人権問題に関する府民意識調査報告書(分析編) 2.2-6背景としての生活状況と意識

更新日:2023年5月24日

人権問題に関する府民意識調査検討会委員
大阪府立大学人間社会学部准教授 西田芳正

2.「逆差別」意識の構造と背景

2-6背景としての生活状況と意識

 次に、視点を変えて、「逆差別」的な意識の背景にある生活状況について見ていきたい。 

■一般市民が行政から差別されている

 次に示すように、同和対策により、地区外に住む自分達が「逆に差別されている」という認識を持つ人がいることがわかる。7ケース見られた記述のうち半数ほどの例をあげる。

○ 同和地区の人々は差別されているのではなく、非差別地域の人々を差別している。行政もそのことを支援、促進しており問題が非常に大きい。〔50歳代男性〕
○ 同和地区の住民より一般の住民が行政から差別されているのでは。府や市が取りくむ事は一市民も同和も平等にしていかなくては解決しないのでは。〔40歳代男性〕
○ 逆差別を受けている様な気になる。〔40歳代男性〕
○ 同和の人たちは、自分たちは差別されていると言うけど、普通の人たちの方が差別されてると思う。〔30歳代男性〕

 ■「逆差別」意識の保持者の生活苦

 こうした「逆差別」意識を強く持っている人々について、自身の生活が非常に苦しいものになっていることがそうした意識を抱かせている背景となっていることが考えられる。「なぜ同和地区だけが優遇されるのか」という書き込みと合わせて、自身や近親者の生活の厳しさを記すものが7ケースあった(他に、生活苦についてのみの記述が1例、もう1例は「ゆとりのない時代だから啓発は困難」という内容である)。

○ 行政が神経質になりすぎと思う。私達の生活の方が苦しい生活です。人権問題を話題にする事が問題を大きくしているのと違いますか。多大な税金の無駄使いをいつまで続けるのですか。〔70歳以上男性〕
○ 【市の予算で同和地区には膨大な金額がつぎ込まれているとの指摘】家賃その他安い。私の甥達はサービス残業あたりまえ。調子がわるくとも病院へ行く間もない。朝も早く、夜は12時頃帰宅、土曜出勤もあり給料も安い。結婚しても共稼ぎ。生活保護の方が一般年金で暮らしているより楽の様。若い時から節やくして、病気になれば医療費は高いし心配が多い。〔60歳代女性〕
○ 大阪府民の生活を楽にして下さい。〔60歳代女性〕
○ この時世、生活が苦しいのは部落であろうが、部落じゃなかろうがみんな一緒。税金を納めるのも、家賃を払うのも苦しい。なぜ、部落の方だけ税金や家賃などetc優遇されるのか。〔40歳代男性〕
○ 難しい問題であるとは思うが、差別された等言う前に、本人達の意識も変える必要があるのでは。税金等良い思いをしている事は黙って見すごし、悪い事のみ表に出しすぎでは。私は母子ですが、まじめに働く者こそ税金や国保等しんどくなり、損をする様に思えます。人権問題と離れてしまうかもですが、弱い者に強く、強い者に弱い行政を感じます。〔40歳代女性〕
○ 人権問題の最大の原因は貧困の差だと思います。部落出身であれ、障害者の方達であれ、裕福な環境であれば差別されることなどあまり無いのでは。同和地区に住んでいる金持ちの人達(同和問題にあてはまる人)よりも、明日の生活もままならない私のような貧乏人は生きづらい国になりました。〔40歳代女性〕
○ 良くも悪くも特別な扱いをするから差別はあると思う。そんな税金を使うなら税金を安くする方法を考えて下さい。それより府民の生活を考えて下さい。〔30歳代男性〕
○ 同和地区以外で暮らしていても、それなりに大変なことはたくさんあるし、税金に追われて(固定資産税、市府民税)苦しい生活をしている。本当に、税金は生活を悪化させてます。市町村の公務員の給料考え直してほしい。〔30歳代男性〕

 ■自助・自立の強調

 生活苦が背景にあるとは必ずしも言えないが、同和対策への反発は、多くの人たちが共有している「自己責任」意識、「自助・自立」した生活をよしとする考え方とセットになって抱かれていることがうかがえる。そうした記述は9例見られた。

