大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第88号)

更新日:2009年12月3日

 第一 審査会の結論

  実施機関は、本件異議申立ての対象となった部分公開決定(実施機関が本件異議申立てを一部認容し非公開の決定を取り消した部分を除く。)において非公開とした部分のうち、「管理職手当(円)」の欄を公開すべきである。

  実施機関のその余の判断は妥当である。

 

第二 異議申立ての経過

1 平成13年4月4日、異議申立人は、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、大阪府教育委員会(以下「実施機関」という。)に対し、「大阪府教育委員会総務課が集約した、下記の調査に対する回答、及び府下各市町村から集められた調査票 1 地方教育費調査(1998年度) 2 地方教育行政調査(1998年度)」の公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。

2 同年5月2日、実施機関は、本件請求に係る行政文書として「平成9会計年度地方教育費調査学校教育費調査票、同社会教育費・教育行政費調査票、同教育に係る収入調査票」及び「平成10年度地方教育行政調査票」を特定の上、「平成10年度地方教育行政調査票」(以下「本件調査票」という。)のうち19市町から提出があった調査票の一部を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、公開しない理由を次のとおり付して異議申立人に通知した。

(公開しない理由)

  条例第9条第2号に該当する。

  本件行政文書(非公開部分)は、統計法に基づき総務省に届け出て国(文部科学省)が実施する届出統計調査であり、これらの情報は統計法第15条の2第1項「統計上の目的以外に使用してはならない。」の規定により公にすることができない情報である。

3 同年5月9日、異議申立人は、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)を行った。

4 同年6月11日、実施機関は、本件異議申立ての一部を認容し、本件決定において公開しないこととされた部分のうち、大阪市を除く市町村の調査票に係る部分を全部公開する旨の決定を行い、異議申立人に通知した。この結果、本件決定により公開しないこととされた部分のうち、現時点において公開しないこととされているのは、「平成10年度地方教育行政調査票」のうち大阪市教育委員会から提出があった調査票の「4 教育長の項目のうち、『給料(円)』及び『管理職手当(円)』の欄」(以下「本件非公開部分」という。)のみとなっている。

 

第三 異議申立ての趣旨

本件決定の取消、及び当該情報の全部公開。

 

第四 異議申立人の主張

  本件決定は条例前文、第1条、第3条の趣旨に反する。

1 大阪市が本件非公開部分の公開を拒否したことのみをもって、実施機関が本件非公開部分を非公開としたのであるならば、それは大阪府の情報公開を大阪市が阻害した結果となり、いわば大阪府は被害者であるとの認識を異議申立人としても持ち得たが、大阪市教育長の給与額が、条例第9条第1号の個人情報に該当すると実施機関が認識する以上、実施機関も大阪市と同様の認識を持っていると解されるので、以下、教育長の給与額が個人情報に該当するか否かについて意見を述べる。

2 公務員の給与は国民が負担していることは言うまでもなく、その職務・責任に相当した給与が適正に支給されているかどうかを監視し、また国民がその情報を知ることも、条例の趣旨に合致したものであると解する。その上で、大阪市教育長の給与は大阪市民が負担しており、市民及び国民には上記同様の考えの下に、それを知る権利があるというべきである。

3 教育長という職は、教育委員として教職員の人事等に関する権限の一端を担っており、実質的な教育行政に対する影響力・権限は強大である。大阪市立学校の教諭は12100人(5月1日現在)であり、教育長はその巨大な大阪市教育行政の実務責任者であり、相対的にとらえて一般行政職よりもはるかに大きな権限を実質的に与えられている。教育長に限らず、外局・内局を含め、一自治体の職務分担の最大単位である組織のトップは、市長・助役・収入役等三役に対して求められていると同様の情報公開の責務、市民・国民による給与面の監視を受けるべきである。

4 知事や市長の給与額等は条例で定められており、その情報が個人情報に該当する余地はなく、広く公開されている情報である。しかしそれは「条例で定まっている」ことのみによって当該情報の個人情報性が阻却されているのではなく、当該情報の公開が実質的にも必須であるとの府民・国民の要請の上に立つ。教育長も一機関の実務責任者であるという点では、知事や市長と何ら変わりはないというべきである。

