大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第159号)

更新日:2009年8月5日

大公審答申第                                

大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第159号)

〔建築士事務所登録申請書類部分公開決定異議申立事案〕

(答申日 平成20年8月12日)

第一 審査会の結論

実施機関は、本件異議申立ての対象となった部分公開決定において公開しないこととした部分のうち、別表「公開すべき部分」に掲げる部分を公開すべきである。

実施機関のその余の判断は妥当である。

第二 異議申立ての経過

1 平成19年9月15日、異議申立人は、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、大阪府知事(以下「実施機関」という。)に対し、「建築士事務所の登録申請書と添付書類(印影は除く)大阪市北区○○○○○○株式会社A一級建築士事務所」についての公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。

2 同年9月28日、実施機関は、本件請求に対応する行政文書として、「一級建築士事務所登録申請書」(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、(1)の部分(以下「本件非公開部分」という。)を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、公開しない理由を(2)のとおり付して異議申立人に通知した。

(1)公開しないことと決定した部分

ア 法人代表者の印影

イ 業務概要書のうち、注文者、建築物所在地都道府県名、建築物の名称及び用途、構造及び規模、業務内容、期間(大阪府、河内長野市注文分を除く)

ウ 所属建築士名簿のうち、氏名及び登録番号(管理建築士を除く)

エ 略歴書(登録申請者・管理建築士)のうち、印影、生年月日、学歴、当該事務所に勤務する前の職歴

オ 定款のうち発起人の住所、氏名、印影、引受株数

カ 管理建築士の一級建築士免許証

(2)公開しない理由

大阪府情報公開条例第9条第1号に該当する。

本件行政文書(非公開部分)には、登録申請者・管理建築士の印影、生年月日、学歴等が記載されており、これらは個人のプライバシーに関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる。

大阪府情報公開条例第8条第1項第1号に該当する。

本件行政文書(非公開部分)には、法人代表者の印影が記載されており、これは事業者の当該事業に関する情報であって、公にすることにより、取引の安全を害するなど、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。

3 同年11月30日、異議申立人は、本件決定を不服として、実施機関に対し、行政不服審査法第6条の規定により、異議申立てを行った。

第三 異議申立ての趣旨

本件決定の取消しを求める。

第四 異議申立人の主張要旨

異議申立人の主張は概ね次のとおりである。

1 異議申立書における主張

(1)条例の前文では、条例における解釈及び運用の基本原則として、「情報の公開は、府民の府政への信頼を確保し、生活の向上をめざす基礎的な条件であり、民主主義の活性化のために不可欠なものである。府が保有する情報は、本来は府民のものであり、これを共有することにより、府民の生活と人権を守り、豊かな地域社会の形成に役立てるべきものであって、府は、その諸活動を府民に説明する責務が全うされるようにすることを求められている。このような精神のもとに、府の保有する情報は公開を原則とし、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護しつつ、行政文書等の公開を求める権利を明らかにし、併せて府が自ら進んで情報の公開を推進することにより、『知る権利』の保障と個人の尊厳の確保に資するとともに、地方自治の健全な発展に寄与するため、この条例を制定する。」と定めている。

情報公開を原則として認め、行政の透明性を確保することにより適正な権力の執行を担保することが、条例の趣旨であると考えられる。   

(2)実施機関は、一級建築士事務所の登録申請書のうち、その一部を条例第8条第1項第1号ないし第9条第1号に該当するとして非公開とした。しかしながら、以下に述べる理由から、非公開とした部分について再度ご検討をお願いしたい。

(3)社会資本整備審議会建築分科会の中間報告(平成18年2月24日)において、建築士及び建築士事務所、指定確認検査機関に関する情報開示の徹底が提言されている。

(4)建築基準法第93条の2では、特定行政庁は建築計画概要書の閲覧の請求があった場合には閲覧させなければならないと規定している。

閲覧を請求できる者は限定されていない。誰でも特定行政庁に請求すれば、建築主、設計者、施工者、建築敷地の地名地番、建築計画の概要等の情報を得ることができる制度として運用されている。

建築計画概要書は、建築基準法施行規則第11条の4の規定により、別記第三号様式によるものとされ、建築主、建築計画に関わった建築士事務所の名称、登録番号、所在地、建築士の氏名、資格登録番号、建築物の名称、建築場所、主要用途、構造、規模などの情報の記載が義務付けられている。

