大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第162号)

更新日:2009年8月5日

大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第162号)

〔特定協同組合関係文書部分公開決定第三者異議申立事案〕

(答申日 平成20年9月30日)

第一 審査会の結論

実施機関の決定は妥当である。

第二 異議申立ての経過

1 平成19年11月26日、大阪府知事(以下「実施機関」という。)に対し、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、「A事業協同組合に係る組合設立から現在までの届出書、設立認可、定款変更、決算書、H6頃提出要求臨時総会議事録、名簿」の行政文書公開請求(以下「本件請求」という。)が行われた。

2 同年12月3日、実施機関は、本件請求に対応する行政文書に異議申立人であるA事業協同組合(以下「異議申立人」という。)に関する情報が記録されていることから、条例第17条第1項の規定に基づき意見書提出の機会を付与するため、異議申立人に対して、第三者意見書提出機会通知書を送付した。

3 同年12月6日、異議申立人は、実施機関に対し、次のとおり、本件行政文書の公開に反対する旨の意見書を提出した。

(1)公開に反対する部分

公開請求の対象となった行政文書の全ての書類

(2)公開に反対する理由

組合の大事な部分なので第三者に見せたくありません。

4 同年12月25日、実施機関は、条例第13条第1項の規定により、本件請求に対応する行政文書として別表1に掲げる行政文書(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、同表に掲げる公開しないことと決定した部分(以下「本件非公開部分」という。)を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、その旨を請求者に通知するとともに、条例第17条第3項の規定により、公開決定をした理由を次のとおり付して異議申立人に通知した。

(公開決定をした理由)

本件行政文書(公開部分)に記録されている情報については、当該団体及びその事業の性質等を考慮すると、当該団体の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められず、条例第8条第1項第1号に該当しない。

また、当該団体の役員の氏名等の情報は、当該団体の社会的地位及び公益性の点から、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であるとは認められないため、同条例第9条第1号に該当しない。

そのほか、条例第8条第1項各号又は第9条各号(非公開情報)に該当しないため。

5 平成20年1月7日、異議申立人は、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)を行った。

なお、本件決定については、同日、異議申立人が、行政不服審査法第34条第2項の規定に基づき、執行停止の申立てを行い、同年1月9日、実施機関が執行の停止を決定して、その旨を異議申立人及び請求者に通知している。

また、本件異議申立てに対しては、平成20年3月7日に、本件請求の請求者である参加人(以下「参加人」という。)から、行政不服審査法第48条において準用する同法第24条第1項の規定に基づき、参加の申立てがあり、同年3月10日に、実施機関がこれを許可している。

三 異議申立ての趣旨

本件決定を取り消し、全部非公開を求める。

第四 異議申立人の主張要旨

異議申立人の主張は、概ね次のとおりである。

異議申立人は、現在も組合員に対しては、正当な理由が有れば全情報公開を行っており、異議申立人と無関係かつ悪意の第三者には、その公開をすべて拒否する。今回、異議申立人に係る情報公開を求めていると思われる者等は、過去に異議申立人の理事として在職中に不法行為を行い異議申立人に回復し難い重大な損害を与えた者達であり当該情報公開請求は異議申立人に対して更なる損害を与えようとする悪意の目的が明確であり又、当該請求にて得た情報を悪用し、異議申立人及び他の組合員を陥れようとする可能性が極めて高く、その他正当な利益を害すると言わざるを得ない。よって本件情報公開決定には強く反対する。

第五 参加人の主張要旨

参加人の主張は、概ね次のとおりである。

非公開の部分も含めて全部公開すべきである。本来、組合員であれば、情報公開の手続きをしなくても、無条件で全部の閲覧が可能なものである。A事業協同組合の指導監督庁である実施機関が、組合員の権利擁護として、本来は出すべき書類であるにもかかわらず、適切な指導をA事業協同組合に行わないため、情報公開請求の手続きをとったものである。

なお、参加人は、本件決定に係る異議申立てについて、行政不服審査法第48条の規定において準用する同法第24条第1項の規定に基づき、参加を申し立てたところであるが、本件決定そのものに対する異議申立ては行っていない。

 

