大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第200号)

更新日:2011年2月15日

大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第200号)

〔自己申告票部分公開決定異議申立事案〕

(答申日 平成23年2月15日)

 

第一 審査会の結論

  実施機関は、本件異議申立ての対象となった行政文書のうち、「学校経営の充実に向けた自己の課題欄」で申告者が未だ記載せず、空白になっている欄については、公開すべきである。

  実施機関のその余の判断は妥当である。

 

 

第二 異議申立ての経過

1 異議申立人は、平成21年10月26日、大阪府教育委員会(以下「実施機関」という。)に対し、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、「1、『評価育成』システムでの2008年度評価に対する苦情審査会についての情報。開催日時、場所、審議時間、会議参加者氏名、及び議事録、メモなど記録一切。2、2008年度、2009年度大阪府立泉尾高等学校校長、教頭(2名)の自己申告票」について公開請求を行った。

 

2 同年11月9日、実施機関は、本件公開請求のうち「メモなど」を除く部分に対応する行政文書として、(1)に掲げる文書を特定し、(2)に掲げる「公開しないことと決定した部分」を除き、公開するとの決定(以下「本件部分公開決定」という。)を行うとともに、「メモなど」の部分については、(3)のとおり理由を付して、不存在による非公開決定を行い、異議申立人に通知した。

 

(1)特定された対象行政文書

  ア 「1 『評価育成』システムでの2008年度苦情審査会についての情報。開催日時、場所、審議時間、会議参加者氏名、及び議事録、メモなど記録一切。」関係

・ 平成21年度苦情審査会議事録

   イ 「2 2008年度、2009年度大阪府立泉尾高等学校校長、教頭(2名)の自己申告票」関係

・ 平成20、21年度自己申告票(校長用、教頭用)

(2)対象行政文書のうち「公開しないことと決定した部分」及び「公開しない理由」

  ア 「1 『評価育成』システムでの2008年度苦情審査会についての情報。開催日時、場所、審議時間、会議参加者氏名、及び議事録、メモなど記録一切。」関係

   【公開しないことと決定した部分】

・ 苦情審査会議事録の議事内容【別紙】のうち、苦情申出者の「所属校名」「氏名」の部分、及び平成21年7月28日開催分の1枚目のうち、「(1)委員」のただし書きの部分

    【公開しない理由】

     ・ 条例第9条第1号に該当する。

       (1)アで特定した「平成21年度苦情審査会議事録」中の非公開部分には、苦情申出者の所属校名や氏名、及びそれらが類推される情報が記載されており、これらは個人のプライバシーに関する情報であって、特定の個人が識別されうるもののうち、一般的に他人に知られたくないと望むことが正当と認められる。

   イ 「2 2008年度、2009年度大阪府立泉尾高等学校校長、教頭(2名)の自己申告票」関係

    【公開しないことと決定した部分】

  ・ 平成20年度分 本人に関する項目のうち「年齢」の欄並びに「設定目標」、「進捗状況」、「目標の達成状況」及び「学校経営の充実に向けた自己の課題」の各欄

・ 平成21年度分 本人に関する項目のうち「年齢」の欄並びに「設定目標」、「進捗状況」及び「学校経営の充実に向けた自己の課題」の各欄 

    【公開しない理由】

     ・ 条例第8条第1項第4号に該当する。

       (1)イで特定した文書「平成20,21年度自己申告票(校長用、教頭用)」中の非公開部分は、地方公務員法等に基づく職員の勤務評定として実施している「評価・育成システム」において、職員が評価者に提出するものであり、この事情を踏まえて評価者は評価(勤務評定)を行うことになるから、まさに「勤務評価」そのものであり、「人事管理」に係る情報である。

       これらの情報が公になると、自らの目標や評価等を率直に記述しなくなるおそれがあり、その結果、人事評価に必要な情報を十分に得ることができず、適正な勤務評価を行うことが困難になるなど、当該事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。

・ 条例第9条第1号に該当する。

       (1)イで特定した文書「平成20、21年度自己申告票(校長用、教頭用)」中の非公開部分には、個人の年齢が記載されており、これらは個人のプライバシーに関する情報であって、特定の個人が識別されうるもののうち、一般的に他人に知られたくないと望むことが正当と認められる。

