しかるに実施機関が述べている理由の多くは、まさにこのような司法判断の否定あるいは潜脱に他ならない。貴審査会におかれては、この点にも充分なご留意をいただきたいと考える。

 本件の主要な争点は、本件決定の適法性であり、具体的には、〔1〕本件行政文書に記録された情報は、条例9条1号の非公開事由に該当するか否か、〔2〕本件各文書に記録された情報は、条例8条1項4号の非公開事由に該当するか否か、である。以下この順で論じる。

(3)非公開理由への反論その1 本件条例9条1号該当性

ア 本件条例9条1号の解釈

(ア)本件条例9条1号は、個人のプライバシーが個人の尊厳に直接かかわる権利であること、プライバシーの侵害は事後的な回復が不可能であること等から、個人のプライバシーを保護することを目的として、個人に関する情報であって、「特定の個人が識別され得るもの」のうち、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報を非公開とすることとした規定である。

(イ)このうち「特定の個人が識別され得るもの」とは、氏名、住所等により特定の個人を直接識別することができる場合だけでなく、その情報だけでは特定の個人を識別することはできないが、他の情報と比較的容易に関連付けることができ、そのことにより、間接的に特定の個人を識別することができる揚合を含む(モザイクアプローチ)。

 他方、本件条例の趣旨等にかんがみると、モザイクアプローチによった場合でも、特定の個人を識別することが、相当程度の蓋然性をもってできる場合のみをいい、特定の個人を識別することができる可能性があるというにすぎない場合を除く。

 そして、上記「他の情報」とは、「一般人が通常入手し得る関連情報」との考え方が示されており(最高裁平成3年(行ツ)第18号同6年1月27日第一小法廷判決・民集48巻1号53頁)、広く刊行されている新聞、雑誌、書籍や、図書館等の公共施設で一般に入手可能な情報等をいい、特別の調査をすれば入手しうるかもしれない情報については「他の情報」に含まれない。

 また、図書館等の公共施設で入手可能な書籍等からの情報であっても、国立図書館、最高裁判所図書館、あるいはある特定地域のごく限られた図書館には開架されているが、一般人には、そのような特定の図書館に当該書籍等が開架されているとは容易に思いつかないような書籍等からの情報については、「一般に」入手可能な情報とはいえない。

 また、上記関連情報と比較的容易に関連付けることができる揚合でなければならないから、特殊な知識の持ち主が、熱意をもって長時間かけて上記関連情報と関連付けて検討を加えない限り、特定の個人を識別することができない揚合には、本件条例9条1号の「特定の個人が識別され得るもの」に当たらない。

(ウ)「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」とは、特定の個人の主観的判断のいかんを問わず、社会通念に照らして判断すると、他人に知られたくないと思うことが通常であると認められる情報をいう。ただし、公務員の職務の遂行に係る情報については、「通常他人に知られたくないと認められるもの」に当たらず、これらの情報が記録されている公文書については公開しなければならない。学校での教員が体罰を行ったことは教育公務員の職務遂行情報であるから、非公開事由に当たらない。

 また仮に、公務員の職務の遂行に関する情報であっても、公務員個人の私事に関する情報が含まれる場合は、同号の非公開情報に当たり(最高裁平成15年11月11日第三小法廷判決・民集57巻10号1387頁)、また公務員が懲戒処分等を受けたことを示す情報は、公務員個人の私事に関する情報であって、本件条例6条1号前段の非公開事由に該当する(最高裁平成15年11月21日第二小法廷判決・民集57巻10号1600頁)。しかしその揚合も、「懲戒処分等を受けた」ことや「受けるであろう処分等の内容」が当該の「公務員の職務の遂行に関する情報」の中に「含まれて」いるのでなければならない。すなわち当該情報の中に懲戒処分等を受けたことや受けることが直接示されているのでなければならない(上記の最高裁平成15年11月11日第三小法廷判決は、公務員の出勤簿に「停職」の記載があった事例である。)。単に「懲戒処分等を受ける必要があると評価された」と認められるとか、懲戒処分等を受けたことが推認されるとか、実施機関が他に示した情報等と照らせば懲戒処分等を受けたことが分かる、などという場合は認められない。すなわちこの揚合は、「懲戒処分等を受けた」ことが当該の「公務員の職務の遂行に関する情報」の中に「含まれて」いるとはいえない。