5 本件文書においては、大阪市以外のすべての自治体の教育長給与は公開されている。教育長の本質的な職務や責任は、法に基づく範囲において各自治体とも同質・同等である以上、給与額の公開といった情報公開に差があることは好ましいことではない。

6 大阪市が本件非公開部分に記載された情報を「個人のプライバシーに関する情報」であるとして非公開を求めた根拠となるのは大阪市情報公開条例第7条第1号であると思われるが、府下各自治体の情報公開条例にも同様の条項が存在しているのであって、大阪市のみが非公開としなければならない理由はないはずである。

7 昨今の教育行政に求められている業務効率化の流れに鑑みると、効率化の最も重要な指標となるのは、職務の内容や責任の軽重と、その対価として支払われている給与のバランスが適正か否かという点につきる。公金の適正な運用を府民・国民に明らかにするためにも、教育長の給与額の公開は必須である。

8 以上のとおりであるから、本件決定は条例の理念に著しく違背しており、違法・不当なものである。

 

第五 実施機関の主張要旨

  実施機関の主張を総合すると概ね次のとおりである。

1 地方教育行政調査について

  地方教育行政調査は、統計法第8条第1項に規定されている届出統計調査として、統計法及び届出を要する統計調査の範囲に関する政令に基づき、所定の手続を経て総務大臣(平成10年度の調査実施当時は総務庁長官)に届け出られている届出統計調査である。

  平成10年度のこの調査は、平成10年度地方行政調査要綱(平成10年3月5日付け各都道府県教育委員会教育長宛文部省大臣官房総務審議官通知、以下「要綱」という。)に基づき、文部大臣が、地方教育行政機関の組織及び活動の状況についての基礎資料を得ることを目的とし、都道府県及び市町村の教育委員会を調査対象として実施したものである。

  要綱によれば、その調査事項は、教育委員会の類型、教育委員の性別・年齢・職業・履歴・報酬、教育長の性別・年齢・履歴・給与、事務局の本務職員数、教育委員会の会議の状況及び研修会・施設訪問等の状況で、調査実施期日は平成10年5月1日現在となっており、文部大臣から、都道府県教育委員会に対しては直接に、市町村教育委員会に対しては各都道府県教育委員会を通じて調査票を配付することにより実施されている。市町村教育委員会は、都道府県教育委員会の指定した期日までに調査票を都道府県教育委員会に提出し、都道府県教育委員会は市町村教育委員会から提出された調査票及び自ら記入した調査票を平成10年6月30日までに文部大臣に提出することとされている。文部大臣は、各都道府県教育委員会から提出された調査票を集計し、その結果を報告書及びその他の刊行物によって公表している。

2 本件非公開部分について

  本件非公開部分は、平成10年度に実施された地方教育行政調査の調査票として、実施機関が府内市町村教育委員会から受領した調査票のうち大阪市教育委員会から受領したものの一部である。

  実施機関は、本件決定において、当該市町村において既に公にされている情報以外の部分を非公開としたものであるが、平成13年6月11日、本件異議申立てのうち一部を認容する決定を行ったことから、現時点においては、「大阪市教育長の給料(円)及び管理職手当(円)」のみが非公開となっているものである。

3 条例第9条第2号に該当することについて

  地方教育行政調査は、統計法第8条第1項に基づき、文部科学大臣(平成10年度の調査実施当時は文部大臣)が調査実施者として、総務大臣(平成10年度の調査実施当時は総務庁長官)に届け出て実施されている届出統計調査であり、本件非公開部分が記載された調査票は、平成10年度に実施された当該調査において、実施機関が市町村教育委員会から受領したものである。

  届出統計調査については、国民の信頼及び協力をより一層確保し、真実の申告を得るため、同法第14条において、「・・・届出統計調査の結果知られた人、法人又はその他の団体の秘密に属する事項については、その秘密は、保護されなければならない。」とし、さらに、同法第15条の2第1項において、「何人も、届出統計調査によって集められた調査票・・・を、統計上の目的以外に使用してはならない。」と規定しており、調査票の統計上の目的以外の使用については、同法第15条の2第2項で規定する「届出統計調査・・・の実施者が、被調査者・・・を識別することができない方法で調査票・・・を使用し、又は使用させる」場合を除き禁止されている。

