第18回審議会

更新日:2023年5月11日

第18回大阪府人権施策推進審議会


(とき) 平成17年2月8日火曜日
午後1時30分から午後3時20分


(ところ) 大阪キャッスルホテル 6階 オシドリ

(出席者) 入谷(桂)委員、上田委員、大國委員、加地委員、川島委員、佐藤委員、内藤委員、西村委員、
平沢委員、福田委員

(議事概要)

1 開会

・ 大阪府企画調整部長挨拶

・ 会長挨拶

  ○ これまで本審議会においては、まず第一に、府民の主体的な人権に関する活動をどのように行政が支援していくかということを中心に議論してきた。
第二に、それぞれの地域における人権教育の具体化、とりわけ地域に密着した人権文化の輝きをどのように創造していくかということを議論いただき、
「大阪府人権施策推進基本方針」を策定した。基本方針にも盛り込まれたように、大阪は古くからさまざまな人権問題に対する活発な取り組みが展開され、
府においても他の自治体に先駆けて取組んできたところである。

   アジアにはアジアの人権、関西には関西の人権、
大阪には大阪らしい人権文化の創造のあり方があるのではないかと思っていることを以前の会議でも申したことがあるが、
大阪という地域の歴史と伝統に根ざした大阪らしい人権文化の創造を構築していくため、基本方針を単なる
方針に止めることなく、
より充実した内容を伴った施策の実行につながることが重要であると思っている。
   今後の大阪府の人権施策がより充実したものとなるよう、内容豊かな議論がされるようお願いする。

2 議事

(1)大阪府人権施策の事業実施計画及び実施状況について

・事務局から、大阪府人権施策の事業実施計画及び実施状況について説明、報告を行った。

3 意見交換  〔 ○:委員 ●:事務局及び大阪府関係課 〕

  ○ 人権施策については膨大な予算をもって実施しており、しかも大半は研修等々であるから、
それらを実施したことによってどのような効果があったかという評価がなくてはならない。評価がないまま、
毎年度同じことをやるというのでは、
単に事業を実施しているだけである。評価をした上で、だめなものは潰し、良いものは進めていくというようしていくべきである。
事業に関する評価はどのように行われているのか。

  ● 個々の事業については、行政内部で事務事業評価という制度があり、その中で一定の評価を加えている。厳しい財政状況の中、
これまで実施してきた事業をそのまま続けるというのではなく、各部局において必要な見直しを行い、廃止あるいは再構築する事業もある。
ただ、人権という観点から、この事業はどうか、という評価については、現在のところ、まだ確立したものを持てていない。

  ○ 評価の方法や内容は公開すべきである。内部の評価ではなく、外部が評価するという客観性のあるものでないと公開性がない。
この資料(『大阪府人権施策の事業実施計画及び実施状況(平成16年度版)』。以下、『実施計画』)を見ると、例えば、病院事業関係の人権教育も、
各病院が個々に実施しているが、日を決めて一箇所で実施すれば一度で済む。個別に実施していたら経費が膨らむだけである。

  ● 人権に関しての個別事業ということでの評価ではないが、全体の事務事業評価は公開している。
また、病院の研修については現場関係も多いことから、まとまって職場を空けられないという状況や病院ごとに実施しなくてはならない内容の研修もあるなど、
病院の持つ現場の事情も影響していると考えている。

  ○ 病院だけに限らず、他にも各々の部署によって似たようなことをやっている。縦割りにして「ここの部署のこれ」などといっている時代ではなく、
人権教育という枠の中で考えて実施すればいい。そうした発想が現状のやり方にはみられず、昨年度と同じやり方で、予算は増えている。
事業というものは、効果がどうであったかという評価があって、次にどうするか考えてやっていくべきである。
  こうしたやり方を改めていかなければ、人権教育は名だけのものになってしまう。人権教育をやるなら、中学、高校の4月いっぱい、授業などしなくても合宿生活をさせ、いじめの問題などを議論し、自ら考えて解決できる力を身につける機会や環境を与えるべきではないかと昨年も指摘したが、
そうしたことは投影されず、毎年同じことを繰り返すというやり方は不満である。評価が行われていないとしか思えない。

  ● 評価については、すべての事業について事務事業評価を実施しており、3つのランクに分けて、継続、
見直し、廃止などというように評価をしている。
この結果は公表しており、平成16年度分についても間もなく公表できる予定である。
  また、一例として研修のあり方についてご指摘いただいたが、効率的・効果的に実施していくために、工夫をしなければならないところが多くあると思うので、
今後も検討していきたい。また、それぞれの施策についても、もう一度見直し、より効果があるように進めていきたいと考えている。