(5)建築士事務所の情報は、宅地建物取引業者の報道発表や広告等においても公にされている。

2 反論書における主張

(1)社会資本整備審議会建築分科会の中間報告(平成18年2月24日)において、「4 建築物の安全性確保のため早急に講ずべき施策」として、「(8)建築士及び建築士事務所、指定確認検査機関に関する情報開示制度の充実、強化」の「(1) 建築士及び建築士事務所に関する情報開示の徹底」で「建築士事務所の開設者に対し、毎年一回一定の時期に所属するすべての建築士の氏名、業務実績等の書類の提出を義務付けるとともに、都道府県知事はこれを一般の閲覧に供するようすべきである。」と提言されている。

建築士法第23条の9第2号の規定により、都道府県知事は建築士事務所の設計等の業務に関する報告書を一般の閲覧に供しなければならない。この報告書には、建築士法第23条の6第2号と建築士法施行規則第20条の3第1項第1号の規定により、建築士事務所に所属する建築士の氏名と資格登録番号が記載される。

ところで、実施機関は、上述の建築士事務所の設計等の業務に関する報告書の閲覧制度は、建築物の安全性の確保を図るための建築基準法等の一部を改正する法律(平成18年法律第92号、平成18年6月14日成立、同21日公布、平成19年6月20日施行)により新設されたものであって、平成19年6月19日以前に実施機関が受けた登録申請書の公開の判断に関係しないと主張している。しかしながら、以下に述べる理由から、同日までに登録を受けていた建築士事務所であっても、所属する建築士の氏名と資格登録番号は公開されるべきである。

ア 平成19年6月20日以降に建築士法第23条第1項の規定により(新規)登録を受けた建築士事務所については、建築士法第23条の9第3号と建築士法施行規則第20条の4の規定により、建築士の氏名と資格登録番号を記載した書類を、都道府県知事が一般の閲覧に供している。

イ 平成19年6月19日までに「旧建築士法」第23条第1項の規定により登録を受けている建築士事務所については、建築士法附則第4条第1項に経過措置が規定されており、「新建築士法」第23条第1項の登録を受けた事務所とみなされる。

ウ 上記のア、イから、平成19年6月19日までに建築士法第23条第1項の規定により登録を受けている建築士事務所についても(同日までに建築士事務所を廃業し、廃業した旨を30日以内に都道府県知事に届け出ている場合を除いて)平成19年6月20日以降に建築士法第23条第1項の規定により登録を受けた建築士事務所と同様に考えるべきであり、建築士の氏名と資格登録番号は公開されるべきである。

(2)建築基準法第93条の2では、特定行政庁は「建築計画概要書」及び「建築基準法令による処分の概要書」の閲覧の請求があった場合には閲覧させなければならないと規定している。

閲覧を請求できる者は限定されていない。誰でも特定行政庁に請求すれば、建築主、設計者、施工者、建築敷地の地名地番、建築計画の概要等の情報を得ることができる制度として運用されている。

建築計画概要書は、建築基準法施行規則第11条の4の規定により、別記第三号様式によるものとされ、建築計画に関わったすべての建築士の氏名と資格登録番号を記載することが義務付けられている。資格登録番号は、資格を証明するために、公にされているものと考えられる。

(3)建設業法第40条では、「建設業者は、その店舗及び建設工事の現場ごとに、公衆の見易い場所に、国土交通省令の定めるところにより、許可を受けた別表第一の下欄の区分による建設業の名称、一般建設業又は特定建設業の別その他国土交通省令で定める事項を記載した標識を掲げなければならない。」と規定している。この標識には、監理技術者の資格登録番号も記載されている。

国土交通省総合政策局建設業課平成16年3月1日付「監理技術者制度運用マニュアル」において、「建設業者は、この様式の標識を掲示することにより、監理技術者等の資格を明確にするとともに、資格者証の交付を受けている者が設置されていること等を明らかにする必要がある」との判断が示されている。

(4)建築士に関する情報が公開されるべきであることは、別件の異議申立て(学校法人から受けた私立専修学校の開設、変更の申請書等について、平成19年3月28日付けで実施機関に異議申立てしたもの、以下、「別件異議申立て」という。)の異議申立書と貴審査会への反論書でも述べているので、別件異議申立ての反論書等もご参照いただきたい。

