人権問題に関する府民意識調査報告書(分析編) 4.(2)「差別の社会化」の影響

更新日:2023年5月24日

人権問題に関する府民意識調査検討会委員
神戸学院大学文学部教授 神原文子

4.同和地区に対する差別意識の形成要因<視点2>

(2)「差別の社会化」の影響

a人権意識、差別意識との関連

 個々人が、生まれた後に身近な人々から差別を教えられ学習する過程を、私は「差別の社会化」と名付けています。今回の調査では、問18において、「同和地区の人はこわい」あるいは「同和対策は不公平だ」というような話を聞いた経験を問うています。
 ここでは、「差別の社会化」の経験と人権意識、差別意識との関連をみてみます。
「同和問題についてまったく知らない」という29人を除く874人のうち、聞いたことが「ある」人は529人(60.5%)、「ない」人は225人(25.7%)、「無回答・不明」は120名(13.7%)となっています。
 私が関わった「豊中市人権意識調査2007」や「明石市人権意識調査2010」では、このような話を聞いたことのある人において、その時にどう思ったかという受け止め方の違いによって差別意識は異なることが明らかになっています。今回の調査でも、その点を確認しておきます。
 表4-2では、「差別の社会化」を経験して、「そのとおりと思った」(賛同)、「そういう見方もあるのかと思った」(容認)、「特に何も思わなった」(無関心)、「反発・疑問を感じた」(反発)、「聞いたことはない」という場合の人権意識、差別意識についての平均値を求めて比較を行っています。

表4-2 差別の社会化と人権意識・差別意識との関連

  

排除問題意識

体罰問題意識

人権推進支持意識

被差別責任否定意識

差別容認否定意識

結婚排除否定意識

反忌避意識

反集団優遇イメージ

人権交流イメージ

問18-2(1)そのとおりと思った平均値2.9 2.2 3.6 2.5 3.2 12.0 2.6 1.8 2.9
度数115115111113113114117113112
標準偏差0.7 0.9 1.0 1.0 1.0 1.7 1.0 0.7 0.8
問18-2(2)そういう見方もあるのかと思った平均値3.1 2.3 3.8 2.8 3.3 12.2 2.8 2.3 3.1
度数278286264263263262263257255
標準偏差0.6 0.8 0.8 1.0 0.9 1.7 1.0 0.7 0.7
問18-2(3)とくに何も思わなかった平均値2.9 2.3 3.8 2.7 3.5 12.4 2.8 2.6 2.8
度数353838363839353536
標準偏差0.7 1.0 0.8 0.8 0.8 1.8 1.1 0.8 0.8
問18-2(4)反発・疑問を感じた平均値3.3 2.4 4.1 3.2 3.8 12.6 3.6 2.5 3.3
度数575758585758565554
標準偏差0.6 1.0 0.8 1.2 0.9 1.7 1.2 0.9 0.9
問18(2)聞いたことはない平均値3.2 2.5 4.0 3.1 3.6 12.7 3.2 2.9 3.0
度数210213212212217212207199205
標準偏差0.6 0.9 0.7 0.9 0.8 1.4 1.0 0.8 0.7
合計平均値3.1 2.3 3.9 2.9 3.4 12.4 3.0 2.4 3.0
 度数695709683682688685678659662
 標準偏差0.6 0.9 0.8 1.0 0.9 1.7 1.1 0.8 0.8
 有意差

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  総じて、差別の社会化を経験して「そのとおりと思った」(賛同)人ほど、人権意識は低く、差別意識は高く、反対に、「反発・疑問を感じた」(反発)人ほど、人権意識が高く、差別意識は低い傾向を示していることがわかります。また、「聞いたことはない」人は、「反発・疑問を感じた」人よりも差別意識がやや高く、人権意識はやや低い傾向があるものの、差別の社会化を経験して「そういう見方もあるのかと思った」(容認)人および「特に何も思わなかった」(無関心)人よりも差別意識は低く、人権意識はやや高い傾向が窺えます。

【知見】
○差別の社会化を経験して「賛同」した人ほど人権意識は低く、差別意識は高く、反対に、「反発」した人ほど人権意識が高く、差別意識は低い傾向にある。

b人権学習との関係(効果)

