大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第84号)

更新日:2009年8月5日

第一 審査会の結論

  実施機関の決定は妥当である。

 

第二 異議申立ての経過

1 平成15年5月9日、異議申立人は、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、大阪府教育委員会(以下「実施機関」という。)に対し、「教職員評価・育成システムにかかる2002年度のすべての府立学校校長が教育委員会に提出した自己申告票」の公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。

2 同年5月23日、実施機関は、本件請求に係る行政文書として「府立学校校長が教育委員会に提出した教職員評価・育成システムに係る『自己申告票(試験的実施)』(平成14年度・全府立学校分)」(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、これを公開しないとの決定(以下「本件決定」という。)を行い、公開しない理由を次のとおり付して異議申立人に通知した。

(1)条例第8条第1項第4号に該当する。

  本件行政文書に記載された情報は、府立学校長が学校目標のうちから抽出して記載した情報であって、これを公にすることにより、今後設定目標として達成可能なもののみが掲げられるようになる等、当該事務の目的である学校長の育成等の目的が達成できなくなるおそれがあると認められるものである。

(2)条例第9条第1号に該当する。

  本件行政文書に記載された情報は、府立学校長が設定した目標の達成状況の評価等に関する情報が記載されており、これらは個人のプライバシーに関する情報であって、特定の個人が識別されるもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものである。

3 同年7月7日、異議申立人は、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に異議申立てを行った。

 

第三 異議申立ての趣旨

本件決定の取消及び当該情報の公開を求める。

 

第四 異議申立人の主張要旨

  異議申立人の主張を総合すると概ね次のとおりである。

 1 本件請求の趣旨及び条例適合性

 (1)本件請求の趣旨

  「表現の自由がないところに民主主義は存在しない」とはよく言われることであるが、この事情をいわゆる北方ジャーナル事件最高裁判決は次のように明快に表現している。「主権が国民に属する民主制国家は、その構成員である国民がおよそ一切の主義主張等を表明するとともにこれらの情報を相互に受領することができ、その中から自由な意志をもって自己が正当と信ずるものを採用することにより多数意見が形成され、かかる過程を通じて国政が決定されることをその存立の基礎としているのであるから、表現の自由、とりわけ、公共的事項に関する表現の自由は、特に重要な憲法上の権利として尊重されなければならないものであり、憲法21条1項の規定は、その核心においてかかる趣旨を含むものと解される」(最大判1986年6月11日・民集40巻4号872頁)。

  しかし、「公共的事項に関する表現の自由」の確保のためには、特に行政機関の活動についての情報の受領・収集・伝達の自由な流通が論理上当然の前提となる。従って、憲法の表現の自由の保障規定は、「知る権利」を含むものと考えねばならない。

  条例がその前文において、「情報の公開は、府民の府政への信頼を確保し、生活の向上をめざす基礎的な条件であり、民主主義の活性化のために不可欠なものである。」とし、「府が保有する情報は、本来は府民のものであり、これを共有することにより、府民の生活と人権を守り、豊かな地域社会の形成に役立てるべきものであって、府は、その諸活動を府民に説明する責務が全うされるようにすることを求められている」として、「『知る権利』の保障」を謳っているのは、上記した憲法上の表現の自由規定に含まれる核心的趣旨を確認するものにほかならない。条例は、この「精神」のもとに更にその第1条において、「行政文書の公開を求める権利を明らかにし」、「府民の府政への参加をより一層推進し、府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民の福祉の増進に寄与することを目的とする」と規定している。

  異議申立人は、条例第4条が定めるように、「この条例の定めるところにより行政文書の公開を受け」、「それによって得た情報を、第1条の目的に則して適正に用い」るために本件請求を行ったものである。

(2)「評価・育成システム」とその「試験的実施」について

  実施機関は、大阪府の教職員に対していわゆる「評価・育成システム」を構築するとして、2002年度途中の10月23日、教育長名による「教職員の評価・育成システムの試験的実施について」(教委職企第189号)を発し、これを実施した。「試験的実施」とは、実施機関が企図した2003年度の「試行実施」のための準備・予行として位置付けられたものであり、事実、2003年度は現に「試行実施」がなされつつある。実施機関は、さらに2004年度には、この「システム」の「本格実施」を企図している。

  とはいえ、予めこの「システム」の全体像や最終形態が決定されていて、その具体的なマニュアルに沿って「段階」が実施に移されていると言うのではなく、これらは、それぞれ単年度ごとにいわば相対的に独立して実施される(された)事務事業でもある。すなわち、「試験」・「試行」と言った名称からもうかがわれるように、各年度の実施内容とその効果を総括・評価することなくしては次の「段階」には進み得ず、またそのような総括・評価に基づき、かつ、教職員組合等関係団体との協議を踏まえて、次の「段階」を実施計画の詳細が決定されるものである。この点は実施機関自身が教職員組合等に説明してきたところである。実施機関の企図がどうであれ、ほとんどの教職員組合は、次の「段階」の実施内容のみならず、次の「段階」を実施するか否かそれ自体も含めて、各年度の実施内容の総括及びその結果の評価によって決まるものと了解しているのが実情である。

  ところで、実施機関は、上記教育長通知において、2002年度「試験的実施」の目的として次の3点を掲げていた。すなわち、「a 評価・育成システムの導入に向け、検討の参考とする。b 試験的実施を通じて、教職員の活動内容の充実・改善や目標設定の契機とするとともに、教職員の意見を学校運営に反映させる。c 評価・育成システムに対する教職員の理解を深めるとともに、校長等の評価・育成能力の向上を図る。」ただし、年度途中であることを理由に、校長を除く教職員に関しては、「育成」のみを目的として段階評価は実施されず、校長に関しては段階評価を含めて実施された。

  この「システム」は、一般論としては、校長を含む教職員が「自己申告票」を自らの「育成者」として指定された者に提出することによって開始され、その「育成者」が面談等を通じて「評価・育成シート」(「試験的実施」における一般教職員の場合は「育成シート」)を作成し、これについて評価結果の口頭による「開示」を含む「開示面談」を行うことによってその1サイクルを終了するとされている。しかし、2002年度の「試験的実施」は、そのような「システム」が仮に定着した場合に想定される1サイクルとしてではなく、それらに先立つものとして文字通り「試験的」に実施されたものであり、いわば(少なくとも相対的には)一定の自己完結性を持つものであって、実際、そういうものとしては既に完了している。

  いまや、この「試験的実施」に関する具体的効果の測定・検証・評価が公共的議論の対象にされなければならず、そのために必要なあらゆる情報の公開が求められることとなる。

(3)本件行政文書の性格

  ア 本件行政文書の記述内容

  本件行政文書は、この「システム」の「試験的実施」における校長の記入済み「自己申告票」である。

  「自己申告票」は職種ごとに様式が定められていたとは言え、記述形式はほぼ同一である。そこに記述する内容は、当然ながら、いずれの場合も当該教職員の職務(主として校務)に関するものであり、様式から判断する限り「プライバシー」に触れるような事項は含まれていない。あるいは少なくとも本件行政文書の様式に限って言えば、市民的な常識や社会通念からして、「氏名」情報を含めて、あえて「プライバシー」として法的に保護しなければならないほどの個人的な情報は存在しないと言うべきである。

  例えば、校長用の「自己申告票」様式について見るならば、形式的な「本人に関する部分」は別として、先ず「中長期的な学校経営のビジョン」、「今年度の学校教育目標等」の記入欄があり、次に「設定目標」、「目標の達成状況」の欄とあって、最後に「学校教育の充実に向けた自己の課題」、「次年度の学校経営の構想」、「教育委員会に対する意見」の欄が見られる。このように、「自己申告票」とは教職員が自己の職務について目標を設定し、かつその遂行状況を自分なりに分析・把握して報告するものであって、他者(「育成者」)からの「評価」を含むものではない。

