大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第225号)

更新日:2013年3月28日

大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第225号)

<都市整備部発注工事の金入設計書部分公開決定異議申立事案>

(答申日 平成25年3月28日)

 第一 審査会の結論

  実施機関(大阪府知事)の決定は妥当である。

 第二 異議申立ての経過

 1 平成23年11月30日、異議申立人は、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、大阪府知事(以下「実施機関」という。)に対し、「大阪府都市整備部西大阪治水事務所発注の平成21年12月4日開札、一級河川木津川防潮堤補強工事(国道43号上流右岸その2)の大阪府積算根拠内訳書金額入り(代価表まで)」の行政文書公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。

 2 同年12月14日、実施機関は、条例第13条第1項の規定により、本件請求に対応する行政文書として(1)の行政文書(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、(2)の部分を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、(3)のとおり公開しない理由を付して異議申立人に通知した。

(1)行政文書の名称

一級河川木津川防潮堤補強工事(国道43号上流右岸その2)の金入設計書(※)

※「金入設計書」とは、土木工事を入札に付して発注する場合に、その工事目的物を完成させるために必要な価格の総額(予定価格算出の根拠となる設計金額)を計算した根拠資料。

(2)公開しないことと決定した部分(以下「本件非公開部分」という。)

ア 積算における条件

イ 共通仮設費(率分)、現場管理費、一般管理費の対象額及び率

ウ 内訳書及び代価表における数量、単価、金額

エ 代価表のうち任意仮設工種にかかる代価表

(3)公開しない理由

条例第8条第1項第4号に該当する。

   本件行政文書の非公開部分には、府の機関が行う入札の予定価格算出に用いる単価等の設計積算に関する情報が記載されており、これを公開すると、府の機関が行う入札の予定価格等について、相当正確な水準で容易に把握することができるものである。

   大阪府の入札では、現在、予定価格等を類推して応札することを防ぎ、適正な競争性や工事品質の確保、不良不適格業者の排除等を目的として、予定価格等の事後公表を実施しているが、これらの情報の公開は事後公表の趣旨と相反することとなり、これらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるため。

3 同年12月26日、異議申立人は、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)を行った。

三 異議申立ての趣旨

  本件決定を取り消し、全部公開を求める。

第四 異議申立人の主張要旨

  異議申立人の主張は、概ね次のとおりである。

 1 異議申立書における主張

  公にすることにより予定価格等の事後公表の趣旨と相反することとなり、これらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるとされているが、平成23年11月20日以前は予定価格等が事後公表の物件においても、金入設計書及び代価表の全てが公表されている事から、本件決定の理由が明確ではない。また、上記は実施機関の主観的事情であり部分公開の理由にはならない。

 2 反論書における主張

(1)情報公開とは、大阪府が保有する情報は本来府民のものであるとの精神のもと、府民の「知る権利」を保障し、また大阪府は「説明する義務」を全うする事である、とありますが、実施機関の公開しない理由においては、実施機関及び入札参加業者の観点からの回答に留められており、府民の立場では言及されていない。

   府民には、実施機関の積算が適正に行われているかを「知る権利」があり、本件決定は府民の権利をないがしろにするものである。

   過去の判例(津地方裁判所平成10年6月11日判決平成9(行ウ)2文書非開示処分取消請求事件)においても、積算根拠資料を非開示とした三重県に対して、県民が開示を求める請求を起こし勝訴している事から、国民の「知る権利」は阻害されるべきではないと思われる。

   本件請求及び本件決定を、府民の観点から考えた際、どのように受け止めればいいのか。また、実施機関はどのようにお考えなのか。

(2)実施機関の公開しない理由では、「これを公開すると、府の機関が行う入札の予定価格等について、相当正確な水準で容易に把握することができる」とあるが、近畿地方整備局土木工事標準積算基準は、その内容が年度毎に更新されているため、公開資料を前年度以前に限定する(大阪府住宅まちづくり部は現行)事で、予定価格を類推する事が容易ではなくなると考える。もし過去に金入設計書を公開した事で、予定価格等が類推された事例が実際あったのであれば、その詳細な資料をご提示願う。また、同条では公開しない理由について「条例第8条第1項第4号に該当する」とあるが、国土交通省近畿地方整備局では「行政機関の保有する情報の公開に関する法律第5条」には該当しないとの判断から金入設計書の公表を行っている。その他の市町村についても開示の決定が行われている中で、なぜ実施機関は非開示とされるのか、その理由について近畿地方整備局及び他の市町村を考慮し、ご回答下さい。