(3)「メモなど」の部分について

担当者が備忘録として作成するメモについては、議事録及び「審査会の意見」が決裁された後は、速やかに廃棄しているため、行政文書は存在しない。

 

3 平成21年12月16日、異議申立人は、本件部分公開決定のうち、「2、2008年度、2009年度大阪府立泉尾高等学校校長、教頭(2名)の自己申告票」に関わる部分(以下、「本件行政文書」という。)について、決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に対して、異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)を行った。

 

 

第三 異議申立ての趣旨

本件部分公開決定の取消し及び当該情報の全部開示を求める。

 

 

第四 異議申立人の主張要旨

異議申立人の主張は、概ね次のとおりである。

 

実施機関は、公開しないことと決定した部分のうち「設定目標」、「進捗状況」、「目標の達成状況」及び「学校経営の充実に向けた自己の課題」について公開しない理由として以下の点をあげている。

「・条例第8条第1項第4号に該当する。

本件行政文書(非公開部分)は、地方公務員法等に基づく職員の勤務評定をして実施している『評価・育成システム』において、職員が評価者に提出するものであり、この情報を踏まえて評価者は評価(勤務評定)を行うことになるから、まさに『勤務評定』そのものであり、『人事管理』に係わる情報である。

これらの情報が公になると、自らの目標や評価等を率直に記述しなくなるおそれがあり、その結果、人事評価に必要な情報を十分に得ることができず、適正な勤務評価を行うことが困難となるなど、当該事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。」

しかし、管理職が、教職員や府民に見られることによって率直に記載しなくなるおそれがある「設定目標」を立てたり、「進捗状況」「目標の達成状況」の分析、「学校経営の充実に向けた自己の課題」の設定を行うことがありうるとは考えられない。

管理職の自己申告票での「設定目標」「進捗状況」等は学校全体で共有されて初めて達成・掌握できるものである。生徒への教育を直接司るのは非管理職の教員であることから、管理職の設定目標を知らせないで目標を実現することはあり得ない。また実現できるとしたら、現場の教員・生徒の状況とかけ離れたものにならざるを得ず、学校全体としての教育活動を無視したものである。

「教職員の評価・育成システム」手引き(1)   2ページ14行目には「このため『評価・育成システム』では、すべての教職員が学校の目標を共有し、その達成に向けた個人目標を主体的に評定して、・・・」とある。また同じく20行目には「この評価・育成システムの実施を通して、校長のリーダーシップのもと、教職員が一丸となり、教育をめぐる諸課題に学校全体として適切に対応することで、子どもたちの願いや府民・保護者の期待に応えていくことが重要です。」とある。実施機関が作ったこの手引きの趣旨からすれば管理職は積極的に自らの「設定目標」、「進捗状況」、「目標の達成状況」及び「学校経営の充実に向けた自己の課題」を公開すべきであり、実施機関はそのように指導助言すべきである。

 

 

第五 実施機関の主張要旨

実施機関の主張は概ね次のとおりである。

 

1 教職員の評価・育成システムについて

(1)実施機関は、平成14年7月、「教職員の資質向上に関する検討委員会」から、「教職員全般の資質向上方策」について最終報告を受けた。この最終報告の中で、教職員の意欲と資質能力を高め、教育活動をはじめとする学校の様々な活動を充実し、学校を活性化する方策として提言されたのが「教職員の評価・育成システム」(以下「評価・育成システム」という。)であり、試行実施を経て、平成16年4月16日に開催された大阪府教育委員会会議で、府立学校に勤務する教職員を対象とした「府立の高等専門学校、高等学校等の職員の評価・育成システムの実施に関する規則」(平成16年大阪府教育委員会規則第12号)(以下「システム実施規則」という。)を新たに制定し、平成16年度以降は、これら規則に基づいて実施している。

地方公務員法第40条第1項には「任命権者は、職員の執務について定期的に勤務成績の評定を行い、その評定の結果に応じた措置を講じなければならない。」とあり、実施機関においては、平成16年4月16日付けで旧勤評規則を廃止し、平成16年度以降、評価・育成システムの評価結果をもって地方公務員法第40条第1項に規定する勤務評定として実施している。

