大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第224号)

更新日:2013年3月27日

大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第224号)

〔修学旅行関係文書部分公開決定異議申立事案〕(答申日平成25年3月27日)

 

第一 審査会の結論

  大阪府教育委員会(以下「実施機関」という。)は、本件異議申立てに係る部分公開決定において非公開とした部分のうち、別紙において「公開」とした部分を公開すべきである。

 実施機関のその余の判断は妥当である。

 

第二 異議申立ての経過

1 異議申立人は、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により平成23年1月20日、実施機関に対して、

「2009年度に府立学校校長から府教委に届けられた「修学旅行の実施について(届)」府立高等学校全日制課程の全校分」

 の公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。

 

2 平成23年2月1日、実施機関は、条例第13条第1項の規定により、本件請求に対応する行政文書として、下記(1)の行政文書を特定の上、同(2)の部分を除いて公開するとの部分公開決定を行い、同(3)のとおり公開しない理由を付して異議申立人に通知した。

 (1)行政文書の名称

   「修学旅行の実施について(届)」(133校分)

 (2)本件決定により公開しないこととされた部分

   ○教職員の住所、電話番号、FAX番号及び携帯電話番号

   ○不参加生徒の氏名・事由

 (3)公開しない理由

    大阪府情報公開条例第9条第1号に該当する。

     本件行政文書(非公開部分)には、個人の住所及び携帯電話番号等が記録されており、これらは特定の個人が識別される個人のプライバシーに関する情報であって、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる。

 

3 この決定に基づいて、実施機関から行政文書を異議申立人に交付したところ、同年3月1日、異議申立人から、実施機関に対し、非公開とされた不参加生徒の氏名のうち、マスキングが施されていない箇所がある、また、個人が特定できるかどうかとは無関係に不参加事由にマスキングを施した箇所がある、との指摘がなされた。

  この指摘を受け、実施機関において再度検討し、同月23日、異議申立人の同意を得た上で、マスキング箇所を追加した文書を本件請求に対する開示文書として、差し替え交付した。

 

4 異議申立人は、同年3月28日、同年2月1日の決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に異議申立てを行った。

 

5 当審査会は、この異議申立てについて、実施機関からの諮問に基づいて、同年10月24日、審議を行った結果、同年2月1日に行われた決定は、同年3月23日に行われた行政文書の差替えによって、実質的に変更されており、審議できないとの判断を行った。

 

6 当審査会の上記判断を受け、実施機関は、平成24年2月14日付けで、平成23年2月1日付けの決定を取り消した上で、本件請求に対応する行政文書として、下記(1)の行政文書を特定の上、同(2)の部分を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、同(3)のとおり公開しない理由を付して異議申立人に通知した。

 (1)行政文書の名称

   「修学旅行の実施について(届)」(133校分)

 (2)本件決定により公開しないこととされた部分

   ○教職員の住所、電話番号、FAX番号及び携帯電話番号

   ○不参加生徒の氏名

   ○不参加生徒の欠席事由のうち、個人が特定されるおそれのあるもの(ただし、同一クラスの

    生徒等が知りうる客観的な事由を除く。)

 (3)公開しない理由

    大阪府情報公開条例第9条第1号に該当する。

     本件行政文書(非公開部分)には、個人の住所及び携帯電話番号、不参加生徒の氏名等が記録されており、これらは特定の個人が識別される個人のプライバシーに関する情報であって、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる。

 

7 異議申立人は、本件決定を不服として、平成24年4月20日、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)を行った。

 

第三  本件決定に対する異議申立ての趣旨

本件決定における「公開しないことと決定した部分」のうち、不参加生徒の欠席事由の公開を求める。

 