彦根市情報公開審査会平成19年1月30日付「平成18年度答申第1号」や、東京都情報公開審査会平成20年1月11日付「答申第396号」などにおいても、建築士の氏名と資格登録番号を公開するべきであると答申している。

また、千葉県情報公開審査会平成17年3月14日付「答申第192号」においても、建築士に関する情報を公開するべきであると答申している。

(5)設計監督者業(報酬の収得を目的とし他人の依頼を受けて、土木又は建築に関する設計、工事監理、その他設計等に関連する業務を行う事業)は、地方税法第72条の2第9項第16号で第三種事業と規定されている。

埼玉県知事は、自営の建築士に係る情報は事業を営む個人の当該事業に関する情報であるとして、当初非公開とした情報を公開する決定を行っている(建築士の免許証の写しも生年月日と本籍地を除いて公開している。)。

(6)建築士事務所の業務実績も、公開されるべきものである。業務実績には、建築士事務所の取引先情報が記載されているが、それらの情報は公開することにより建築士事務所の権利、競争上の地位その他事業活動上の正当な利益が損われるほどの事業上のノウハウ又は内部管理に関する情報とまではいえないと考えられる。

宮城県情報公開審査会平成16年5月26日付「答申第56号」は、図面を作成した建築士事務所の名称及び事務所登録番号は、本件申請者が図面作成業務を委託した相手方が分かる情報であり、当該申請者の取引先情報ともいえるが、公開することにより本件申請者の権利、競争上の地位その他事業活動上の正当な利益が損われるほどの事業上のノウハウ又は内部管理に関する情報とまでは認められないことから、宮城県情報公開条例第8条第1項第3号に該当せず、開示することが適当である。また、これらの情報は、図面作成業務を受託した建築士事務所の取引先に係る情報ともいえるが、公開することにより本件申請者と取引関係にあることが判明したからといって、建築設計業を営む上で当該建築事務所の権利、競争上の地位その他事業活動上の正当な利益が損われるほどの事業上のノウハウ又は内部管理に関する情報とまでは認められないことから、宮城県情報公開条例第8条第1項第3号に該当せず、開示することが適当である。」と答申している。

(「平成19年6月20日以後に開始する事業年度」以降の業務実績の情報は、建築士法第23条の9第2号の規定により、都道府県知事が一般の閲覧に供することになる。ただし、「平成19年6月20日以後に開始する事業年度」より前の年度の業務実績のうち、個人が発注した建物の情報については、分譲共同住宅、事務所や店舗などの事業用の建物を除いて、発注者の氏名と建物名称の個人を冠した部分が個人に関する情報である可能性はある。)

第五 実施機関の主張要旨

実施機関の主張は、概ね次のとおりである。

1 建築士事務所の登録について

建築士法は、建築物の設計、工事監理等を行う技術者の資格を定めて、その業務の適正をはかり、もって建築物の質の向上に寄与させることを目的としている。(建築士法第1条)

その実現のため、建築士の資格や試験、業務に関することなどを定めており、建築士が業務を行なう際には、「建築士事務所の登録(建築士法第23条)」が必要となっている。

これを受け大阪府では、建築士事務所の登録申請の受付、書類審査、登録の実施、登録簿の閲覧等の業務を行っている。

2 本件行政文書について

本件行政文書は、建築士事務所の登録のために、株式会社Aから申請の出された株式会社A一級建築士事務所の登録申請書と添付書類である。

登録申請書に記載される内容については、建築士法第23条の2で、また、閲覧できる内容については同法第23条の9で定められており、当該事務所に関しては登録簿のみである。

なお、登録簿に記載する内容は、

(1)建築士事務所の名称及び所在地

(2)一級建築士事務所、二級建築士事務所又は木造建築士事務所の別

(3)登録申請者が個人である場合はその氏名、法人である場合はその名称及び役員(業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者をいう。)の氏名

(4)建築士事務所を管理する建築士の氏名及びその者の一級建築士、二級建築士又は木造建築士の別

(5)前各号に掲げるもののほか、国土交通省令で定める事項

となっている。

当該行政文書のうち、公開しないことと決定した部分は、

ア 法人代表者の印影

イ 業務概要書のうち、注文者、建築物所在地都道府県名、建築物の名称及び用途、構造及び規模、業務内容、期間(大阪府、河内長野市注文分を除く)