(3)本件請求について、実施機関の決定は部分公開との事であるが、同様の請求を大阪府住宅まちづくり部に対して申請したところ、当該年度発注物件等一部の建築工事以外については情報を公開して頂けた。

   同じ大阪府に属する機関であるにも関わらず、実施機関の見解が異なるのは何故なのか。ご教示下さい。

(4)結論

 本件請求に対して、実施機関が下した本件決定、及び弁明書の説明はいずれも納得できるものではなく、条例に抵触するものである。

 よって公開の原則に立ち返り、速やかに本件行政文書の全面的な情報公開が行われるよう、求めるものである。

第五 実施機関の主張要旨

  実施機関の主張は概ね次のとおりである。

 1 公開しないこととした情報について

  本件行政文書は、土木工事を入札に付して発注する場合に、その工事目的物を完成させるために必要な価格の総額(予定価格算出の根拠となる設計金額)を計算した根拠資料である。またその内容は、設計金額が記載されている表紙、総括情報表、内訳書、代価表で構成されている。

    本件行政文書のうち、公開に一定の制限を加えたものとしては、代価表、内訳書の一部があり、代価表は、工事における個々の作業の単位当たりの金額を表し、内訳書は代価表をまとめたものであり、内訳書の中でも個々の単位当たりの金額を示している部分もある。

   工種毎の作業日数や仮設物の所要量等、本来、入札参加者各々が施工計画、工程を検討のうえ算定すべき要素は入札公告で交付する設計図書等においても公表していない。ここで言う、設計図書とは建設工事請負契約書第1条に定めるものであり、図面、仕様書、金額を記載しない金抜設計書、補足説明書及び質問回答書を言い、入札公告時の交付書類のひとつである。

    本件行政文書の具体的な内容は、防潮堤として鋼管矢板や鋼矢板を設置するとともに、既設護岸の地盤改良を行う工事であり、各工種に必要な資材費、労務費及び機械経費等を積上げ、当該工事に必要な価格を計算したものである。

    非公開とした部分は各工種を構成する細別の単価(矢板工であればその内訳となる塗装工、矢板材料費、矢板打設工等の単価)及びさらに細別を構成する代価表(矢板打設工であれば機械運転工の日数、労務人数等とその単価)であり、これらは、「建設工事積算基準」(以下、「積算基準」と言う。)に基づき積算しており、この積算基準は大阪府府政情報センターにおいて公表しており、入札参加者はこれを用いることで積算可能である。また、積算基準に定められていない工種については、設計図書等の一部である特記仕様書において、当該工事で求める性能や規格を明記しており積算は可能である。

2 予定価格及び最低制限価格について

    予定価格とは、公共工事の発注者が競争入札を行う際に、その落札価格を決定するための基準となるものであり、仕様書、設計書等により積算して、作成するように定められている(予算決算及び会計令(以下、「予決令」という。)79条、地方自治法234条。)。

   公共工事において作成される予定価格は、競争入札に付される工事の仕様書、設計書等に基づき、各工種の細部まで厳密に積算された設計金額に基づき作成される。

    予定価格の前提となる設計金額は、まず、契約の目的である公共工事の施工上必要な労働者、建設資材等の取引の実例価格、需給の状況、数量の多寡、履行の難易、履行期間の長短等を考慮して適正に定めなければならない。

    また、「予定価格は、契約の目的となる物件又は役務について、取引の実例価格、需給の状況、履行の難易、数量の多寡、履行の難易、履行期間の長短等を考慮して適正に定めなければならない。」(予決令80条2項)と定められており、具体的な設計金額の算出は、工事に要する作業手間並びに作業日数を数値化したもの(歩掛り)に対応する職種の労務単価、材料費、機械損料等を乗じ、それに諸経費等を加えて行う。これらは、積算基準として一般に公表されており、これにより、入札参加者がある程度まで予定価格を類推できるようになっている。

    最低制限価格とは、地方自治体が入札の実施にあたって設定することのできる落札額の下限値であり、最低制限価格を下回った応札者は失格となる(地方自治法施行令第167条の10第1項)。大阪府においても、最低制限価格を設定している。

   大阪府の最低制限価格の設定方法は、予定価格の積算に対して一定の率を乗じて算出することとしており、その算出方法は一般に公開しているため、一般の入札参加者であっても、最低制限価格も推定可能となっている。