第四 当事者の主張要旨

 1 異議申立人の主張要旨

 (1)公開された文書の差替えの違法性

   大阪府情報公開条例は、その前文において、「情報の公開は、府民の府政への信頼を確保し、生活の向上を目指す基礎的な条件であり、民主主義の活性化のために不可欠なものである。」とし、「『知る権利』の保障と個人の尊厳の確保に資するとともに、地方自治の健全な発展に寄与する」という崇高な理念を掲げている。更に「府民の生活と人権を守り、豊かな地域社会の形成に役立てるべきものであって、府はその諸活動を府民に説明する責務が全うされるようにすることを求められている。」と、条例制定の「精神」を明示している。

   特に、「府はその諸活動を府民に説明する責務が全うされるようにすることを求められている。」という部分は、従前の大阪府公文書公開条例にはなく、市民の「知る権利」(前文)もしくは「行政文書の公開を求める権利」(第1条)の保障を目的とする条例の「精神」を一層具体化するために追加されたものである。

   このような情報公開の理念を掲げる条例にはもちろんのこと、行政内部基準であるその施行規則、解釈運用基準及び大阪府情報公開事務の手引のどこにも、一旦公開された文書につきその差し替えを規定する条項は、当然ながら全く存在しない。それどころか、逆に、条例第3条は、「実施機関又は実施法人は、行政文書又は法人文書の公開を求める権利が十分に保障されるように、この条例を解釈、運用するとともに、行政文書又は法人文書の適切な保存と迅速な検索に資するための行政文書又は法人文書の管理体制の整備を図らなければならない。」とし、また、同第7条第5項及び第6項は、情報公開請求に対する誠実応答義務及び協力義務を規定している。

   他方、条例第5条は、「個人に関する情報への配慮」として、「実施機関及び実施法人は、この条例の解釈及び運用に当たっては、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものをみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない。」とし、更に条例第9条は、その第1号に挙げる「個人識別情報」を特定的に「公開してはならない文書」として実施機関にその非公開を義務付けている。

   かかる条文構造からすれば、条例は、請求のあった情報公開に際して、実施機関が個人識別情報を慎重に取り除くことを当然の前提として、なおかつ、公開請求に対して最大限の情報の公開を義務付けているものと解される。

   しかし、事実の問題としては、情報公開の本質上、実施機関の落ち度により個人識別情報がいったん公開されれば、それは当該個人にもはや取り返しのつかない損害を与えるおそれがあり、この点について条例が黙していることは、いわば「法の欠缺」の問題とも考えられるが、この問題の解決はあくまで今後の条例改正(いわゆる立法政策の問題)に待つしかない。

   異議申立人が実施機関に対して本件文書の非公開部分のさらなる公開を求めたいのは、あくまで現行条例の趣旨に基づいて、不参加事由一般の非公開が不当な処分であるとの判断に基づくものであるが、その際、異議申立人は、その時点では実施機関がまだ気づいていなかった不参加生徒の氏名の消し忘れがある部分を指摘した。このような指摘は、公開請求者としての異議申立人からすれば、法的義務ではないが、当該生徒の利益を守るために、善意により実施機関に協力したものに他ならない。その点で、異議申立人は、条例第4条の「利用者の責務」(この条文自体は訓示規定に過ぎないと思われるが)に即した対応をしたつもりである。

   ただし、実施機関に対するさらなる公開という異議申立人の要求もまた、条例等の規定には存在しないことは承知している。しかし、正式な異議申立てのコストをかけずに実施機関が再検討に応じるならば、これは、条例の掲げる「知る権利の保障」という趣旨に適合的な措置であり、それ故、この要求は、条例第32条に基づく情報提供の請求と見なされ得るものである。

   逆に、もし異議申立人が、実施機関に対するそのような要求をせず、2月1日の本件決定通知書に対して、直接異議申立をすれば、そしてまた同時に、差し替え前の本件文書をそのまま訴訟の証拠として裁判所に提出していれば、実施機関が消し忘れていた個人識別情報(不参加生徒の組・氏名)は、そのままより広く公開されてしまうことになったのである。