ウ 所属建築士名簿のうち、氏名及び登録番号(管理建築士を除く)

エ 略歴書(登録申請者・管理建築士)のうち、印影、生年月日、学歴、当該事務所に勤務する前の職歴

オ 定款のうち発起人の住所、氏名、印影、引受株数

カ 管理建築士の一級建築士免許証

である。

3 本件決定の適法性について 

(1)条例第9条第1号に該当することについて

ア 条例第9条第1号について

条例第9条第1号は、

(ア)個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報(事業を営む個人の当該情報に関する情報を除く。)であって、

(イ)特定の個人が識別され得るもののうち、

(ウ)一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの

に該当する情報が記録されている行政文書を公開してはならないと規定している。

イ 上記ア(ア)の要件について

本件非公開部分には、

a 所属建築士の、氏名及び登録番号(管理建築士を除く)

b 登録申請者兼管理建築士の、印影、生年月日、学歴、当該事務所に勤務する前の職歴

c 開設者(法人)の発起人の住所、氏名、印影、引受株数

d 管理建築士の一級建築士免許証

が記載されている。これらは、個人に関する情報であり、上記ア(ア)の要件に該当する。

ウ 上記ア(イ)の要件について

上記イa、b、c、dの情報は、直接的に、又は他の容易に入手し得る情報と結合することにより、個人を特定することができるものである。したがって、上記イa、b、c、dの情報は、上記ア(イ)の要件に該当する。

工 上記ア(ウ)の要件について

a 上記イa、上記イbのうち「学歴」および「当該事務所に勤務する前の職歴」については、個人の経歴に関する情報であり、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められ、上記ア(ウ)の要件に該当する。

b 上記イbのうち「印影」、「生年月日」、上記イcのうち「住所」、「氏名」、「印影」、ならびに上記イdについては、個人の固有の属性に関する情報であり、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められ、上記ア(ウ)の要件に該当する。

c 上記イcのうち「引受株数」については、個人の財産状況に関する情報であり、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められ、上記ア(ウ)の要件に該当する。

以上のことから、本件非公開部分に記載された情報のうち、上記イa、b、c、dの情報は、条例第9条第1号に該当するものである。

(2)条例第8条第1項第1号に該当することについて

条例第8条第1項第1号は、「法人、その他の団体に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公にすることにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの」に該当する情報については、公開しないことができる旨規定している。

本件非公開部分には、

ア 法人代表者の印影

イ 注文者、建築物所在地都道府県名、建築物の名称及び用途、構造及び規模、業務内容、期間(大阪府、河内長野市注文分を除く。)

が記載されている。これらの情報を公開することは、取引の安全を害する等、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められ、条例第8条第1項第1号に該当するものである。

 

4 異議申立人の主張について

異議申立人は「社会資本整備審議会建築分科会の中間報告(平成18年2月24日)において、建築士及び建築士事務所、指定確認検査機関に関する情報開示の徹底が提言されている。」としているが、この内容については、平成18年6月21日に公布(平成19年6月20日施行)された改正建築士法における第23条の6に規定された、「設計等の業務に関する報告書」に反映されている。しかしながら、附則第4条第4項の規定により、経過措置が定められており、平成19年6月20日以降に開始する事業年度に係る「設計等の業務に関する報告書」について適用することとなっており、早い事務所でも平成20年6月20日以降に報告されるものである。よって当該事務所については適用しない。

また、建築計画概要書の閲覧については、建築士法ではなく建築基準法で定められているものであり、本件と何ら関係するものではない。

さらに、建築士事務所の情報が広告等により公にされているとしているが、建築主が自ら選び広告しているもので、本件の登録申請書の公開とは無関係である。

5 結 論

以上のとおり、本件決定は、条例の規定に基づき適正に行われたものであり、何ら違法又は不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。

第六 審査会の判断理由

1 条例の基本的な考え方について

行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。

このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。

このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。

2 建築士事務所登録に係る実施機関の事務について

建築士法は、建築士事務所を営もうとするときは、その所在地を管轄する都道府県知事に登録申請書及び添付書類を提出し、登録を受けなければならない旨定めている。また、登録の有効期間は5年であり、有効期間満了後引き続き業を行おうとする者は、更新の登録を受けなければならないこととされている(建築士法第23条、第23条の2)。