  この点で、「自己申告票」は、実施機関の言う「評価・育成シート」ないし「育成シート」とは明確に区別されなければならない。

  イ 公開によって得られる利益

  本件行政文書によって示されるはずの情報は、少なくとも次の二つの面において高度の公共性を有するものと推定されうる。第一に、この「システム」の「試験的実施」の実際的効果を評価するための基礎的資料として。第二に、現在の各府立学校の運営方針の実情を知りこれを評価する材料として。更にまた、人はこれらの両面について、それぞれ市民の主観的権利としての利害関心及び行政に関する客観法的原則としての公正要求という二つのレベルにおける請求権を主張できる。

  第一の面については、本件行政文書の記述内容は、当該校の教職員にとって自己の職務遂行の目標設定にとって必要な情報であるばかりでなく、「試験的実施」のために実施機関自身が挙げる目的からすれば、それらを知ることによってこそ、「システム」に対する教職員の主体的参加が促され、その「育成」の実が上がる筈のものである。少なくとも、一般市民としての立場からすれば、そのように考えることには合理性があると認められよう。

  第二の面については、本件行政文書は、一般市民が学校の運営実態を知り得る有力な、というよりもほとんど唯一の行政文書であり、その直接的な関心事項として、作成された以上は公開を求める正当な理由、従って「知る権利」が存在することになろう。もとより各府立学校の運営方針は、その全体的・概略的な形では、各学校が作成しているインターネットのホームページや学校案内、あるいは中学生やその保護者を対象とする学校説明会や場合によっては地域住民との懇談会等々においても知る機会はある。しかし、ホームページを除けば、これらの場面に参加しうる者は限られており、ウェブ・サイトについてもその設置、内容等は学校の自由な裁量に委ねられているため、必要かつ信頼できる情報が必ずしも得られるとは限らない。この点、本件行政文書によれば、各学校で立てられる様々な方針のうち、現に何が重視され、それによって真に何が実施されたか、今後解決すべき課題は何かについて、当該学校の運営に責任を持つとされる校長の見解を直接に知ることができる。少なくとも、その客観的期待可能性の存在は明白である。

  他方、主観的権利レベルの問題としては、例えば、本件行政文書は、府立学校に進学を予定ないし希望する府民たる中学生及びその保護者が進学先を選択する一つの、しかし有力な判断材料となり得るものであり、従ってこの面からは、本件行政文書に対する府民の「知る権利」の行使は、その「教育を受ける権利」(憲法第26条)の行使を表裏一体のものである点が挙げられる。逆に、本件行政文書の非公開=公開拒否は、進学予定者及びその保護者にとっては自己の権利を侵害するものであり、直ちに違憲の問題を生じさせることになる。この場合には、かかる主観的権利の当事主体にとっては、公開・非公開の公共的利益の比較衡量は問題ではなく、非公開によって侵害されることになる自らの人権の問題なのである。

  また、客観的制度上の問題としては、この「評価・育成システム」の実施については、学校教職員及び教育委員会事務局職員の多数にとって勤務時間の相当部分を必要とするものであり、それ故に膨大なコスト(即ち税金)を費やしていると見られるところから、本件行政文書は、「試験的実施」の目的の達成度の計測、その費用対効果の検証、更にはこの「システム」それ自体の目的・手段関係の適否の検討も含めて、行政行為が適正・公正に執行されているか否かの判断材料となる筈のものである。即ち、本件行政文書の公開は、大阪府の教育行政に対する府民の請願権(憲法第16条)行使のために、あるいは住民監査請求(地方自治法第242条)等の請求権行使のために必要な(本来府民のものである。)情報を供することとなる。

  それ故、逆に、これを公開しないとなれば、実施機関は、条例に言う「その諸活動を府民に説明する責務を全う」することにはならず、「府民の府政への信頼を確保」することは困難となり、「府民の府政への参加をより一層」阻害するばかりか、更には憲法が定める人民の権利を侵害する結果になると言わなければならない。  

ウ 本件行政文書の公開対象性

  「自己申告票」は、「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書」であり、「当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているもの」に外ならず、条例2条の定める「行政文書」であることは言うまでもない。

  他方、校長は、学校教育法上一般に、教育機関たる学校の代表権者でありかつ対外的表示権者であると解されている。しかも、実施機関は、従前より校長を「学校経営者」と位置付け、学校における校務運営全体の「最高責任者」としており、その教育法規解釈論としての適否はともかく、現に教育行政上そのように位置付けられた機関たる校長は、学校管理規則等により学校運営の広範な決定権・決裁権を持たされている。逆に、校長の自然人としての「プライバシー」権は、その権限の大きさに応じて一定の制約を受けることには合理的必然性があり、それだけ受忍の限度が広がるとしても止むを得ないのである。

  従って、本件行政文書が示す(はずの)学校運営に関する校長の「ビジョン」や「目標」の設定、及びその「達成状況」等の情報は、市民の立場から第三者的に見れば、他の一般教職員の「自己申告票」とは比較にならない高度の公共性を有するものと考えられる。まして、最終的には校長による教職員の「評価・育成」を通して教職員の意欲の喚起や「学校の活性化」を図る目的を持つこの「システム」を推進する実施機関の論理からしても、校長がこの「システム」に対していかなる対応をする(した)かは、「システム」の今後の成否を判断する上で不可欠の情報と言えよう。本件行政文書の公開の可否を決するには、他の場合と同様、当該文書の情報が「公開されることによって得られる利益」と「公開されないことによって得られる利益」の比較衡量が必要であるが、あくまで行政文書の公開原則に添う方向で、公務職員の職位を考量しつつ、一般職員の場合以上に厳格に判断される必要がある。校長の「自己申告票」については、校長たる個人の「プライバシー」権を楯にとるかのごとき非公開理由はそもそも失当である。

  本件行政文書の公開には、それ故、十分な法益が存在しており、本件請求が条例第1条の趣旨に添うことは明白である。

(4)本件決定の違法・不当性

  ア 本件決定理由の曖昧さ

  実施機関は、本件決定の理由として、本件行政文書が条例第8条第1項4号及び/又は第9条第1号に該当する旨を主張する。

  条例第8条は「公開しないことができる行政文書」について、また、同第9条は「公開してはならない行政文書」について規定しており、これらの行政文書は異なる範疇のものである。その差異に応じて、条例は実施機関に対し、第9条該当文書については覊束的に「公開してはならない」として不作為を命じ、若しくは、第8条該当文書については限定的に「公開しないことができる」として一定の裁量の余地を認めている。従って、実施機関が当該文書をそのどちらに該当すると主張するかによって、形式的にも内容的にも、適法・違法ないし妥当・不当の判断は異なり得るものである。

  しかるに、少なくとも当初の決定理由によれば、本件行政文書を第8条該当としているのか第9条該当としているのかが曖昧であり、非公開決定の理由につき、実施機関としての説明責任を果たしているとは到底言えないものであった。その後、実施機関は弁明書において本件行政文書の項目ごとに非公開とする理由を挙げているが、これらはなお当初の本件決定理由の曖昧さを払拭し得てはいない。しかし、問題はむしろ、弁明書に挙げられている程度の「理由」が何故に本件決定の当初から「説明」されないのか、という点にある。

  これは条例運用の一般的な問題とも思えるが、何らかの行政情報の公開請求に対して非公開決定をする場合の理由説明は、単なる努力義務として実施機関の裁量に委ねられているのではなく、法的義務としてある以上、当該非公開理由は、非公開決定の段階で請求者に対して直接に全て明らかにされるべきである。しかるに、本件決定のように、公開請求者に対して理由を極めて抽象的かつ概括的にしか説明することなく、異議申立てを受けて初めて、審査会に対してはその理由をより詳細に説明するというのは、理念的に本末が転倒しているというばかりでなく、徒に時間を浪費し、請求者に過重な負荷をかけるものであって、情報公開制度の下における実施機関の本来あるべき姿とは言えない。情報公開の理念からすれば、非公開決定に際しての理由の説明と、異議申立てを受けての弁明書における説明は、基本的に同一でなければならないはずである。