 図4-1は、「差別の社会化」を経験して、その受け止め方の違いごとに「人権推進支持意識」、「結婚排除否定意識」、「反忌避意識」の平均値を求め、その上で、それぞれの人が経験したことがある人権学習の中で特に役に立った(一番印象に残っている)もの別に、「人権推進支持意識」、「結婚排除否定意識」、「反忌避意識」の平均値を求めたものです。
 「差別の社会化」を経験したことがない人は、「人権推進支持意識度」4.0、「結婚排除否定意識度」12.7、「反忌避意識度」3.2です。

図4-1

差別の社会化と人権学習の関係

 「差別の社会化」を経験して「賛同」した人のうち、市民対象の講座等、あるいは職場の研修が特に役に立った(一番印象に残っている)と回答した人では、「人権推進支持意識度」はそれぞれ4.6、4.2と、経験したことがない人よりも高くなっています。また、職場の研修が特に役に立った(一番印象に残っている)と回答した人では、「結婚排除否定意識度」も13.1と高くなっています。しかし、小学校、中学校での学習は、「差別の社会化」を経験したことがない人の水準まで人権意識を引き上げる効果は上げていません。また、「反忌避意識度」は、特に役に立った(一番印象に残っている)人権学習として何を挙げていても、「差別の社会化」を経験したことがない人ほど高くありません。
 「差別の社会化」を経験して「容認」した人についてみると、市民対象の講座等やPTA等が主催する研修が特に役に立った(一番印象に残っている)と回答した人の「人権推進支持意識度」、「結婚排除否定意識度」、「反忌避意識度」は、「差別の社会化」を経験したことがない人と同程度になっていますが、その他の人権学習については、「差別の社会化」を経験したことがない人の水準まで人権意識を押し上げる効果を上げていません。
 「差別の社会化」を経験して「無関心」な人は、特に役に立った(一番印象に残っている)人権学習を挙げている人が少ないため判断できません。
 「差別の社会化」を経験して「反発」した人は、経験したことがない人より「人権推進意識度」と「反忌避意識度」は高いのですが、「結婚排除否定意識度」は高いとはいえません。それでも、人権学習を経験することによって、いずれの意識度もおおよそ高くなっています。ただし、小学校での学習が特に役に立った(一番印象に残っている)と回答した人では、「結婚排除否定意識度」が低くなっています。
 「差別の社会化」を経験したことがない人について、人権学習の効果をみると、市民対象の講座等が特に役に立った(一番印象に残っている)と回答した人では、「人権推進支持意識度」と「反忌避意識度」について学習効果が認められます。しかし、「結婚排除否定意識度」については、さほど効果が認められません。

 人々の差別意識の形成に差別の社会化の影響が大きいことが、改めて確認されました。しかも、「賛同」したり「容認」したりした人では、人権学習を受けていても、「差別の社会化」を経験したことがない人と比較して「結婚排除否定意識度」や「反忌避意識度」が同程度に高いとはいえないことも確認されました。
 一方、「差別の社会化」を経験したことがない人について、特に役に立った(一番印象に残っている)と評価している人権学習の効果をみると、様々な学習の中で、「市民対象の講座など」や「PTAや民間団体が主催する研修」を受けた場合には、「人権推進支持意識度」や「反忌避意識度」が高いという顕著な効果がみられます。しかし、「結婚排除否定意識度」については、いずれの学習も効果が上がっているとはいえないようです。

【知見】
○「差別の社会化」を経験して「賛同」したり「容認」した人では、人権問題についての学習を受けていても、「差別の社会化」を経験したことがない人と比較して「結婚排除否定意識」や「反忌避意識」が同程度に高いとはいえない。
○「差別の社会化」を経験したことがない人について、特に役に立った(一番印象に残っている)と評価している人権学習の効果をみると、「市民対象の講座など」や「PTAや民間団体が主催する研修」を受けた場合には、「人権推進支持意識」や「反忌避意識」が高いという効果がみられるが、「結婚排除否定意識」については、いずれの学習も効果が上がっているとはいえない。

 

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このページの作成所属
府民文化部 人権局人権企画課 教育・啓発グループ

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