人権学習シリーズ ぶつかる力 ひきあう力 障がい者とともに

更新日:2016年2月9日

障がい者とともに

ねらい

 人権を考えるとき、「差別をしなければ良いのでしょう」という意見があります。ただ差別をしないといっても、何が差別かを知らねばなりません。そこには、人権に関しての知識が必要だと思われます。そこでまず、人権に関する知識について、クイズ形式で質問していきます。
 次に、身体障がい者、知的障がい者及び精神障がい者(以下、「障がい者」という)の雇用について考えてみたいと思います。障がい者の雇用はなかなか進んでいません。なぜ、法律で行政機関や民間企業に対する雇用率を決めなければならないのでしょうか。ここでは障がい者とともに働くということを、対立の観点から考えてみたいと思います。
 また、地域に障がい者施設が設置される話が出ると、反対運動が起こることも少なくありません。職場で障がい者と一緒に働く機会があるのになぜでしょうか。
 障がいのある人とない人というふうに対立して考えるのではなく、誰もが暮らしやすい社会をつくっていくことを考えます。

プログラムの流れ

●知っていますか?
 人権について、知っているようで意外に知らないものです。人権について16の質問を用意しました。ワークシートの質問に答えられる人を、参加者の中から探します。
 ○アクティビティ:知っていますか? 人権のこと

●職場で障がい者とともに働く
 民間企業では、障害者法定雇用率である1.8%を割り込んでいる企業がほとんどです。一方で、雇用率が7.42%と、大企業の中で最高水準の企業もあります。障がい者を雇用する、ともに働くということについて、対立の観点から話し合います。
 ○アクティビティ:積極的な障がい者雇用

●施設コンフリクトについて考える
 もし、あなたの住む町に障がい者施設ができることになったら、あなたはそのことをどう受け止めますか?
 障がい者施設がまちにできることについて、マイナスと考えるのではなく、施設があることによって生まれる新しい可能性などプラスの視点について話し合います。
 ○アクティビティ:障がい者施設の反対運動を考える


〔準備するもの〕
 ワークシート「!!じんけん・ビンゴ!! 」(参加人数分)
 プリント「じんけん・ビンゴ!<解答編>」 (参加人数分)
 プリント「障害者の積極的雇用の実例」(グループ数)
 プリント「コラム 施設コンフリクト」(グループ数)
 A3の紙(グループ数)
 模造紙(グループ数)
 サインペンとマーカー(グループ数)
 ホワイトボードと専用ペン(黒板も可)

アクティビティの進め方

●知っていますか? 人権のこと
 ウォーミングアップをかねて、人権についてビンゴゲーム形式のクイズで考えてみましょう。
 ▶参加者に ワークシート「!!じんけん・ビンゴ!! 」を配る
1.  このビンゴは、自分で答えを考えて記入するのではありません。質問に答えられる人を、参加者の中から探してください。答えるのは1人1回1問ずつです。
  いろんな人に話しかけて、答えてもらい、マスをうめていきましょう。
  タテ・ヨコ・ナナメにうまったマスが2列できたら“ビンゴ!”です。前に持ってきてください。
 ▶時間に応じて、1列でビンゴにしてもかまわない
  正解があるマスについては、あっているかどうかは、ファシリテーターがチェックします。では、はじめてください。
 ▶ 正解が難しいようであれば、マスがうまっているだけでもOKにしてもかまわない。5人程度、ビンゴの人が出るまで続ける。できれば、先着何名かに景品を用意する。手に入れば、授産施設や作業所で販売している絵葉書や小物などがよいでしょう