評価結果の給与への反映については、平成19年度から、前年度の評価結果を昇給及び勤勉手当における勤務成績の判定に活用することとし、職員の給与に関する条例、府人事委員会規則の改正や実施機関による「勤務成績に応じた昇給の取扱いに関する要領」等を制定するなど必要な規定整備を行い、各府立学校長に通知し、全ての教職員に周知している。

  (2)まず、教頭をはじめとする教職員に係る教職員の評価・育成システムの概要について説明する。

評価・育成システムは、システム実施規則に基づき、自己申告と面談を基本に実施しており、府立学校において、教頭については、評価者は校長のみとしている。

     教頭をはじめとする各教職員は、学校や校内組織の目標達成に向け、各自が年間を通じて取り組む目標を設定し、自己申告票(設定目標等)を作成して育成(評価)者である校長に提出する。教職員の設定目標は、自己申告票をもとに、育成(評価)者との面談によって決定される。

     教職員から提出された自己申告票に基づいて、育成(評価)者は、児童生徒や保護者、同僚教職員などの意見も参考にしながら評価を行う。

評価では教職員の自己申告を踏まえ、設定された個人目標の達成状況を判断して「業績評価」として評価し、また、職務全般の取組みを対象に、教職員の日常の業務の遂行を通じて発揮された能力を「能力評価」として評価する。その上でこれらの評価をもとに「総合評価」が行われる。

評価は、いずれもA・B・Cの3段階を基本にS・Dを加えた5段階(S・A・B・C・D)の絶対評価でなされ、その結果は年度末に本人に開示され、評価の結果は、教職員本人に開示され、取り組みの改善や、次年度の目標設定に生かすこととされている。

評価の基準や方法はあらかじめ明らかにされ、評価の結果に納得できない場合については、教職員は苦情の申出ができることとしている。

    また、校長の学校運営の充実・改善に資するため、教職員が「校長への提言シート」に学校運営に関する意見等を記入して校長に提出する制度を設けている。この制度により、校長が自らの学校運営について見直しを行ったり、教職員の意見を学校運営に反映したりするなど、評価・育成システムは双方向性を持ったものとなっている。なお、このシートの写しは校長から教育委員会に提出され、教育長は校長の評価の際に学校運営を把握する参考資料としている。

(3)次に、校長に係る評価・育成システムの概要について説明する。

府立学校長の評価・育成システムについては、教職員の評価・育成システムと同様に、システム実施規則に基づき実施しており、自己申告と面談を基本に実施している。

評価者について、府立学校では1次評価者は教育監、2次評価者は府教育委員会教育長である。

校長は、年間の取組み内容を自己申告し、教育監との面談を通して教育目標や学校の経営方針等について意見交換を行い、自らの目標を設定し教育長に申告する。

校長から提出された自己申告票に対して、教育監(1次評価者)・教育長(2次評価者)は、面談、教育委員会事務局各課長等の意見、学校訪問、学校資料等を参考にしながら、校長の自己申告を踏まえ、目標達成状況を判断して「業績評価」として評価する。また、職務全般の取組みを対象に、校長の日常の職務遂行を通じて発揮された能力を「能力評価」として評価する。その上でこれらの評価をもとに「総合評価」を行う。評価は、5段階の絶対評価でなされ、その結果が年度末までに開示される。

  (4)自己申告票は、あくまでも個人が被評価者としての立場で作成するものである。

まず、教頭をはじめとする教職員の目標については、学校や校務分掌・学年など校内組織における自己の役割を踏まえ、目標達成に向けて各自が取組みを進めるために設定するものであることから、まさに、自己申告票における目標は、教職員が意欲的に取組みたいと考えていることについて記載されたものであって、評価者である校長の評価を受けるために設定される人事管理上の情報である。

次に、校長の目標については、地域や生徒の実態、これまでの当該学校における成果等を踏まえるものの、校長が考える学校づくりに向けての中長期的なビジョンである「中長期的な学校経営のビジョン」の達成に向け、教職員の目標と同様、校長が取組みを進めるために設定するものである。まさに、自己申告票における目標は、校長自身が意欲的に取組みたいと考えていることについて記載されたものであって、評価者である教育長の評価を受けるために設定される人事管理上の情報である。