  ところで、国の行政機関においては、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」という。)の施行(平成13年4月1日)に伴い、当該行政機関が保有する統計調査関係文書も情報公開法第2条に規定する行政文書に該当し、何人も目的を問わず行政文書の開示を請求することができるという開示請求権制度の対象となったことにより、開示請求権制度及び統計制度の適正な運用を確保する観点から、国の行政機関が保有する統計調査関係文書のうち、調査票等の主要な文書について、情報公開法に基づく開示請求に対して開示・不開示の判断を行うに当たっての一般的な取扱いの指針として、総務省が「行政機関の保有する統計調査関係文書の公開に関するガイドラインについて(平成13年3月16日付け各府省統計主管課長等会議申合せ)(以下「国ガイドライン」という。)を示し、開示請求に対しての判断は、この国ガイドラインに沿って各府省が行うこととなった。

  国ガイドラインによれば、届出統計調査によって集められた調査票は、公にすることにより統計調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることから、「一般的には情報公開法第5条第6号の不開示情報に該当すると解される。」とされている。一方、「例えば、行政機関又は地方公共団体を対象として実施する届出統計調査によって集められた調査票に記録されている情報が既に公にされている場合のように情報公開法第5条第6号に該当しないと考えられる場合には、開示の対象となることもあり得る。」ともされている。また、地方公共団体が保管している国の統計調査関係文書については、「条例に基づき地方公共団体に対して開示請求がなされた場合の統計調査関係文書の取扱いについては、本ガイドラインの趣旨を体して調査実施者が定める。」とされている。

  本件決定を行った時点においては、本件統計調査の実施者である文部科学省は、国ガイドラインの趣旨を体した取扱いを示していなかったことから、実施機関において、国ガイドラインの趣旨を踏まえ、「既に公にされている情報」のみを公開するとの決定を行ったものであるが、平成13年5月14日、文部科学省から、教育行政調査の調査票について、国ガイドラインの趣旨を体した取扱いとして、「調査票に記載されている情報が何らかの方法により既に公にされている場合は、当然のことながら統計法の制約は受けないと考える。既に公になっていなくても報告者である市町村教育委員会が、統計上の事務執行に支障がないと判断したのであれば、開示して差し支えない。」との見解が示され、大阪市教育委員会を除く各市町村教育委員会から、事務執行支障は生じない旨の確認がなされたので、本件決定において公開しないこととした部分のうち、本件非公開部分を除く部分については公開することとしたところである。

  本件非公開部分に記録されている大阪市教育長の給与については、大阪市教育長の給与等に関する条例第2条で「教育長の給料月額は、職員の給与に関する条例・・・(以下「給与条例」という。)第4条第1項第1号又は同条同項第6号に規定する給料表の適用を受ける職員の例に準じ、市長が定める。」とし、第3条で「教育長の給与については、前条に定めるものの外、給与条例の規定を準用する。」と規定されており、給料月額及び管理職手当額は一般職員と同様の取扱いになっている。

  大阪市教育委員会においては、教育長の給料月額等の情報は、職員の給料月額等と同様に、個人のプライバシーに関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められ、非公開とすべきであるとの判断から、本件非公開部分に記録された情報を実施機関が公開した場合、今後の当該調査における事務執行に支障が生じるとの見解を示しており、実施機関としても、これを公にすると、今後の当該調査における事務執行に支障が生じることを認めざるを得ない。

  また、実施機関としては、本件非公開部分に記録されている大阪市教育長の給料月額等が、一般職員と同様の取扱いがなされており、既に公にされている情報ではなく、教育長の所得そのものに関する情報であることからすると、本件非公開部分に記録されている情報は、条例第9条第1号の「個人の所得等に関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報そのものに該当し、公開してはならない情報に該当すると考える。