2.  では、みなさん席に戻ってください。どのくらいマスがうまったでしょうか? たくさんうめられた人は、それだけいろんな人に協力してもらった、ということですね。
  具体的に、答えについてもきいてみましょう。○の項目のマスがうまった人はいますか? どなたにうめてもらったのでしょう? 差し支えなければ、どんな経験か話していただけますか。
 ▶ 正解がないタイプの項目を挙げる。C、D、J、K、Pなど。
  みなさんの方から、ききたい項目はありますか? 
 ▶ 適宜、解答編を配布しながら、質問がでた項目について簡単な解説をする。正解を書いた人がいれば、その人に発言してもらうとよい
  全部を解説することはできませんが、関心をもたれたら、ぜひ詳しいことを調べてみてください。

●積極的な障がい者雇用
 つぎに、障がい者とともに働く、ということについて考えてみます。
 ▶ 5〜6人1組のグループをつくる
1.  障がい者を雇用する、ともに働く、というと、どのようなイメージがあるでしょうか?
 ▶ 来週から、新しいスタッフがこの職場に配属されます。その方は障がい者ですといわれたら、あなたはどのようなことを考えたり、同僚と話したりするでしょうか? グループで話し合って、出てきたコメントを配った紙にメモしてください。
 ▶ A3の紙とサインペンを配る

2.  どのようなコメントが出たか、発表してください。

3.  さきほどのビンゴにもあったように、一般の民間企業であれば56人以上の職場では1人以上(1.8%に相当する数)の障がい者の雇用が法律で定められています。参加者の中に、障がい者とともに働いた経験のある人はどのくらいいるでしょうか。実際に、積極的な障がい者雇用をおこなっている企業について紹介した文章を配布します。
 ▶ プリント「障がい者の積極的雇用の実例」を配る
 資料を読んで、どのように思われましたか。先ほど、グループで話しあっていただいたことと照らし合わせて、いかがでしょうか。気づいたこと・発見したことなどをグループで話し合ってください。
 ▶ グループからどのような話し合いをしたかを発表してもらう
  だれでも、経験のないこと、知らないことに対して身構えてしまうことはあります。どちらかというと、不安や懸念ばかりが出てきてしまうこともあるでしょう。けれど、実際に出会ってみることでイメージが変わることも多いものです。
 気をつけたいのは、身構えて、出会うこと自体を遠ざけてしまったり、不安や懸念が「あたっている」と感じるような事例ばかりをみて、想像を現実のように思い込んでしまったりすることです。
 だからこそ、実際に出会うことや、いろんな事例を知ってどうしたらうまくいくのかを(うまくいかなかった事例からは反省点を)学ぶことが大切なのではないでしょうか。

●障がい者施設の反対運動を考える

 こんどは、地域での事例を考えてみましょう。
 「施設コンフリクト」という言葉をご存知でしょうか。社会福祉施設などの建設が計画されると、近隣住民の反対などが起こり、摩擦が生じることをいいます。「施設をつくろう」とする側と、「自分のまちにつくってほしくない」とする側の“対立”です。
 社会福祉施設が必要なことについては、だれもが分かっているはずです。なのになぜ反対するのでしょうか。出会うこと自体を避け、想像上の不安や懸念にとらわれていないでしょうか。
 ここでは、大阪府内で、実際にあった精神障がい者施設の建設の例を参考にして、「つくりたい側」と「つくってほしくない側」という対立の図式をこえて、わたしたち社会全体の課題として考えてみます。

 ※ 施設コンフリクトとは
   コンフリクト<conflict>英語で衝突、対立という意味
   社会福祉施設等を建設するときに、地域で反対運動がおこり、施設づくりがすすまないことがあります。これを施設コンフリクトといいます。

1.  まず、はじめに「精神障がい者施設の建設に反対することで生じるわたしたちの社会の不利益」について、連想図をかいてみましょう。建設をめぐる対立のために、いつまでも施設ができないとしたら、どんなことがおこるでしょうか。思い浮かぶことをどんどん展開して書いてみてください。
 ▶ 模造紙とマーカーを配る。「連想図」については、9頁の「対立についての連想図」の説明を参照