  このような実施機関の姿勢そのものが、行政文書の原則公開を謳い、極めて例外的・限定的にのみ非公開情報を定める条例の趣旨を蔑ろにするものと言わざるを得ない。これはまた、条例が何よりも市民の「知る権利」を保障するために、その第3条において実施機関に対して明文をもって義務づけた条例の解釈・運用に関する規準に反するものである。

イ 条例第8条第1項第4号該当性について

(ア)条例第8条第1項第4号について

  日本における行政情報の公開制度は、歴史的に見れば、地方自治体が国に先んじて先進的に情報公開条例等を制定することによって定着してきたという経緯がある。しかしながら、多くの自治体においてその初期の段階では、いわゆる行政執行情報や意思形成過程情報等に関する「おそれ」規定によって市民の「知る権利」が制約されてきたこともまた歴史的事実である。しかし、その後、各地の情報公開審査会の答申や裁判例によって、実施機関が同様の規定により請求のあった公文書の公開を拒否するためには、一般的・抽象的な「おそれ」では足りず、公開しないことにより得られる公益が公開することによって損なわれるそれよりも大きいことを、実施機関の側で具体的・客観的に立証することが必要であるとの法理が確立されるに至っていると言ってよい。条例第3条が実施機関に対して義務付ける解釈・運用の規準からすれば、実施機関がこの法理に従って公開の可否を判断すべきことは明白である。

  行政執行情報が例外的に非公開情報とされるのは、行政機関が特定の事務・事業を執行するに際して情報を秘密にすることが求められる例外的な場合としてである。条例第8条第1項第4号に列挙されている事項に見られるように、これらの事務は、その性格ないし本質からして、その情報の公開は直ちに当該若しくは同種の事務の執行を不可能にしたり、又はその公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすことは明らかなものである。国の情報公開法第5条第6号は「当該事務又は事業の性質上」という文言によってこの点を明確にしているが、条例第8条第1項第4号の解釈に当たっても、条例全体の趣旨及び同号例示の事務からして、このように解すべきことは当然である(なお、同号に列挙されている事務類型は、「等」とあるところからすれば例示には違いないが、これらが類型的・概念的に限定可能である点においては限りなく制限列挙に近いものと考えられる。)。

  いずれにせよ、同号の趣旨は、事務・事業の本質からして情報公開と相容れないものに例外を限定する点にあるのであって、逆に実施機関に対して広範な裁量権限を付与するものではないことは明らかである。従って、実施機関が同号に基づいて非公開決定をなし得るためには、当該情報が同号所定の要件に該当することを厳密に論証しなければならない。このことは、同号の「これらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれ」に関しては、前述した情報公開制度の歴史的事実からしても、特に強く要請されるところである。即ち、同号に言う「支障」の程度は名目的なものでは足りず、実質的なものが要求され、しかもそれは「著しい」ものでなければならない。また、同号の「おそれ」の程度には、単なる確率的な抽象的可能性ではなく、法的保護に値する蓋然性が当然に要求される。更に、同号の「公正かつ適切な」という要件の中では、情報の公開を原則とする行政事務執行の公正性・適切性が観念されているのであって、この要件において既に利益衡量が行われていることが想定されているのである。

  (イ)本件行政文書の同号該当性

  (ア)の理解からすれば、実施機関の主張は、抽象的かつ形式的なものでしかなく、何らの説得力も有してはいない。即ち、先ず何よりも、この「システム」の、しかもその「試験的実施」が同号に例示されている諸事務と少なくとも類型的同一性があるかの点について、論証どころか全く触れてさえいない。これでは、本件行政文書につき同号該当性を判断する前提を欠いていると言わざるを得ないのである。

  一般市民として実施機関の主張を読みながら、一定独立した教育機関の長たる地位にある人物が、その権限に見合うだけの責任感や職に対する適法意識・公正感覚を全く身につけていないのではないか、と疑わないで済ませることはほとんど不可能である。ただし、これらは校長の実際の姿ではなく、あくまでも、その任命権者でもある実施機関が想像する限りでの校長像に過ぎない。実際には、学校内外で校長が学校運営上の事項についての見解を表明する場面はいくらでもある。職員会議、全校生徒への訓話、PTAの会合、地域住民との懇談、高校の場合は、中学生・その保護者・中学校教員への学校説明会や懇談会等である。しかし、実施機関の想定する校長像によるならば、校長は「誤解や批判をおそれて」、自己保身のために、常にその場限りでのご都合主義的な見解しか述べないかのようである。個別の問題としてそのような校長がいるか否かは問題ではない。条例第8条第1項第4号の類型的要件からすれば、一般市民的な良識からして、全ての校長に一般的に共通して当てはまると容易に了解し得る性向でなければならない。実施機関が主張する校長像が現実離れしていることは、一目瞭然であろう。むしろ、現実の校長への不信感をもつ実施機関によって情報が秘匿される事態こそが、校長一般への、ひいては学校への市民の信頼を損なうことになるのである。

  他方、「誤解・批判をおそれて」公正な・具体的な・意欲的で自由な記述が阻害される「おそれ」という点については、過去に児童・生徒の指導要録や高等学校入学者選抜のための調査書(いわゆる内申書)の開示拒否の理由に使われた論法と同じである。これらの教育情報は、実施機関の拒否にも拘わらず、今や本人開示が当然のこととなっている。だからと言って、これら指導要録や調査書の記述への信頼が失われたわけではなく、ましてやこれらによって担保されていると実施機関の考える学校教育・入学者選抜の事務に「著しい支障」を来たしているわけでもない。それは、それらの記入責任を担う教員が、情報の公開原則の下における自己の職責を適切に認識し、その担任する事務を公正に執行しているからではないか。条例第8条第1項第4号にいう「これらの事務の公正かつ適切な執行」とはこのような意味である。従って、本件行政文書に関しても、校長職に就く者には当然備わると常識的に考えられる程度の責任感と適法意識があれば、その職責に基づく公正かつ適切な記述が可能なのであり、少なくともそれが原理的に不可能というのではない以上、本件行政文書は条例第8条第1項第4号には該当しないと言うべきである。もし、任命権者としての実施機関が、現実の校長にそれ以上のことを望むとすれば(例えば校長の個人的な思想・信条などの記入もしくは吐露)、そのこと自体が適法な事務の執行とは言えないのであって、そのような違法ないし不適法な事務については、初めから同号の適用はあり得ないのである。

  (ウ)本件行政文書が「試験的実施」に係るものであることの「特殊性」について

  実施機関は、本件行政文書は、「システムの試験的実施という条件のもとで作成されたものである。システムについては、平成15年度は、試行実施を行うこととなるが、本件行政文書が公になることにより、自己申告票の記載において、達成可能なもののみが目標として掲げられるようになる等、平成14・15年度において、試行を段階的に実施することとしている目的が達成できなくなるおそれがあると認められる。よって、条例第8条第1項第4号に該当する。」と主張している。

  このような論点は、当初の決定理由には全く見当たらず、弁明書において新たに追加されたものである。情報の公開原則の下では、実施機関には、請求のあった情報の非公開決定をなすに際して、その理由につき厳格な説明責任が負荷されているにも拘わらず、非公開決定の際に請求者に対しては極めて概略的な「説明」しかせず、異議申立てを受けて初めて、審査会に対する弁明としてはより丁寧に説明し、あまつさえ新たな理由を付加するというのは、市民の「知る権利」を冒涜するものである。