 3 予定価格等の事後公表について

  大阪府では、平成13年度以降、事前公表(入札の実施を一般に周知する入札公告の時点で、あらかじめ予定価格及び最低制限価格を公表すること。以下同じ)としていたが、大阪府の公共工事の発注量の減少に伴い、請負業者間の競争が激化し、入札に参加した請負業者の大半が最低制限価格と同額で応札し、抽選により落札者を決定する状況が常態化するようになった。

 本来、入札においては、入札参加者は自社の有する人員・機材・材料・技術等をもとに、受注した場合に必要と考える費用や利益を見込んだ実行予算を積算し、その上で応札価格を定めるべきものである。

  しかし、最低制限価格と同額で応札する業者の中には、まったく積算を行わず、単に公表されている最低制限価格をそのまま応札する業者もあり、このような業者が落札した場合には、契約の実施にあたって公共事業の品質の確保など、通常よりも多大な負担を伴う。

  また、入札の趣旨に則し実行予算を積算して応札した業者は、応札額が最低制限価格と同額にならない限り事実上落札できず、応札額が最低制限価格と同額となったとしても、積算せずに単に公表された最低制限価格をそのまま応札した業者と同列に並んで抽選を行って落札者を決定することとなるため、入札の公正性や入札本来の意義が失われる恐れがあるばかりでなく、業者の適正な積算意欲を失わせ、契約実施能力の低下を招き、結果として公共事業の品質を損なう恐れがある。

  そこで、大阪府では、平成21年12月より、一部の発注案件において事前公表ではなく、事後公表(予定価格及び最低制限価格は入札公告の時点では公表せず、入札結果が確定した時点で公表すること。以下同じ)の試行を実施し、順次、対象となる入札案件の範囲を拡大してきた。

 4 設計図書の単価等の非公表について

  事後公表の試行を実施したものの、測量や建設コンサルタント等、先行して予定価格等を事後公表とした案件であっても、相変わらず最低制限価格付近に応札額が集中する状況となっていた。

 「2予定価格及び最低制限価格について」で述べたとおり、一般に公表されている積算基準等のみであっても、ある程度予定価格の類推は可能であるが、この積算基準等に加えて、行政文書公開請求により積算基準に記載のない実施機関の見積単価等を入手することで、実施機関の予定価格等をきわめて正確に推定することが可能となっており、これが原因と考えられた。

  実際、設計単価に関する行政文書公開請求は、事前公表のみの時にはほとんどなかったものが、事後公表の試行開始後から増大していることからも裏付けられる。

  もちろん、全ての業者が行政文書公開請求を行っているわけではないが、行政文書を入手した業者から、見積単価等の情報が積算用コンピュータソフトウェアに組み込まれるなどの形で拡散し、実質的に事後公表の趣旨を損なう状況となっていることが推定できた。

  加えて、実施機関の入札においては、不適格業者の排除、不正行為の防止の観点から入札参加者に対して、入札額の根拠となる工事費内訳書の提出を求めているが、金入設計書を全部公開することにより、設計における単価が明らかになると、業者自らの積算内容の確認ができなくなり、入札制度の運用にも支障をきたすこととなる。

  事後公表の試行範囲について、平成23年11月21日以降からほぼすべての入札案件を対象に拡大することとしていたが、新たに事後公表となる工事案件が増加し、行政文書公開請求によりさらに、単価等の情報が拡散し、事後公表の趣旨が損なわれる状況が拡大することが予想された。このため、平成23年11月21日の予定価格等の事後公表の試行範囲の拡大に合わせて、「1公開しないこととした情報について」に述べた範囲の情報については公開しないこととしたものである。

予定価格、最低制限価格の事後公表の推移   

時期

項目

対象案件

H21.12〜

【最低制限価格等】

土木一式工事(工事金額1億8千万円以下)

H22.11〜

【予定価格】

土木一式工事(工事金額1億8千万円以下)

【最低制限価格等】

全工種、全案件

H23. 4〜

【予定価格】

全工種(土木工事以外の工種についても一定ランク以上の案件で設定)

H23.11〜

【予定価格】

全工種  ただし、

     土木一式工事(工事金額2千万円未満)

     建築工事(工事金額1億8千万円未満)

     電気工事(工事金額5千万円未満)

     管工事(工事金額5千万円未満)