イ 実施機関の主張の問題点

 以上の解釈を踏まえると、実施機関の主張には次のような問題点がある。

(ア)「特定の個人が識別され得る」かどうかにつき、上記解釈によっておらず、また実際に特定可能かどうかを立証していない点。

 実施機関は、学校体罰事件においてまわりに目撃者や事情を知っている者がいること等を述べているが、それは条例の解釈とは関係がない。問題は、「一般人が通常入手し得る関連情報」と「比較的容易に関連付けることができる」ことによって児童生徒が特定できるかどうかであり、被害児童生徒がまわりの者に知られていることは、この要件とは関係ない。

 他方でこのような事態があることから、そのまま「被害児童生徒の氏名が判明している」〔8頁(2)〕などと、この要件が充足されているかのごとき記述をしているが、およそ法律論とは言い難い。

 さらにまた、学校名教員名を公開すれば、「当該学校関係者に質問すること等の容易な方法により」被害児童生徒が特定されるとしている〔8頁(3)〕が、そのような「特別の調査をすれば入手しうるかもしれない情報」については「他の情報」に含まれないこと上記の通りであり、このような調査による特定は、「特殊な知識の持ち主が、熱意をもって長時間かけて上記関連情報と関連付けて検討を加えない限り、特定の個人を識別することができない揚合」に他ならない。実施機関管理下の学校関係者は、それほど簡単に児童生徒のプライバシー情報を漏らすのであろうか。学校名教員名を公開しても、そのような漏洩に至らないことは、すでにそれらを原則公開している他の教育委員会の実践からも明らかであるし、上記司法判断はそもそもそのような主張を認めていない。

 実施機関は、これらを公開すると被害児童生徒が必然的に特定される旨主張するが、この点については、異議申立人の主張を大幅に認めた平成23年、18年の高裁判決とその原審は正面から否定している(よってその公開を認めている)し、被告兵庫県教委の主張を大きく認めた以前の高裁判決とその原審ですら認めていない。兵庫県教委はこの点の立証に一度も成功していない。

 厳密な証拠手続と対審構造に基づいた事実認定、およびそこからする司法判断の重みは、貴審査会においても当然に尊重いただけるものと考える。

(イ)「一般に他人に知られたくない望むことが正当であると認められる」かどうかについて、上記解釈によっていない点。

 本件行政文書が被害児童生徒のプライバシーに関わることは当然である。しかしそれはまわりに目撃者や事情を知っている者がいるかどうかとは再び関係がない。他方で事情を詳しく知らない「同級生、保護者等の関係者」に対して「公にすることにより」プライバシー侵害となるとする〔8頁(2)〕記述もあるが意味不明である。情報公開条例の解釈は「一般に」公にすることによるプライバシー侵害を問題とすべきであって、公開請求者が関係者かどうかは問題にすべきではない。そのような可能性まで考えていたらおよそ公開すべき情報は存在しなくなるし、そのような主張を認めた司法判断も存在せず、これまで退けられている。

(ウ)体罰事故報告書の教員の氏名を、懲戒処分と結びつけて論じている点。

 上記高裁判決は、体罰事故報告書の加害教員の氏名については、本人が後に処分を受けていることをもって、非公開とすることを認めていない。にもかかわらず実施機関はこの点に固執し、司法判断を無視している。裁判所は、このようなことを理由に、非公開事由該当性を認めることは、公務員にとって不都合な情報を広く非公開とすることであって、情報公開制度の趣旨に添うものでないことを明言している。

 なお平成18年高裁判決は、「県の諸活動を県民に説明する責務は、単に適切に行われた公務員の職務の遂行に関する情報についてのみ向けられているのではなく、非違行為など違法・不当と評価され得るような公務員の職務の遂行に関する情報についても向けられていると解すべきであって、控訴人の主張するように懲戒処分等を受ける蓋然性のある立揚におかれたということを示す情報であるから公務員の私事に関する情報であるという理由によって、体罰発生報告書によって体罰の発生の報告がされたという情報が前段の非公開情報であるとすることは、本件条例の趣旨・目的に明らかに反するといわざるを得ない」と明言している(44頁)。