第六 実施機関の主張要旨

実施機関の主張は概ね次のとおりである。

1 事業協同組合について

事業協同組合は、中小企業等協同組合法(以下「法」という。)に基づく協同組合の中で最も代表的かつ一般的な組合の形態であり、組合員である中小企業者が行う事業に関して、共同購買や共同受注・市場開拓等のいわゆる共同経済事業や組合員のための福利厚生事業などの共同事業を行うことにより、中小企業者の経営の合理化、企業体質の強化や対外信用力の増大等を図るものである。

事業協同組合の機関としては、組合の基本的事項を決定する最高意思決定機関としての「総会」と、具体的な業務の執行を決定する「理事会」がある。

また、組合の役員として「理事」と「監事」があり、いずれも総会で選任される。そして、理事の中から代表理事(多くの組合では理事長と呼称)が理事会で選任されるが、それ以外に、副理事長・専務理事・常務理事の職をおく組合も少なくない。

事業協同組合は、法人税率が公益法人並みに軽減されるなど税制上の優遇措置とともに、公共工事などの受け皿となることも多く、民間法人のなかでは公益性の高い性格を有する法人であり、その情報は、府民の正当な関心の対象となるべきものである。

法は、事業協同組合の公益性に着目し、その設立にあたっては業を所管する行政庁(異議申立人については実施機関)の認可が必要とし、設立後においても定款変更認可、決算関係書類(事業報告書、財産目録、貸借対照表、損益計算書及び剰余金の処分または損失の処理の方法を記載した書面)及び役員変更届などの諸手続きを通じて行政の監督下においた。

なお、当該法人は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律に基づく許可を得て、産業廃棄物(主に建設汚泥)の共同処理、保管、運送などを主事業とする協同組合である。

2 本件係争部分について

(1)本件行政文書

本件行政文書の内容は以下のとおりである。

ア 設立認可申請書

設立認可申請書は、法第27条の2第1項「発起人は、創立総会終了後遅滞なく、定款並びに事業計画、役員の氏名及び住所その他必要な事項を記載した書面を、主務省令で定めるところにより、行政庁に提出して、設立の認可を受けなければならない。」の規定により提出された書面である。

これに含まれる書面として、設立認可申請書並びにその添付書類として設立趣意書、定款、事業計画書、収支予算書、創立総会および理事会の議事録、役員名簿、設立同意者の引受出資口数ならびに組合員資格誓約書、委任状、登記事項証明書、発起人全員の印鑑証明各一通、設立同意ならびに出資引受書、役員就任承諾書がある。

イ 組合成立届書

法第31条の規定により、代表理事が知事に対し、登記簿の謄本を添えて組合の成立を届出た書面である。

ウ 役員変更届書

役員変更届書は、法第35条の2「組合は、役員の氏名又は住所に変更があったときは、その変更の日から2週間以内に、行政庁にその旨を届け出なければならない。」の規定により提出された書面である。

これに含まれる書面として、平成16年から19年までの間に提出された役員変更届書、新旧役員名簿、履歴事項全部証明書、総会議事録、理事会議事録、就任承諾書、代表者事項証明書がある。

エ 定款変更認可申請書

定款変更認可申請書は、法第51条第2項「定款の変更は、行政庁の認可を受けなければ、その効力を生じない。」の規定により提出された書面である。

これに含まれる書面として、昭和51年から平成18年までの間に提出された定款変更認可申請書、変更箇所対照表、変更理由書、総会議事録、定款、事業計画(案)、収支予算書、産業廃棄物収集運搬業許可証、委任状、協定書がある。

オ 決算関係書類提出書

決算関係書類提出書は、法第105条の2第1項「組合は、毎事業年度、通常総会の終了の日から2週間以内に、事業報告書、財産目録、貸借対照表、損益計算書及び剰余金の処分又は損失の処理の方法を記載した書面を行政庁に提出しなければならない。」の規定により提出された書面である。

これに含まれる書面として、平成16年から18年までの間に提出された決算関係書類提出書、事業報告書、財産目録、貸借対照表、損益計算書、販売費及び一般管理費、売上原価報告書、利益金処分計算書、利益処分案、剰余金処分案、監査意見書、事業計画、収支予算書、産業廃棄物収集運搬業許可証、総会議事録、理事会議事録、定款がある。

カ 原本証明願い

原本証明願いは、代表理事が行政庁に対し、行政庁が認可した定款変更の内容を確認するための依頼であり、法の根拠はない。本件係争部分の書面として、原本証明願い、平成10年の定款がある。

