大阪府人権施策推進審議会答申(平成13年1月22日)
大阪府人権尊重の社会づくり条例に基づく基本方針について(答申)
(平成13年1月22日 大阪府人権施策推進審議会)
■目 次
はじめに
1 大阪府における人権をめぐる状況
(1) 国内外の人権尊重の潮流
(2) 大阪府におけるこれまでの取り組み
(3) 取り組むべき主要課題
(4) 府民の人権施策に対する期待
2 基本理念
3 人権施策の基本方向
(1) 人権意識の高揚を図るための施策
〔視点〕
〔施策の方向〕
〔1〕 人権教育の推進
〔2〕 人権教育に取り組む指導者の養成
〔3〕 府民の主体的な人権教育に関する活動の促進
〔4〕 人権教育に関する情報収集・提供機能の充実
(2) 人権擁護に資する施策
〔視点〕
〔施策の方向〕
〔1〕 府民の主体的な判断・自己実現の支援
〔2〕 人権にかかわる総合的な相談窓口の整備
〔3〕 人権救済・保護システムの充実
4 具体化に向けて
(1) 具体化に向けての基本姿勢
(2) 推進体制の整備
はじめに
大阪府では「大阪府人権尊重の社会づくり条例」を1998年(平成10年)11月から施行した。
この条例は、大阪府における今後の人権施策の枠組みをつくり上げることにより、すべての人の人権が尊重され
る社会の実現をめざすものである。
本審議会は、1999(平成11)年5月にこの条例に基づき、人権施策を総合的に推進するために必要な事項を定
めた基本方針について、知事から諮問を受けた。
そして、第一に人権尊重の社会づくりに関する基本 理念をどう考えるか、第二に人権意識の高揚を 図るための
施策、すなわち人権啓発施策の総合的かつ効果的な推進のあり方、第三に人権擁護に資する施策、すなわち
人 権問題に関する相談・情報提供等に関する施策の総合的かつ効果的な推進のあり方、第四に人権施策推進のた
めの体制の整備 を主な論点として、1年8か月にわたって調査審議を進めてきた。
本答申では、すべての行政分野において踏まえるべき人権尊重の基本理念及び条例に基づく人権施策の基本
方向を示すものである。
なお、「大阪府人権尊重の社会づくり条例」の成立に当たっては、1998(平成10)年9月大阪府議会において、
原案に一部修正がなされるとともに、本条例により過剰な財政負担が生じないようにすることや市町村、事業者
、府民との連携に当たっては、その自主性を損なわないようにすること等の4項目の附帯決議が付されたところ
であり、本答申のとりまとめに当たっても、こうした経過、趣旨を慎重に考慮した。
大阪府においては、本答申に基づき、すべての人の人権、すなわち、人間の尊厳に基づく固有の権利が尊重され
る社会の実現に向けた基本方針を策定し、一層の取り組みを推進されるよう期待する。
1 大阪府における人権をめぐる状況
(1) 国内外の人権尊重の潮流
国際連合において、1948(昭和23)年に採択された世界人権宣言には、「すべての人間は生まれながらにして自
由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心とを授けられて おり、互いに同胞の精神を
もって行動しなければならない。」とうたわれている。
その後、国際連合では、この基本的精神を具体化する国際人権規約(注1)や、「あらゆる形態の人種差別の撤廃
に関する国際条約」、「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」、「児童の権利に関する条約」
などを通じて、国家の枠組みを越えた国際的な人権保障の確立に努めてきた。
それを一層促進させるものとして1994(平成6)年には、第49回国連総会において、1995(平成7)年から20
04(平成16)年までを「人権教育のための国連10年」とする決議を採択し、総会の要請に基づいて、国連事務総
長が「人権教育のための国連10年行動計画」を報告したところである。
わが国においては、「基本的人権の尊重」を基本理念に掲げた日本国憲法が制定されるとともに、国際人権規約を
はじめ、前記の人権関連条約が次々と批准されてきた。また、「人権教育のための国連10年」の国連決議を受け
、国、地方自治体においても人権保障のための積極的な取り組みが進められている。
さらに、1997(平成9)年に施行された「人権擁護施策推進法」に基づき、人権擁護推進審議会が設置され、人
権擁護施策のあり方についての議論が進められている。
1999(平成11)年7月には、「人権尊重の理念に関する国民相互の理解を深めるための教育及び啓発に関する