 貴審査会が、この点についても本判決に沿った適正な判断をされるものと信ずる。

(エ)教員名を公開すると被害児童生徒に二次被害が及ぶという主張の無根拠性。

 教員名を公開すると児童生徒が周囲の保護者や児童生徒からいじめられることになるそうである〔10頁4〕。教員名を公開している自治体(兵庫県、鳥取県、東京都品川区等)でそのような事態が起きているという話は寡聞にして聞かない。実施機関は大阪府下の保護者や児童生徒は特別だとでもいいたいのであろうか。

(4)条例8条1項4号該当性について

 実施機関のこの点についての主張は、本号該当が「第9条第1号に該当しない部分について」であるとしている〔9頁(1)〕。しかし本号該当か「第9条第1号」該当かは本来別個の問題であって、前者に該当しない部分が後者に該当するという主張は、きわめて便宜的恣意的な条例解釈というほかない。そうした主張自体失当である。

 他方、本件情報がこのような「事務事業支障情報」であるかどうかの判断基準についても、平成23年高裁判決で論じられており、結論として否定している(23〜24頁)。実施機関はそうした支障が生じる蓋然性につき具体的に立証すべきであるが、何らなされているとは言い難い。学校長が詳細を把握できなくなるとか、関係機関から情報提供が受けにくくなるというが、根拠薄弱である。「事務の目的が達成できなくなる」とか、「これらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれ」があるとはいいえない。

(5)参考資料

 反論書には参考資料として、体罰事故報告書の学校名、校長名、加害教員名まで公開している兵庫県教委の事例と鳥取県教委の事例が添付されていた(添付略)。要はこの程度まで広げて何ら問題はなく、司法判断もそれを支持している以上、実施機関の非公開部分は広範に過ぎるということにつきる。

(6)結論

 以上から、実施機関の「第五 実施機関の主張要旨」の非公開理由は、非公開の根拠とはなりえない不当なものであり、異議申立書に記載の通り、本件行政文書の本件決定を取消し、変更すべきとの答申を求める。

 特に学校名、校長名、加害教員名の非公開を取り消すべきとの答申を求める。

 その他児童生徒の識別にいたらない情報について、異議申立書に記載の通り、非公開を取り消すべきとの答申を求める。

(7)その他

 口頭による意見陳述を希望しない点は異議申立書で記したとおり。ただし貴審査会において必要と判断される場合は、この限りではない。

 

 

第五  実施機関の主張要旨

 実施機関の主張は概ね以下のとおりである。

 

1 本件行政文書について

 本件行政文書は、府内の公立小・中・高等学校の学校長及び市教育委員会が、校内又は校外において体罰と疑われる事象が発生した時、加害教諭、被害児童生徒、その他体罰を目撃等した関係者等から事情を聴取し、当該事象が体罰という懲戒処分の対象行為であると判断した場合に作成され、実施機関に対し報告した文書である。

 実施機関は、提出された報告書に基づき体罰の発生を詳細に了知し、加害教諭や関係者等への事情聴取を行い、報告書の内容を補充し事実確認を行った上で、当該体罰を行った教諭を含む関係者に対する懲戒処分等の是非又は量定を検討し適切な処置を行っている。

 

2 条例第9条第1号の該当性について

 個人の尊厳の確保、基本的人権の尊重のため、個人のプライバシーは最大限に保護されなければならない。

 特に個人のプライバシーは一旦侵害されると、当該個人に回復困難な損害を及ぼすことに鑑み、条例はその前文において「個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護すること」を明記し、条例第5条において「実施機関及び実施法人は、この条例の解釈及び運用に当たっては、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものをみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない。」ことを定めている。

 そして、条例第9条第1号においては、「個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」については、「公開してはならない情報」とし、公開することを禁止するという基本原則が明確に定められている。

 条例第9条第1号の「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報とは、一般的に社会通念上、他人に知られることを望まないものをいい、この「正当であると認められる」情報の判断については、被害児童生徒個人を取り巻く背景や情報そのものの性質等を十分に考慮した上で行うべきであると考えている。

(1)被害児童生徒の氏名、住所及び関係者の氏名については、明らかに「特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報である。  

(2)被害児童生徒の家庭・学校における生活・学習の状況、負傷の概要及び診断書記載内容や、被害児童生徒及び関係者の発言内容、事象発生状況及び事案発生後の経過・対応における児童生徒の行動や被害に関する情報について述べる。

  校内において体罰と疑われる事象が発生する状況は、当事者のみしか知り得ない完全な密室状況で起こるものは非常に稀れで、通常の場合は、事案の目撃者又は周辺において事案が発生した兆し等を認知した関係者が存在しているものである。