   以上からすれば、条例に基づき一旦公開された文書について、公開請求者から非公開部分に関する再検討の申し出を受けた実施機関のなし得ることとしては、自らの明白かつ重大な瑕疵による公開部分の取り消し(ただし、これについては、当該個人に対する民法上の不法行為責任は消去できない。)以外には、公開請求者の要求に応じて公開部分を拡大するか、もしくは、その要求を全面的に否認して当初の決定を維持するかしか選択肢はないはずである、

   従って、本件文書の全面的差替えによる非公開部分の拡大(生徒氏名を除く)という今回の実施機関の措置は、条例に違反しており、異議申立人及び一般に市民の「知る権利」を侵害するものである。

 (2)修学旅行不参加事由非公開の違法・不当性

   情報公開請求を行う個人の目的自体は、当該請求を正当化するものではないことを承知の上で敢えて言えば、先述したように、異議申立人は修学旅行について特別の関心を持って研究している。特に、このような費用のかさむ学校行事が公立学校における教育課程の一環として、従って生徒らに対してある種の強制力をもって実施されている現状に強い疑問を抱いている。こうした異議申立人の本件文書への関心からすれば、修学旅行の費用と不参加生徒数やその不参加理由は決定的な重要性をもつ情報である。

   既に述べた経緯により、3月23日に実施機関によって本件文書は全面的に差し替えられ、実施機関の作成した一覧表によれば、異議申立人が本来公開を要求していた2校以外に78校について、不参加生徒の事由が非公開とされたが、その非公開理由については、全く不明瞭である。

   以下では、差し替えられた本件文書における非公開部分のうち、特に不参加事由の新たな非公開処分の違法性、不当性について述べる。

   実施機関は、修学旅行を実施する全府立学校の校長に対して、府立高等学校等の管理運営規則(1957年教育委員会規則第4号)第12条第1項に基づき、その実施1か月前までに「修学旅行の実施について(届)」(以下「実施計画書」という。)を提出させている。

   異議申立人が公開を請求した2009年度の実施計画書(即ち本件文書)についてみると、不存在により非公開とされた実施計画書は、「本件行政文書は入手していないため、管理していない。」として、府立高等学校全日制の課程のうち、2009年度に修学旅行を実施しなかった府立四條畷北高等学校、府立東寝屋川高等学校、府立池島高等学校、府立西浦高等学校、府立懐風館高等学校、府立りんくう翔南高等学校、府立長吉高等学校の7校のものである。これからは、廃校予定もしくは新設のため第2学年が存在していなかった高等学校(6校)および単位制の高等学校(1校)であり、従って、2009年度に第2学年が存在した府立高等学校全日制課程のほぼ全校が修学旅行を実施し、その実施計画書が部分公開されたことになる。

   実施計画書は所定の様式により、その記載内容はあらかじめ定められている。その必要記入事項および記入上の留意点は次の通りである。

   1.主な目的

   2.旅行の概要〔※1.車中泊の場合は、宿泊地欄に「車中」と記入すること/※2.海外修学旅行の場合は、宿泊地に「都市名」を記入すること。〕

   3.行程表〔※1.出発・到着時刻が明瞭であること/※2.見学施設名、活動内容を具体的に記入すること。〕

   4.旅行費用内訳(1人あたり:円)〔※1.企画旅行手配契約で包括料金特約を結んでいる場合、生徒覧は合計金額のみ記入のこと。/海外修学旅行の場合も同様に記入すること。〕

   5.引率教員(責任者は、番号に○を付すこと)

   6.安全対策等

   7.生徒旅行費用の徴収方法

   8.不参加生徒の事由及び処置

   このように様式が定められているとはいえ、実施計画書のへの記入の仕方及び内容には、各学校により相当の違いが認められる。特に、その第8項の「不参加生徒の事由」に関しては、記入上の留意事項等も無い為に、記入の内容、方法、詳細さが学校ごとに大きく異なっている。