  それはさて措くとしても、本件行政文書が「システムの試験的実施という条件のもとで作成されたもの」であり、この「試験的実施」という条件のある意味での「特殊性」については異議申立人にも一定理解はできる。ただし、それは「試験的実施」の特異性ないしは独異性とも言うべきものである。「試験的実施」、「試行実施」、「本格実施」などの表現によって、実施機関の主観的意図においては、ある全体的プロジェクトの中の一連の流れだと観念されているのかもしれないが、第三者的に見れば、これらは、まさにそれぞれの個別の名称によって特定的に指示されるような独自の特異性をもつ非連続な契機としての「段階」であって、それぞれに一定の独異の意味を持つものである。つまり、そのいずれかの「段階」でプロジェクトが中止されるとしても、それまでに執行された事務の独自の意義が消失してしまうという性質のものではない。「試験」や「試行」とは、文字通り試みに行ってみて、その結果を様々に分析する点にこそ意味があるのである。従って、本件請求文書は、現に反復・継続している行政事務の単なる1年度分において作成された文書なのではなく、あくまでも、2002年度途中に突然実施に移された「システムの試験的実施」という特異な行政事務の執行過程において作成された校長の「自己申告票」なのである。

  ウ 条例第9条第1号該当性

  (ア)条例第9条第1号について

  条例第9条に示されている個人に関する情報は、一般の市民・私的な個人についてであれば、本人の意に反するその公開が直ちにプライバシー権の不当な侵害に当たり得るものであり、これらに関する公開原則に対する例外措置は、公的機関による人権擁護義務からして当然のことである。また、公務員である府の職員についても、同号の例示する事項の多くはその職及び職務遂行とは直接に関係のない個人情報であり、非公開措置には一定の合理性がある。ただし、職員については「職業」情報を「プライバシー」として保護することには意味がなく、また職種によっては、「学歴」情報についても一定の範囲で保護対象から除外され得る。例えば、高等学校の教員は教員免許法上大学卒業以上の「学歴」を有することは明らかであり、その限りでの情報は公開拒否の対象にはなり得ないと考えられる。要するに、例え個人に関する情報ではあっても、そのうち何が例外措置としての非公開の対象とされるべきであるかについては、情報公開制度の趣旨・目的を踏まえた条文解釈及び合理的な社会慣行によって決せられるしかない。つまり、条例第9条第1号に例示された事項との形式的・名目的一致というだけでは事実上判断し得ないというだけでなく、規範的にもそのように判断すべきではないということである。問題は、対立する利益の比較衡量なのである。

  この点、条例第9条第1号に対応する国の情報公開法第5条第1号では、「個人に関する情報(中略)であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を侵害するおそれがあるもの」を不開示情報と定めているが、「ただし、次に掲げる情報を除く」として、同規定があくまでも公開原則における例外事由であることをより明確に示している。そして、この但し書きによる除外規定、従って個人識別情報ではあっても公開すべき情報として、イに「法令の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」が、更にハとして「当該個人が公務員等(中略)である場合において、当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、当該公務員等の職及び当該職務遂行の内容に係る部分」が挙げられている。

  では、条例第9条第1号にはそのような特段の除外規定がない故に、同号例示の事項は一律に不開示情報だと主張できるのであろうか。そのような主張が失当であることは論をまたない。なぜなら、そのような主張が罷り通るなら、情報公開制度は抜け穴だらけなり、条例の趣旨・目的は画餅に帰することは明らかだからである。即ち、同号においては、個人識別情報のうちでも、例外的不開示情報を「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」と極めて強く限定することによって、情報公開法第5条第1号の但し書きと同様の除外規定を解釈し得る余地を残しているのである。ここで、「他人に知られたくないと望む」というのは、当該情報によって識別されることになる特定個人の主観的な意見や感情の問題ではない。換言すれば、当人が同意すれば公開してもよく、同意しなければ公開できないという問題ではない。「一般に」という要件は、あくまでも社会的良識に従って一般的・類型的に判断されるべきことを要請している。また、「正当」の要件は、その判断に際して、当該個人情報の取り扱いの「慣行」、あるいは、当該個人が公務員であるか否か、公務員であればその地位の高低もしくは権限の大きさ又は職務内容の社会的重要性等々を考慮すべきことを要請しているのである。少なくとも、条例の全体構造、国の法律との比較、確立された法理等からすれば、このように解すべきこととなる。

    (イ)本件行政文書の同号該当性

  「本人に関する部分」の「氏名」、「年齢」、「校長在職年数」、「現任校在校年数」が個人(識別)情報に当たることは疑いがない。しかし、実施機関は、ただそれだけでこの「部分」全体が「条例第9条第1号に該当する」としており、それが同号に言う「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」であることの論証は何もない。本来的に情報公開義務を負う実施機関による公開拒否理由としては、これはあまりに弛緩した論理であり、何の「説明」にもなってはいない。

  差し当たりの傍証として、次のような社会的慣行を指摘しておきたい。即ち、学校に関するマスメディアの報道においては、それが社会的に高いもしくは好意的な評価を受ける場合は言うまでもなく、たとえ教職員や生徒による「不祥事」ないし犯罪的な事件の場合であっても、当該校の校長の氏名や年齢が報道されることは珍しくはない。このような社会的慣行の背景には、校長は学校を代表する存在であり、一定の社会的ステイタスないしプレステージを有するとの観念があるものと思われる。もしそうであるなら、校長に関する一定の個人情報の公開(暴露)は、かかるステイタスを対価とする受忍限度内のリスクに過ぎない。

  ちなみに、財団法人である大阪府立学校校長協会は、毎年、府立学校教職員名簿を作製し発行しているが、これには氏名、年齢、住所、電話番号はもちろん、担当教科目や教員免許状の種類、果ては最終学歴(出身大学名)までが記載されている。全府立高校の校長をもって組織する校長協会がこのような仕方で毎年教職員名簿を作製・発行し、それが様々な場所に配布されている事実は、府立学校の校長一般の個人情報に対する意識と慣行の態様を知る上で留意される必要がある。

  ところで、国の情報公開法第5条第1号では、ただし書きイにおいて「慣行により公にされ、又は公にすることが予定されている情報」が、またハにおいて公務員の「職及び当該職務遂行の内容に係る部分」が例外的不開示情報から除外されている。その立法時の趣旨説明及び行政解釈によれば、これらの除外規定は相俟って、当該公務員の「職」に関する情報はいかなる場合にも公開すべきであり、当該公務員の「氏名」に関する情報は一定の責任を負う地位以上の場合には公開するものとし、かかる地位としては中央省庁の「課長」クラス以上としている。これは、「課長」が一定の独立的な決裁権を有する職であることからの解釈であると考えられる。そして、府立学校の校長は本庁の「課長」級と見なされているのである。

  他方では、職員が職務上作成した文書に起案者、決裁権者として、もしくは担当者として氏名が記載されている場合に、あるいは、職務上参加した会議の参加者として氏名が記載されているような場合に、当該職員の「氏名」は、一般には個人に関する情報とは考えられず、公開されるべきであるとするいくつかの裁判例さえある(京都地裁判決1995年10月27日判例タイムス904号72頁、名古屋高裁判決1997年11月28日判例タイムス988号166頁等)。更には、情報公開法の法案作成者の上記説明に対して決裁権を持つ課長級以上の職員の場合は「氏名」が公開されると言うが、それは慣行として公にされているからに過ぎず、アカウンタビリティとは何の関係もないと批判し、重要なのは、「知る権利」を具体化しようとする法律や条例の趣旨に添って、既存の社会通念をも乗り超えつつ、これらの条文を「知る権利」をより現実のものとする方向で解釈することであるとする学説もある。

  しかし、いずれにしても、校長たる者がその「職」とともに「氏名」をも「プライバシー」として法的に保護されるべき類の個人情報とする主張を維持することは、もはや不可能である。「年齢」に関しては、府立学校の校長の任用制度からして、現在のところは校長になる者の年齢層は相当に限定されているため、校長の「年齢」が必ずしも「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報とは言えないと考えられる。また、上述の社会的慣行や府立学校の校長一般の個人情報に関する意識も考え併せるなら、校長一般が「年齢」を「他人に知られたくないと望む」か否かも疑問である。「校長在職年数」や「現任校在校年数」については、「年齢」以上に職との関連性が強く、しかも、校長への任用や転職等の人事異動に関しては新聞報道もされており、既に「慣行として公にされている」情報であり、秘匿する意味は全くない。