○ 同和地区を利用している人もいるようだ。〔70歳以上男性〕
○ 人は皆同じで差別はいけないと思います。でも保護(生活)と一緒で、もらえるものはもらわな損やという考えには、一生懸命働いている側からしたら、自分にできる限りの事をして、それでダメだったら支援が必要だと思いますが、皆しんどい時代だから昔のことをあれこれ言っても仕方がない。例をあげれば、医療がタダやからたいした事なくても毎日病院へいく、働けるのに働いたらひかれるから損やというのは何かなあと思います。ほんとうにしんどい人は助けないかんけど、働かんと金もらって(国)、ゆっくりしてる人は逆差別とちがうかと思う時がある私は変ですかね。〔60歳代女性〕
○ 支援にたよらず生活している人達もいるのに、支援をあたりまえの様に感じて、気に入らない事があると暴力的にうったえる一部の人がいる為に、まともな考えを持った人達まで一緒にされてるのは国の問題だと思います。【略】同和、外国籍の方々に関して言えば、普通の生活の上で差別はされない様な気がします。働けるのに働く努力をしない、社会に適応しようとしない人々が差別されるのはあたり前だと思います。適応して生活されている方も大勢いるはずです。〔50歳代女性〕
○ 同和地区で住んでいる人達の自己啓発が大切。それぞれの人が自分をしっかり持って生活したいです。行政に甘えず住んでいきたいです。〔年齢性別不明〕

 ■「逆差別」意識のバリエーション

 「なぜ同和地区だけが優遇されるのか、自分たちが逆に差別されている」といった意識は、同和地区だけに向けられているわけではない。「在日外国人、生活保護受給者などが優遇され、自分たちの生活が圧迫されている、権利を踏みにじられている」というコメントを記したものが6ケース見られた。

○ 人権問題として取り上げられている同和、外国籍以外にも最近の不景気な時代には一般人もいろいろ差別されている事も苦難に遭遇する事も多々あるものだ。行政は何も手を差しのべてくれはしない。多くの人は、無関心なのではないだろうか。むしろ、同和、外国籍の人たちの方が優遇されていると認識している人の方が多いのではないか。〔60歳代男性〕
○ 逆差別は何か疑問に思います。それから生活保護を受けている人達の中にずるい人がいっぱいいます(年金生活の人より生活のレベルが違いすぎるなど)。もっときびしくチェックする必要があると思います。〔50歳代女性〕
○ むしろ逆差別をなくして頂きたい。同和だけでなく在日利権など。〔30歳代男性〕
○ ただ一つ気になるのは、同和の人の逆差別です。なぜ、うちの市の公務員には同和の人がとても多いのでしょうか。水道代や税金を払っていないというのは本当ですか。同和の人は金持ちばかりですよ。そろそろ国や大阪府は同和事業や生活保護に対してきびしく対応していくべきだと思います。〔30歳代女性〕

 先にも整理したとおり、こうした意識の背景には自身の生活の苦しさがあるものと思われる。しかし、非難の対象とされている外国人についても生活保護受給者についても、その生活実態がどれほど知られているのか、また、そうした人々が生み出された歴史的な経緯についての認識は乏しいままに非難の眼差しが向けられていることが予想される。外国人への「優遇」や「利権」についても、どのような現実を指しているのか疑問である。
 生活保護など最低限の生活を支える制度や施策を表面的に「優遇」と捉え、その切り下げや解消を願う意識について、結局のところ自分自身の生活の支えを掘り崩してしまうという意味で「底辺への競争」と呼ぶ研究者もいる。「同和利権」を非難する意識傾向も含め、こうした側面について十分踏まえた上で、その認識のあり様を捉え直してもらう働きかけが求められる。
 同和問題の分野では、これまで学校内外で取り組まれてきた教育や啓発が、こうした役割を担うことが期待される。しかし、そうした働きかけが人々に的確に受け止められてきたのかどうか、その点を次節で検討することにしよう。



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このページの作成所属
府民文化部 人権局人権企画課 教育・啓発グループ

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