(2)本件係争部分

本件異議申立ての対象となる部分は、本件行政文書(公開部分)の全てであり、その内容は、概ね以下のとおりである。また、異議申立ての理由は、「当組合と無関係かつ悪意の第三者には、その公開をすべて拒否する。」等としている。 

ア 設立認可申請書

(ア)設立認可申請書

設立しようとする組合の住所、名称、発起人代表の会社住所等

(イ)設立趣意書

設立の目的、組織および事業の概要(名称、地区等)

(ウ)定款

総則(目的、名称等)、事業、組合員(資格、加入等)、出資および持分(出資1口の金額、出資の払込み等)、役員、顧問および職員(役員の定数、任期等)、総会、理事会および委員会(総会の召集、手続等)、会計(事業年度、法定利益準備金等)、附則

(エ)事業計画書

事業計画の概要、資金計画(出資金の額、運転資金の額等)

(オ)収支予算書

(カ)創立総会および理事会の議事録(開催の日時、場所等)

(キ)役員名簿(職名、氏名等)

(ク)設立同意者の引受出資口数ならびに組合員資格誓約書

(ケ)委任状(組合の住所、名称等)

(コ)証明申請書(商号、本店等)

(サ)発起人全員の印鑑証明

(シ)設立同意ならびに出資引受書(1口の金額、役員の氏名等)

(ス)役員就任承諾書(氏名等)

イ 組合成立届書

(ア)組合成立届書(組合の住所、名称等)

(イ)登記簿謄本(組合の住所、名称等)

ウ 役員変更届書

(ア)役員変更届書(組合の住所、名称等)

(イ)新旧役員名簿(役職名、氏名等)

(ウ)履歴事項全部証明書

(エ)総会議事録(開催の日時、議案等)

(オ)理事会議事録(開催の日時、議案等)

(カ)就任承諾書(氏名等)

(キ)代表者事項証明書

エ 定款変更認可申請書

(ア)定款変更認可申請書(組合の住所、名称等)

(イ)変更箇所対照表

(ウ)変更理由書

(エ)総会議事録(開催の日時、議案等)

(オ)定款(新定款、旧定款) 

総則(目的、名称等)、事業、組合員(資格、加入等)、出資および持分(出資1口の金額、出資の払込み等)、役員、顧問および職員(役員の定数、任期等)、総会、理事会及び委員会(総会の召集、手続等)、賛助会員、会計(事業年度、法定利益準備金等)

(カ)事業計画(案)

事業計画の概要(方針、重点活動目標等)

(キ)収支予算書

(ク)産業廃棄物収集運搬業許可証(許可の年月日、許可の有効年月日等)

(ケ)委任状(組合の住所、名称等)

(コ)協定書(組合の住所、名称等)

オ 決算関係書類提出書

(ア)決算関係書類提出書(組合の住所、名称等)

(イ)事業報告書

概況、庶務事項(組合員数及び出資口数等)、事業の状況(概況、実績等)

(ウ)財産目録

(エ)貸借対照表

(オ)損益計算書

(カ)販売費及び一般管理費

(キ)売上原価報告書

(ク)利益金処分計算書

(ケ)利益処分案

(コ)剰余金処分案

(サ)監査意見書

(シ)事業計画

事業計画の概要(方針、重点活動目標等)

(ス)収支予算書

(セ)産業廃棄物収集運搬業許可証(許可の年月日、許可の有効年月日等)

(ソ)総会議事録(開催の日時、議案等)

(タ)理事会議事録(開催の日時、議案等)

(チ)定款

総則(目的、名称等)、事業、組合員(資格、加入等)、出資および持分(出資1口の金額、出資の払込み等)、役員、顧問および職員(役員の定数、任期等)、総会、理事会及び委員会(総会の召集、手続等)、賛助会員、会計(事業年度、法定利益準備金等)

カ 原本証明願い

(ア)原本証明願い(組合の住所、名称等)

(イ)定款

総則(目的、名称等)、事業、組合員(資格、加入等)、出資および持分(出資1口の金額、出資の払込み等)、役員、顧問および職員(役員の定数、任期等)、総会、理事会及び委員会(総会の召集、手続等)、賛助会員、会計(事業年度、法定利益準備金等)

3 条例における公開原則と請求者について

条例においては、その前文にあるように、「府の保有する情報は公開を原則」、「個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護」、「府が自ら進んで情報の公開を推進」を制度運営の基本的姿勢としている。