 実施機関の主張によれば、本件行政文書の「目標」や「実施計画」には「府立学校長の考えや思いといったものが記載されている」そうである。そもそも、人が何らかの目標を持って行動の計画を立てる場合に、その人の「考えや思いといったもの」が入り込むのは当然かつ必然であって、問題は、そのような「考えや思い」なるものが校長としての職に基づく職務上の見解であるのか、単に個人的なあるいは純粋に私的な想念であるのかという点である。実施機関の説明によれば、そこに個人的あるいは私的想念が入り込む余地はないはずであり、もしそのような記載をした校長がいるとすれば、これは不公正かつ不適切な事務の執行となり、その結果としての記載内容には「プライバシー」の名によって保護すべき法益は存在し得ない。

  「目標の達成状況に関する部分」については、「目標の達成状況」に関する評価的要素が含まれ、それ故に「個人のプライバシーに係る情報」であるとの実施機関の主張は、一見もっともらしく思えなくもない。しかし、「知る権利」に対抗して守られるべき個人的利益として「プライバシー」であると言えるためには、それは文字通りの「評価」、つまり当該職員に対して評価権を有する他者(一般的には職務上の上位者)による適法な職権的「評価」でなければならない。「目標の達成状況」に記載されているのは「自己評価」である。そして、職員の職務に関する「自己評価」は、一般的には当該職務に関する事後的な「報告」や「総括」という程度の意味に過ぎない。組織の中で職務を遂行する職員であれば、あらゆる仕事の区切り目ごとに一定の反省をし、次への課題を見つけ、場合によってはそれを他の職員に引き継ぐのである。公務員が自己の職務遂行に関して行う「自己評価」は、それ故、それ自体が職務行為にほかならず、「プライバシー」ではない。

  「今後に関する部分」については、「教育委員会に対する意見」を除き、「目標の達成状況に関する部分」と全く同様に考えられる。従って、これらは条例第9条第1号には該当しない。「教育委員会に対する意見」については、「目標」及び「実施計画」と同様のことが言える。もし「意見」が全くの個人的・私的な性質のものであれば、本件行政文書に職務として記述するには相応しくないものであり、これを非公開として守るべき法益はない。逆に「意見」が職務上の問題に関する公的なものであれば、公開すべき行政文書にほかならない。一定の独立した権限を有する教育機関の長である校長が、教育行政機関としての教育委員会に対して行う公的「意見」の表明は、それ自身が公の機関たる校長の見識を示すものとして、公開することによって十分な公共的利益を期待しうる。ただ、もしその「意見」を審議・調査情報ないし意思形成過程情報と捉える場合には、自由・率直な「意見」の表明を阻害する「おそれ」の主張に繋がる可能性があるが、実施機関は、条例8条1項3号には何ら触れていない。

エ 実施機関による条例の解釈・運用違反

  実施機関は、仮にも本件行政文書が条例のこれらの条項号に該当すると主張するのであれば、条例第10条によって少なくとも部分公開を行うべきであった。同条は第1項で「実施機関(公安委員会及び警察本部長を除く。)は、行政文書に次に掲げる情報が記録されている部分がある場合において、その部分を容易に、かつ、公開請求の趣旨を損なわない程度に分離できるときは、その部分を除いて、当該行政文書を公開しなければならない。」と規定し、「(1)第8条第1項各号のいずれかに該当する情報で、同項の規定によりその記録されている行政文書を公開しないこととされるもの」及び「(2)前条各号のいずれかに該当する情報」を掲げる。本件決定の理由は、これら各号に当たるものである。

  なお、条例第13条第3項は、実施機関が行政文書の一部(非)公開又は全部非公開の決定をした場合につき、当該決定の通知に付記すべき事項を定めており、同項第2号に「当該通知に係る行政文書に記録されている情報が第10条第1項各号又は第2項各号に掲げる情報に該当しなくなる期日をあらかじめ明示することができる場合にあっては、その期日」を挙げている。これは、条例第10条第1項各号の情報に「該当しなくなる期日をあらかじめ明示することが」できない場合については、これを通知することを実施機関に明示的に義務付けたものとまでは言えないであろう。しかし、条例全体の趣旨及び条例第3条の規定からすれば、実施機関が条例第10条適用の可否を検討し、結果としてこれを適用しないと結論したのであれば、その旨を付記することが適当であると解される。とすれば、その反面として、条例第13条第3項第2号の規定がありながら、実施機関の通知が部分公開の可否について何らの言及もしていない場合に、実施機関は条例第10条の適用を考慮しなかったと解することは、少なくとも一般人の良識からすれば当然である。

  本件決定の理由からすれば、実施機関は、本件決定に際して条例第10条の適用を考慮したようには思えず、実施機関が本件決定に際して考慮すべき事項を考慮しなかったと考えるほかない。だとするならば、条例第3条の規定する解釈・運用の原則に明白に違反するのみならず、この点では実施機関に認められた裁量権を明白に逸脱してなされた不当な行政処分である。

 

第五 実施機関の主張要旨

  実施機関の主張を総合すると概ね次のとおりである。

 1 教職員の評価・育成システムについて

  教職員の評価・育成システムは、教職員が学校の目標達成に向けた個人目標を主体的に設定し、各々の役割に応じて、同僚教職員と連携・協力しながら、目標の達成に積極的に取り組み、点検・評価、改善を行うことにより、教職員の意欲・資質能力の向上と教育活動をはじめとする様々な活動の充実、組織の活性化を一体的に図ることをめざすものである。

  そもそも、学校においては、日頃から教職員がそれぞれの役割に応じて、同僚教職員と連携し、相互に協力しながら、様々な活動が展開されており、教職員は個々に、あるいは集団として、活動の結果について点検し、次回や次年度に向け、目標や計画を見直したり、新たに立てるなど、教育活動等の充実・改善に向けた取り組みを進めている。そして、これら取り組みが進められることにより、教職員の実践的な資質能力が一層磨かれ、高められることとなる。

  このことは、実施機関が設置した「教職員の資質向上に関する検討委員会」(座長 木下繁彌 甲子園短期大学学長)の最終報告においても明らかとなっている。同報告は、「教職員が学校や校内各組織の目標の達成に向けた個人目標を主体的に設定し、校長等の支援を得ながら意欲的に取り組みを進めることを基本に、子どもや保護者、同僚教職員等の意見を踏まえた自己評価と校長等からの評価により、自らの意欲・資質能力を一層高めることを通じ、学校の教育活動をはじめとする様々な活動を充実させるとともに、学校や校内各組織の活性化を図っていく」ことを提言している。

  実施機関は、この報告における提言を踏まえ、教職員の評価・育成システムの制度化を行ったものであるが、その着実な定着を図るため、平成14・15年度の2ヵ年にわたり、試行を段階的に実施することとしており、平成14年度は試験的実施と位置付け、大阪府内のすべての公立学校を対象に実施した。試験的実施の目的は次の3点にあった。

(1)教職員の評価・育成システムをより効果的なものとするための改善点等を把握し、今後の検討の参考とする。

(2)試験的実施を通じて、教職員の活動内容の充実・改善や目標設定の契機とするとともに、教職員の意見を学校運営等に反映する。

(3)教職員の評価・育成システムに対する教職員の理解を深めるとともに、校長等の評価・育成能力の向上を図る。

  また、試験的実施のスケジュールとしては、a 自己申告票の作成及び提出、b 面談、c 育成者による育成シート(校長の場合は、評価・育成シート)の作成という内容であった。

 2 本件行政文書について

  本件行政文書は、試験的実施のスケジュールの中で、府立学校長が、評価者である大阪府教育委員会教育長に対して提出するため作成されたものである。

  本件行政文書の内容としては、「本人に関する部分等」、「目標に関する部分」、「目標の達成状況に関する部分」及び「今後に関する部分」がある。

 (1)「本人に関する部分等」

  「本人に関する部分等」については、「記入日」、「学校名」及び「氏名」並びに平成15年3月31日現在での「年齢」、「校長在職年数」及び「現任校在校年数」を記入することとなっている。