2.  どのような展開になったでしょうか。グループで話し合ったことを発表してください。
 ▶ グループから話し合いの内容を発表してもらう

3.  ここである事例を紹介します。
 ▶ プリント「コラム 施設コンフリクト」を配る
 この資料を読んで、精神障がい者とともに生きるために何を知る・する必要があるかについて話し合ってください。さらに、先ほどは「施設建設に反対することの不利益」と考えましたが、逆に、「施設があることでうまれる新しい可能性」にはどのようなものがあるかも考えてみましょう。

ファシリテーターのために

 じんけん・ビンゴはどうでしたか。人権について再認識したのではないでしょうか。解説もよく読んでいただけたらと思います。

 障がい者雇用について、このように障がい者と一緒に働くことがプラスになるということが広く知られると、もっともっと各企業が障がい者の採用を進めていくのではないでしょうか。あなたの働いている職場はどうですか。

 施設コンフリクトは、聞きなれない言葉ですが残念ながら多くの町で起きている身近な問題なのです。「障がい者」について私たちはあまりにも知らないことが多いのではないでしょうか。単に知らないだけではなく、とくに精神障がい者をめぐっては、社会的にネガティブに解釈されやすい情報も多く、根強い偏見があるのが現実です。そのことが、精神障がい者施設等への反対運動、つまり施設コンフリクトが起る背景となっています。
 「知る」ということはとても大切なことです。不安や懸念を解消し、偏見に立ち向かう力となるでしょう。とはいえ、あらゆる人権課題について知ることは困難です。では、知らないことに出会ったときにどうしたらよいのでしょうか。否定的なことばかりを知らされているときにはどうしたらよいのでしょうか。
 確認しておきたいのは、排除や否定は暴力である、ということです。誰かを排除したり否定したりすることは、その相手を傷つけるだけでなく、暴力を容認する社会をつくることに他ならないのです。
 人権課題について「知らない」ことよりも、排除が暴力につながるということを「知らない」ことの方が大きな問題なのではないでしょうか。
 この学習を、障がい者とともに働き、そして暮らすということを自分の身近な問題として考えるきっかけにしていただきたいと思います。

コラム

精神障がい者の犯罪とマスコミ報道について

 事件がおこり、逮捕された人が精神(科)病院に入院したり通院したことがあったと警察が発表したとき、マスコミは「精神(科)病院に入・通院歴あり」との報道をします。
 この報道は「精神障がい者が犯罪を行った」ということ以外、なにも語ってはいません。症状と犯罪とが関係があったのか。差別的な状況のなかで精神障がい者がおいつめられた結果起った犯罪なのか。これらは、十分な調査を行ったのちに初めて明らかになることがらです。
 十分な調査が行われない中でなされるこれらの報道は、「精神障がい者は何をするかわからない」という差別的な意識を多くの人びとがもっていることを考えるとき、世間の人びとに「ああ、精神障がい者の犯罪か。やはり精神障がい者は何をするかわからない」と納得させると同時に、そういった偏見をさらに助長させる効果をもっています。

出典:
*『知っていますか?精神障害者問題一問一答』
 「知っていますか?精神障害者問題一問一答」編集委員会編、解放出版社、1992年

 

ワークシート

下の質問に答えられる人を、参加者の中から探してください。
みつかったら、その人の名前と答えを下のマスに記入してください。
(答えが合っているかどうかは、こちらでチェックします)
タテ・ヨコ・ナナメにマスがうまった列が(  )つできたら、
“ビンゴ!”です。前へ持ってきてください。先着順に景品があります!

