人権学習シリーズ ぶつかる力 ひきあう力 やってみました!

更新日:2016年2月9日

やってみました!
―実践例―『職場のセクシュアル・ハラスメント』
2007年12月5日 NTT西日本ハラスメント相談員のための人権研修にて実施

1.講師の立場から

『職場のセクシュアル・ハラスメント』の教材の作成・研修を行って

大西 英雄

 私は企業の人権推進部に所属をしています。主な業務は社内における人権研修の教材の作成、その教材を使っての管理職向けの研修や職場内人権研修の講師を行うことです。また、セクハラやパワハラの相談窓口も担当しています。
 私が今まで行ってきた社内での人権研修のやり方は講義型であり、参加体験型の研修方法で講師を行ったことはありませんでした。参加体験型の研修方法については今までに(社)部落解放・人権研究所や(財)大阪府人権協会のファシリテーター養成講座を何回か受講していて、参加体験型の研修についての知識はありました。
 2006年度ファシリテーター養成講座を受講した関係で、参加体験型の研修教材を作成するチームに参加しませんか、と(財)大阪府人権協会から、お話をいただき、このチームメンバーと何度も話し合いを行いながら、「職場のセクシュアル・ハラスメント」の研修教材を作成しました。
 研修教材ができあがったときに、大阪同和・人権問題企業連絡会(大阪同企連)で同じグループに所属し、お互い情報交換などを行っている坂口課長(NTT西日本人権啓発室)から研修の依頼がありました。依頼内容は、対象はセクハラ相談員、テーマはセクハラとパワハラについて、講義型ではなく参加体験型で、ということでした。坂口課長の依頼は、私がパワハラについて大阪同企連加盟企業で研修を行っていることや、滋賀県人権センターの機関紙にパワハラについての取り組みを掲載したのを読まれてのことでした。講義型での経験はあるものの、参加体験型についてはファシリテーター養成講座で受講をした程度で、他社で講師まで行う自信はなく、一度はお断りしました。しかし、参加型の研修教材を作成していることなどから、最終的にお引き受けしました。なお、この研修には坂口課長の許可を得て、(財)大阪府人権協会の教材作成を担当されている方に、教材の使いやすさやプログラムの流れ、ファシリテーターの動きなど机上では確認できない部分を見ていただきました。
 12月5日、10時より12時までの2時間が私に与えられた時間です。9時30分には会場に入りました。まず約30分、研修担当の部長や課長のお話、昨日パワハラの研修を受講された課長のお話がありました。いよいよ私の出番です。受講者も緊張しているのがよく分かりますし、私も緊張しています。何しろ受講者にとってみたら大学の先生や人権関係のプロといわれた講師ではなく、他社のサラリーマンから研修をうけるのですから今から何が始まるか興味津々です。
 いよいよ参加型の研修の始まりです。テーマは、できあがったばかりの「職場のセクシュアル・ハラスメント」です。
 私の簡単な自己紹介と今日研修を行うようになった経緯について話をしたあと、プログラムの流れとアクティビティの進め方に従って始めました。
 事前に打ち合わせをして、グループ分けをしてもらっていました。今回の研修の受講者は12名なので、4人ずつの3つのグループに分かれて座っています。

【アイスブレイキング】
 会場の緊張を取るためアイスブレイキングとして、ペア・コミュニケーションを行いました。
 私が「まず、握手をしてください。同じ会社の社員同士といってもおそらく今日まで握手をしたことがなかったと思います。これからの2時間よろしくという意味を込めて握手をしてください。」と言いますと、会場に笑いが起こり少し緊張が解けました。
 握手をしたあと、教材のとおり上手に話し合ってくださいと言いました。テーマは<今日の朝ごはんのメニュー>です。
 教材では次にペアを変えて行うようになっていますが、同じペアで上手に聴き合うことを意識して、「私の好きなタレント・俳優」をテーマに話し合いを行いました。受講者の声もだんだん大きくなって話し合っているのが感じられました。
 最後に、片方が後向き会話です。私が「後ろ向きの方に話しかけてください。テーマは<私のすきなところ、あなたにお勧め一番の場所>についてです」と言いますと、受講者は一瞬戸惑いがありましたが、後ろ向きになっているペアの方の背中に話しかけます。しかし、先ほどのようには会場が沸きません。実は、狙いはそこにあったのですが。私が「話しやすかったですか? コミュニケーションをとることができましたか?」と問いかけますと、受講者から「アイコンタクトが取れないので話が進まない」とか「表情が分からないのでどの方向に話を持っていって良いかわからない」などコミュニケーションが取れないと回答がありました。
 アイスブレイキングを行うのは、一つは緊張を取るためですが、もう一つの狙いはコミュニケーションを取るということがどういうことか、次のセクハラやパワハラを考えるときに結びつけるためです。