  例えば、門真市立小学校の場合は、体罰の現場に居合わせた友達が状況を目撃しており、 八尾市立中学校の場合は、体罰事象が授業中であったことで被害児童生徒が保健室へ行っていることから、被害児童生徒の氏名は判明している。門真市立中学校の場合では、被害児童生徒が加害教諭による体罰によって負傷し、救急車を呼ぶ事態に発展したため、被害児童生徒の氏名は広く全校生徒に知られることとなり、四條畷市立中学校の場合は、被害児童生徒が友達に体罰の状況を話したこと、公式戦辞退とその説明からクラブ関係者にも広く知れ渡っている。また、柏原市立中学校の場合は、校外での事象であり、学校関係者以外の多くの者が体罰の状況を目撃している。

 そして、体罰と疑われる事象が発生した時は、加害教諭、被害児童生徒の当事者のみならず、その他体罰を目撃等したと思われる関係者から事情聴取を行うため、被害児童生徒の氏名及び事象発生日時については知れ渡ることとなる。

 さらに、児童生徒への教育的配慮上、被害児童生徒の氏名を出すものの、体罰事象の具体的な被害状況はオブラートに包みながら経過説明会を開催することが多く、守口市立小学校においては保護者集会、吹田市立中学校においては学年懇談会が開催された。

  以上のことから、被害児童生徒の氏名等は判明しているが、詳細な体罰事象状況や負傷状況等を知らない同級生、保護者等の関係者に対して、公にすることにより「特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報に該当することとなる。

(3) 被害児童生徒の生年月日、身長・体重、事象発生日時については、その通学する学校名及び校長名が公になれば、当該学校関係者に質問すること等の容易な方法により、被害児童生徒が特定されるため、「特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報に該当することとなる。

(4) 校舎配置図、事象発生現場の見取図に関しては、すべての報告書の校舎配置図や発生現場見取図を公開しないとした訳ではなく、校舎配置図やその学校特定の教室等により学校名を特定できるもののみ、(3)と同様の情報に該当すると考える。

(5) 処分等の対象となった教諭の氏名、当該教諭に係る事情聴取書の写し、聞き取り及び指導(写)(事情聴取書)等の教諭の氏名を特定し得る情報については、公務員の職務遂行に係る情報であるため、被害児童生徒の氏名等を除いて、本来ならば原則公開すべきものであると考える。

 しかし、教諭の氏名が公になれば、情報公開請求を行うことにより、一般の方も容易に入手可能な情報と照合することにより、学校名が特定され、(3)と同様に被害児童生徒が特定されるため「特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報に該当すると考えられる。

 また、教諭が処分等の対象となった情報は、当該教諭にとっては、過去の不名誉な経歴が周囲に知られるため、そのことによって処分等による法的な不利益以上の何らかの事実上の不利益、例えば、同僚・保護者等からの信頼低下等を公務員の立場を離れたとしても被る結果となることは容易に推測できるので、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる情報でもある。

(6) 処分等の対象となった教諭の履歴書の写し、人事記録カード(写)及び出勤簿(写)のうち教員採用前の履歴等の公務に関係の無い情報は、明らかに「特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報であり、公務に関係する情報については、教諭の氏名が特定される可能性が高いため(5)と同様の情報である。

(7) また、処分等の対象となった教諭の氏名が公になった場合、被害児童生徒に対して次のような二次被害が及ぶと考えられる。具体的には、過去の事例からしても、処分の対象となった教諭は、熱心で指導力もあり保護者や児童生徒からの信頼も厚いことから、処分対象となった教諭の氏名が公開されたことにより、被害児童生徒との関係も明らかとなり、周囲の保護者、児童生徒から当該教諭の処分の対象となる事象を起こした原因があるとして、被害児童生徒が非難を受けることとなる場合がある。被害児童生徒は、体罰事象により身体的にも精神的にも重大なダメージを負っているにも関わらず、二次被害を受けるような事態になれば、その精神的ショックは計り知れない。故に、被害児童生徒の保護の観点からも処分等の対象となった教諭の氏名に関しては非公開とする情報に該当する。

 

3 条例第8条第1項第4号の該当性について

  条例第8条第1項第4号は、「府の機関又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、入札、契約、交渉、渉外、争訟、調査研究、人事管理、企業経営等の事務に関する情報であって、公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの」に該当する情報について規定している。