                  を除く。

 5 本件の適法性について

(1) 条例第8条第1項第4号に該当することについて

  ア 条例第8条第1項第4号について

  条例第8条第1項第4号は、府の機関又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、契約、交渉、渉外、争訟、調査研究、人事管理、企業経営等の事務に関する情報であって、公にすることにより、当該若しくは同種の事務の達成ができなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるものに該当する情報が記録されている行政文書を公開してはならないと規定している。

 イ 上記アの要件について

  本件行政文書(非公開部分)は、府の機関が行う入札の予定価格算出に用いる単価等の設計積算に関する情報であり、これを公開すると、府の機関が行う入札の予定価格等について、相当正確な水準で容易に把握することができるものである。

  大阪府の入札では、現在、予定価格等を類推して応札することを防ぎ、適正な競争性や工事品質の確保、不良不適格業者の排除等を目的として、予定価格等の事後公表を実施しているが、これらの情報の公開は事後公表の趣旨と相反することとなり、これらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。したがって、上記の情報は、上記アの要件に該当する。

 6 申立人の主張に対する反論

ア 申立人は、平成23年11月20日以前は予定価格等が事後公表の物件においても、金入 設計書及び代価表の全てが公表されている事から、本件決定の理由が明白でないとの主張   をしている。

  確かに、従前は予定価格の事前公表、事後公表の案件に関わらず金入設計書の開示請求  があった場合、特殊な例を除き、全部公開してきたことは認める。

  しかしながら、前述のとおり、適正な競争環境の確保、不良不適格業者の排除を目的とし事後公表の試行範囲を拡大しているにもかかわらず、見積単価等の情報をすべて開示している状況にあり、事後公表制度の趣旨を損なっていたことから、今回、平成23年11月21日にほぼすべての入札案件で予定価格等が事後公表とするのに合わせて、公開の範囲に制限を加え部分公開としたものであり、本件決定の理由は明白である。

イ また、申立人は実施機関の主観的事情であり部分公開の理由にはならない。と主張してい    る。

     これについても、前述のとおりの理由により、部分公開としたものであって、この点につい  て も、条例第8条第1項第4号に該当する。

  すなわち、これは実施機関が公開しないことができる情報の範囲を規定したものであり、前  述の通り、設計書の単価情報に関する部分は、公にすることにより、実施機関が発注する入札に関する事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるため、非開示としたものである。 

ウ 申立人が主張する金入設計書にかかる情報公開請求への対応が実施機関と大阪府住宅まちづくり部で異なる点については、住宅まちづくり部が取り扱う公共工事は、府営住宅の建設など、建築工事がほとんどであり、都市整備部が取り扱う道路、河川、下水など土木系インフラ施設工事とは設計概念から根本的に異なっている。実際に、歩掛など積算基準や単価等も都市整備部と住宅まちづくり部では適用されるものが異なっている。

    また、民間需要のある建築工事と、官公需がほとんどである土木系インフラ工事では、市場の規模や対象企業も全く異っている。

    加えて、従来全面公開していた単価情報等を、事後公表の効果検証の結果として、都市整備部の事業に影響を及ぼすとして非公開とするよう取扱いを変更したものであるが、都市整備部は住宅まちづくり部に先行して事後公表の試行を進めているので、住宅まちづくり部と事後公表導入の効果検証の状況も異なり、都市整備部と住宅まちづくり部の状況を単純に比較できるものではない。

 7 結論

   以上のとおり、本件決定は、条例の規定に基づき適正に行われたものであり、適法かつ妥当なものである。

 第六 審査会の判断理由

1 条例の基本的な考え方について

   行政文書公開についての条例の基本的な理念は、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより、「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。

   このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。

   このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならないのである。

 2 本件行政文書について

   本件行政文書は、実施機関が一級河川木津川防潮堤補強工事(国道43号上流右岸その2)を発注するのに際し、必要な価格の総額(予定価格算出の根拠となる設計金額)を計算するため、当該工事に必要な資材費、労務費及び機械経費等を積み上げた積算資料である。

   当該工事は、防潮堤として鋼管矢板や鋼矢板を設置するとともに、既設護岸の地盤改良を行うものであり、本件非公開部分は工事を行うにあたり必要な各工種(矢板工であればその内訳となる塗装工、矢板材料費、矢板打設工等)を構成する細別である内訳書及び内訳書の細別を構成する代価表(矢板打設工であれば機械運転工の日数、労務人数等)の「数量」、「単価」、「金額」及び「積算条件」等(既に公にしているものを除く。)である。