施策の総合的な推進に関する基本的事項について」と題する答申が出され、国、地方公共団体等が取り組むべき
施策の方向性が示されるとともに、2000(平成12)年12月には、「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律
」が施行された。
(2) 大阪府におけるこれまでの取り組み
大阪は、古くから内外との交流を通じ、歴史と文化を育み、懐の深い、開かれた都市として繁栄してきた。同時に
、同和問題・在日外国人問題をはじめとするさまざまな人権問題に対する府民の活発な取り組みが展開され、大
阪府においても、大阪府同和行政基本方針や大阪府同和行政推進プランを策定し、同和問題の解決に取り組む
など、人権問題を重要な行政課題と位置づけ、他の自治体に先駆けて取り組んできた。
とりわけ、人権意識の高揚については、同和問題の解決へ向けた啓発活動をはじめとして、さまざまな分野で差別
意識の解消や府民一人ひとりの人権意識の高揚をめざした啓発に取り組んできた。現在では、「人権教育のため
の国連10年大阪府行動計画」を策定し、「人権という普遍的文化(注2)」を構築するという目標を掲げ、府民が人権
問題について深く理解し、人権尊重の精神を身につけて、日常生活や職場等で実践できるよう、人権教育の推進に
努めている。
また、1998(平成10)年に「人権施策の総合的な企画調整及び人権教育・啓発を推進する」ことを目的に、企画
調整部に「人権室」を創設するとともに、全部局に同室の兼務職員を置き、全庁あげて人権問題に取り組む体制を
整備した。
同年10月には、すべての人の人権が尊重される社会の実現をめざして、「大阪府人権尊重の社会づくり条例」を
制定した。さらに、これらの動きと並行して、人権室を中心とした横断的な庁内推進体制のもとに、同和問題、女性
、障害者、高齢者、子ども、外国人など、個々の課題については、それぞれの関係部局において施策推進に努め
ている(注3)。
こうした同和問題をはじめとする人権問題の解決に向けたこれまでの取り組みの理念と成果を、今後の人権施策の
推進に役立てる必要がある。
(3) 取り組むべき主要課題
以上のように、大阪府においては、人権問題に対するさまざまな取り組みを行ってきたが、依然として、人権が侵害
される事例も多く生じており、その態様は私人間で発生する人権侵害のほか公権力やマスメディアによるものもあ
る。このような中で、取り組むべき主要な課題としては以下のようなものがある。
同和問題については、依然として、教育や就労の面をはじめとした課題が残されており、また、結婚問題を中心と
した差別意識が根強く残るなどの状況にある。さらに、2000(平成12)年に総合的な実態調査が実施され、現在
分析が進められており、その結果を踏まえる必要がある。また、近年においても、調査業者が「大阪府部落差別事
象に係る調査等の規制等に関する条例」に違反し、部落差別調査を行っていたことが明らかになっている(注4)
。
女性に関する課題としては、社会制度や慣行の中には、固定的な性別役割分担や女性に対する差別が再生産さ
れる仕組みが今なお存在し、就労における差別や、夫・恋人からの暴力をはじめとする女性に対する暴力なども
存在している。
障害者に関する課題としては、施設や病院等における不当な処遇など人権侵害にかかわる事例の発生のほか、
障害及び障害者に対する理解と認識の不足から、就労における差別や入居拒否などの問題が依然として存在し
ている。
また、社会福祉施設等の設置に際し、いわゆる施設コンフリクト(注5)が発生するなどの問題も存在する。
高齢者に関する課題としては、高齢化が急速に進む中、一人暮らしの高齢者や痴呆性高齢者、障害や疾病を有す
る高齢者を中心に、日常生活において財産や金銭を詐取されたり、暴力やいじめにあうといった問題がある。
子どもに関する課題としては、学校での教師による体罰や生徒間での言葉や暴力による「いじめ」問題が依然、深
刻な状況にある。また、不登校の生徒数はここ数年、著しく増加している。家庭における児童虐待の深刻化や施設
における児童虐待の存在などの問題もあり、虐待による子どもの死亡事例も少なくない。
また、さまざまな要因から非行に走る子どもたちも一向に減少しない。
外国人に関する課題としては、国際化が急速に進む一方で、言語、習慣、価値観等の相互理解が不十分であるこ
となどから、就労における差別や入居差別などの問題がある。本府には、歴史的経緯から韓国・朝鮮人が多く居