 行政が行う事務事業に係る情報の中には、当該事務事業の性質、目的等からみて、執行前あるいは執行過程で公開することにより、当該事務事業の実施の目的を失い、又はその公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼし、ひいては、府民全体の利益を損なうおそれがあるものがある。また、反復継続的な事務事業に関する情報の中には、当該事務事業実施後であっても、これを公開することにより同種の事務事業の目的が達成できなくなり、公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるものもある。

(1)処分等の対象となった教諭に係る事情聴取書の写し、並びに聞き取り及び指導(写)(事情聴取書)のうち、学校長による当該事象に対する見解や当該教諭の人物評価など、条例第9条第1号に該当しない部分については、体罰等に至る経過等について、当該教諭の当時の言動、心境又は当該教諭の日頃の生活態度等に関する情報など、被害児童生徒・保護者等との関係者に関するものも含めて具体的かつ詳細に記載されている。

  これらの情報は、当該教諭等の個人を識別出来ない情報として公にしたとしても、特定の関係者に知れるおそれがあるだけで、今後、公開が前提としてなされることとなれば、事情聴取の対象となった本人又は関係者から事情聴取する場合、学校長が個人情報の保護への配慮等から詳細な情報を把握することが難しく、実施機関に報告するための各市町村教育委員会の報告書においても同様の事態が容易に予測されるため、実施機関が正確かつ詳細な情報を得ることに著しい支障が生じるおそれがあり、その結果、当該教諭等への処分等の事務の目的が達成できず、公正かつ適正な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。

 (2)処分等の対象となった教諭に係る報告書に記載のある学校長が行った事実確認に必要となる関係機関とのやり取り等のうち、条例第9条第1号に該当しない部分については、公にすることにより、柏原市立中学校のような体罰事象が校外での場合や、被害児童生徒が○○○○等の関係機関からの情報や事象の詳細が公になることとなり、今後、関係機関からの情報提供が受けにくくなり、その結果、体罰等の事象の事実が正確に把握できなくなり、当該教諭等への処分等の事務の目的が達成できず、公正かつ適正な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。

 

4 異議申立人の主張について

 異議申立人は、「学校名等を公開すれば、児童生徒が特定されるような事情が例外的にあるような場合があったとしても、その場合はまさにそのようなケースに限り、個別判断によってごく例外的・限定的に非公開にすればよいと考える。」と主張しているが、そのようなケースについては公開に努めていきたいと考えており、現に「事案発生後の経過と対応」、「今後の学校の対応」、「学校の体罰防止の取組みの経過と今後の対応」、「市町村教委の認識と対応」等において、報告書のうち条例第9条第1号等の規定に該当しないと判断した部分は、公開している。

 しかし、体罰事象が発生したことを当該学校内で知っている者が被害児童生徒、加害教諭と校長等に限定されている体罰事象は皆無であり、また、教諭への処分等を検討する基礎資料となる報告書の中で、個別の体罰事象に関する記載部分について被害児童生徒が特定できない程に抽象的な記載がされているものも皆無である。

 ひとたび被害児童生徒が特定されることとなれば、体罰による精神的、身体的ダメージに加え、生徒の生活する地域の中で、社会的な好奇の目にさらされることとなり、情報が独り歩きするなど二次被害に陥るおそれがある。

 一方、体罰事象に関しては、教育公務員としての職務に反するものであり、社会的責任を負うべき問題であると認識している。その行為自体が大阪における教育行政に対する府民の信頼を損なうおそれがある行為というべきであり、個人のプライバシーに関する情報を除いて公開することにより、その行為自体とこれに対して講じられた措置の具体的な内容が公にされ、その結果、教育行政の公正な運営と府民の信頼が確保されることも理解している。

 そこで、実施機関としては、職員の処分について、処分内容のほか、市町村名、校種、職種、年齢、発生日時及び概要を報道関係者へ情報提供しており、体罰事象についてもこれらの情報は、新聞報道等により広く周知しているところである。

 しかしながら、被害児童生徒の精神的ケアを考えた場合に、体罰の被害者として最大限の配慮をしなければならない児童生徒のプライバシーは死守し、学校生活を安心して送らせる責務があるため、本件行政文書と同種の文書の情報公開には非常に慎重に対応している。

 