   実施計画書提出の目的及び上記様式からすれば、生徒氏名等の個人識別情報については、本来記入する必要はなく、もし各学校が条例第5条に基づいて生徒の個人情報に最大限の配慮を行っていれば、所属クラスやまして氏名の記入がなされることはないはずである。この点について、これまで実施機関が各学校にきちんと指導をしてこなかったことが、本件のような個人識別情報の漏示という事態を招いた原因の一つとなっているものと考えられる。

   逆に、2009年度実施計画書(本件文書)についてみると、不参加生徒が存在しているにもかかわらず、その「事由及び処置」について記入していない学校が数校あるが、これについて実施機関がどのような対応(指導・助言)を執ったのかは不明である。

   実施機関がこの不記入の事実を見落としていた場合はもちろん、不記入に気づきながら何らの措置を行っていない場合であっても、このことは、実施機関が全府立学校に対して、その作成にかなりの労力を要すると考えられるかかる実施計画書の提出を義務付け、従ってそのために膨大な税金が使われているにもかかわらず、これを全く無駄にしていることを意味しており、このような実施計画書の作成・提出の意義を疑わしめるに十分であろう。この点について、実施機関には府民に対する説明責任があるというべきである。

   異議申立人は、2月当初に本件文書が部分公開されて以降、3月1日までの期間に本件文書の内容を精査し、特に不参加理由については学校ごとにメモを取っていた。このメモと差し替えられた本件文書の非公開部分を比較すると、新たに非公開とされたのは、健康上の理由としての具体的な病名や症状(アレルギー、アトピーなど)、経済的理由(家庭の経済事情、費用の未納など)のすべて、精神的心理的状態(不登校、集団生活への不適応など)のすべて等であり、逆に不参加事由のうち、残された部分あるいは新たに公開された部分は、原級留置(再履修)、長欠、留学、「新型インフルエンザ」の流行による本人・家庭の意思等である。全体としては、具体的な不参加事由については、ほとんどの部分が新たに非公開とされていることがわかる。

   実施機関は、異議申立人の指摘に応じて非公開部分を見直したと言うが、しかし、これら差し替え前後の本件文書の該当部分を比較しても、公開請求者の「知る権利」を制限するに足るだけの公開・非公開の基準の明確性及び合理性を具備しているとは到底考えられない。それどころか、以下の理由により、この非公開処分は不当である。

   第一に、もともと、不参加事由それ自体によって、当該生徒が特定される「おそれ」があるというのであれば、「留学」であろうと「不登校」であろうと同等のはずであり、この区分は実施機関の恣意的な価値判断を反映している。

   第二に、その事由を知られることが不参加生徒本人の感情を害するか否かを実施機関が忖度してこのような区分を行ったものとすれば(ここでは、それが実施機関としての権限をゆ越するものか否かを問わないが)、結果的に、実施機関は「原級留置」や「長欠」(これもさまざまな理由があろうが)という事実は知られてもかまわないと判断していることになるが、これがどのように正当化されるのか、異議申立人には想像もつかない。

   第三に、「経済的理由」ということそれ自体は「原級留置」や「長欠」に比べると、個人の特定につながる可能性がはるかに小さいものであり、かつまた、「経済的理由」による修学旅行の不参加は、現在の日本国の経済状況からすれば、どの学校にも普遍的に存在する事実であって、逆にこれを非公開とすることは、実施機関がいわば社会的問題の隠蔽を意図しているのではないかとの疑念さへ誘発しかねない。実際、2009年度に実施された府立高等学校(全日制課程)の修学旅行では、例えば、大阪府立○○高等学校の生徒費用18万5千円は、全校平均(約9万2千円)の2倍を超え、引率教員1人当たりの費用(20万円超)は全校平均(約7万1千円)の3倍近くに上るが、同行には、実施計画書の提出時点ですでに3名の不参加生徒が存在しており、その事由はいずれも「経済的理由」であった。しかるに、本件文書の差し替えにより、かかる事実及びこれに含まれる問題点そのものが消し去られたことになる。