住しているが、在日韓国・朝鮮人の中には、差別を回避するために、その意に反して、本名ではなく日本名(通名
)で生活せざるをえない人もいるといった問題も存在している。
HIV感染者等に関する課題としては、HIV(注6)は感染力が弱く、感染経路も限られていることから、正しい予防知識
を身につけていれば日常生活で感染することはないにもかかわらず、依然として偏見や差別が存在している。
犯罪被害者やその家族は、犯罪行為によって受ける直接的な被害だけでなく、その後の捜査や裁判の過程での精
神的負担や時間的・経済的負担、さらには、マスコミの取材・報道によるプライバシー侵害など、いわゆる二次被害
を受けており、犯罪被害者の人権をめぐる問題も社会問題化している。
労働に関する課題については、就労におけるさまざまな差別、職業や就労形態による差別のほか、職場における
セクシュアル・ハラスメントなどの問題がある。
情報化社会の進展が、私たちの生活に多くの利便と豊かさをもたらす一方で、さまざまな問題も発生している。
まず、個人情報をめぐる課題としては、情報管理上の不備等から個人情報の大量流出も深刻化するとともに、イ
ンターネット上で特定個人を誹謗中傷するといった名誉毀損や私生活に関する事柄を暴露されるといったプライバ
シー侵害にかかわる問題が発生している。
また、同和地区住民や外国人等に対するインターネットを悪用した差別表現の流布などといった新たな問題も発生
している。
その他にも、野宿生活者、性的マイノリティとされる人々(注7)、アイヌの人々、刑期を終えて出所した人などにかか
わるさまざまな人権問題が存在する。また、遺伝子工学の急激な進展に伴う新たな人権問題の発生も懸念される
。
(4) 府民の人権施策に対する期待
大阪府において、人権施策を総合的に推進するに当たって、人権問題の現状を把握するため、主要な課題ごとに
、関係する団体からヒアリング(注8)を行ったところ、さまざまな意見を得た。特に、複数の団体から主張のあった意
見は以下のとおりであった。
まず、施策を推進するに当たって人権問題の現状を踏まえること、次に、差別を受けている人々や人権が侵害さ
れている当事者を救済するための適切な施策を行うこと、それぞれの団体が行っている人権意識の高揚や人権擁
護にかかわる活動に対し支援を行うこと、などである。
また、人権問題の当事者が自ら問題解決に取り組むための人権教育や情報提供の必要性についての意見も複数
あった。また、あわせて人権に関する府民の意見を募集したところ(注9)、新たな課題についての意見や自らの経
験を踏まえた意見が多数寄せられた。それらの内容から、人権については多様な考え方があることや社会の変化
とともに様々な形で新たな課題が発生することを改めて認識した。
2 基本理念
「大阪府人権尊重の社会づくり条例」は、その前文で、「すべての人間が固有の尊厳を有し、かつ、基本的人権を享
有することは、人類普遍の原理であり、世界人権宣言及び日本国憲法の理念とするところである。
かかる理念を社会において実現することは、私たちすべての願いであり、また責務でもある。」「人権尊重の機運が
国際的にも高まる中で、大阪が世界都市として発展していくためにも、私たち一人ひとりが命の尊さや人間の尊厳
を認識し、すべての人の人権が尊重される豊かな社会を実現することが、今こそ必要とされている。」とうたってい
る。
こうした条例のめざす人権尊重の社会を実現するため、今後の府政推進の基本理念として
(1) 一人ひとりがかけがえのない存在として尊重される差別のない社会の実現
(2) 誰もが個性や能力をいかして自己実現を図ることのできる豊かな人権文化の創造を掲げることとする。
人権とは、人々が生存と自由を確保し、それぞれの幸福を追求する権利である。すべての人は、人間として皆同じ
人権を有しており、一人ひとりがかけがえのない存在であるということを認識し、それぞれの個性や価値観、生き
方等の違いを認め合い、多様性を尊重することが必要である。
このため、一人ひとりが自分の権利のみならず他人の権利についても深く理解するとともに、権利の行使に伴う責
任を自覚し、人権を相互に尊重し合うことが重要である。
現在、世界的に人権の尊重を共通の行動基準とし、人権が保障される国際社会をめざした取り組みが進められて
おり、大阪府が世界都市として発展していくためにも、施策を通じて人権の普遍性が府民に理解されるよう努める
とともに、人権侵害の予防・救済など、府民の人権の尊重を基礎に据えた取り組みを行い、差別のない社会の実現