一方、都道府県知事は、登録の申請があった場合においては、登録を拒否する場合を除いて、一級建築士事務所登録簿、二級建築士事務所登録簿又は木造建築士事務所登録簿(以下「登録簿」という。)に登録しなければならないこととされている(建築士法第23条の3)。登録簿には、事務所の名称、所在地及び電話番号のほか、登録申請者に関する事項、管理建築士に関する事項、行政処分歴等が掲載されており、都道府県知事が、一般の閲覧に供しなければならないこととされている(建築士法第23条の8(平成19年6月20日の改正建築士法施行後は、第23条の9))。

なお、平成19年6月20日から、建築物の安全の確保を図ることを目的とした改正建築士法が施行され、建築士事務所の開設者は、事業年度ごとに、当該建築士事務所の業務の実績(建築物所在地都道府県、建築物の用途、構造及び規模、業務内容及び期間を当該事業年度における直近のものから順次記入したもの。)、所属建築士名簿(所属する建築士の氏名、資格、登録番号等を記入したもの。)等を取りまとめた報告書(以下「設計等業務報告書」という。)を作成し、都道府県知事に提出しなければならないこととされた(改正後の建築士法(以下、「改正建築士法」という。)第23条の6)。設計等業務報告書については、都道府県知事が、一般の閲覧に供しなければならないこととされており(改正建築士法第23条の9)、平成19年6月20日以降に開始する事業年度については、上記の建築士事務所の業務の実績や所属建築士名簿等の情報は、広く一般に公表される情報となっている。

3 本件行政文書について

本件行政文書は、株式会社A(以下「本件法人」という。)がその設置する一級建築士事務所(以下「本件事務所」という。)について、建築士法第23条に規定する更新の登録を受けるために、同法第23条の2の規定に基づき、平成16年5月6日付けで実施機関に提出した一級建築士事務所登録申請書及び添付書類であり、その内容及び本件決定における非公開部分は、以下のとおりである。

(1)一級建築士事務所登録申請書

申請書の本文に当たる書面であり、申請年月日、登録申請者である本件法人の名称並びに代表者の氏名及び印影、本件事務所の名称、所在地及び種別、本件法人の事務所所在地並びに役員の氏名及び役名、管理建築士の氏名、資格種別及び登録番号等が記録されている。本件決定においては、本件法人の代表者の印影が非公開とされている。

(2)添付書類

ア 業務概要書

本件事務所が過去に実施した設計業務の概要を、最近のものから順次、表形式で記録した書面である。

本件決定においては、注文者が大阪府、河内長野市であるものを除く各設計業務の「注文者」、「建築物所在地都道府県名」、「建築物の名称及び用途」、「構造及び規模」、「業務内容」及び「期間」が非公開とされている。

イ 所属建築士名簿

本件事務所に所属する建築士の名簿である。

本件決定においては、管理建築士を除く所属建築士の「氏名」及び「登録番号」が非公開とされている。

ウ 略歴書

管理建築士の略歴書である

本件決定においては、管理建築士の「印影」、「生年月日」、「学歴」及び本件事務所に勤務する前の「職歴」が非公開とされている。

エ 誓約書

登録申請者が法定の除斥事由に該当しない旨の誓約書である。

本件決定においては、法人代表者の印影が非公開とされている。

オ 定款

登録申請者である株式会社の定款である。

本件決定においては、発起人の住所、氏名、印影、引受株数が非公開とされている。

カ 一級建築士免許証

管理建築士である一級建築士の免許証である。

本籍地、氏名、生年月日、一級建築士の登録番号及び登録年月日の情報が記録されており、本件決定においては、全て非公開とされている。

4 本件決定に係る具体的な判断及びその理由

異議申立人の口頭による意見陳述を聴取した結果によると、異議申立人が、本件異議申立てにおいて公開を求めているのは、本件非公開部分のうち、3(2)ア及びイの非公開部分の全部並びに3(2)ウの非公開部分のうち本件事務所に勤務する前の「職歴」の部分(以下「本件係争部分」という。)であると認められるので、これら部分に係る実施機関の決定の適否について、以下検討する。