   第四に、それとの関連で、教育課程の一環として行われる修学旅行に経済的理由によって参加できない生徒が存在するとすれば、これは、日本国憲法第26条及び現行教育基本法第4条第3項から導き出される教育行政機関の採るべき教育政策に直接影響を及ぼしかねない問題であり、それ故に府民が関心を持って当然であるし、かつ、府民の監視を高めるためにも必要な情報と言うべきものであって、その公開は、まさに条例第1条に謳われる「府民の府政への参加をより一層推進し、府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民の福祉の増進に寄与する」という目的に合致している。

   第五に、一般論として、不参加事由の非公開は、近年の教育情報公開の流れに反するものであり、実施機関としても、福岡高裁判決(1991年4月10日判決・行裁集42巻4号536頁)以来、各府立学校におけるかつての授業料減免者数及び比率を公開していたし、また、退学者数や懲戒処分件数(その種別内訳)についても公開しているはずであるが、本件文書における不参加事由の非公開は、この実施機関自身がこれまでに行ってきた教育情報の公開方針とも矛盾するものである。

   第六に、以上により総じて言えば、本件処分における不参加事由は、実施機関がこれを非公開とすることによって得る利益ないしは公開することによって失う利益に比して、公開することによって府民が得る利益ないしは非公開とすることによって府民が失う利益の方がはるかに大きいものと言え、利益の比較考量の見地からしても、不参加事由に関する本件処分は正当性を欠くものである。

 (3)結論

   修学旅行実施の是非はともかく、それがほとんどすべての学校で行われている現状からすれば、府立学校における教育課程実施状況について管理責任をもつ実施機関としては、生徒や教職員に対する安全配慮義務の履行、並びに、日本国憲法第26条及び教育基本法第4条の趣旨の実現に向けて、毎年度の実施計画書を常に精査し、そのときどきの社会状況をも勘案しながら、修学旅行に関する新たな規制措置や参加したくても参加できない生徒への支援措置を検討すべきであり、相当の税金を費やして提出させている実施計画書は、そのためにこそ役立つし、役立てるべきものである。

   しかるに、上記(1)で述べたように、本件文書の差し替えは、本来、実施機関のずさんな文書管理及び個人情報に関する配慮の欠如の結果として出来したものであり、更にその原因は修学旅行の実施計画書に対する実施機関の無関心・無頓着にある。実施機関としては、修学旅行における生徒負担費用の上限規制を廃止して以来、各学校から提出される実施計画書はただ受け取るだけで、その記載内容については、異議申立人が公開請求を行うまで精査した兆しがほとんどない。

   また、上記(2)で述べたように、実施機関が修学旅行の不参加事由について非公開とした部分については、条例の解釈を誤り、あるいは、その恣意的な運用によるものであって、そこには何ら正当性・合理性も認められない。あまつさえ、実施機関は、自らの落ち度により漏示した生徒の個人情報を修復したいとする実施機関に協力した異議申立人の善意をいわば利用して、新たな公開基準を立てることにより、非公開部分を拡大したのであって、このような方法は信義則にもとると言うべきである。

   実際のところ、異議申立人は、差し替え前の本件文書についての詳細なメモを取っているために、異議申立人個人としては、差し替えによる影響はさほど大きなものではない。しかし、本来「知る権利」には知った情報の自由な利用が含まれるはずであり(条例第4条の道義的責任はあるとしても)、それが不当に制約されることになる点、及び、今後の同種の情報公開請求を妨げることになる点において、実施機関の本件処分には許し難いものがある。

   以上の理由からして、本件文書において非公開とされた不参加事由については全面的に公開されるべきである。

 