  以上のことから、本件非公開部分に記載された情報は、統計法第14条の「届出統計調査の結果知られた人の秘密に属する事項」に該当し、その秘密は保護されなければならないこと、さらに、「届出統計調査によって集められた調査票を、統計上の目的以外に使用してはならない。」旨規定した同法第15条の2第1項に該当し、公開が禁止されているものと認められ、条例第9条第2号に該当し、公開できない情報である。

 

第六 審査会の判断理由

1 条例の基本的な考え方について

  行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより、「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。

  このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。

  このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならないのである。

2 本件調査票及び本件非公開部分について

  本件調査票は、統計法第8条第1項に規定する届出統計調査として、文部大臣(当時)が実施した平成10年度地方教育行政調査の調査票であり、本件非公開部分は、このうち、大阪市教育委員会が実施機関に提出した調査票中、「4 教育長」の「給与」(「給料(円)」及び「管理職手当(円)」)欄に記入された金額である。そして、実施機関の説明並びに審査会において本件調査票及び記入要領を見分したところによると、これらの欄には、平成10年5月に現に在職した大阪市教育長が受けた平成10年5月分の「給料」及び「管理職手当」の金額が記載されていることが認められる。

3 大阪市教育長の給料月額及び管理職手当について

  大阪市教育長の給与については、大阪市教育長の給与等に関する条例(昭和27年大阪市条例第16号)第2条で「教育長の給料月額は、職員の給与に関する条例(昭和31年大阪市条例第29号。以下「給与条例」という。)第4条第1項第1号又は同条同項第6号に規定する給料表の適用を受ける職員の例に準じ、市長が定める。」と規定するとともに、同条例第3条で「教育長の給与については、前条に定めるものの外、給与条例の規定を準用する。」こととされている。

  具体的には、大阪市の局長級職員に準じた取扱がなされているものであり、実施機関の説明及び審査会において大阪市の関係例規を確認した結果によると、給料月額については、大阪市職員の給与に関する条例別表第1行政職給料表の10級及び同条例別表第6行政職給料表(特)に規定する各号給の中から教育長個人の職歴等に応じて市長が決定した号給を支給することとされていること、管理職手当については、大阪市管理職手当に関する規則(昭和55年大阪市規則第16号)第2条第1項各号に規定する額のうち職の区分に応じた定額を支給することとされていることが認められる。

4 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について

  実施機関は、本件非公開部分に記録された情報について、条例第9条第2号により公開を禁止されている「法令の規定により、・・・公にすることができない情報」に該当すると主張するものであるが、その実質的な理由として、条例第9条第1号の「個人の所得等に関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報に該当すると主張しているので、まず、条例第9条第1号該当性について検討し、次いで、同号に該当しない部分の条例第9条第2号該当性を検討することとした。

 (1)条例第9条第1号該当性について

  条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨宣言している。また、第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない旨規定している。

  このような趣旨をうけて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたのが条例第9条第1号である。同号は、

a          個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって、

b        特定の個人が識別され得るもののうち、

c        一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる

情報が記録された行政文書については公開してはならないと定めている。

  これを本件非公開部分に記載された情報についてみると、本件非公開部分に記載されている大阪市教育長の平成10年5月分の「給料」及び「管理職手当」の金額については、教育長「個人の所得に関する情報」であり、「特定の個人が識別され得る」ことは明らかである。

  また、本件非公開部分のうち「給料(円)」欄に記載されている大阪市教育長の給料月額については、大阪府や他の府内市町村の教育長の給料月額のように当該職に就く者が誰であっても関係例規に明記された定額が支給されるものではなく、上述のとおり、大阪市職員の給与に関する条例別表第1行政職給料表の10級及び同条例別表第6行政職給料表(特)の各号給の中から、教育長個人の職歴等に応じて市長が決定した号給が支給されるものであって、個人的な事情が反映されており、現に具体的な金額は公表されていないことからも、一般に他人に知られたくないと望むことが正当と認められる情報に該当する。

