人権問題に関する府民意識調査検討会委員
神戸学院大学文学部教授 神原文子
問13-1では、問13で「差別意識が今でも残っている」と回答した人に対し、差別意識がなくならない理由について問うています。しかし、(1)の分析結果、すなわち、「差別意識が今でも残っている」と認識している人が必ずしも人権意識が高いわけではないことを考えれば、これらの回答をどのように扱うか、慎重を期す必要がありそうです。
明らかにすべき重要な点は、人権意識の高い人が、同和問題に関する差別意識がなくならない理由をどのように認識しているかということではないかと考えます。そこで、これまでに様々な人権意識尺度を作成しましたが、総じて高い得点を得た人を「人権意識の高い人」と判断することとし、「排除問題意識」、「体罰問題意識」、「人権推進支持意識」、「被差別責任否定意識」、「差別容認否定意識」、「結婚排除否定意識」、「反忌避意識」の7つの尺度の得点の平均値を個々人の「人権意識度」とみなすことにします。平均値4.42、標準偏差0.59です(「結婚排除否定意識度」は7点から14点に、他の尺度は1点から5点に分布します。)。
表6-2は差別意識がなくならない理由について、「人権意識度」との関連をみたものです。
表6-2 差別意識がなくならない理由と「人権意識度」
差別意識がなくならない理由 | 平均値 | 度数 | 標準偏差 | 有意差 | |
問13-1(1)結婚問題や住居の移転などに際して、同和地区 | あてはまらない | 4.4 | 235 | 0.6 | * |
出身者やその関係者とみなされることを避けたいと思うから | あてはまる | 4.3 | 214 | 0.6 | |
問13-1(2)差別落書きやインターネット上での誹謗(ひぼう)・ | あてはまらない | 4.3 | 363 | 0.6 | *** |
中傷など、差別意識を助長する人がいるから | あてはまる | 4.6 | 86 | 0.7 | |
問13-1(3)同和問題に名を借りて不当な利益を得ようとする、 | あてはまらない | 4.5 | 254 | 0.6 | ** |
いわゆる「えせ同和行為」などを見聞きすることがあるから | あてはまる | 4.3 | 195 | 0.6 | |
問13-1(4)運動団体の一部活動家による不祥事など | あてはまらない | 4.4 | 359 | 0.6 | *** |
があったから | あてはまる | 4.2 | 90 | 0.7 | |
問13-1(5)マス・メディアによって、同和問題に関わる | あてはまらない | 4.4 | 377 | 0.6 | * |
不祥事などが大きく取り上げられることがあるから | あてはまる | 4.2 | 72 | 0.6 | |
問13-1(6)運動団体による活動が、市民の共感を得られず、 | あてはまらない | 4.4 | 331 | 0.6 | * |
逆に反感を招いているから | あてはまる | 4.3 | 118 | 0.7 | |
問13-1(7)同和問題を解決するために行ってきた | あてはまらない | 4.3 | 349 | 0.6 | * |
これまでの同和対策の必要性が十分に理解されていないから | あてはまる | 4.5 | 100 | 0.6 | |
問13-1(8)いまでも同和地区の人だけ、行政から優遇されて | あてはまらない | 4.5 | 245 | 0.6 | *** |
いると思うから | あてはまる | 4.2 | 204 | 0.6 | |
問13-1(9)同和問題について積極的になくそうとする方向で | あてはまらない | 4.4 | 382 | 0.6 | − |
活動するのではなく、あえて距離をおこうとする人が増えたから | あてはまる | 4.5 | 67 | 0.6 | |
問13-1(10)これまでの教育・啓発の手法では、差別意識を | あてはまらない | 4.4 | 386 | 0.6 | − |
なくすことに限界があったから | あてはまる | 4.4 | 63 | 0.7 | |
問13-1(11)同和地区の人々の生活実態が、現在でも困難な | あてはまらない | 4.4 | 427 | 0.6 | * |
状況におかれたままだから | あてはまる | 4.6 | 22 | 0.5 | |
問13-1(12)差別をしてはいけないと規制する法律がないから | あてはまらない | 4.4 | 418 | 0.6 | ** |
あてはまる | 4.7 | 31 | 0.6 | ||
問13-1(13)昔からの偏見や差別意識を、そのまま受け入れて | あてはまらない | 4.3 | 201 | 0.6 | ** |
しまう人が多いから | あてはまる | 4.5 | 248 | 0.6 |
差別意識がなくならない理由のうち、「人権意識度」と有意に関連し、しかも人権意識の高い人ほど選択している項目を列挙すると、以下のようになります。
・差別落書きやインターネット上での誹謗(ひぼう)・中傷など、差別意識を助長する人がいるから
・同和問題を解決するために行ってきたこれまでの同和対策の必要性が十分に理解されていないから
・同和地区の人々の生活実態が、現在でも困難な状況におかれたままだから
・差別をしてはいけないと規制する法律がないから
・昔からの偏見や差別意識を、そのまま受け入れてしまう人が多いから
人権意識の高い人ほど差別意識がなくならない理由としてこれらを挙げているならば、支持する人の多寡に関わりなく、取組みとして検討の余地がありそうです。
他方、以下の理由は、人権意識の低い人ほど差別意識がなくならない理由として選択している項目です。
・結婚問題や住居の移転などに際して、同和地区出身者やその関係者とみなされることを避けたいと思うから
・同和問題に名を借りて不当な利益を得ようとする、いわゆる「えせ同和行為」などを見聞きすることがあるから
・運動団体の一部活動家による不祥事などがあったから
・マスメディアによって、同和問題に関わる不祥事などが大きく取り上げられることがあるから
・運動団体による活動が、市民の共感を得られず、逆に反感を招いているから
・いまでも同和地区の人だけ、行政から優遇されていると思うから
行政の役割として、これまで以上に、正確な情報を住民にきちんと伝える取組みが必要であることが示唆されます。
このページの作成所属
府民文化部 人権局人権企画課 教育・啓発グループ
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