2 実施機関の主張要旨

(1)修学旅行の欠席事由が条例第9条第1号に該当することについて

  条例第9条第1号に規定する「個人識別情報」は、特定の個人が当該行政文書の情報(氏名、住所等)から直接識別できる情報だけでなく、当該情報からは直接特定個人が識別できなくとも、他の情報と結びつけることにより、間接的に特定の個人が識別され得るものを含むものである。また、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当と認められるもの」とは、一般的に社会通念上、他人に知られることを望まないものをいう。

  なお、情報公開の手続によって公開される情報は、公開請求を行った者に開示されるのみならず、広く一般に公開されるのと同等の効果を持つ。そのため、何人がその情報に接しても個人が識別されないものであるかどうかについて、より慎重な配慮が求められるものである。

  平成23年3月23日に交付した行政文書において非公開とした、不参加生徒の欠席事由は、経済的理由や個人が特定されるおそれのある心身の健康上の理由であり、これらはセンシティブ情報であって、一般に他人に知られたくないと望むことが正当と認められる情報にほかならない。さらに、学校の生徒、保護者その他の関係者は、比較的小規模の集団であり、当該関係者にとってはどの生徒が修学旅行に参加しなかったかは容易に判別できる状況にある。そして、今回非公開とした不参加生徒の欠席事由は、直接個人が識別できる情報ではないものの、当該関係者が当該事由を知り得た場合、「不参加生徒」と欠席事由との特定が容易あるいは限りなく可能となり、場合によっては「不参加生徒」と欠席事由とが一対一で結びつくケースも想定できる。

 こうした点を考慮すれば、当該欠席事由を非公開とすることは、正当な判断に基づくものと認められる。

(2)異議申立人のその余の主張ついて

 ア 本件決定を不当と主張する6つの点について

 (ア)「不参加事由の区分は実施機関の恣意的な価値判断」との主張について

   修正行政文書において非公開とした不参加生徒の欠席事由は、センシティブ情報であり、当該生徒本人が周囲の他者に当該事由を述べていたとも思えない。これに対し、実施機関が公開していた不参加生徒の事由は相当程度客観的な情報であり、当該生徒の周囲の他者も一定程度知り得るところのものである。恣意的な判断との異議申立人の主張は、失当である。

 (イ)「実施機関は「原級留置」や「長欠」という事実は知られても構わないと判断している」との主張について

   上記(ア)で述べたように、実施機関が公開していた不参加生徒の事由は、相当程度客観的な情報であり、当該生徒の周囲の他者も一定程度知り得るところのものである。公開したことをもって事実を知られても構わないと解するのは、論理の飛躍というほかない。

 (ウ)「経済的理由による修学旅行の不参加は、どの学校にも普遍的に存在する事実であり、非公開とすることは実施機関がいわば社会的問題の隠蔽を意図している」との主張について

   実施機関は、公開、非公開の判断に当たって、その事由を有する生徒の数が多いか少ないかによって個人の特定につながるかどうかを判断しているのではない。当該不参加生徒の周囲の他者が当該事由を知っている可能性が高いかどうかで判断しているのである。

   異議申立人が主張するように、経済的理由で修学旅行に参加できない生徒は全国に普遍的に存在するかもしれないが、各学校におけるその数は個人が特定できないほど多いとまでは断定できない。また、原級留置や長欠に比べて個人の特定につながる可能性ははるかに小さいなどということも、異議申立人の独自の推論でしかない。

   なお、念のため付言するが、実施機関には、これによって社会的問題を隠蔽しようなどという意図はまったくない。

 (エ)日本国憲法第26条「教育を受ける権利」、教育基本法第4条第3項「教育の機会均等」への言及について

   経済的理由によって十分な教育を承けられない生徒についての教育政策の問題は、本件異議申立てにおける判断とは別問題である。

   また、条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、併せて、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨を宣言している。さらに、第5条においては、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないように最大限の配慮をしなければならない旨規定している。異議申立人のこの部分の主張には個人情報の保護の観点がまったくないが、実施機関の判断は条例の趣旨に従ったまでのことである。