よって、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報を公開しなければならないものである。

また、条例第6条で、「何人も、実施機関に対して、行政文書の公開を請求することができる。」としており、公開請求権の主体について何の限定もしない趣旨であり、何人も行政文書の公開を請求する権利を有することとされており、異議申立人の主張を採用することはできない。

4 本件決定の適法性について

本件異議申立てにおいては、異議申立人が本件係争部分を公開しないことを求めているため、本件係争部分が、条例第8条及び第9条に該当しないことを、以下において説明する。

(1)条例第8条第1項第1号について

事業を営む者の適正な活動は、社会の維持存続と発展のために尊重・保護されなければならないという見地から、社会通念に基づき判断して、競争上の地位を害すると認められる情報、その他事業を営む者の正当な利益を害すると認められる情報は、営業の自由の保障、公正な競争秩序の維持等のため、公開しないことができるとするのが条例第8条第1項第1号の趣旨である。

本号では、

(1) 法人等に関する情報であって、

(1) 公にすることにより、当該法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるものは、公開しないことができると規定している。

また、一般に、「競争上の地位を害すると認められるもの」とは、生産技術上又は営業上のノウハウや取引上、金融上、経営上の秘密等公開されることにより、公正な競争の原理を侵害すると認められるものをいうと解されており、「その他正当な利益を害すると認められるもの」とは、事業を営む者に対する名誉侵害、社会的評価の低下となる情報及び公開により団体の自治に対する不当な干渉となる情報等必ずしも競争の概念でとらわれないものをいうと解されている。

そして、「競争上の地位を害すると認められるもの」とは、当該文書に記録された情報が明らかとなることにより、当該法人等に具体的な不利益が及んだり、社会的評価の低下につながるなどの事実が存在し、それが社会通念に照らして「競争上の地位その他正当な利益」を害すると認められる程度のものである必要があると解すべきである。

(2)本件係争部分が条例第8条第1項第1号に該当しないことについて

4(1)(1)及び(2)の要件を本件係争部分についてみると、本件係争部分は全て当該組合の事業内容、役員、財務内容等に関する文書であり、4(1)(1)の要件に該当することは明らかである。

そこで、本件係争部分に記録された情報が、4(1)(2)の要件に該当するか否かを検討したところ、以下の理由により、いずれも4(1)(2)の要件に該当しないと判断した。

設立認可申請書は、設立趣意書、定款等を添付書類とし、また、組合成立届書は、登記簿の謄本を添付書類としており、いずれの書面も当該法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる情報はない。

役員変更届書は、新旧役員名簿等を添付書類としており、役員は組合運営における実質的な経営者であり、その氏名の公表が当該法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる情報はない。

定款変更認可申請書は、変更箇所対照表、変更理由書等を添付書類としており、当該法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる情報はない。

決算関係書類提出書は、組合の会計年度末の一時点の資産・負債の状況並びに会計年度内の収入・支出の状況を概括的に示し、その経営状況を組合内外に客観的に示すためのものであり、法でも組合員及び組合の債権者に閲覧や謄本の請求を認めているところであり、当該法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる情報はない。

原本証明願いは、定款を添付書類としており、当該法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる情報はない。

(3)条例第9条第1号について

個人の尊厳の確保、基本的人権の尊重のため、個人のプライバシーは最大限に保護されなければならない。特にプライバシーは、一旦侵害されると、当該個人に回復困難な損害を及ぼすことに鑑み、条例は、その前文において、「個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護」することを明記し、条例第5条において「実施機関は、この条例の解釈及び運用に当たっては、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものをみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない。」ことを定めている。そして、条例第9条においては、

(1) 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、

(2) 特定の個人が識別され得るもののうち、

(3) 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの

については、「公開してはならない情報」として定められている。

(4)本件係争部分が条例第9条第1号に該当しないことについて

4(3)(1)〜(3)の要件を本件係争部分についてみると、本件係争部分に記録されている情報は、団体代表者の氏名等であり、これらは(1)及び(2)の要件に該当すると認められる。

そこで、(3)の要件に該当するか否かについて検討すると、これらの情報は、公表することにより、特定の個人が特定の事業協同組合の役員に就任していたという事実が明らかとなる情報であるものの、本件情報の開示によって、当事者の個人の尊厳が傷つけられたり、人格的利益が損なわれたりすることは、社会通念上考えられないことから、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当である」とは認められないものであり、(3)の要件に該当しない。 