(1)条例第8条第1項第1号について

事業を営む者の適正な活動は、社会の維持存続と発展のために尊重、保護されなければならないという見地から、社会通念に照らし、競争上の地位を害すると認められる情報その他事業を営む者の正当な利益を害すると認められる情報は、営業の自由の保障、公正な競争秩序の維持等のため、公開しないことができるとするのが本号の趣旨である。

同号は、

ア 法人・・・その他の団体(以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、

イ 公にすることにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの(人の生命、身体若しくは健康に対し危害を及ぼすおそれのある事業活動又は人の生活若しくは財産に対し重大な影響を及ぼす違法な若しくは著しく不当な事業活動に関する情報を除く。)

が記録された行政文書は、公開しないことができる旨定めている。

また、本号の「競争上の地位を害すると認められるもの」とは、生産技術上又は営業上のノウハウや取引上、金融上、経営上の秘密等公開されることにより、公正な競争の原理に反する結果となると認められるものをいい、「その他正当な利益を害すると認められるもの」とは、公開されることにより、事業を営む者に対する名誉侵害や社会的評価の不当な低下となる情報及び団体の自治に対する不当な干渉となる情報等必ずしも競争の概念でとらえられないものをいうと解されるが、これらの具体的な判断に当たっては、当該情報の内容のみでなく、当該事業を営む者の性格や事業活動における当該情報の位置づけ等も考慮して、総合的に判断すべきものである。

(2)本件係争部分の条例第8条第1項第1号該当性について

本件係争部分に記録されている情報のうち、実施機関が、条例第8条第1項第1号に該当するとして非公開とした情報は、業務概要書の「注文者」、「建築物所在地都道府県名」、「建築物の名称及び用途」、「構造及び規模」、「業務内容」及び「期間」の各欄の情報(注文者が大阪府及び河内長野市である業務に係るものを除く。)である。これらの情報はいずれも本件法人の事業に関する情報であり、(1)アの要件に該当することは明らかである。

次に、これらの情報が(1)イの要件に該当するかどうかについて検討する。

ア 業務概要書の「注文者」欄の情報及び「建築物の名称及び用途」欄に記載されている建築物の名称について

本項の情報は、当該情報のみ又は他の公にされている情報と照らし合わせることにより、本件事務所の一定期間における取引先が網羅的に明らかとなる情報である。

一方、異議申立人は、建築基準法の規定に基づき一般の閲覧に供される建築計画概要書に、設計者である建築士の氏名等の情報が記載されていると指摘するが、審査会において本件行政文書を見分するとともに実施機関から事情を聴取して調査したところ、業務概要書には、設計のみを行って建築確認には至らなかったものも記載することとされていることが確認された。

これらのことからすると、本項の情報は、公にすることにより、本件法人の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると認められ、(1)イの要件に該当する。

イ 業務概要書の「建築物所在地都道府県名」、「構造及び規模」、「業務内容」及び「期間」の各欄の情報並びに「建築物の名称及び用途」欄に記載されている建築物の用途について

本項の情報について、審査会において見分したところ、いずれも、当該設計業務に関する概括的な情報であり、これらの情報のみでは個別の建築物の特定はできず、したがって、取引先を特定することもできないことが認められた。

また、本項の情報と同種の情報は、改正建築士法第23条の6の規定に基づいて都道府県知事に提出される設計等業務報告書の記載事項であり、当該報告書は、改正建築士法第23条の9の規定により一般の閲覧に供しなければならないこととされていることから、平成19年6月20日以降に開始する事業年度については、本項の情報と同種の情報は、広く公表される情報となっている。

さらに、実施機関は、本件行政文書については改正建築士法による閲覧の対象とはならない旨主張しているが、法に基づく閲覧の対象とならないことから直ちに、条例に基づいて公開することができないというものではない。

これらのことからすると、本項の情報は、公にすることにより、本件法人の競争上の地位その他正当な利益を害する情報とは認められず、(1)イの要件には該当しない。

以上のことから、実施機関が、本件決定において、条例第8条第1項第1号に該当するとして非公開とした情報のうち、業務概要書の「注文者」の欄の情報及び「建築物の名称及び用途」欄に記録されている建築物の名称については条例第8条第1項第1号に該当し、公開しないことができるが、その余の情報については、同号には該当せず、公開すべきである。