 

2 学校教育計画における目標について

学校教育計画は、各学校の教育目標を達成するための年間計画であり、校長が作成する。校長が自らの教育理念、教育方針を明らかにするとともに、全教職員がその内容を熟知し、常に教育実践の指針とするものである。学校教育計画の事項については、本年度の重点課題、学校運営の重点、道徳教育及び生徒指導の重点、学習指導の重点、教員の研修計画などの項目がある。それぞれの目標については、各学校の特性、地域・保護者・教職員の意見、学校協議会の意見等を踏まえて作成されており、毎年見直しがなされ、年度当初に学校の教育方針として全教職員に示され、この目標達成に向けて年間の学校運営が行われている。

異議申立人は、管理職の自己申告票での「設定目標」、「進捗状況」等は学校全体で共有されてはじめて達成・掌握できるもので、管理職の設定目標を教職員に知らせないで、非管理職の教員が、目標を実現することはあり得ない、と主張しているが、この学校教育計画こそが、学校の教育方針として全体で共有されたものであり、管理職を始め全教職員が、この学校教育計画に基づき個々の目標を設定しているものであり、異議申立人の主張は当たらない。

従って、学校教育計画は、校長から実施機関に提出されるとともに学校のホームページに掲載されるなど、公にされているものである。

 

3 本件行政文書について

本件行政文書のうち、自己申告票(校長用)は、府立学校長が、システム実施規則に基づき、校長個人の評価のために校長の評価者である教育長に対して提出するために作成したものである。また、自己申告票(教頭用)は、教頭が、システム実施規則に基づき、教頭個人の評価のために評価者である校長に対して提出するために作成したものである。

本件行政文書の内容には、(1)「本人に関する項目」、(2)「中期的な学校経営のビジョン」及び「今年度の学校教育目標等」、(3)「設定目標」、(4)「進捗状況」、(5)「目標の達成状況」、(6)「学校経営の充実に向けた自己の課題」の項目があり、(1)「本人に関する項目」は、公務員の職又はその職務の遂行に関する情報であり、年齢を除く部分は公開することとしている。また、(2)「中期的な学校経営のビジョン」及び「今年度の学校教育目標等」については、当該学校の運営の基本方針に関する情報として、学校教育計画と同様に、公開することとしている。

 

4 本件処分理由について

本件処分は、本件行政文書のなかに、条例第8条第1項第4号、第9条第1号に該当する情報が含まれていることから、平成19年5月1日付け大公審答申第136号の内容を踏まえ、部分公開としたものであるが、以下において、その理由を述べることとする。

(1)本件行政文書のうち、自己申告票(校長用)は、地方公務員法に基づき職員の勤務評定として実施しているものであり、システム実施規則に基づき、校長自身が学校責任者として年間を通じて取組みたいと考えるビジョンや目標を記載し、被評価者としての立場で、自身の評価のために、評価者である教育長に提出する人事管理上の情報である。また、自己申告票(教頭用)は、教頭が、同規則に基づき、教頭個人の評価のために評価者である校長に対して提出する人事管理上の情報である。

  (2)「設定目標」、「進捗状況」、「目標の達成状況」及び「学校経営の充実に向けた自己の課題」の各欄に記録されている情報については、校長及び教頭が学校運営上取り組んでいる事項に係る個別の目標や実施計画の内容、その達成状況の自己評価等、職務に関しての自己の課題や次年度の構想、実施機関に対する意見、さらには教職員の能力分析や生徒の状況等が、個人の考えに基づいて具体的かつ詳細に記載されている。

これらの情報は、目標管理の手法による教職員の評価・育成を目的とする評価・育成システムにおいて、校長及び教頭が、学校経営のビジョンや学校教育目標等を達成するため、個人として設定した具体的な目標及びその進捗状況や達成状況を評価者に申告する自己評価そのものの情報である。また、この自己評価を踏まえて、評価者が、勤務評価を行っており、その結果は、校長及び教頭個人に対する指導・育成や人事異動等に活用されているが、18年度の評価結果からは、校長及び教頭個人の給与にも反映されているものである。