なお、「決算報告書」や組合の住所等は、専ら法人として事業協同組合に関する情報であり、(1)の要件に該当しないことは明らかである。

(5)その他の適用除外事項に該当しないことについて

本件係争部分に記録されている情報が、条例第8条第1項各号又は第9条各号に規定する他の適用除外事項に該当するかについて検討したところ、本件係争部分には、公にすることにより認可事務に著しい支障を及ぼすおそれもなく、また法令の規定により公にすることができない情報や、公にすることにより公共の安全に著しい支障を及ぼすような情報等も含まれていないことは明らかである。

(6)異議申立人の主張について

議申立人は、当組合に係る情報公開を求めていると思われる者等は、過去に異議申立人の理事として在職中に不法行為を行い、異議申立人に回復し難い重大な損害を与えた者達であり、当該情報公開請求は、異議申立人に対して更なる損害を与えようとする悪意の目的が明確であり、又は当該請求にて得た情報を悪用し、異議申立人及び他の組合員を陥れようとする可能性が極めて高く、その他正当な利害を害すると言わざるを得ないことから、本件決定に反対する旨主張するが、条例に基づく行政文書公開制度は、実施機関が取得した文書について、条例の非公開事由に該当しない限り、何人に対しても当該行政文書が公開の対象となるものである。

また、本件係争部分に記録された情報の公開が、異議申立人の客観的な競争上の地位その他正当な利益を害するものでないことは、前述のとおりである。

5 結論

以上のとおり、実施機関による本件部分公開決定処分は条例に基づき適正に行われたものであり、適法かつ妥当なものである。

第七 審査会の判断理由

1 条例の基本的な考え方について

行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより、「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。

このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。

このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならないのである。

2 事業協同組合について

事業協同組合は、中小規模の商業、工業、鉱業、運送業、サービス業その他の事業を行う者、勤労者その他の者が相互扶助の精神に基づき協同して事業を行うため、法に基づき設立される法人である(法第1条、第3条及び第4条)。

事業協同組合の設立に当たっては、組合員になろうとする4人以上の者が発起人となり、組合員たる資格を有する者で創立総会の日までに発起人に対し設立の同意を申し出たものの半数以上が出席して創立総会を開催し、その議決権の3分の2以上で設立を決議した上で、業を所管する行政庁(異議申立人については実施機関)の認可を受けなければならないとされている(法第27条の2第1項)。

また、設立後は、定款変更について、行政庁の認可を受けなければ効力を生じないとされている(法第51条第2項)ほか、役員の氏名又は住所の変更を届け出ること(法第35条の2)、事業報告書、財産目録、貸借対照表、損益計算書及び剰余金の処分又は損失の処理の方法を記載した書面を提出すること(法第105条の2第1項)が義務づけられている。

事業協同組合は、基本的には、事業者である組合員の共通の利益を追求する中間法人としての性格を有している。組合自体は営利を目的とするものではなく、法人税率が公益法人と同等程度に軽減されているほか、中小企業振興施策や公共事業の担い手となることが多いなど一定の公益性が認められている法人である。

3 本件行政文書について

本件行政文書には、次の(1)から(7)までの文書が含まれる。その記載項目及び本件決定において公開することと決定された部分(以下「本件公開決定部分」という。)は、別表2のとおりである。

(1)中小企業等協同組合設立認可申請書

法第27条の2第1項の規定により、事業協同組合としての設立について認可を得るため、昭和48年11月17日に異議申立人の設立発起人から実施機関に提出された書面である。

添付書類として、設立趣意書、定款、初年度から第3事業年度までの事業計画書及び収支予算書、創立総会及び理事会の議事録、役員名簿、設立同意者の引受出資口数ならびに組合員資格誓約書、委任状、登記事項証明書、発起人全員の印鑑証明、設立同意ならびに出資引受書及び役員就任承諾書が添付されている。