ビンゴ

A 日本の人口のうち、障がい者の割合がどのくらいか知っている人。何人に1人?
B 障がい者雇用について、国や地方公共団体の法定雇用率を知っている人。何%?
C 障がい者の介助やサポートをしたことがある人。どんなことをした?
D 悩みごとで一晩中眠れなかった経験のある人。これまでの人生で何回くらい?
E 障がい者や高齢者が交通機関を使いやすくするための工夫・設備を言える人。何?
F 「障害者権利条約」がいつ国連で採択されたか知っている人。何年?
G 障がいの有無にかかわらず、子どもたちがともに学ぶ教育を何というか知っている人。何という?
H 「障害者手帳」の種類は全部で3つ。そのうちの1つでも言える人。何?
I 「弱さを絆に」「安心してサボれる職場づくり」「昇る人生から降りる人生へ」などの理念をもつ、北海道にある、精神障がい等の当事者の地域活動拠点の名前を知っている人。「○○○の家」?
J 授産施設や作業所でつくられたものを購入したことのある人。何を買った?
K 手話であいさつか、自己紹介ができる人。いつ覚えた?
L 日本の人口全体で、犯罪を犯す人は0.25%。では精神障がい者の場合は何%か知っている人?何%?
M 障がい者の生活をささえる補助犬の具体的な種類をいえる人。○○犬?
N バリアフリーをさらにすすめた誰にでも使いやすい製品や街づくりを何というか知っている人。何?
O 2006年に制定された「障害のある人もない人もともに暮らしやすい○○○づくり条例」。○○○に入る県名を知っている人。何県?
P 骨折したことがある人。そのとき、いちばん困ったことは?


じんけん・ビンゴ!<解答用紙>


名前
何人にひとり?

名前
何%?

名前
どんなことをした?

名前
何回くらい?

名前
何?

名前
何年?

名前
何という?

名前
何?


名前
○○の家?

名前
何を買った?

名前
いつ覚えた?

名前
何%?

名前
○○犬?

名前
何?

名前
何県?

名前
困ったことは?



ワークシート「!!じんけん・ビンゴ!!」 / [PDFファイル/451KB]

 

プリント

じんけん・ビンゴ!≪解答編≫

A 日本の人口のうち、障がい者の割合がどのくらいか知っている人。何人に1人?
B 障がい者雇用について、国や地方公共団体の法定雇用率を知っている人。何%?
C 障がい者の介助やサポートをしたことがある人。どんなことをした?
D 悩みごとで一晩中眠れなかった経験のある人。これまでの人生で何回くらい?
E 障がい者や高齢者が交通機関を使いやすくするための工夫・設備を言える人。何?
F 「 障害者権利条約」がいつ国連で採択されたか知っている人。何年?
G 障がいの有無にかかわらず、子どもたちがともに学ぶ教育を何というか知っている人。何という?
H 「 障害者手帳」の種類は全部で3つ。そのうちの1つでも言える人。何?
I 「 弱さを絆に「」安心してサボれる職場づくり「」昇る人生から降りる人生へ」などの理念をもつ、北海道にある、精神障がい等の当事者の地域活動拠点の名前を知っている人。「○○○の家」?
J 授産施設や作業所でつくられたものを購入したことのある人。何を買った?
K 手話であいさつか、自己紹介ができる人。いつ覚えた?
L 日本の人口全体で、犯罪を犯す人は0.25%。では精神障がい者の場合は何%か知っている人?何%?
M 障がい者の生活をささえる補助犬の具体的な種類をいえる人。○○犬?
N バリアフリーをさらにすすめた誰にでも使いやすい製品や街づくりを何というか知っている人。何?
O 2006年に制定された「障害のある人もない人もともに暮らしやすい○○○づくり条例」。○○○に入る県名を知っている人。何県?
P 骨折したことがある人。そのとき、いちばん困ったことは?


