人権問題に関する府民意識調査報告書(分析編) 5.5-1逆差別意識の構造

更新日:2023年5月24日

人権問題に関する府民意識調査検討会委員
大阪府立大学人間社会学部准教授 西田芳正

5.「納得と共感」を目指して

5-1逆差別意識の構造

 まず、自由記述欄に記された内容の大きな傾向を整理するために、本章の見出しに対応した分類をほどこした結果を示しておく。一つの記述に複数の要素が入っている場合が多く、それらのうちのいずれか一つについてカウントしたため、本論中の該当ケース数ともずれている部分がある。あくまでも概要を捉えるための手がかりとして理解いただきたい。

記述の内容

ケース数

「逆差別」意識(行政の対応等)

69

26.0

「逆差別」意識(地区住民の側の問題)

34

12.8

教育への否定的コメント

23

8.7

同和問題はなくならない

4

1.5

同和問題はなくなってきた

6

2.3

同和問題・人権問題が解消されるべき

8

3.0

教育・啓発への肯定的コメント

24

9.1

教育・啓発への批判と提言

31

11.7

わからない

10

3.8

無関心

8

3.0

他の人権課題・差別問題

19

7.2

その他

29

10.9

合計

265

 

 「「逆差別」意識(行政の対応等)」の項目が多数を占めているのは、直接に行政の姿勢を問題視する記述の他、「同和地区を優遇してきたこと」や「同和という言葉を使い続けること」を問題視するコメントまで広く含めたためである。また、「教育への否定的コメント」は、教育や啓発に限らず、「問題として騒ぎたてることが問題を継続させる」などをも含めた数である。それぞれの要素がどのように関連しているのか、複数の要素が書き込まれたものについての分析も必要であるが、ここでは概要レベルで留めておく。なお、「差別問題が解決されることを願っている」といった記述が「わからない」あるいは「「逆差別」意識」としてグループ化したものの中に記されているケースが含まれていることを付記しておく。 

 それでは、本章の最後に、「逆差別」意識の構造を改めて整理し、今後の教育、啓発活動において何が伝えられる必要があるのかについて検討したい。
 「逆差別」意識を構成するポイントの一つとして「もう差別は解消した」という認識があることを見たが、現実にはそうとは言えないことをまず指摘しなければならない。
 「同和地域に住んでいる友人がいますが、確かに様々な悩みを抱えてるみたいです」〔50歳代女性〕、「小学校の時の同級生は結婚を機に同和地区から離れていって、地元にいる子がだんだん少なくなっている状況です。まだまだ偏見がある中で生活するのは難しいため、離れるしかないのかと思います。さみしい事だと思います」〔40歳代女性〕という記述が見られた。そして、「私自身同和地区出身ですが、同和問題で支援など受けた事が無く、差別は日常的にあります。私にも孫が生まれましたが、現在住んでいる所を出たく思っています。同じ思いを子供、孫達にもさせたくないからです。人生で人に後ろ指さされるような事は何もしていません。まじめに生活してきました。これからも今と同じ様に生活していきます。差別はなくしてほしいです。涙している人が多くいる事も事実」〔60歳代男性〕という経験も記されている。
 今回の調査においても、住宅を選ぶ際に同和地区内を避けるという回答が過半数となり、自身や子どもの結婚に際して「同和地区出身者かどうか」が「気になる」とする者も2割いた。結婚差別、就職差別について「なくすのは難しい」という回答がそれぞれ45%、37%を占め、「同和地区はこわい」あるいは「同和対策は不公平だ」という話を聞いたことがある人が6割を超えるという結果についても、先に触れたとおりである。
 確かに、以前と比べて同和地区とその住民に対する露骨な差別的言動は姿を消しつつあるが、差別意識は根強く残っていることもまた認めざるを得ない事実である。「逆差別」意識について検討する際、こうした現実を踏まえておかねばならない。

 本論で例を多数示したが、「逆差別」意識を記したものの中には、「同和の人」、「同和者」などと、「同和」という言葉がことさらに用いられていることが特徴であった。そして、「同和地区の住民が優遇されることがおかしい、それが差別される原因」であり、「同和がなくなれば、同和地区に住まなければ、差別はなくなる」といった記述が多数見られた。これらは、同和地区の住民の側に差別の原因を求め、同和対策事業を行ってきた行政も加担する側と位置づけていると言えるだろう。
 しかし、これらの記述からは、なぜ「同和」という言葉が生まれ、「同和」とされた地区に様々な対策がなされたのかについての認識を読み取ることはできない。地区に住む人々に対する強固な差別意識と、その結果としてもたらされた厳しい生活実態があり、それを軽減、解消することが「国民的な課題」と位置づけられたことが出発点であった。背景に部落差別があることを忘れてはならないのである。

 そこで、「逆差別」意識の構造を以下のように整理できるのではないだろうか。
 まず、部落差別の歴史、これまでの同和対策の経緯・内容と現在の同和問題の解決に向けた取組み、今日の差別の状況について知られておらず、同和地区とその住民、行政の姿勢についての伝聞・見聞情報(表面的、断片的で否定的な情報であることが多い)、さらには自身の生活苦、不満や不安の高まりが背景要因となって、同和地区とそこへの施策が非難の対象とされてしまっている。伝えられるべき情報が届いておらず(これは現状の教育と啓発活動の問題点である)、伝えられる情報の歪みがあり(日常的に流される情報の影響力は大きい)、これに生活上の困難が加わることで、「逆差別」意識が浸透していくことは当然の帰結というべきかもしれない。これを今日の「逆差別」意識とするなら、過去から継承された差別意識の残存についても指摘しておくべきだろう。自由記述欄の内容からはうかがうことはできないが、同和地区に対する忌避意識の背景には、こうした側面も存在しているはずである。
 同和地区とその住民に向けられたこのような意識状況を踏まえれば、「逆差別」意識で強調される「何もしない、騒ぎ立てない」ことは大きな問題をはらむと言わねばならない。日常的な経路を通してやり取りされる否定的な情報の流れを断ち切る、誤解を解く働きかけがなされない限り、同和地区に対する否定的な意識、まなざしはそのままに引き継がれることになる。今日の「逆差別」意識と過去から継承された差別意識をともに断ち切る働きかけが不可欠であり、そうでなければ同和地区に対する差別を次世代に引き継いでしまうことになるだろう。
 さらにまた、非正規雇用の増加により安定した職に就くことができず、自身の努力と能力の不足を責める若者が増え、正規雇用の若者や子育て中の世代も、労働条件の悪化や家族の不安定化などで困難に陥り、不安や不満を高めていることが知られている。今後の社会情勢の動きにより生活の不安定化がさらに強まっていけば、同和地区だけではない、様々な形で不利な状況(被差別の立場)に置かれた人々に対する敵愾心(差別意識)が高まることも危惧されるのである。

 

前へ 次へ》 目次へ

このページの作成所属
府民文化部 人権局人権企画課 教育・啓発グループ

ここまで本文です。


ホーム > 様々な人権問題に関する施策 > 人権問題に関する府民意識調査報告書(分析編) 5.5-1逆差別意識の構造