に努めることが重要である。
人権という普遍的文化の創造とは、すべての人が人権尊重の精神を当然のこととして身につけ、日常生活の中で
実践することであり、またそのような生き方を可能にする社会的な環境や条件を整備することである。
たとえば、障害者の人権問題に取り組む際に、障害者に対する偏見など、意識のバリア(障壁)を取り除くととも
に、物理的、制度的なバリアをなくすために、道路等に段差のないまちづくりや障害者の社会参加を推進するため
の制度を整備する必要がある。障害者にとってバリアを感じさせないまちは、すべての人にとって住みやすいまち
となり、社会の人権文化はそれだけ豊かになるのである。
社会の人権文化を豊かにするためには、二つのことが必要である。ひとつは、性別、障害の有無、社会的出身、
あるいは人種や民族など、本人が選ぶことのできない事柄によって、生き方の可能性が不当に制約される状況
をなくしていくことである。もうひとつは、すべての人が自分らしさを輝かせ、さまざまな異なりをもった他者との出
会いを通じて世界を広げ、社会参加を実現することによって、個の主体性や多様性にもとづく新たな社会的活力
を創り出すことである。
これまで、人権にかかわる施策は、施設などのいわゆるハコモノづくりと啓発活動などの取り組みを中心に展開さ
れてきたが、今後はそればかりでなく、すべての人が情報や市民活動の成果などを活用することのできる環境を整
備するとともに、行政が府民による主体的取り組みとの有機的連携を図ることによって、地域全体の人権文化を豊
かなものにしていくことが大切である。
大阪には、進取の気風を尊び、民衆の力で地域文化を創造しようとする伝統があるが、このような大阪の人権文化
の歴史的、社会的特徴を踏まえるとともに、これからは府民、地域団体をはじめとするNPO(注10)、企業、市町村
などのさまざまな主体との協働により、地域コミュニティづくりやまちづくりの観点から豊かな人権文化の創造に取り
組むことが重要である。
従来、人権にかかわる施策は、個別課題ごとに推進され、それぞれに相当の成果が蓄積されてきたが、それら
が他の行政分野で十分に活用されてこなかった。このため、全体としての取り組みに不均衡が生じたり、また、
複数の要因が絡み合って発生した複雑な人権問題に対しともすれば総合的な視点が欠落し、効果的な対応がなさ
れない面も見られた。
したがって、条例のめざす人権尊重の社会をつくるためには、すべての行政分野において前記の基本理念を踏ま
え、総合的な施策の推進に努めることが重要である。
3 人権施策の基本方向
大阪府人権尊重の社会づくり条例に示されている「人権施策」、すなわち、「人権意識の高揚を図る施策」及び「
人権擁護に資する施策」について、それぞれの概念、内容を明確にし、推進する必要がある。
前述した「基本理念」を踏まえて行うべき個別の人権にかかわる施策の多くは、それぞれの人権課題に応じて、ま
とまった行政領域として、それぞれ個別法や個別の諮問機関の答申等を踏まえて、実施されている。
したがって、これらの課題に共通する人権意識の高揚を図るための施策を積極的に推進するとともに、各課題ごと
の取り組み、とりわけ府民の自立や社会参加を促進するための施策や人権救済・保護のための制度や施策を充
実・活用していくことを基本に、人権問題についての実態の把握に努めながら、総合的な人権施策を構築すること
が求められる。
(1) 人権意識の高揚を図るための施策
府民一人ひとりが、人権の意義や価値についての理解を深め、すべての人の人権を尊重する態度や行動を身に
つけるための人権教育(注11)を行うとともに、府民の主体的な活動を促進する。
〔視 点〕
〔1〕 府民が主体的に社会生活を送るうえで、身につけておくべき基本的な社会ルールとして、互いの尊厳と権利
を尊重することの大切さを理解すること。
〔2〕 府民が、日本国憲法や人権関連諸条約上の人権の理念や内容を深く理解し、自らの生活や活動の中で具体
的に生かす態度や問題解決能力を身につけること。
〔3〕 異なる文化・価値観を持った人々との出会いや交流を通じ、豊かな人間関係を結ぶことにより、偏見や無理解
をなくし、多様性を認め合う価値観を身につけること。
〔4〕 人権意識の高揚を図るための施策は、府民一人ひとりの心のあり方に密接にかかわることから、府民の自主
的・自発的な取り組みを促すことを基本になされるべきであること。
〔5〕 地域社会やNPO等が、主体的に自己実現をめざす個人の活動の場となり、また、それらの活動が人権意識