18人にひとり
身体障がい者351.6万人、
知的障がい者54.7万人、
精神障がい者302.8万人。※注

 B
2.1% 
「障害者の雇用の促進等に関する法律」に規定。一般の民間企業(56人以上の規模)の場合は、1.8%。
C
車椅子を押す、視覚障がいの人に道案内する、聴覚障がいの人に音声情報をメモで伝える、など、できることはいろいろ。
D
不眠などの心身の不調は精神的な疾患のサインの場合も。早めに休んだり、相談したりしましょう。
E
駅のエレベーター、展示ブロック、バスのリフトなど 
こうした設備を整えることを交通アクセス権の保障といいます。
F
2006年
障害を理由とした不利益な取り扱いや、環境整備などの合理的な配慮をしないことは、差別にあたると定義。
G
インクルージョン教育
 それぞれの子どものもつ多様性を尊重し、ニーズに応じた教育をめざすあり方です。
H
身体障害者手帳、療育手帳(知的障害)、精神障害者保健福祉手帳 福祉サービスを受ける際などに提示します。
I
べてるの家
統合失調症などの回復者の活動からはじまり、先進的かつユニークな取り組みで注目されています。
J
パンやクッキーなど食料品の製造や、印刷物の作成、手工芸品の製造販売など、いろんな活動があります。
K
英語であいさつや自己紹介ができるなら、手話でもできるようになりたいものです。
L
0.1%(2001年) 
高い割合をイメージしている人が多いかもしれませんが、
実際は再犯率も一般犯罪者の4分の1程度にとどまり、精神障がい者が犯罪を犯しやすいという合理的な根拠はありません。

盲導犬、介助犬、聴導犬の3種類。
公共機関や交通機関、スーパーや飲食店などでの同伴拒否は禁じられています。
N
ユニバーサルデザイン 
能力や障がいの有無にかかわらず、すべての人に利用しやすい環境設計や製品デザインのこと。
O
千葉県
何が差別であるかを明記し、第三者を交えた話し合いによる解決を基本とした仕組みを定めた国内初の条例です。
P
怪我などの経験で、障がい者の日常が「分かる」とはいえなくても、少し想像してみることができるかも。

※注 それぞれ2000(平成12)年、2001(平成13)年、2004(平成14)年、2005(平成17)年度の調査に基づく数字


プリント「じんけん・ビンゴ!≪解答編≫」 ・ プリント「障がい者の積極的雇用の実例」 / [PDFファイル/454KB]

プリント


障がい者の積極的雇用の実例

 障害者雇用促進法に定められた、一般の民間企業の法定雇用率は1.8%です。
2006年(平成18年)6月1日現在、5,000人以上の規模の企業における平均雇用率は1.79%で、雇用率の上位5企業は次のとおりです。
 1位 株式会社ユニクロ(7.42%)
 2位 日本マクドナルド株式会社(2.94%)
 3位 株式会社しまむら(2.83%)
 4位 株式会社すかいらーく(2.82%)
 5位 パナソニックエレクトロニックデバイス株式会社(2.79%)
 (資料:厚生労働省職業安定局高齢・障害者雇用対策部 平成19年4月26日 雇用・生活調査会提出資料)
 
 一般的に「障がい者を雇用すると生産性が下がる」、「コストが増大する」と考えられがちですが、2位以下を圧倒的に引き離して雇用率1位となったユニクロの考え方は違っています。柳井正社長は「ウチもきれいごとを言う気はない。障がい者を雇うのはその方が顧客サービスが向上するからだ」と語っています。
 ユニクロといえば、徹底したコストの切り下げや能力主義の活用で成長している企業として知られていますが、障がいを持つスタッフのいる店舗でサービスの質の向上が見られ集客力が高まったことから、1店舗1名以上の障がい者の採用を目標に取組みが始まり、現在では8割の店舗で1人以上の障がい者が働いているそうです。
 「障がいを持つスタッフがいることのプラス面は、弱点を補い得意な点を伸ばそうとすることによりチームワークが向上し、店舗全体の雰囲気も良くなり、結果的に顧客サービスの質が向上していくことです。」と採用担当者の言葉にあるとおり、店舗サイドと障害を持つスタッフの双方にアンケートをした結果でも、それぞれ7割以上の割合で肯定的な回答があったということです。障がい者雇用を「やらせられている」と感じている店舗はほとんどなく、障がいのあるスタッフも働く意欲と社会参加を実感しているケースが多いようです。
 日ごろ意識していなかったことに気づいて自然と相手の立場に立とうとすることから、他者に配慮する気持ちが育ちます。他者への配慮というのは「相手に障がいがあろうとなかろうと必要なことで、配慮のポイントが異なるだけのことではないでしょうか。」とも述べられています。
 この教材のテーマは、対立を平和的に解決する方法を学んでいくことです。まさにこの事例は、障がい者とともに働くことと企業としての収益を「対立」ととらえずに、視点を変えることで解決した方法と言えます。

