同和対策審議会答申(昭和40年8月) 第3部第5章

更新日:2023年6月21日


 

5.人権問題に関する対策
(1) 基本的方針
 日本国憲法は、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的、または社会的関係において差別されないことを基本的人権の一つとして保障し、立法その他の国政の上でこれを最大に尊重すべき旨を宣言している。
 しかし、審議会による調査の結果は、地区住民の多くが、「就職に際して」「職業上のつきあい、待遇に関して」「結婚に際して」あるいは、「近所づきあい、または、学校を通じてのつきあいに関して」差別をうけた経験をもっていることが明らかにされた。しかも、このような差別をうけた場合に、司法的もしくは行政的擁護をうけようとしても、その道は十分に保障されていない。
 もし国家や公共団体が差別的な法令を制定し、或いは差別的な行政措置をとった場合には、憲法14条違反として直ちに無効とされるであろう。しかし、私人については差別的行為があっても、労働基準法や、その他の労働関係法のように特別の規定のある場合を除いては「差別」それ自体を直接規制することができない。
 「差別事象」に対する法的規制が不十分であるため、「差別」の実態およびそれが被差別者に与える影響についての一般の認識も稀薄となり、「差別」それ自体が重大な社会悪であることを看過する結果となっている。
(1) 「人権擁護制度組織の確立」
 基本的人権の擁護を法務省の一内局である人権擁護局の所管事務とし、しかも民事行政を主掌する法務局および地方法務局に現場事務を取扱わせている現在の機構は再検討する必要がある。戸籍や登記事務を扱っていた者が人権擁護の職務に配置されるという組織にも不適当なものがある。
 また、基本的人権の擁護という、この広汎重要な職務に、直接たずさわる職員が全国で200名にも達せず、その予算も極めて貧弱なことが指摘される。
(2) 人権擁護委員の推薦手続や配置されている現状や人権擁護の活動状況等からみて、その選任にはさらに適任者が適正に配置されるよういっそうの配慮が要望される。
 実費弁償金制度についても職能を十分にはたせるだけの費用が必要である。
(3) 「同和問題に対する理解と認識」
 現状における担当者および委員の同和問題についての理解と認識は必ずしも十分とはいえない。研修、講習等の強化によってその重要性の把握に努力する必要が認められる。
(4) 「人権擁護活動の積極性」
 人権擁護機関による擁護活動は、人権を侵害したものに対し、人権尊重について啓発して、侵害者自身の自発的な意志によって侵害行為の停止、排除、被害の回復等の措置をとらせることであって、人権擁護機関が直接その権限によって、侵害行為を停止させる措置がとられるのではない。したがって、このような方法によらざるをえない現状ではとくに担当者および委員に差別意識を根絶するための啓蒙活動について自覚と熱意が必要である。

(2) 具体的方策
一)差別事件の実態をまず把握し、差別がゆるしがたい社会悪であることを明らかにすること。
二)差別に対する法的規制、差別から保護するための必要な立法措置を講じ、司法的に救済する道を拡大すること。
三)人権擁護機関の活動を促進するため、根本的には人権擁護機関の位置、組織、構成、人権擁護委員に関する事項等、国家として研究考慮し、新らたに機構の再編成をなすこと、しかし、現在の機関としても次の対策を急がねばならない。
a 担当職員の大巾な増加をはかり、重点的な配置を行なうこと。
b 委員委嘱制度を改正し、真にその職務にふさわしい者が選出されるようにし、またその配置を重点的に行うこと。
c 人権相談を活発にし、かつ実態調査につとめ、これらを通じて地区との接触をはかりその結果を担当職員および委員に周知せしめる措置をとること。
 その他、つねに同和問題についての認識と差別事件の正しい解決についての熱意を養成するため研修講習の強化に努力すること。
d 事件の調査にあたっては、地区周辺の住民に対する啓発啓蒙をあわせて行ない、不断にこれをつづけること。
e 以上の諸施策を行なうための十分な予算を確保保障すること。

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府民文化部 人権局人権擁護課 人権・同和企画G

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