(2)中小企業等協同組合成立届書

法第31条の規定により、事業協同組合としての成立について届け出るため、昭和49年1月10日に異議申立人から実施機関に提出された書面である。

添付書類として、異議申立人に係る法人登記簿の謄本が添付されている。

(3)中小企業等協同組合役員変更届書

法第35条の2の規定により、役員の変更について届け出るため、平成16年から19年までの間に異議申立人から実施機関に提出された書面6件である。

総会議事録、理事会議事録及び法人登記簿の謄本等が添付されている。

(4)中小企業等協同組合定款変更認可申請書

法第51条第2項の規定により、定款の変更について認可を得るため、昭和51年から平成18年までの間に異議申立人から実施機関へ提出された書面9件である。

総会議事録、現行定款のほか、変更事項に係る事業計画(案)等の資料が添付されている。

(5)中小企業等協同組合決算関係書類提出書

法第105条の2第1項の規定により、決算関係書類を提出するに当たり、平成16年から平成18年までの間に異議申立人から実施機関に提出された書面3件である。

前年度の事業報告書、財産目録、貸借対照表、損益計算書、販売費及び一般管理費の明細書、売上原価報告書、利益金処分計算書、利益処分案並びに監査意見書、当年度の事業計画書及び関係資料、総会議事録並びに理事会議事録が添付されている。

(6)原本証明願い

実施機関が認可している定款の内容について証明を求めるため、異議申立人から実施機関に提出された依頼文書である。

実施機関に証明を求める定款等が添付されている。

(7)定款写し

平成16年7月20日に異議申立人が実施機関に提出した定款の写しである。

4 本件決定に係る具体的な判断及びその理由

異議申立人は、本件公開決定部分が公開されると、異議申立人及び組合員の正当な利益を害するとして、本件公開決定部分の全部について公開しないよう求めているものと解される。そこで、本件異議申立ての審査に当たっては、本件公開決定部分を公開することにより、法人又は事業を営む個人である異議申立人及び組合員の正当な利益を害することがないか、条例第8条第1項第1号該当性について検討し、次いで、関係者個人のプライバシーに関する権利利益を害することがないか、条例第9条第1号該当性について、検討することとする。

(1)条例第8条第1項第1号について

事業を営む者の適正な活動は、社会の維持存続と発展のために尊重、保護されなければならないという見地から、社会通念に照らし、競争上の地位を害すると認められる情報その他事業を営む者の正当な利益を害すると認められる情報は、営業の自由の保障、公正な競争秩序の維持等のため、公開しないことができるとするのが本号の趣旨である。

本号は、

ア 法人・・・その他の団体(以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、

イ 公にすることにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの(人の生命、身体若しくは健康に対し危害を及ぼすおそれのある事業活動又は人の生活若しくは財産に対し重大な影響を及ぼす違法な若しくは著しく不当な事業活動に関する情報を除く。)

が記録された行政文書は、公開しないことができる旨定めている。

また、本号の「競争上の地位を害すると認められるもの」とは、生産技術上又は営業上のノウハウや取引上、金融上、経営上の秘密等公開されることにより、公正な競争の原理に反する結果となると認められるものをいい、「その他正当な利益を害すると認められるもの」とは、公開されることにより、事業を営む者に対する名誉侵害や社会的評価の不当な低下となる情報及び団体の自治に対する不当な干渉となる情報等必ずしも競争の概念でとらえられないものをいうと解されるが、これらの具体的な判断に当たっては、当該情報の内容のみでなく、当該事業を営む者の性格や事業活動における当該情報の位置づけ等も考慮して、総合的に判断すべきものである。

(2)本件公開決定部分の条例第8条第1項第1号該当性について

本件公開決定部分に記録されている情報は、法人として設立された事業協同組合である異議申立人の情報であることから、(1)アの要件に該当することは明らかである。

次に、本件公開決定部分に記録されている情報が(1)イの要件に該当するか否かについて、個別に検討する。

ア 中小企業等協同組合設立認可申請書

本文書の公開決定部分に記録されている情報は、設立趣意書、設立時の定款、初年度から第3年度までの事業計画及び収支予算、創立総会及び第1回理事会の議事内容、設立当時の役員の氏名、理事長の住所等である。その内容を審査会において見分したところ、借入先金融機関名、会員への賦課金の明細、役員報酬及び給料の明細、工場及び施設設備の明細、処理工程フローシートなどは非公開とされており、生産技術上又は営業上のノウハウや取引上、金融上、経営上の秘密等、あるいは、公開することにより、異議申立人に対する名誉侵害や社会的評価の不当な低下となる情報及び団体の自治に対する不当な干渉となる情報等は、含まれていないと認められた。