の高揚に役立つこと。
〔6〕 府民が身につけた人権尊重の態度を、日常生活や職場等の活動の場において実践できること。
〔施策の方向〕
〔1〕 人権教育の推進
人権教育は、家庭、学校、職場、地域など、あらゆる場や機会をとらえて推進される必要がある。なかでも、人権
問題を的確にとらえる感性や人権を重視する姿勢を育むことが重要である。
したがって、幼少期から生命の尊さや人の人たる道(人間として基本的に守らなければならないルール)に気づ
かせ、豊かな情操や思いやりをはぐくみ、お互いを大切にする態度と人格の育成をめざす人権基礎教育に取り組
むことは、その後の成長に応じた人権教育を実効的なものとするうえで、大きな役割を果たすと考えられる。
また、人権啓発や同和教育の成果を発展させ、人権に関する学習の機会を、学校、職場、地域などで一層充実さ
せるとともに、従来の知識習得型の学習から、人権に関する知識が態度や行動に結びつくような実践的な学習へ
と転換させることができるようにする工夫が必要である。
さらに、人権が尊重される社会の実現に深くかかわる立場にある者が、常に人権尊重の意識や態度をもって、職
務の遂行に臨むことが重要であり、大阪府職員をはじめとする公務員や教職員、警察官、医療関係者、福祉関
係者等に対する人権教育の充実が必要である。
〔2〕 人権教育に取り組む指導者の養成
府民が日頃から人権問題について考え、自主的・自発的にその解決に取り組むことが重要であることから、府民
の身近なところで人権教育に取り組む指導者を養成する必要がある。また、人権教育を効果的に推進するために
重要な役割を果たす専門的な指導者の養成も必要である。また、そのために、人権教育に関する諸機関との連携
や支援が必要である。
〔3〕 府民の主体的な人権教育に関する活動の促進
多様な文化や価値観を大切にしあう豊かな人権文化を創造するためには、府民の自主的・主体的な取り組みを促
すとともに、地域においてさまざまな人々がふれあい、交流する場を増やし、相互理解を促進することが重要であ
る。このため、NPOや企業等による人権教育や府民の交流・相互理解のための自主的・主体的な活動を促す環
境を整備していくことが必要である。
〔4〕 人権教育に関する情報収集・提供機能の充実
人権教育は、大阪府のみならず、NPO・企業・学校・市町村などさまざまな主体により、対象者やニーズに応じて
さまざまな機会を通じて実施されることにより、より効果を高めるものである。このため、人権教育の各実施主体に
対して、必要に応じて人権教育についての知識・手法や講師・教材、あるいは活動事例等についての情報などが適
切に提供されることが重要である。このため、人権教育に関する情報収集・提供機能の充実を図る必要がある。
(2) 人権擁護に資する施策
府民が自立や社会参加を通じて、自己実現を図ることができるよう支援するとともに、人権侵害を受け、または
受けるおそれのある人に対して、関係機関と連携して、救済・予防を促進・支援する。
〔視 点〕
〔1〕 人権侵害につながる問題に直面した府民が、主体的な判断に基づいて課題の解決ができるよう、支援がなさ
れること。
〔2〕 府民一人ひとりの自己実現のための主体的な取り組みが尊重され、促進されること。
〔3〕 人権に係る問題が生じた場合に、一人で悩むのではなく、解決方策について身近に相談できること。
〔4〕 人権侵害を受け、または受けるおそれのある人が、迅速に適切な保護・救済を受けることができること。
〔5〕 人権侵害を予防するための取り組みがなされること。
〔施策の方向〕
〔1〕 府民の主体的な判断・自己実現の支援
府民が人権侵害を受けたり、人権侵害につながる問題に直面したときに、解決のための手だてを探し出し、助言
や援助などの支援を受けながら主体的に判断して解決していくことができるよう、各種の相談機関や公的支援制度
、さらにはNPO等が行っている援助活動など、人権擁護に関するさまざまな支援情報を効果的に提供することが
重要である。
さらに、府民が自立や社会参加を通じて、自己実現を図ることができるよう支援するため、必要な支援情報の提供
やエンパワメント(注12)のための施策を推進する必要がある。
〔2〕 人権にかかわる総合的な相談窓口の整備
人権侵害にかかわる問題が生じた場合に、一人で悩むのではなく、府民が身近に解決方策について相談できる窓
口が必要である。
府においては、個別施策ごとに府民の相談に対応しているが、人権全般についての総合的な受け皿機能を果たす