(2)「目標に関する部分」

  「目標に関する部分」については、「目標設定区分」、「中期的な学校経営のビジョン」、「今年度の学校教育目標等」、「目標」及び「実施計画」がある。

  「目標設定区分」には、実施機関からあらかじめ示された「学校の経営」、「学校組織の運営」、「人の管理・育成」及び「地域連携と渉外」といった4つの目標設定区分の内から1区分を任意に選択し記入する。

  「中期的な学校経営のビジョン」には、年度当初に各府立学校において、教職員の意見も踏まえ、作成する「学校教育計画」を参考にしながら、府立学校長としての学校づくりに向けた中長期的なビジョンを記入する。

  「今年度の学校教育目標等」には、前述した「学校教育計画」における「本年度の重点課題」等から抽出するなどにより、今年度の目標等を記入する。

  「目標」には、平成14年度当初から取り組んでいることの中から重要と思われることについて、抽象的な目標だけでなく、達成したい状況も含めて、できるだけ具体的に記入する。

  「実施計画」については、目標を達成するための実施計画を記入する。

(3)「目標の達成状況に関する部分」

  「目標の達成状況に関する部分」に含まれる記載項目は、「達成状況」、「具体的な達成状況」及び「取り組みの状況」である。

  「達成状況」には、目標の達成状況を自己評価し、当初の計画どおり取り組みが進んでいる場合は、「概ね目標を達成している」に、また、計画を上回っている場合は「目標を上回っている」に、計画どおりに進んでいない場合は「目標に達していない」になり、該当するものにレ印でチェックする。

  「具体的な達成状況」には、面談において、目標の達成状況について、面談者として指定された大阪府教育委員会教育監との共通理解が深まるよう具体的な達成状況を記入する。

  「取り組みの状況」には、目標達成に向けた本人の取り組みで、良かった点や改善すべき点、今後の課題を記入する。

(4)「今後に関する部分」

  「今後に関する部分」については、「学校経営の充実に向けた自己の課題」、「次年度の学校経営の構想」及び「教育委員会に対する意見」があり、これらについては、設定目標に限定せず、校長の考えを記入する。

3 本件行政文書の適用除外事項該当性について

(1)「本人に関する部分等」について

  当該情報は、個人の経歴等に係るものであり、条例第9条第1号に該当する。

(2)「目標に関する部分」について

  「中期的な学校経営のビジョン」には、年度当初に各府立学校において作成される「学校教育計画」における「本年度の重点課題」等を踏まえ、校長としてどういう風に学校運営をしたいのか、経営的視点から校長の考えを記載することにより、管理職としての中長期的な視点を養うとともに、意欲を促すものである。

  学校としての教育目標は、前述の「学校教育計画」において定められているところであり、自己申告票における「今年度の学校教育目標等」には、学校で定められた「学校教育計画」の中から、校長として特に重要と考えられるものや力点を置くべきと考えるものを記載することとしている。

  「目標」及び「実施計画」については、「学校教育計画」など学校として定められた目標や計画ではなく、校長が重要と考え、チャレンジしたいと考えている「目標」と、それで具体的にどういう手順で実現したいと考えているのかを「実施計画」として記載することとしている。

  これらの情報を公にすることにより、府立学校長が、日常の業務を支障なく遂行しているにもかかわらず、意欲的な取り組みが達成されなかった場合の誤解・批判をおそれて、今後の設定目標において達成可能なもののみを掲げるようになり、当該事務の目標である府立学校長の育成等の目的が達成できなくなるおそれがあると認められる。よって、当該情報は条例第8条第1項第4号に該当する。

  また、「目標」及び「実施計画」については、府立学校長の考えや思いといったものが記載されていることから、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる。よって、当該情報は条例第9条第1号に該当する。

(3)「目標の達成状況に関する部分」について

  「目標の達成状況に関する部分」については、目標の達成状況を自己評価し、府立学校長が本人の取り組み状況や今後の課題を具体的に記入し、面談者との間における共通理解を図るものである。当該情報は、個人のプライバシーに係る情報であって、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる。よって、当該情報は条例第9条第1号に該当する。

  さらに、当該情報を公にすることにより、府立学校長が、日常の業務を支障なく遂行しているにもかかわらず、より一層自らの資質・能力の向上を図るため改善点として記載した取り組みに対する誤解・批判をおそれて、具体的な記述が避けられることとなり、面談者との間における共通理解を図ることができなくなるので、当該事務の目標である府立学校長の育成等の目的が達成できなくなるおそれがあると認められる。よって、当該情報は、条例第8条第1項第4号に該当する。

(4)「今後に関する部分」について

  「今後に関する部分」については、府立学校長が、自らの資質・能力の向上を図るために自己の課題や意見などを記載するものであり、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる。よって、当該情報は条例第9条第1号に該当する。

  さらに、当該情報を公にすることにより、府立学校長が自己の課題や意見などに対する誤解・批判をおそれて、意欲的で自由な記述をやめ、当該事務の目標である学校長の育成等の目的が達成できなくなるおそれがあると認められる。よって、当該情報は条例第8条第1項第4号に該当する。

(5)本件行政文書が試験的実施に係るものであることについて

  本件行政文書は、教職員の評価・育成システムの試験的実施という条件のもとで作成されたものである。教職員の評価・育成システムについては、平成15年度は、試行実施を行うこととなるが、本件行政文書が公になることにより、自己申告票の記載において、達成可能なもののみが目標として掲げられるようになる等、平成14・15年度において、試行を段階的に実施することとしている目的が達成できなくなるおそれがあると認められる。よって、条例第8条第1項第4号に該当する。

第六 審査会の判断理由

1 条例の基本的な考え方について

  行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより、「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに、府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。

  このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、公開することにより、個人・法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。

  このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。

2 教職員の評価・育成システムと本件行政文書について

  実施機関の説明及び審査会において本件行政文書を見分した結果等を総合すると、以下のことが認められる。

(1)教職員の評価・育成システムについて

  教職員の評価・育成システムは、教職員全般の資質向上を図るため、「教職員の資質向上に関する検討委員会」の報告をうけて、実施機関が導入を進めている施策である。「学校の目標をすべての教職員が共有することにより、教職員の主体的な取り組みが一層意欲的・効果的に進められ、学校が一体となって教育活動等が展開されることをめざす」ものとされており、その具体的な内容は、毎年度当初に、教職員各人が自己申告票を作成し、学校や組織・集団の目標を踏まえた個人目標を設定して、その達成に向けた取り組みを整理するとともに、達成状況の自己評価と上司との面談による総括を行って、改善点を整理し、次年度の目標に反映させていくというものである。

  実施機関は、教職員の評価・育成システムの導入に当たって、その着実な定着を図るため、平成14年度は「試験的実施」、平成15年度は「試行実施」と位置付けている。平成14年度の「試験的実施」においては、大阪府内のすべての公立学校が対象とされたものの、実施時期が年度後半の11月からになったという事情もあって、選択する目標設定区分の数を四つのうち一つに限定するなどかなり簡略化された内容で実施されている。

  なお、実施機関が対象者に配布した「教職員の評価・育成システム(平成14年度試験的実施) (校長に対する試験的実施の取扱いについて)〔校長用手引き〕」及び「教職員の評価・育成システム(平成14年度試験的実施)手引き 1〔教職員用〕」によれば、平成14年度における「試験的実施」の目的は、次の3点とされている。

a 評価・育成システムをより効果的なものとするための改善点等を把握し、今後の検討の参考とする。

b 試験的実施を通じて、教職員の活動内容の充実・改善や目標設定の契機とするとともに、教職員の意見を学校運営等に反映する。

c    教職員の評価・育成システムに対する教職員の理解を深めるとともに、校長等の評価・育成能力の向上を図る。

また、平成14年度の試験的実施のスケジュールは、

a 試験的実施の説明(11月上旬)、

b 自己申告票の作成(個人目標の設定、目標の達成状況の自己評価、校長の場合は11月上旬〜、一般教職員の場合は12月上旬〜)、

c 自己申告票の提出(校長の場合は11月下旬、一般教職員の場合は12月下旬)、

d 面談(校長の場合は11月下旬〜12月中旬、一般教職員の場合は12月下旬〜2月中旬)、

e 評価・育成シートの作成(校長の場合は教育長が作成する。一般教職員の場合は校長が「育成シート」を作成する。)