3 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について

   実施機関は本件非公開部分は、条例第8条第1項第4号に該当すると主張しているので、以下検討する。

(1)条例第8条第1項第4号について

   行政が行う事務事業に関する情報の中には、当該事務事業の性質、目的等からみて、執行前あるいは執行過程で公開することにより、当該事務事業の実施の目的を失い、又はその公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼし、ひいては、府民全体の利益を損なうおそれがあるものがある。

   また、反復継続的な事務事業に関する情報の中には、当該事務事業実施後であっても、これを公開することにより同種の事務事業の目的が達成できなくなり、又は公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるものもある。

   このような支障を防止するため、これらの情報は公開しないことができるとするのが本号の趣旨である。

同号は、

ア  府の機関又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、入札、契約、交渉、渉外、争訟、調査研究、人事管理、企業経営等の事務に関する情報であって、

イ  公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの

は、公開しないことができる旨を定めている。

(2)条例第8条第1項第4号該当性について

   本件行政文書は、実施機関が入札により発注した土木工事の資料であり、入札事務に関する情報であることから、(1)アの要件に該当する。

   次に、本件行政文書の非公開部分に記録されている情報が(1)イの要件に該当するかどうか検討する。

ア 実施機関へ事務支障について具体的な説明を求めたところ、次のとおりであった。

   本来、入札参加業者は自らの技術力等を踏まえ自社で積算した価格で応札すべきところであるが、現実には積算能力のない事業者が自ら積算を行わず、これまで公表されてきた予定価格等を利用して、最低制限価格を容易に類推して入札に参加していると考えられるケースが多数みられる。大阪府ではこのような不適切な入札が継続されるのを回避するため、最低制限価格等の事後公表や金入設計書にかかる情報公開請求の公開範囲の制限など、入札事務の改善に向けた取組みを続けている。

   金入設計書にかかる情報公開の公開範囲の制限の結果、実施機関の実施した入札に関しては、応札額が最低制限価格に貼りつく件数が減るなどの一定の効果が現れたと認められた。ただ、知る権利の観点から本件非公開部分をいつまでも非公開とし続けることは適切ではないと認識をしている。そのため、本件非公開部分を公開しても今後実施される入札において最低制限価格等が類推されるおそれがなくなれば直ちに公開できるよう、公開の基準の作成に向け現在そのデータ分析を行っているところである。

   こうした状況で本件非公開部分を公開すれば、適切な公開の基準が作成できないばかりか、積算能力のない事業者が入札に参加しうるといった不適切な入札事務が継続することとなり、入札事務の適切な執行に支障が生じる。    

イ 適切な入札の実施を求める実施機関の主張とその取組みについて一定の理解はできるが、一方で本件行政文書は、積算価格と落札価格が適正であるかどうかを検証する、あるいは実施機関が府民に対する説明責任を果たす上で重要な情報である。

   この点について、実施機関は異議申立人が主張する「知る権利」の重要性は認識した上で、本件行政文書を公開しても今後実施する入札事務において支障を及ぼすおそれがなくなれば直ちに公開するよう、これまで取り組んできた公開範囲の制限の効果も踏まえ、公開基準の作成等に取組んでいるとのことである。こうしたことに照らすと、現時点で本件非公開部分を公開すると入札事務の適切な執行に支障が生じるおそれがあるとする実施機関の主張には、相当の理由があると認められる。

   なお、異議申立人は、実施機関が発注する建築工事等の金入設計書は全部公開されているにもかかわらず、実施機関が発注する土木工事の金入設計書について公開範囲が制限されていることは知る権利をないがしろにするものであると主張している。この点については、各々の工事毎に設計の概念や適用する積算基準等が異なれば金入設計書の公開も一律に判断されるものではないとする実施機関の主張については理由があると認められるため、本件決定に対する判断に影響を与えるものではない。

 

ウ 当審査会は、府民の知る権利の観点から、実施機関に対し、公開の基準のすみやかな作成を求めるとともに、今後実施される入札において本件情報を公開しても最低制限価格の類推につながるおそれがない場合には、公開の基準の作成を待つまでもなく本件情報をすみやかに公開すべきであること、また、実施機関の責任において、今後本件非公開決定と入札の適正執行との因果関係が明らかとなる詳細な分析を行う必要があることを申し添える。

 

4 結論

    以上のとおりであるから、本件異議申立ては理由がなく、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。

 

(主に調査審議を行った委員の氏名)

   鈴木秀美、山口孝司、松田聰子、細見三英子

 

このページの作成所属
府民文化部 府政情報室情報公開課 情報公開グループ

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