また、理事長以外の役員の氏名については、登記簿等で公表されている情報ではないものの、事業協同組合における理事及び監事は、株式会社等における取締役及び監査役に相当する重要な役職であり、理事は組合の業務を執行するとともに、理事会を構成して組合の業務執行に係る意思決定を行い、監事は組合の財産の状況及び理事の業務執行の状況を監査することを職務とする。このような理事や監事に誰が就任しているかという情報は、当該事業協同組合が経済活動を行う中で、取引を行おうとする第三者がその信用を判断するための重要な要素となるべき情報であって、公にすることにより、社会一般の取引の安全や公正な競争秩序の維持に資することがありこそすれ、公正な競争の原理に反する結果となるとは認められない。

また、このような情報は、生産技術上又は営業上のノウハウや取引上、金融上、経営上の秘密等にあたらないことは明らかであり、公にすることにより、当該事業協同組合に対する名誉侵害や社会的評価の不当な低下となる情報及び団体の自治に対する不当な干渉となる情報であるとも認められない。

以上のことから、本文書の公開決定部分に記録されている情報は、いずれも(1)イの要件に該当しない。

イ 中小企業等協同組合成立届書

本文書の公開決定部分に記録されている情報は、登記により公表された情報と法律で義務づけられている届書の提出に関する情報に限られており、これらを公開しても、異議申立人の競争上の地位その他正当な利益を害することがないのは明らかであり、(1)イの要件に該当しない。

ウ 中小企業等協同組合役員変更届書

本文書の公開決定部分に記録されている情報は、登記により公表されている代表理事の氏名及び住所とアにおいて(1)イの要件に該当しない旨判断した代表理事以外の役員の氏名を除けば、役員変更理由と役員変更について決議した総会及び理事会の議事内容に係る情報である。これらの内容について審査会で見分したところ、生産技術上又は営業上のノウハウや取引上、金融上、経営上の秘密等は、含まれていないと認められた。

なお、総会の議事録には、役員変更にかかる審議の状況が、役員変更に係る理由の説明等を含めて記録されているが、事業協同組合としての異議申立人の性格及び事業内容を考慮すると、公開することにより、異議申立人に対する名誉侵害や社会的評価の不当な低下となる情報及び団体の自治に対する不当な干渉となる情報等は、含まれていないと認められた。

以上のことから、本文書の公開決定部分に記録されている情報は、(1)イの要件に該当しない。

エ 中小企業等協同組合定款変更認可申請書

本文書の公開決定部分に記録されている情報は、新旧の定款、変更理由書、定款変更について決議した総会の議事内容のほか、事業計画(案)、収支予算書、関係事業者の事業許可証の写し、地元町会との協定書など定款変更に関わる事業の関係資料である。これらの内容について、審査会で見分したところ、事業計画における事業の取扱量、金額、工場の面積、計画図、取得金額などの詳細な情報は、非公開とされており、生産技術上又は営業上のノウハウや取引上、金融上、経営上の秘密等、あるいは、公開することにより、異議申立人に対する名誉侵害や社会的評価の不当な低下となる情報及び団体の自治に対する不当な干渉となる情報等は、含まれていないと認められ、(1)イの要件に該当しない。

オ 中小企業等協同組合決算関係書類提出書

本文書の公開決定部分に記録されている情報は、平成15年度から平成17年度の3年度における異議申立人の事業報告書、財産目録(各年度末現在)、貸借対照表、損益計算書、監査意見書などの決算関係書類、平成16年度から平成18年度の3年度における事業計画並びにこれらについて審議した総会及び理事会の議事内容等である。

決算関係書類は、その性質上、公にすることにより、異議申立人の全般的な財務状況を把握することが可能な情報である。本件の決算関係書類に記録されている数値からは、様々な財務指標を算出することが可能であり、異議申立人の経営規模、資産構成、収支バランス等が把握できることが認められる。

しかしながら、別表2からも明らかなように、本件決定においては、事業報告書に記録されている異議申立人の取引先の名称、出資保有者名及び出資口数、事業計画における事業の取扱量及び金額等の個別具体的な情報は、非公開とされており、審査会において、本文書の公開決定部分を見分したところ、他に異議申立人の共同事業や取引行為に関する具体的な情報は記録されておらず、異議申立人の営業上、生産技術上のノウハウや取引上、金融上、経営上の秘密が具体的に明らかとなるような情報は含まれていないと認められた。