  一方、本件非公開部分のうち「管理職手当(円)」欄に記載されている大阪市教育長の管理職手当の金額については、上述のとおり、大阪市管理職手当に関する規則に基づいて、職の区分に応じた定額を支給されるものであり、職の区分の変更により金額が変動する余地は残されているものの、個人的な事情が反映されることのない情報であって、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認めることはできないものである。

  以上のことから、本件非公開部分のうち、「給料(円)」欄に記載された情報については、条例第9条第1号に該当し、公開してはならないが、「管理職手当(円)」欄に記載された情報については、同号に該当しないと認められる。

  なお、異議申立人は、「公務員の給与は国民が負担していることは言うまでもなく、その職務・責任に相当した給与が適正に支給されているかどうかを監視し、また国民がその情報を知ることも、条例の趣旨に合致したものであると解する。」とした上で、大阪市教育長の給与の公開の必要性について、その職責の重さや知事・市長等及び他の市町村の教育長との均衡などの観点から種々主張しているが、個々の公務員が支給を受ける給与の具体的な金額については、公金の使途に関する情報であるとともに職員個人の所得に関する情報としての側面を有するものである。教育長が、「教育委員会の指揮監督の下に」(地方教育行政の組織及び運営に関する法律第17条第1項)事務を行う者であり、その身分は地方公務員法上の一般職公務員とされている(大阪市など政令指定市の教育長については、平成10年度においては、現行法のような教育委員からの選出も法定されていなかった。)ことからしても、現に個人的な要素を反映して支給金額が決定されている大阪市教育長の給料月額について、条例運用上、個人のプライバシー情報としての保護の対象となるのは、止むを得ないものである。

(2)条例第9条第2号該当性について

  本号は、法令の規定に基づく非公開情報と条例との関係について定めたものである。地方公共団体は、法律の範囲内で、かつ、法令に違反しない限りにおいて、条例制定権が認められているものであることから、「法令の規定により・・・公にすることができない情報」については、条例に基づいて公開することができないことを明らかにするとともに、地方自治法第245条第1号(ヘ)の「指示」及び同条第3号に該当する行為のうちこれに類するものにより公開してはならないとされている情報についても、それが書面による適法かつ正当なものである限り、法律上府はこれに従う義務を有することから、公にすることができないとしたのが本号の趣旨である。

  そして、「法令の規定により・・・公にすることができない情報」については、法令の個別規定から、直ちに非公開と定められている場合のほか、当該法令の趣旨、目的、社会通念に従って適正に解釈すると公開できない場合を含むものであるが、本号が、府民等の行政文書の公開を受ける権利に対する公開禁止という強い制限として位置付けられていることからすると、本来、この規定の適用が認められるのは、当該法令の規定により一義的に公開することができない場合に限られるのであり、公開しても何ら当該法令によって保護された権利・利益を侵害することにならない場合は、本号を適用して非公開とすることはできないと解すべきである。

  これを本件についてみると、統計法第15条の2第1項に規定する届出統計調査に係る調査票の目的外使用の禁止は、調査の結果知られた個人、法人又はその他の団体の秘密の保護(統計法第14条)を担保するとともに、統計の真実性を確保することを目的としているものと解されるところ、本件非公開部分のうち「管理職手当(円)」欄に記載された情報は、一定の職に就いている職員に対して当該職の区分に応じて定額で支給される管理職手当の金額である。このような情報は、地方自治法第204条第3項に規定する給与条例主義の下では、本来的に公にすべき情報であり、また、上述のとおり、教育長個人としても一般に他人に知られたくないと望むことが正当であるとは認められないものであることからすると、これを公にしたとしても、個人、法人又はその他の団体の秘密を明らかにするものではなく、統計の真実性を損なうような事情も認められないから、統計法第15条の2第1項によって保護されている利益を何ら損なうものではない。

  以上のことから、本件非公開部分のうち「管理職手当(円)」欄に記録されている情報は、条例第9条第2号にも該当しないと認められる。

5 結 論

  以上のとおりであるから、本件異議申立ては、実施機関が既に非公開の決定を取り消している部分のほか、本件非公開部分のうち「管理職手当(円)」欄の公開を求める部分について理由があり、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。

このページの作成所属
府民文化部 府政情報室情報公開課 情報公開グループ

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