<反省点>
● アイスブレイキングという言葉をいきなり使ったが受講者にはすぐ理解されただろうか、違う表現を使っての説明も必要ではなかったか?
● 「握手をしてください」と言ったが、「しなくても良い」という条件を付け加えた説明が必要だったかもしれない。ペアの関係で全く知らない同士に身体接触を強要するのもどうかと思った。
● 「後ろ向き会話」だけで終ってしまって不快な気持ちで終ってしまっているかも知れないので、「傾聴の時間」を入れてフォローする。

【安心な場としての約束づくり】
 次に、この研修を行う場の約束づくりをしました。プログラムの流れには入ってはいませんでしたが、受講対象者がセクハラ相談員ということでしたので、このグループ討議を通じて最後の「相談を受ける」に繋ぎたかったからです。
 グループ討議の話が聞こえてきます。「人に話した瞬間にもう秘密ではなくなるから」「ここには課長も何名か参加している」といったことが、グループの発表の時には「信頼できる場であること」や「参加者が目線をあわせ威圧的な雰囲気でなく自由にものが言える場であること」など。アイスブレイキングで体験した相手の話をよく聴く、無視しないなども出されました。
 これらの約束事は、全員が見ることができるホワイトボードに大きく書きました。その後のグループ討議や発表に役に立ち、研修後に参加者から「あの約束事を全員で決めて見えるところにあったのが良かった」との感想がありました。

【グループ討議と発表】
 ワークシートを使ってセクハラとパワハラについてグループ討議を行い、発表してもらいました。
 ワークシートに書かれた関係者の言動について、一つずつ『その言動をとった理由・気持ち』や『言動をおこなった背景・要因』についてグループで討議しました。
 あらかじめ関係者の言動について書き出しを行って、その一つについて分析の例示をしてA3用紙に拡大して受講者に配布しました。

<反省点>
● 分析をしていくという作業に慣れていない人が多く、グループでの話し合いが15分という時間では短かったのではないかと思われた。
● グループ討議の結果をA3用紙に書いて、それぞれ発表したが、他のグループの人たちにも視覚で分かるように模造紙に書くなどして、前に貼り出して発表したほうが分かりやすかったかもしれない。しかし、分析の対象となる言動が多いという問題もある。

【相談を受ける】
相談を受ける
 時間が足りなくなってきたので、準備してきたグループ討議ができず、私が説明を行い受講者の皆さんから回答を出してもらう方法になってしまった。
 私としては、アイスブレイキングと次に行った研修の場の約束事作り、そしてこのグループ討議を通じて相談業務の大事さ、相談者が相談を行って良かったと思われるものを目指したのですが、つながりが弱くなってしまいました。
 最後に、私にこの参加型研修の場を作っていただいたNTT西日本の坂口課長をはじめ12名の受講者のみなさまに感謝をすると同時に、良くわかる研修教材であったか、またファシリテーターとして受講者のみなさまの目指すゴールへ到達するお手伝いができたなら嬉しい限りです。ありがとうございました。

研修時のタイムスケジュール

予定研修時間:120分
実際の研修時間:120分

アクティビティ予定時間実際の時間
アイスブレイキング
1 今日の朝ごはん
2 私の好きなタレント
3 後ろ向き
4 振り返り、その他
15分
2分×2 4分
2分×2 4分
2分×2 4分
3分
17分
2分×2 4分
2分×2 4分
2分×2 4分
5分
場づくり、約束事
5分
7分
職場の上司からのセクハラを考える
1  グループ討議
2 グループ討議発表
3 振り返り、その他  
30分
15分
12分
3分
35分
15分
15分
5分
休憩
10分
8分