という流れになっている。

(2)本件行政文書について

  本件行政文書は、教職員の評価・育成システムの平成14年度における試験的実施に際して、府立学校の校長から実施機関に(具体的には、府立学校校長に対する面談者として指定された教育監を経由して評価者である教育長に)提出された自己申告票であり、提出後は、教育監による面談の資料として用いられ、その結果をも踏まえて、評価者である教育長が、評価・育成シートを作成することとされていたものである。

本件行政文書の記載項目は、以下のとおりである。

ア 本人に関する部分等

  記入月日、職名(学校名)、氏名のほか、平成15年3月31日現在の年齢、校長在職年数、現任校在校年数が記入されている。

イ 目標に関する部分

 (ア)目標設定区分

  「学校の経営」、「学校組織の運営」、「人の管理・育成」、「地域連携と渉外」の4つの区分から、当該校長が記入する目標が該当するもの1項目が記入されている。

  (イ)中期的な学校経営のビジョン

  年度当初に各学校において作成する「学校教育計画」を参考にしながら、学校づくりに向けた中長期的なビジョンを記入することとされている。

 (ウ)今年度の学校教育目標等

  年度当初に各学校において作成する「学校教育計画」における「本年度の重点課題」等から抽出するなどにより、学校づくりに向けた今年度の目標等を記入することとされている。

(エ)目標

  平成14年度は、年度途中からの試験的実施であることから、記入時点で新たな目標を設定するのではなく、既に年度当初から取り組んでいることの中から、重要と思われることを目標として記入することとされている。また、抽象的な目標だけでなく、達成したい状況をできるだけ具体的に記入することとされている。

(オ)実施計画

設定した目標を実現するための実施計画を記入する欄である。平成14年度は、年度当初に予定していたことを記入することとされている。

ウ 目標の達成状況に関する部分

(ア)達成状況

  目標の達成状況を自己評価し「目標を上回っている」、「概ね目標を達成している」、「目標に達成していない」の三つの選択肢のうち該当するものにチェックされている。

  平成14年度は、当初の計画どおりに取り組みが進んでいる場合は「概ね目標を達成している」に、計画を上回っている場合は「目標を上回っている」に、計画どおり進んでいない場合は「目標に達していない」にレ印でチェックすることとされている。

 (イ)具体的な達成状況

  目標の達成状況について、面談者との共通理解が深まるよう、具体的な状況を記入することとされている。

 (ウ)取り組みの状況

  目標達成に向けた記入者本人の取り組みで、良かった点や改善すべき点、さらに今後の課題を記入することとされている。また、結果が出なくても、目標達成につながるような態度・行動は、良かったものとして記入することとされている。

エ 今後に関する部分

  「学校経営の充実に向けた自己の課題」、「次年度の学校経営の構想」、「教育委員会に対する意見」の各項目について、設定目標に限定せずに記入するものとされている。なお、「教育委員会に対する意見」の中には、今回試験的実施された教職員の評価・育成システムに関する意見も含まれている。

3 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について

  実施機関は、本件行政文書について、「本人に関する部分等」、「目標に関する部分」、「目標の達成状況に関する部分」、「今後に関する部分」に区分し、それぞれに記録された情報について、条例第9条第1号ないし条例第8条第1項第4号に該当する旨主張するとともに、本件行政文書が、教職員の評価・育成システムの試験的実施に係るものであることから、全体として、条例第8条第1項第4号に該当するとも主張している。

  そこで、審査会においては、本件行政文書について、まず、条例第9条第1号に該当する情報が記録されているか否かを検討し、次いで、条例第8条第1項第4号に該当する情報が記録されている否かについて、本件行政文書が教職員の評価・育成システムの試験的実施に係るものであることを踏まえつつ、検討した。その結果は以下のとおりである。

(1)条例第9条第1号の趣旨について

  条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨宣言している。また、第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない旨規定している。

  このような趣旨をうけて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたのが条例第9条第1号である。同号は、

a   個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって、

b    特定の個人が識別され得るもののうち、

c    一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる

情報が記録された行政文書については公開してはならないと定めている。

(2)条例第9条第1号該当性について

  実施機関は、本件行政文書のうち、本人に関する部分等の各項目、目標に関する部分の「目標」及び「実施計画」、目標の達成状況に関する部分の各項目並びに今後に関する部分の各項目について、条例第9条第1号に該当すると主張している。

  しかしながら、これらの記載項目のうち、本人に関する部分等の「記入月日」、「職名(学校名)」、「氏名」、「校長在職年数」及び「現任校在校年数」については、いずれも個人に関する情報ではあるものの、公務員の職又はその職務の遂行に関する情報であり、これらの情報そのものは、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる情報とは言えない。

  また、目標に関する部分の「目標」及び「実施計画」、目標の達成状況に関する部分並びに今後に関する部分の各項目に記録されている情報についても、校長が学校運営上取り組んでいる事柄に係る目標や実施計画の内容、その達成状況の自己評価等、職務に関しての自己の課題や次年度の構想、教育委員会に対する意見であり、そこには校長個人の考えや思いが反映されており、個人に関する情報としての側面は否定できないものの、基本的には、公務員としての職務の遂行に関する情報である。具体的に当該校長自身や教職員、生徒など関係者個人の健康状態や家庭事情といったプライバシーに関する情報に言及されているなどの事情がない限り、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる情報には該当しないものである。

  一方、年齢については、個人の固有の属性に関する情報であり、公務員としての職務に関する情報ではないから、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる情報にも該当する。異議申立人は、府立学校の校長の任用制度からして、現在のところは校長になる者の年齢層は相当に限定されている、学校に関するマスメディアの報道においては、当該校の校長の氏名や年齢が報道されることは珍しくはない、財団法人大阪府立学校校長協会が発行している府立学校教職員名簿に氏名、年齢、住所、電話番号はもちろん、担当教科目や教員免許状の種類、最終学歴(出身大学名)までが記載されているなどとして、校長の年齢は、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる情報には該当しない旨主張するものと解されるが、事実上校長の年齢層が限られているからといって、個人の年齢を具体的に明らかにして良いということにはならないし、マスメディアが個々の事件の重大性等を考慮して校長の年齢等を公表することと何時でも何人に対しても情報を公開する行政文書公開制度における公開の是非とを同列に考えることもできない。異議申立人が指摘する大阪府府立学校校長協会作製に係る名簿も、一般に市販されたり、公衆の閲覧に供されたりしているものではなく、当該名簿に掲載されている情報が広く一般に公表されていると解することはできないものである。

  以上のとおりであるから、本件行政文書のうち「年齢」欄の記載については、条例第9条第1号に該当し、公開してはならないが、その余の部分については、原則として、条例第9条第1号には該当せず、公開の対象となし得るものである。

(3)条例第8条第1項第4号の趣旨について

  行政が行う事務事業に関する情報の中には、当該事業の性質、目的等からみて、執行前あるいは執行過程で公開することにより、当該事務事業の実施の目的を失い、又はその公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼし、ひいては、府民全体の利益を損なうおそれがあるものがある。また、反復継続的な事務事業に関する情報の中には、当該事務事業実施後であっても、公開することにより同種の事務事業の目的が達成できなくなり、又は公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるものもある。