窓口がない状況にある。このため、人権侵害を受け、または受けるおそれのある人を対象に、幅広い相談窓口を
整備する必要がある。
人権にかかわる相談には、複数の要因が複雑に絡み合っているものも少なくないことから、相談窓口では、これら
の要因を解きほぐして整理し、解決のための手だてを本人が主体的に選択できるようにするきめ細やかな対応が
求められる。
また、関係機関の協力を得て、人権にかかわる施設の相談機能の充実や、各相談機関の相談員等の資質の向上
を図ることが重要である。
〔3〕 人権救済・保護システムの充実
自らの人権を自ら守ることが困難な状況にある府民については、相談窓口から個別の施策や人権救済のための
機関へつなぐことにより、事案に即した柔軟な対応を図ることが必要である。
府においては、自立生活を営むうえで援助を必要とする府民を支援するため、さまざまな施策を実施することによ
り、府民の権利擁護や人権侵害の予防を図っているところである。また、既に人権侵害が発生した後の被害者救
済については、裁判所による救済だけでなく、労働問題等の一定の分野における裁判外紛争処理制度等により、
対応が図られている。
したがって、人権にかかわる総合相談窓口とこうした個別の専門機関との連携のもとで、きめ細かな救済策が講じ
られ、府民の人権が適切に守られる仕組みづくりを検討する必要がある。あわせて、NPO等の行う援助活動とも
連携を図っていくことが求められる。
なお、人権問題にかかわる紛争処理については、現行制度では国の事務となっており、法務省の人権擁護機関が
重要な役割を果たしている。しかしながら、被害者救済の実効性に限界があるため、国の人権擁護推進審議会に
おいて、新たな人権救済機関の設置について検討されているところである。府においては、こうした動向も踏まえ
ながら、救済すべき事案を適切に人権救済の手続きに乗せていくことができるよう、国の人権救済機関との連携協
力体制を構築する必要がある。
4 具体化に向けて
(1) 具体化に向けての基本姿勢
以上に提示した、人権尊重の基本理念が基礎に据えられた行政施策が展開され、前述の基本方向に沿った人権
施策が着実に推進されることを求める。
本答申の具体化にあたっては、さらなる検討が必要なものもあれば、準備に時間を要するものもあるが、具体的
な推進計画を策定し、適切な進捗管理を行い、積極的に取り組むことが重要である。
また、社会情勢や価値観の変化に伴い、新たな人権問題が生起するものであり、これに的確に対応するために
は、必要に応じて、基本方針の見直しを行う必要がある。
(2) 推進体制の整備
人権施策を総合的に推進するためには、庁内の推進体制を整備するとともに、市町村及び企業、NPO等との連
携が重要である。
〔1〕 庁内の推進体制
本基本方針に基づき、総合的な見地から整合性のある施策を推進するため、知事をトップとする人権施策の推進
本部体制を確立するとともに、人権室のコーディネート機能を一層強化し、現在、各部局に配置されている人権室
兼務職員と一体となって、人権問題の実情を踏まえ、施策の企画・調整・点検を行うとともに、人権施策の実施状況
を人権白書としてとりまとめるなど、効果的な施策の推進に努める必要がある。
また、大阪府職員に対する人権研修を徹底するため、各部局において業務の実態に応じた研修が推進できるよ
うな体制を整備する必要がある。
〔2〕 市町村との連携
府内市町村においては、地域の実情に応じて、それぞれに人権問題についての取組みが進められている。府の
人権施策を効果的に推進するためには、こうした府民に最も身近な市町村が実施する諸施策との連携が不可欠で
あり、府と市町村との連携をより強化する必要がある。
また、市町村単位では実施が困難な事業で府域全体で取り組むことが望ましい事業や、情報提供などにより市
町村の施策を支援する事業などについては、府が積極的に推進する必要がある。
〔3〕 企業、NPO等との連携
これまで、府内では企業やNPOなどの諸団体が人権問題の解決のためのさまざまな取り組みを行ってきた。人
権施策を効果的に推進していくためには、これらの活動とより一層連携を深め、協働関係を構築していくことが重
要である。
■注釈文一覧
(注1)国際人権規約
ここでは、「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(A規約)」と「市民的及び政治的権利に関する国
際規約(B規約)」及びB規約についての2つの選択議定書を総称して、国際人権規約という。