これらの情報が公になると、校長及び教頭が、他の教職員や保護者等に内容を知られることを慮って、自らの目標や評価等を率直に記述しなくなるおそれがあり、その結果、実施機関においては、人事評価に必要な情報を十分に得ることができず、適正な勤務評価を行うことが困難となるおそれがある。さらに、評価結果を活用して実施する校長の指導・育成等の学校教育に関する事務や人事異動、昇給等の事務にも支障をきたすなど、今後、同種の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。

  (3)本人に関する情報の各欄に記録されている情報については、いずれも校長及び教頭本人の属性に関する情報であり、学校名及び氏名により、特定個人が識別される情報であるが、特に「年齢」については、個人の固有の属性に関する情報であり、公務員としての職務に関する情報ではないから、一般に他人に知られたくないと望むことが正当である。

 

以上から、本件行政文書は、条例第8条第1項第4号、第9条第1号に該当し、部分公開決定としたものである。

 

 5 結論

   以上のとおり、本件処分は、条例の規定に基づき適正に行われたものであり、何ら違法又は不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。

 

 

第六 審査会の判断

 

1 条例の基本的な考え方について

行政文書公開についての条例の基本的な理念は、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。

このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。

このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。

 

2 評価・育成システムにおける評価事務について

  評価・育成システムにおける評価事務については、実施機関の説明から、次のとおり認められる。

 

実施機関は、教職員の自己申告による個人目標の設定(自己申告票の作成)や上司との面談等を内容とする評価・育成システムを2年間にわたる試験的実施と試行実施を経て、平成16年度から本格的に実施している。

校長、教頭及び各教職員に適用される評価・育成システムは、システム実施規則に基づき実施しており、自己申告と面談を基本にしている。

評価は、校長の場合には、教育監(1次評価者)、教育長(2次評価者)の面談と校長の自己申告等を踏まえ、教頭の場合は、校長(評価者)の面談と、教頭の自己申告等を踏まえ、業績評価、能力評価及び総合評価が行われており、実施機関においては、評価・育成システムの評価結果をもって地方公務員法第40条第1項に規定する勤務成績の評定としている。

評価結果は、校長個人及び教頭個人に対する指導・育成や人事異動等に活用され、さらに、平成18年度の評価結果からは、昇給及び勤勉手当の支給割合にも反映されている。

 

3 本件行政文書について

本件行政文書は、実施機関が、評価・育成システムの一環として、教職員に提出させている自己申告票のうち、平成20年度及び平成21年度の特定の府立学校の校長及び教頭(以下、「校長等」という。)のものであり、その記載内容は、以下のとおりである。

(1)本人に関する項目

「学校名」、「氏名」、「年齢」、「校長在職年数」若しくは「教頭在職年数」及び「現任校在校年数」が4月1日現在で記入されている。また、「備考」には、年度途中に異動した場合や他校と兼務している場合など、校長等本人に関する事項で留意すべき点があれば記入することとされている。

(2)「中期的な学校経営のビジョン」及び「今年度の学校教育目標等」

「中期的な学校経営のビジョン」には、学校設立の経緯、地域や生徒の実態、保護者等のニーズ、これまでの成果等を踏まえ、学校の将来(3〜5年後の)あるべき姿や学校が進むべき方向性について、校長等としての考えを簡潔に記入することとされている。記入にあたっては、どのような資質や能力をもった児童・生徒の育成をめざすのかという視点を必ず踏まえることとされている。

「今年度の学校教育目標等」には、「中期的な学校経営のビジョン」の実現に向けて、今年度、学校全体として重点的に取り組むべき目標を記入することとされている。

実施機関の説明によれば、これらの欄の記入に当たり、校長等は、各学校が教育目標の達成のために毎年作成し、公表する「学校教育計画」に加え、実施機関が各府立学校に対して示した教育施策や指導方針、あるいは、当該学校が現実に直面し、解決を図ろうとしている諸課題などを踏まえ、当該学校がどのような到達目標に向って重点的に取り組むべきかについて検討を行い、そのうえで、「学校教育計画」に示された教育目標だけでなく、その時点で直面する課題に即した目標や、組織内部で改善を図るべき目標などを記載するものとされている。