5 結論

 以上のとおり、本件決定は、条例に基づき適正に行われたものであり、違法、不当な点はなく適法かつ妥当なものである。

 

 

第六  審査会の判断理由

 

1 条例の基本的な考え方について

 行政文書公開についての条例の基本的な理念は、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより、「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。

 このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。

 このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならないのである。

 

  2 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について           

(1)本件行政文書について

 本件行政文書は、平成23年度に政令指定都市である大阪市を除く市町村教育委員会等が体罰事案の発生に伴い関係者等へ事情聴取を行った結果、懲戒処分の対象行為となる体罰であると判断し、実施機関へ提出した大阪府小・中・高等学校における学校事故(体罰)報告書等である(実施機関が決定した対象文書は別紙1のとおり)。これらの文書は事情聴取により把握された体罰事案の事実経過、その後の対応等が具体的に記載されており、これを広く公表することが加害教員に対する適正な処分や体罰の再発防止、教育行政に対する信頼回復に資すると考えられる。報告書等は本来、関係者が真摯に反省し協議して体罰等の再発を防ぐ貴重な資料となるべき性質のものであり、教育現場で最大限に活用されることが望ましい。また、報告書等の作成が懲罰的に受け止められている風土があるならば一掃されなければならない。

 異議申立人は、実施機関が学校名、校長名、加害教員名及び児童生徒の識別にいたらない情報について、条例第8条第1項第4号及び条例第9条第1号に該当するとして非公開としたのは高裁判決(最高裁確定)に違背している旨主張しているので、以下検討する。

(2)条例第8条第1項第4号該当性について

 条例は、行政が行う反復継続的な事務事業に関する情報の中には、これを公開することにより当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるものがある場合には、これを公開しないことができる旨規定している。

 また、同号の解説において、『「おそれのあるもの」に該当して公開しないことができるのは、当該情報を公開することによって、「事務の目的が達成できなくなり」、又は「事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼす」程度が名目的なものに止まらず具体的かつ客観的なものであり、またそれらの「おそれ」の程度も単なる確率的な可能性でなく法的保護に値する蓋然性がある場合に限られる。』とされている。

(3)条例第8条第1項第4号該当性にかかる当審査会の判断

 実施機関は、本件行政文書において加害教員等の関係者の個人が識別される情報が公開されると、事情聴取において、加害教員等が自己に都合の悪い事実を報告しなくなる等のおそれがあり、正確かつ詳細な情報を把握することが困難となれば、今後懲戒処分等の同種の事務の公正かつ適切な執行に支障を及ぼすおそれがあると主張する。

 確かに加害教員の氏名や学校名が公開されることになると、体罰に関する事情聴取に際して、加害教員が事実をありのままに発言することに消極的になるおそれがあると考えられるが、そもそも体罰事案において加害教員が進んで事情聴取に応じるとは想定し難いことからすると、本件行政文書を公開されることにより直ちに正確な事情聴取ができないことになり、ひいては、実施機関の当該事務に著しい支障が生じるとする主張には支障を及ぼすおそれに法的保護に値する蓋然性があるとはいえない。

(4)条例第9条第1号該当性について

 条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、併せて、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨を宣言している。また、条例第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない旨規定している。

 本号は、このような趣旨をうけて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたものである。

 同号は、

 ア 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって、

 イ 特定の個人が識別され得るもののうち、

 ウ 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる

情報が記録された行政文書については公開してはならない旨定めている。

 また、条例第9条第1号の解説において、『「イ 特定の個人が識別され得るもの」とは、特定の個人が当該行政文書の情報(氏名、住所等)から直接識別できる情報だけでなく、当該情報からは直接特定個人が識別できなくとも、他の情報と結びつけることにより、間接的に特定の個人が識別され得るものを含む(具体には、請求者が一般に公にされている住居表示、住宅地図その他により知り得た特定個人の氏名、住所等と結合することにより、特定個人が識別されるものをいう。)。なお、個人識別性の有無の判断に当たり、照合すべき他の情報の範囲については、当該情報が公開されることによって生じるプライバシー侵害の内容や程度、あるいは侵害が発生する蓋然性の程度等に照らし、総合的に検討すべきである。』とされている。

(5)条例第9条第1号該当性にかかる当審査会の判断

 本件行政文書には、「ア.被害児童生徒の情報」、「イ.加害教員の情報」及び「ウ.被害児童生徒や加害教員以外の者(以下「第三者」という。)の情報」が記載されているので、以下、順次検討する。