 (オ)過去、実施機関が「授業料減免者数や退学者数、懲戒処分件数」を公開していた流れと矛盾するとの主張について

   実施機関が授業料減免者数を「学校ごと」に公開していた事実はない。異議申立人の主張は、事実誤認である。また、授業料減免者数と経済的理由による修学旅行の不参加生徒数とは直接的な関係があるものではないし、懲戒処分件数にいたってはまったく無関係なものである。異議申立人の主張は失当である。

 (カ)「実施機関がこれを非公開とすることによって得る利益ないし公開することによって失う利益に比して、公開することによって府民が得る利益ないし非公開とすることによって府民が失う利益の方がはるかに大きい」との主張について

   上記(エ)後段部分で述べたとおりである。

 イ 本件行政文書の差し替えを違法と主張する点について

   異議申立人は、本件行政文書の全面的差し替えによる非公開部分の拡大が条例違反であり、信義則違反であると主張しているので、これについて弁明する。

   まず、条例やこれに基づく規則その他の規程には、本件のように、いったん公開された文書につき差替えができるとする規定は存在しない。されば、こうした行為が許されるかどうかは、条例の趣旨目的に照らし、そのつど判断するよりほかはない。そもそも、条例の趣旨目的は、府民の知る権利の保障を要請する一方で、個人情報の保護も要請しており、実施機関の判断又は事務処理の誤りによって、公開すべきではない情報を公開してしまえば、それこそ条例の趣旨目的に反することになる。このことは、異議申立人も上記(1)で述べているとおりである。そうであれば、公開決定又は行政文書の交付後であっても、条例の趣旨目的に適うよう適切な措置を講じることは、条例の許容するところと解すべきである。

   なお、本件行政文書の差替えは、異議申立人も認めているとおり、新たに非公開とする部分があることを予め異議申立人に伝えた上で、異議申立人の同意の下に行っている。このことからも、実施機関に、信義則に悖るような行為があったとは認められない。

   以上のとおり、本件行政文書の差替えは、条例違反に当たらず、信義則違反にも当たらない。

 (3) 結論

   本件行政文書は、本来非公開とすべき部分を公開していた瑕疵があったため、修正行政文書によってその治癒を図ったものであって、本件決定について個人情報保護の観点から、より適合的な措置を講じたものである。

   そして、条例第9条第1号に該当するとして部分公開とした本件決定には以上のとおり、違法又は不当な点はなんら存在しない。

 

 3 異議申立人の反論書での主張要旨

   本件異議申立は、本来、2011年1月20日付け公開請求に関する同年2月1日付けの決定(教委高第3208号)に対して行ったものであり、その経過及び理由については、異議申立理由書(第四1参照)に記したとおりである。実施機関の弁明書においても、上記公開請求を「本件請求」と称し、また、これに対して当初部分的に公開された文書を「本件行政文書」と称しているように、本件異議申立ての実質は、あくまで2011年2月1日付け決定とその後の実施機関の対応を不服とする点にある。

   本件異議申立理由の実態的部分は、異議申立理由書の(2)(第四1(2)参照)に述べられているとおりである。しかし、同(1)(第四1(1)参照)に述べた「公開された文書の差し替え」という問題もまた、単に手続上の瑕疵の有無にとどまらず、この差し替えを通じて実施機関は、事後的に、部分公開基準の実質的変更を行ったのであり、大阪府情報公開条例の運用上、到底見過ごすことはできないものである。

   ちなみに、異議申立人は、現在、本件行政文書の差し替えに応じたことを極めて深く後悔している。もしそれに応じていなければ、実施機関の当初決定に対する異議申立はきわめて単純に行いえたのである。「本件請求」に関するこの二度目の異議申立ても必要なかった。これによって異議申立人は、精神的苦痛はさておくとしても、時間的金銭的損失を被ったが、実施機関は異議申立人に対して文書で説明することは一度もなかった。実施機関は、自らの「瑕疵」について、本来ならば文書をもって謝罪し、かつ、当該「瑕疵」の生じた原因と今後の防止措置について釈明すべきであったのである。