(3)設定目標

学校教育目標等を踏まえ、目標設定区分ごとに重点的に取り組むべき目標を設定することとされている。

「目標設定区分」欄には、校長にあっては「学校の経営」、「学校組織の運営」、「人の管理・育成」、「地域連携と渉外」の四つの目標設定区分名を、教頭にあっては、「教育活動の進行管理」、「学校組織の運営 校務の調整」、「人材育成 服務管理」、「地域連携と渉外」の四つの目標設定区分名をそれぞれ記入し、「内容・実施計画」欄に、目標設定区分ごとの目標の内容を具体的に記入するとともに、目標を実現するための実施計画を記入することとされている。

なお、目標の設定にあたっては、目標ごとに到達点と目標を実現するための具体的な取り組み(実施計画)が明確であることが大切とされている。

(4)進捗状況

設定目標の各「目標設定区分」ごとに、及び全体について、「計画以上に進んでいる」、「概ね計画どおり進んでいる」、「計画どおり進んでいない」のいずれかにチェックして記入するとともに、各「目標設定区分」ごとに、具体的な「進捗状況及び課題」を記入することとされている。

(5)目標の達成状況

設定目標の達成状況について、児童生徒・保護者・教職員等の意見も参考にしながら行う「目標設定区分」ごと及び全体について、自己評価の結果を、「上回っている」、「概ね達成している」、「達していない」のいずれかにチェックして記入するとともに、各「目標設定区分」ごとに、具体的な「達成状況」と「今後の課題」を記入することとされている。

(6)学校経営の充実に向けた自己の課題 

学校経営の充実に向けた自己の課題について、設定目標の範囲に限定せず、学校経営全般についての自己の課題を記入することとされている。

 

4 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について

(1)条例第8条第1項第4号該当性について

実施機関は、本件行政文書に記録された情報のうち、「設定目標」、「進捗状況」、「目標の達成状況」及び「学校経営の充実に向けた自己の課題」の各欄(以下、「設定目標等の各欄」という。)については、条例第8条第1項第4号の非公開事由に該当すると主張するので、この点について検討する。

ア 条例第8条第1項第4号について

行政が行う事務事業に関する情報の中には、当該事務事業の性質、目的等からみて、執行前あるいは執行過程で公開することにより、当該事務事業の実施の目的を失い、又はその公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼし、ひいては、府民全体の利益を損なうおそれがあるものがある。また、反復継続的な事務事業に関する情報の中には、当該事務事業実施後であっても、これを公開することにより同種の事務事業の目的が達成できなくなり、又は公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるものもある。

このような支障を防止するため、これらの情報は公開しないことができるとするのが条例第8条第1項第4号の趣旨である。

同号は、

(ア)府の機関又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、入札、契約、交渉、渉外、争訟、調査研究、人事管理、企業経営等の事務に関する情報であって、

(イ)公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの

は、公開しないことができる旨を定めている。

イ 条例第8条第1項第4号該当性について

設定目標等の各欄に記録されている情報が上記ア(ア)、(イ)の要件に該当するか否かについて検討したところ、以下のとおりである。

まず、本件行政文書は、府立高等学校の校長等が、システム実施規則に基づき、評価者(校長については教育長、教頭については校長)に対して提出するために作成されたものであり、実施機関において校長等の勤務評価を行うための資料であることから、本件行政文書に記録されている情報は、「府の機関又は国等の機関が行う人事管理等の事務に関する情報」として、ア(ア)の要件に該当する。

次に、設定目標等の各欄に記録された情報がア(イ)の要件に該当するかどうかについて検討する。

    (ア)申告者により記載がなされている欄について

設定目標等の各欄に、実際に校長等によって記載された情報を、審査会において見分したところ、校長等が学校運営上取り組んでいる事項に係る個別の目標や実施計画の内容、その達成状況の自己評価等、職務に関しての自己の課題や次年度の構想、実施機関に対する意見、さらには教職員の能力分析や生徒の状況等が、校長個人及び教頭個人の考えに基づいて具体的かつ比較的詳細に記載されていることが認められた。