コラム

施設コンフリクト

精神障がい者社会復帰施設「ふれあいの里」の場合

 大阪市は、1996年に西成区で自立にむけた仕事の訓練をする場である授産施設、地域で生活していくための訓練をする生活訓練施設(援護寮)、総合的な支援や憩いの場としての地域生活支援センターからなる総合的な社会復帰施設「ふれあいの里」の設立を決定した。
 しかし設立にあたり開かれた住民説明会後、すぐ地域住民による反対運動が起こった。5000人以上の反対署名が集められ、約300本の電柱には反対ビラが貼られた。また、「このような施設が街にくると、私たちの子どもに重大な影響を与えるのは必至」といった内容の回覧文が回されるなど、激しい反対運動となった。
 これに対し大阪市は、1997年に市職員が反対をしている人たちへ戸別訪問をし、説得を行った。こういった取り組みから、地域の人たちのさまざまな感情が浮かび上がった。反対をしている人たちのほとんどが、直接精神障がい者や家族から話を聞いたことがなく、精神病についても詳しく知らず、偏見や差別意識から反対しているということが明らかになった。
 反対運動に対し、住民との話し合いの場、戸別訪問での説得といった行政の動きだけでなく、運営側は当事者の声を聴き交流する場として、1997年に生活支援の集いを開催。市民啓発ビデオ制作など、障がい者の生活や思いを「障がい者自身の声」として伝える取り組みが行われてきた。また、着工のめどがついた後に地域住民から出された運営上の条件提示に対し、「理解してもらおう」という受け身の姿勢ではなく、「偏見に基づいたものなら受け入れられない。お互いが安心して暮らすための情報交換・情報開示をやっていきましょう」との意志を明確にし、運営側は提案した。その結果、各地区代表や小・中学校のPTA会長、運営側がメンバーとなり「ふれあいの里」地域連絡協議会がオープン直前に発足した。
 こういった行政の取組み、運営側の差別を許さないという意志を明確にしつつ、反対側の地域代表という立場も尊重し対話を重ねていく取組み、そして、当事者たちの声を伝えていくことの積み重ねから、当初の開設させないための強固な意思表示の場から、開設を前提に必要な施設情報の共有へ、精神障がいを理解するための勉強会へと反対一色だった雰囲気が少しずつ変わっていった。
 2001年の開所後は施設周辺でイベントが開催され、当時反対運動をしていた人たちも孫を連れてその施設を訪れている。また地域の中から、「施設の見学やイベントなど、一緒にやれるものを考えてください」という人も出てきている。他にも地域の中学生が施設見学や交流を行う、地域住民と当事者が近くの公園の花壇作りを共同作業するなど、人と人とのつながりは広がりをみせている。

*障がい者の自立を進めるための基礎となる施設をつくるときに、施設コンフリクトが生じることで整備が進まないことは、障がい者の自立と社会参加を阻む重大な問題です。
 住み慣れた地域の中で、障がいのある人が市民としてともに暮らすという考え方は、施設を作ろうとするときに最も大切なことなのです。


コラム「施設コンフリクト」 / [PDFファイル/279KB]






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このページの作成所属
府民文化部 人権局人権企画課 教育・啓発グループ

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