(注2)「人権という普遍的文化」
universal culture of human
rightsの訳語。国連の「人権教育のための国連10年行動計画」において、「人権教育とは、知識と技能の伝達及び
態度の形成を通じ、人権という普遍的文化を構築するために行う研修・普及及び広報努力」という定義の中で使わ
れている。
(注3)大阪府においては、各課題ごとに指針や計画を策定し、施策の推進に努めている。主要なものを例にあげ
ると、女性施策は「新 女と男のジャンプ・プラン(男女協働社会の実現をめざす大阪府第3期行動計画(改定)」
、障害者施策は「ふれあいおおさか障害者計画後期行動計画(新大阪府障害者計画後期行動計画改訂版)」、
高齢者施策は「新ふれあいおおさか高齢者計画(大阪府高齢者保健福祉計画・介護保険事業支援計画)」、子
どもに係る施策は「第2次大阪府青少年育成計画」、「大阪府子ども総合ビジョン」、外国人に係る施策については
「大阪府国際化推進基本指針」などがある。
(注4)「大阪府部落差別事象に係る調査等の規制等に関する条例」違反事件
平成10年7月、調査業者2社が企業から依頼された採用調査に際して、部落差別調査を行っていたことが判明
した。なお、当該調査業者は採用調査に際し、条例違反の部落差別調査だけでなく、思想、家族の状況等、本人
の適性・能力にかかわりのない事項についても情報収集し、企業に提供していたことも明らかになっている。
また、企業等の中には、当該調査業者から一方的に応募者の人権を侵害するおそれのある情報が報告されて
も、何らの問題意識もなく受け取っていたケースなど、十分な人権意識を持っていないところもあった。
(注5)施設コンフリクト
障害者等の自立を進めるための基盤となる福祉施設等の設置に際し、その設置をめぐり地域住民との間で生じ
る摩擦を施設コンフリクトというが、これによって福祉施設等の整備が進まないことは、障害者等の自立と社会参
加を阻む重大な問題である。
(注6)HIV
HIVはヒト免疫不全ウイルスのことであり、HIVへの感染によっておこる病気をエイズ(AIDS、後天性免疫不全症
候群)という。性行為、母子感染、血液感染(注射器の共用等)がHIVの感染経路である。
(注7)性的マイノリティとされる人々
社会において、異性愛を自明のこととし同性愛者をマイノリティとする見方が支配的であり、また、性同一性障害
者、インターセックス(先天的に身体上の性別が不明瞭であること)の人々を含む総称として用いる。
(注8)今後の効果的な施策のあり方を検討するうえで、人権問題の現状を把握することが不可欠であることから
、いわゆる当事者団体(21団体)からヒアリングを行った。
(注9)「すべての人の人権が尊重される社会をつくるにはどうしたらよいか」というテーマで意見を募ったところ、
10団体、28人から計57件の意見が寄せられた。
(注10)NPO
Nonprofit
Organization(非営利組織)の略で、一般的には「営利を目的としない民間組織」の総称。法人格をもつ組織(公益
法人、特定非営利活動法人など)と法人格をもたない組織(ボランティアグループなどの任意団体)がある。政府(
行政)、営利組織(企業)と並ぶ第三のセクターと呼ばれている。
(注11)人権教育
「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」においては、人権教育を「人権尊重の精神の涵養を目的とする
教育活動」、人権啓発を「国民の間に人権尊重の理念を普及させ、及びそれに対する国民の理解を深めることを
目的とする広報その他の啓発活動(人権教育を除く。)」と定義されている。
また、「人権教育のための国連10年」(国連行動計画)では、人権教育を「知識と技術の伝達及び態度の形成を
通じ、人権という普遍的文化を構築するために行う研修、普及及び広報努力である」と定義されている。
本答申においては、「人権教育のための国連10年」の定義と同じく、人権教育に人権啓発を含めて用いている。
(注12)エンパワメント
empowerment。内面化された抑圧を乗り越え、内なる力を発揮し、自分らしさを表現できるようになる過程。
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府民文化部 人権局人権企画課 企画グループ
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