これらの情報は、目標管理の手法による教職員の評価・育成を目的とする評価・育成システムにおいて、校長等が、学校経営のビジョンや学校教育目標等を達成するため、個人として設定した具体的な目標及びその進捗状況や達成状況をそれぞれの評価者に申告する自己評価そのものの情報である。また、この校長等の自己評価を踏まえて、それぞれの評価者が、校長等の勤務評価を行っており、その結果は、校長等個人に対する指導・育成や人事異動等に活用されている。

また、平成18年度以降の評価結果は、校長等個人の昇給及び勤勉手当における勤務成績の判定にも反映されているものである。

このような個人の勤務評価に係る具体的な情報については、校長等といえども、通常、府民や他の教職員に明らかにされるような情報ではなく、また、これらの情報が公になると、校長等が他の教職員や保護者等に内容を知られることを慮って、自らの目標や評価等を率直に記述しなくなるおそれがあり、その結果、実施機関においては、人事評価に必要な情報を十分に得ることができず、適正な勤務評価を行うことが困難となるおそれがある。さらに、評価結果を活用して実施する校長等の指導・育成等の学校教育に関する事務や人事異動、昇給等の事務にも支障をきたすなど、今後、同種の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあると認められることから、本項の情報は、ア(イ)の要件にも該当する。

以上のことから、設定目標等の各欄に校長等が記載した情報については、条例第8条第1項第4号に該当し公開しないことができると認められる。

  (イ)未だ記載されていない欄の取扱い

     本件行政文書中、設定目標等の各欄のうち、教頭の「学校経営の充実に向けた自己の課題」の欄においては、未だ記載されていない欄が2箇所みられた。

     実施機関は、この未記載の欄についても非公開としている。そこで、当審査会がその理由を実施機関から聴取したところ、同欄は評価・育成システムの運用上は、各年度2月ごろまでの任意の時期に記入すべきとされている欄であり、従って、本件情報公開請求がなされた時期には空欄のまま残されることもありうるにも拘わらず、これを公開した場合、自己申告票の作成者に対して、「学校経営の充実に対する意識が乏しい」といったあらぬ懸念を抱かれる可能性がある旨の説明があった。

     しかしながら、記載されていない場合には、「記述した内容を公にされることを慮って、自らの目標や評価等を率直に記述しなくなるおそれ」は存在しない。

     また、実施機関が主張する、「あらぬ懸念を抱かれる」ことに対しては、評価・育成システムの運用における当該欄の位置づけや記載すべき時期について、十分な説明を行えば、誤解を回避できることから、かかる懸念が生じる可能性があることを理由に、未だ記載されていない欄を公にすることにより、事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼす、とまでいうことはできない。

よって、未だ記載されていない欄については、ア(イ)の要件には該当せず、条例第8条第1項第4号に該当するとは認められない。

 

(2)条例第9条第1号該当性について

実施機関は、本件行政文書に記録された情報のうち、本人に関する項目の「年齢」の欄については、条例第9条第1号の非公開事由に該当すると主張しているので、この点について、検討する。

ア 条例第9条第1号について

条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、併せて、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨を宣言している。また、条例第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない旨規定している。

本号は、このような趣旨をうけて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたものである。

同号は、

(ア)個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって、

(イ)特定の個人が識別され得るもののうち、

(ウ)一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる

情報が記録された行政文書については公開してはならない旨定めている。

イ 条例第9条第1号該当性について

個人の「年齢」は、校長等本人の属性に関する情報であり、公務員としての職務に関する情報ではなく、学校名及び氏名により、特定個人が識別され、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるため、ア(ア)〜(ウ)の要件に該当する。

以上のことから、「年齢」については、条例第9条第1号に該当し公開してはならない。

 

5 結論

以上のとおりであるから、本件異議申立ては、本件異議申立ての対象となった行政文書のうち、「学校経営の充実に向けた自己の課題欄」で申告者が未だ記載していない欄については、公開すべきであり、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。

 

 

  (主に調査審議を行った委員の氏名)

   松田聰子、鈴木秀美、岩本洋子、大和正史、野呂充

このページの作成所属
府民文化部 府政情報室情報公開課 情報公開グループ

ここまで本文です。


ホーム > 府政運営・市町村 > 府政情報 > 大阪府の情報公開制度のご案内 > 大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第200号)