 

第五 審査会の判断理由

1 条例の基本的な考え方について

行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を?るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。

このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。

このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。

 

2 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について

異議申立人は、本件決定において非公開とされた修学旅行の不参加生徒の欠席事由につき公開を求めていると解せられる一方、実施機関は、これらの情報はいずれも条例第9条第1号の非公開事由に該当すると主張しているので、この点につき検討する。

(1)条例第9条第1号について

条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、併せて、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨を宣言している。また、条例第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない旨規定している。

本号は、このような趣旨をうけて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたものである。

同号は、

 ア 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって、

 イ 特定の個人が識別され得るもののうち、

 ウ 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる

情報が記録された行政文書については公開してはならない旨定めている。

(2)条例第9条第1号該当性について

 ア 修学旅行の欠席事由は、修学旅行に不参加であった生徒本人に関する情報であり、上記(1)アの要件を満たす。

 イ 次に、上記(1)イの要件について検討すると、通常は、(1)イの要件については、一般人が直接的に特定の個人を識別可能かどうかのみならず、他の情報と結びつけることにより、間接的に個人の情報が識別できるかどうかにより判断することが妥当であると考えられる。

 しかし、本件決定の対象である修学旅行の不参加者の欠席事由については、一般人にとっては、他の情報と結びつけても特定の個人を識別させることはできないものの、同一学校の生徒及び学校関係者(以下「生徒等」という。)には、欠席した生徒の氏名は相当程度明らかになっていることから、欠席事由や不参加生徒の数などによっては、不参加生徒の氏名と欠席事由が容易に結びつけられ、特定の個人が識別され得る場合もあると考えられる。こうしたことから、生徒等にとって容易に特定の個人が識別可能な場合は、(1)イの要件を満たすと解するのが相当である。

ウ さらに、(1)ウの要件について検討すると、原級留置、長期欠席、事故、進路変更及び留学等といった欠席事由は、通常は、他人に知られたくないと望むことが正当であると考えられる。しかしながら、これらの情報は、生徒等にとって相当程度客観的に明らかになっているから、(1)ウの要件を満たすとは認められない。

一方、経済的理由、家庭事情及び個人の心身の健康上の理由等の欠席事由は、生徒等にも相当程度客観的に明らかになっているとは言えないから、(1)ウの要件を満たすと認められる。

  この点につき、異議申立人は、原級留置、長期欠席といった欠席事由も個人の感情を害する点で他の欠席事由と同様であると主張しているが、条例第9条第1号の該当性は上で述べたように判断すべきであり、異議申立人の主張には理由がない。

エ なお、複数の欠席事由のうちのいずれにあたるかは明らかでない場合であっても、不参加生徒の欠席事由が(1)ウの要件をみたす欠席事由のいずれかであることが明らかになるときは、(1)イ及び(1)ウの要件を満たすものと解するのが相当である。

 オ 異議申立人は、他にも、本件決定を不当とする理由を数点にわたり主張しているが、これらもいずれも、条例第9条第1号の該当性の判断に影響を与えるものではない。

 カ 以上を踏まえた非公開部分に対する当審査会の判断は、別紙のとおりである。

 

 3 その他

 なお、実施機関が、対象文書の開示に際し非公開とすべき不参加生徒の氏名及び欠席事由を誤って開示したことは不適切な対応であり、今後このようなことのないよう、十分留意されたい。

 

4 結論

以上のとおりであるから、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。

 

(主に調査審議を行った委員の氏名)

  野呂充、松本哲治、小谷寛子、久末弥生

別紙 [Wordファイル/147KB]

このページの作成所属
府民文化部 府政情報室情報公開課 情報公開グループ

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