 ア 被害児童生徒の情報  

 (ア)体罰を受けた人が誰であるかが直接的に明らかとなる情報は、条例第9条第1号に該当する。本件行政文書において、具体的には、被害児童生徒の氏名、住所、生年月日等が該当する。

  この点に関し、実施機関は学校名、教員名等についても、被害児童生徒の特定につながると主張しているように解されるが、一般的にはこれらの情報から被害児童生徒の特定にはつながらないと解される。

 (イ)本件は学校内部で起こっている事案が多いことから、被害児童生徒が誰であるかを知っている又は容易に特定できる者がいると想定される。このため、例えば成績、校長の評価等、被害児童生徒が一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる情報は、条例第9条第1号に該当する。

  イ 加害教員の情報

  (ア)実施機関は、加害教員の氏名が公になれば学校名が明らかになり、結果として被害児童生徒の特定につながるおそれがあると主張しているように解されるが、加害教員の氏名が開示され、学校名が明らかになったとしても、ア(ア)で述べたように、一般的には学校名から被害児童生徒が特定されることはない。

 (イ)加害教員に関する情報のうち、公務員の職務上の行為に関する情報は一般に他人に知られたくないと望むことが正当であるとは認められないが、自宅住所、電話番号等の公務員の職務上の行為と無関係な情報は、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるから条例第9条第1号に該当する。

 ウ 第三者の情報

 本件行政文書に記載されている第三者の情報は次のとおりである。

 (ア)保護者に関する情報

 保護者に関する情報には、保護者の氏名、年齢及び電話番号が含まれており、これらの情報は被害児童生徒の特定につながる情報であるため、条例第9条第1号に該当する。

 (イ)目撃者等関係者に関する情報

 目撃者等関係者に関する情報には、被害児童生徒以外の児童生徒の氏名等関係者の情報が含まれており、児童生徒の氏名については通っている学校が明らかになる情報であるため、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる情報である。また、その他の目撃者等関係者の情報については、内容から見て被害児童生徒の特定につながる又は一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる情報であるため、条例第9条第1号に該当する。

 (ウ)教職員に関する情報

 教職員に関する情報には、加害教員以外の教員の氏名、生年月日等や教育委員会の職員氏名、印影が含まれている。

  これらの情報は公開されても被害児童生徒の特定にはつながらず、公務員の職務上の行為に関する情報は一般に他人に知られたくないと望むことが正当であるとは認められない。ただし、イ(イ)と同様に、教員の生年月日、学歴等の職務上の行為と無関係な情報は、条例第9条第1号に該当する。

 (エ)被害児童生徒を診察した病院の医師名及び印影

  これらの情報は公開されても被害児童生徒の特定にはつながらず、専門職の職務上の行為に関する情報は一般に他人に知られたくないと望むことが正当であるとは認められない。ただし、公にされていない医師の印影については、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる情報であるため、条例第9条第1号に該当する。

(オ)警察職員(警部補以下)の氏名

  この情報は(ウ)と同様で条例第9条第1号に該当しないが、業務の性質を考慮すると条例第8条第1項第5号の公共安全支障情報に該当しうる。

(6)以上のように、本件行政文書のうち、

 「ア 被害児童生徒の情報」については、被害児童生徒が直接的に誰であるかが明らかとなる情報及び一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる情報については、条例第9条第1号に該当し、非公開が妥当である。

 「イ 加害教員の情報」については、職務上の行為と無関係かつ一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる情報に限って非公開が妥当である。

 「ウ 第三者の情報」については、被害児童生徒の特定につながる又は一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる情報については、条例第9条第1号に該当し、非公開が妥当である。

 この考え方に基づいて当委員会が本件文書を見分したところ、別紙1の10番目の学校については、学校名、教員氏名及び第三者の情報等を開示すると、既に開示されている情報と照合することにより、被害児童生徒が特定されるおそれがあることが認められる。従って、同校に関しては実施機関の判断を妥当とするが、その他の学校については、別紙2記載の非公開が妥当と判断する部分を除き開示すべきである。

 

3 結論

 以上のとおりであるから、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。

 

(主に調査審議を行った委員の氏名)

 鈴木秀美、北村和生、小原正敏、細見三英子

このページの作成所属
府民文化部 府政情報室情報公開課 情報公開グループ

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