  このような支障を防止するため、これらの情報は公開しないことができるとするのが本号の趣旨であり、同号は、

a  「府の機関又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、入札、交渉、渉外、争訟等の事務に関する事務であって」、

b  「公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの」

について、公開しないことができる旨定めている。

(4)条例第8条第1項第4号該当性について

  実施機関は、本件行政文書のうち、目標に関する部分、目標の達成状況に関する部分及び今後に関する部分の各項目に記録された情報について、それぞれ、公にすることにより、

a 校長が、日常の業務を支障なく遂行しているにもかかわらず、意欲的な取り組みが達成されなかった場合の誤解・批判をおそれて、今後の設定目標において達成可能なもののみを掲げるようになり、校長の育成等の目的が達成できなくなるおそれがある(目標に関する部分)、

b 校長が、日常の業務を支障なく遂行しているにもかかわらず、より一層自らの資質・能力の向上を図るため改善点として記載した取り組みに対する誤解・批判をおそれて、具体的な記述を避けるところとなり、面談者との共通理解を図ることができなくなるので、校長の育成等の目的が達成できなくなるおそれがある(目標の達成状況に関する部分)、

c 校長が、自己の課題や意見などに対する誤解・批判をおそれて、意欲的で自由な記述をやめ、校長の育成等の目的が達成できなくなるおそれがある(今後に関する部分)

として、条例第8条第1項第4号に該当すると主張している。また、本件行政文書は、教職員の評価・育成システムの試験的実施という条件のもとで作成されたものであるとし、教職員の評価・育成システムについては、平成15年度は、試行実施を行うこととなるが、本件行政文書が公になることにより、自己申告票の記載において、達成可能なもののみが目標として掲げられるようになる等、平成14・15年度において、試行を段階的に実施することとしている目的が達成できなくなるおそれがあると主張している。

  そこで、これらの点について検討するに、実施機関が主張する上記a〜cの懸念については、校長による自己申告票への記入が、あくまでも職務として行われるものであることからすると、本来的には、その様式や記入の手引に工夫を凝らしつつ、試験的実施や研修等を通じて校長等関係者の習熟を促すなど、実施機関として関係者に趣旨の徹底を図ることで相当程度に回避され得ると考えられる。そのような措置を講じてもなお回避し得ないような事由が具体的に認められる事項が記載される場合はともかく、抽象的にこのような懸念があることをもって直ちに、条例第8条第1項第4号に該当するとは認められないものである。

  しかしながら、本件行政文書は、教職員の評価・育成システムに関して、本府において初めて、しかも、年度途中の平成14年11月から実施された試験的実施に係るものである。こうした作成時期や4つの目標設定区分から1つを選ばせるという目標設定等に関する指示内容から見ても、各校長の学校運営の目標等を実際の重要度に応じ網羅的に記入して作成することを目指したものではないことは明らかであり、とりあえず、校長等の関係者が自己申告票の作成やこれを用いて行う面談といった手続に習熟することが大きな目的になっていたと認められる。このため、本件行政文書を作成するに当たって記入者である校長が行う目標の選択については、多少便宜的に行うことも容認されていたと考えられるし、本件行政文書が、本来的には、上司との面談や上司による評価・育成シート作成の基礎資料として作成されたことからすると、多くの校長は、本件行政文書の公開について全く予期していないと考えられる。審査会において、本件行政文書を見分したところにおいても、各項目の記載内容には、その詳しさや内容の熟度、校長個人の思いや考えの記載状況などに、相当大きなバラツキがあり、記入者である各校長の習熟や様式等の検討が不十分と認められる点が少なからず見受けられた。

  このような事情のもとで、本件行政文書に記載されている目標やその実施計画、目標の達成状況、今後の課題や構想、教育委員会に対する意見等の記載内容を公開すると、今後新たに人事制度の大きな改変が行われる場合の当該制度の試験的実施など同種の事務の執行に際して、必要な情報の把握が困難となり、問題点や改善すべき点の抽出など当該同種の事務の目的が達成できなくなるおそれがあることから、これらの情報は、条例第8条第1項第4号に該当すると認められる。

  なお、異議申立人は、「『試験的実施』に関する具体的効果の測定・検証・評価が公共的議論の対象とされねばならず、そのために必要なあらゆる情報の公開が求められる。」と主張し、また、「校長職に就く者には当然備わると常識的に考えられる程度の責任感と適法意識があれば、その職責に基づく公正かつ適切な記述が可能なのであり、少なくともそれが原理的に不可能というのではない以上、本件行政文書は条例第8条第1項第4号には該当しない。」と主張するが、本件行政文書は、評価・育成システムの試験的実施に際し、校長が作成したものであるものの、そこに記録されている情報の多くは、上述のとおり、条例第8条第1項第4号に該当すると認められるのであり、これら情報が非公開とされるのは、止むを得ないところである。

  以上のとおりであるから、本件行政文書のうち目標に関する部分、目標の達成状況に関する部分及び今後に関する部分の各項目に記録された情報については、条例第8条第1項第4号に該当し、公開しないことができると認められる。

(5)部分公開の検討

  条例第10条第1項は、行政文書に条例第8条第1項各号又は第9条各号に該当し公開しないこととされる部分がある場合において、「その部分を容易に、かつ、公開請求の趣旨を損なわない程度に分離できるときは、その部分を除いて、当該行政文書を公開しなければならない。」旨定めている。

  これを本件行政文書について検討するに、上述のとおり、本件行政文書のうち、本人に関する部分等の「年齢」欄に記載された情報は条例第9条第1号に該当し、公開してはならない情報であり、また、目標に関する部分、目標の達成状況に関する部分及び今後に関する部分の各欄に記載された情報は、条例第8条第1項第4号に該当し、公開しないことができる情報であることから、部分公開を検討すべきは、本人に関する部分等のうち、「記入月日」、「職名(学校名)」、「氏名」、「校長在職年数」及び「現任校在校年数」欄となる。

  しかしながら、これら部分に記録されている情報は、いずれも、府の職員録等において公表済の情報若しくは当該公表済の情報から知り得る情報又は本件行政文書の作成に係る外形的な情報であって、仮に、これら部分のみを公開したとしても、本件請求の趣旨を何ら満たすことにはならないものであり、上述の条例第10条第1項の趣旨に照らし、これら部分のみの部分公開を行う必要はないと認められる。     

4 理由付記及び論点の追加に関する異議申立人の主張について

 異議申立人は、本件決定の理由付記が不十分であったと主張しているが、行政文書公開請求に対する非公開決定(部分公開決定)における理由付記については、一般に、適用除外事項の規定のどれに該当するかだけでなく、その規定のどの部分に該当するのかを根拠とともに了知し得るものでなければならないと解されているところ、本件決定に付された理由は、本件行政文書が、全体として、条例第9条第1号及び同第8条第1項第4号に該当することについて、これらの規定のどの部分に該当するのかをその根拠とともに了知し得るように記載されているものであり、本件行政文書のどの部分がどの適用除外事項の規定に該当するかについてやや明確さを欠く点があるものの、本件決定の取消事由となるような不備は認められない。異議申立人が主張するように、異議申立てが行われた場合における弁明書と基本的に同じ内容の理由付記を必要とする法的根拠は存しない。

  また、異議申立人は、実施機関が、弁明書において「本件行政文書が『試験的実施』に係るものであることの『特殊性』」に関して記述したことについて、新たな論点を追加したものであり、市民の「知る権利」を冒涜するものであると主張するが、異議申立人が指摘する弁明書における記述内容は、本件決定に付された条例第8条第1項第4号に該当する理由を敷衍するものとも見られるものであり、また、一般に、行政文書非公開決定の実体法的な適否の審査を本旨とする異議申立ての段階において新たな論点ないし理由を追加することは、手続上許容されると解されていることからすると、このような記述をしたことが、本件決定の適否についての判断を何ら左右するものではないことは明らかである。

5 結 論

 以上のとおりであるから、本件異議申立てには理由がなく、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。

このページの作成所属
府民文化部 府政情報室情報公開課 情報公開グループ

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