職場のパワハラを考える
1 グループ討議
2 グループ討議発表  
3 振り返り、その他

30分
15分
12分
3分
40分
15分
20分
5分
相談を受ける
1 グループ討議
2 グループ討議発表
3 振り返り、その他
25分
15分
7分
3分
10分
講師からの説明と受講者からの回答引き出し
※ 残り時間が少なかったためグループ発表をグループからの意見の引き出しにかえた
全体の振り返り
5分
3分

  

2.研修主催者の立場から

「ハラスメント相談員のための人権研修」を実施して

NTT西日本人事部人権啓発室
担当課長 坂 口 一 嗣

 この度、当社事業部より、「セクハラ相談員研修」の依頼を受け、当社でも毎年増加傾向にある「パワー・ハラスメント」も含め、窓口担当者としてのスキルのさらなる醸成を図る必要性から、「参加型」研修を実施することとし、その講師については、大阪同企連で同じグループの大西さんにお願いしました。
 当社の「セクハラ相談窓口担当者」と言いつつも、「今回が初めての研修」という人や、また「部外講師による研修」ということで、一般的な? 人権研修と同じように、張り詰めた硬い雰囲気の中で始まりました。
 ところが、講師である大西さんの明るい表情とやわらかい口調による「アイスブレーキング」で、参加者の雰囲気は一転しました。2人1組による「握手」から始まり、テーマに沿った「話し合い」、「相手の背中を見ながらの会話」、「ヒアリング(傾聴)」と、担当者間のコミュニケーションが進むにつれ、笑い声に包まれていきます。
 そして、本題であるセクハラとパワハラのワークショップは、実例に基づく事案を、分析表を用いてグループで考察し、その結果を発表するものでした。
 特に、この分析表を用いての考察は、被害者、加害者ともどもが「何故そのような行動をとったのか?」「その時、どのような気持ちだったのか?」を踏まえ、行動の背景とその要因を考えるものであり、そのようなハラスメントが起こる企業風土や職場の雰囲気にまで踏み込んで考えるものでした。
 多分、全受講者が今まで経験したことがないプログラムであり、傍聴していた我々も、研修生の「目からうろこ」が見て取れました。
 研修後のアンケートでも、全ての受講者が「有意義であった」と答えており、事務局にとっても今後の研修方法の参考になる、非常に有意義な研修でした。
 ここに、受講者の一人の感想文を添付します。

ハラスメント相談員のための人権研修を受けて
 今回、ハラスメント相談員の研修を受けてみて、まず、相手の立場に立って話を聞くことの重要性を感じました。
 相談されるのは被害者の方なので、とかく私たちは被害者に肩入れしてしまいがちになります。特にセクハラの場合だと、私と同じ女性の方が被害を受けたということで、より女性の味方になってしまいます。
 よって、加害者に対しては、意識的にも無意識的にも先入観を持った形で接してしまうことになります。ですが、双方から話をよく聞かないと、例えば被害者からの話だけを一方的に聞いて、それを鵜呑みにしてしまうことは一番危険なことになります。
 私は大阪支店内のセクハラ相談員も担当しているため、月に一度、支店内の各ビルを回って、社員や人材派遣の方々からハラスメントの現状ヒアリングを実施しています。そのときによくある相談者のパターンは、「自分は被害者で圧倒的に加害者が悪く」「とてもひどい状況である」ということを、時には感情的になりながら、話をされます。その話を初めて聞いた人は、「なんてひどい話だ」と、感じることと思います。私自身も当初は、「なんてひどい現状なんだ」と単純に思っていましたが、経験を重ねるうちに「被害者はとかく思い込みや感情的になって話をすることが多い」ので、双方から話を聞かないと本当の事情はよくわからないということがだんだんとわかってきました。
 今回の研修では、2つのワークシートによる分析については、それぞれの言動から加害者と被害者の両者の行動背景や要因、その行動をとった理由や気持ちを分析するという手法に則っていて、とても参考になりました。被害者だけの意見や気持ちを聞くだけでなく、加害者にも加害者なりの理由やその言動にいたった背景があるので、それにも目を向けなければいけないということを学びました。
 これまでに、このような本格的な研修を受けたことがなかったので、大いに参考になりました。今後は、この研修を通じて学んだことをヒアリング時や相談時に活かしながら、両者の立場に立って話を聞くようにしたいと思います。


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このページの作成所属
府民文化部 人権局人権企画課 教育・啓発グループ

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