また、総会及び理事会の議事録については、役員以外の出席者の氏名や一般の組合員の氏名又は名称などの具体的な情報は非公開とされており、その他の記載内容は、おおむね定型的な内容で、上述の事業協同組合の性格を考慮すると、公開することにより、異議申立人に対する名誉侵害や社会的評価の不当な低下となる情報及び団体の自治に対する不当な干渉となる情報等は、含まれていないと認められた。

しかも、事業協同組合の決算関係書類については、当該事業協同組合の組合員のみならず、債権者から請求があった場合には、正当な理由がある場合を除いて、当該事業協同組合自らが、これを閲覧又は謄写させなければならないとされている(法第40条第12項)。

以上のことから、本文書の公開決定部分に記録されている情報は、公開することにより、異議申立人の競争上の地位その他正当な利益を害するものとは認められず、(1)イの要件には該当しない。

カ 原本証明願い

本文書の公開決定部分に記録されている情報は、定款の内容及び証明の依頼文であり、公開することにより、異議申立人の競争上の地位その他正当な利益を害するものとは認められず、(1)イの要件に該当しない。

キ 定款写し

本文書の公開決定部分に記録されている情報は、定款の内容のみであり、公開することにより、異議申立人の競争上の地位その他正当な利益を害するものとは認められず、(1)イの要件に該当しない。

以上のとおりであるから、本件公開決定部分に記録されている情報は、いずれも、条例第8条第1項第1号に該当しない。

(3)条例第9条第1号について

条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨宣言している。また、第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない旨規定している。

このような趣旨を受けて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたのが条例第9条第1号である。

本号は、

ア 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって、

イ 特定の個人が識別され得るもののうち、

ウ 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる

情報が記録された行政文書については公開してはならないと定めている。

(4)本件公開決定部分の条例第9条第1号該当性について

本件公開決定部分に記録されている情報のうち、中小企業等協同組合設立認可申請書の発起人欄、「役員名簿」及び「就任承諾書」等、中小企業等協同組合役員変更届書の「新旧役員名簿」、「総会議事録」及び「理事会議事録」等、中小企業等協同組合定款変更認可申請書の「総会議事録」及び「産業廃棄物収集運搬業許可証」、中小企業等協同組合決算関係書類提出書の「監査意見書」、「総会議事録」及び「理事会議事録」等に記録されている役員の氏名及び代表理事の住所については、(3)ア及びイの要件に該当すると認められるが、その余の情報については、専ら法人である異議申立人に関する情報であり、(3)アの要件に該当しないことは明らかである。

そこで、役員の氏名及び代表理事の住所が、(3)ウの要件に該当するか否かについて検討するに、これらの情報のうち代表理事の氏名及び住所については、登記簿で公表されている情報であり、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であるとは認められず、(3)ウの要件には該当しない。

一方、代表理事以外の役員の氏名については、登記事項ではなく、一般に誰もが閲覧できる情報とはなっていないが、事業協同組合の役員である理事及び監事は、その権限や責任において、株式会社の取締役及び監査役、民法に基づく財団法人・社団法人及び中間法人の理事及び監事と同等の重要な役職であり、2で述べたとおり、事業協同組合が一定の公的な性格を有していることを考慮すると、このような役職に就任していることについて一般に他人に知られたくないと望むことが正当であるとは認められず、(3)ウの要件に該当しない。

以上のとおりであるから、本件公開決定部分に記録されている情報は、いずれも、条例第9条第1号に該当しない。

(5)異議申立人の主張について

異議申立人は、当該情報公開請求は異議申立人に対して更なる損害を与えようとする悪意の目的が明確であり又、当該請求にて得た情報を悪用し、異議申立人及び他の組合員を陥れようとする可能性が極めて高く、その他正当な利益を害すると言わざるを得ないと主張しているが、条例に基づく公開請求に対して、対象となった行政文書を公開するかどうかは、条例第8条及び第9条に規定する非公開事由に該当するか否かによって判断するものである。これらの規定に基づいて、本件公開決定部分を公開することにより異議申立人や組合員の正当な利益を害するかどうかを検討した結果は、上述のとおりであり、この点についても異議申立人の主張は採用することができないものである。

5 結 論

以上のとおりであるから、本件異議申立てには理由がなく、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。

(主に調査審議を行った委員の氏名)

  岡村周一、福井逸治、松田聰子、岩本洋子

このページの作成所属
府民文化部 府政情報室情報公開課 情報公開グループ

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