(3)条例第9条第1号について

条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨宣言している。また、第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない旨規定している。

このような趣旨を受けて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたのが条例第9条第1号である。

同号は、

ア 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、

イ 特定の個人が識別され得るもののうち、

ウ 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる

情報が記録された行政文書については公開してはならないと定めている。

(4)本件係争部分の条例第9条第1号該当性について

本件係争部分に記録されている情報のうち、実施機関が条例第9条第1号に該当するとして非公開とした情報は、「所属建築士名簿」に記録されている管理建築士以外の所属建築士の氏名及び登録番号並びに管理建築士の「略歴書」に記録されている当該事務所に勤務する前の職歴である。

これらの情報は、特定の個人の職業又は所属団体に関する情報であり、(3)ア及びイの要件に該当することは明らかである。

次に、これらの情報が(3)ウの要件に該当するかどうかについて検討する。

ア 「所属建築士名簿」の管理建築士を除く所属建築士の氏名及び登録番号について

本項の情報は、本件事務所に所属する管理建築士以外の建築士の氏名及び登録番号である。これらの情報は、公にすることにより、特定の個人が本件事務所に勤務していることが明らかとなる情報ではあるが、建築士については、建築基準法の規定により、一般の閲覧に供される「建築計画概要書」に設計を行った建築士の氏名及び登録番号が記載されていることにも見られるように、その専門的な職能にかんがみ、特定の建築士事務所に所属する場合においても、通常、氏名等を公にして業務を行うものであると認められる。

また、本件行政文書については、改正前の建築士法に基づき提出されたものであるが、本項の情報は、2で述べたとおり、改正建築士法の施行に伴い一般の閲覧に供される「設計等の業務に関する報告書」の記載事項と同種の情報であり、本件事務所が現在も事業を継続していること及び今回の法改正の趣旨からすると、広く府民等の正当な関心の対象となるべき情報である。

以上のことからすると、本項の情報については、一般に他人に知られたくないと望むことが正当である情報とは認められず、(3)ウの要件に該当しない。

イ 管理建築士の「略歴書」に記載されている当該事務所に勤務する前の職歴について

本項の情報は、当該管理建築士が過去に在籍した勤務先、当該勤務先への入社・退社の年月及び当該勤務先での地位に係る情報であり、その内容について、審査会で見分したところによれば、従業員としての職歴に係る情報と個人事業主としての職歴に係る情報に区分することができる。

このうち、従業員としての職歴に係る情報については、個人の通常公にされることのない過去の勤務先が明らかとなる情報として、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められ、(3)ウの要件に該当するが、個人事業主としての職歴に係る情報については、通常公にされる情報であり、法人代表者の氏名と同様、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であるとは認められず、(3)ウの要件に該当しない。

以上のことから、実施機関が本件決定において条例第9条第1号に該当するとして非公開とした情報のうち、管理建築士の「略歴書」の情報中、従業員としての職歴に係る情報については、条例第9条第1号に該当し公開してはならないが、その余の情報については、同号には該当せず、公開すべきである。

 

6 結 論

以上のとおりであるから、本件異議申立ては、本件決定のうち「業務概要書」の「建築物所在地都道府県名」、「構造及び規模」、「業務内容」、「期間」の各欄に記録されている情報及び「建築物の名称及び用途」欄に記録されている建築物の用途並びに「所属建築士名簿」の非公開部分全部及び管理建築士の「略歴書」に記録されている情報のうち、個人事業主としての職歴に係る情報の公開を求める部分については理由があり、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。

(主に調査審議を行った委員の氏名)

岡村周一、小松茂久、鈴木秀美、岩本洋子

 別表 公開すべき部分

文書名

公開すべき部分

「業務概要書」

「建築物所在地都道府県名」欄

「構造及び規模」欄

「業務内容」欄

「期間」欄

「建築物の名称及び用途」欄のうち建築物の用途に係る記載

「所属建築士名簿」

非公開部分全部

管理建築士の「略歴書」

「職歴」のうち個人事業主としての職歴に係る記載

このページの作成所属
府民文化部 府政情報室情報公開課 情報公開グループ

ここまで本文です。


ホーム > 府政運営・市町村 > 府政情報 > 大阪府の情報公開制度のご案内 > 大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第159号)