  ○ 事業の実施効果についての評価は、人権教育だけではなくすべての取組みについて、これからとても
重要になってくると思う。事務局の説明で、人権教育の10年をきっかけにして、非常に幅広い人権意識の高揚や人権擁護のための取組みが展開されていることはよく認識できた。
  とりわけ、以前と比べ、非常に分かり易く効果的な教材が作成されたり、リーダー養成の仕組みができてきていることや、改善の余地は多々あるが特定職業従事者向けの非常に分厚い研修など意識的な取り組みが行われてきたというのも前進である。この『実施計画』のように報告書のかたちで、取組みの全体が一目で分かるような情報として整理され提供されることになったのも大きな前進であり、積極的な取組みは多々ある。
  しかし、例えば、この『実施計画』に、昨年度、今年度、そして来年度以降を展望し、どんな方向へ全体が移っていこうとしているのかという概観をとらえた記述やこれまでの取組みではこういうことが非常に効果的であったというような、事実によって証明できることも含めて、だからこういう取り組みをもっと前進させていきたい、これはあまり効果が認められなかったので縮小していく、などといった全体を概観するような記述があれば、もっと見易くなる。施策や取組みが網羅的には見えるが、全体がどういう質的な変化を伴って、どこへ動こうとしているかという辺りが整理され、また整理することを通じて、ポイントになることが浮き彫りになるのではないかと思う。
  先月までアメリカのシアトルに滞在していたが、そこでのNPOの運動の活発さや、行政のNPOと連携しての人権についての分厚い取組みを目の当たりにして、日本でも行政の財政が厳しい状況の下、他方では民の力が増している中で、連携や協働、委託などをどう積極的に進めていくかということがますます大事になってきていると思う。例えば箕面市では、昨年1年だけでも1億円以上がNPOを通じて執行されるというように行政の仕組みが変わってきている。NPO同士が連携を図り、行政も加わって、今後の取組みについて公開で議論されるというように進んできているようである。
  こうしたことを考えたとき、例えば説明にあった部落解放人権研究所や大阪府人権協会に委託し、教材作成や研修を実施するというようなことも大事だが、それ以外に、今、新たにこういう分野に注目して委託や連携を行いたいので、予算を拡大し、NPOや民との連携を強めていきたい、というような方向性が示されてもいいのではないかと思う。
  アメリカ、特にシアトルというまちには、日本に比べて個という存在が、自分なりの価値観や意見を持って
主体的に参加していこうという積極的な面が多くあると感じた。帰国後、学生や様々なニュースをみていても、どうも世相に流されていく、その中に没していくというふうに感じられる。やはり、人権教育が個の主体性を
涵養して、それを育むことを主たる目標とするならば、今後どういう大きなビジョンで取組んでいくかということが個々の施策を超えた大事なことである。
  この間、テレビの特集で、100万人を超えるフリーターが製造業を転々としながら生きていると放送されていた。それはどうみてもどんどん袋小路に入っていく生き様でしかないのに、目先のお金が稼げるということで、そういう選択肢を選ぶ、あるいは選ばざるを得ないような若者を生み出して、その若者自身がそういう仕組みに対しても批判的にならず、個の中に閉じこもってしまって、社会的な感性や社会的に批判して物事にかかわっていこうというような部分が全体に弱い。そういう若者の状況を変えていくべきだという認識を持つならば、人権の時間や教材を増やすという発想だけでなく、大胆に一か月の合宿をし、そこで何か集中的に議論したり、
社会参画や自分の人生設計について考えるなど、試行的にでもやっていくような大幅な変革のアイディアが
必要ではないか。
  主体性を育むという人権教育の主たる目的に照らしたときに、ここで紹介のあった様々な優れた取組み以外に、何かもう一つ、目を付けていかなくてはいけないポイントがあるのかなと感じた。

  ● 評価については、行政として技術的に難しい問題であるが、必ずやっていかなければならないことだと考えている。『実施計画』については、ご指摘いただいた柱立てをしながら組み立てていくこと、例えば、今の
人権の思想的、倫理的な流れがどう変化してきているか、技術的なものがどう変わってきているか、などの様々な情報も含めて、変化してきている状況の中で今、実施している事業がどう位置付けられていくのかというような評価も?むかたちでとりまとめていければと考えている。
  ただ、これらの事業はすべての部局にわたっており、個々の事業の質の深さまでを人権室で計っていくというのは困難な面もあり、各部局と連携しながら、より充実した『実施計画』を策定していきたい。
  また、NPOとの連携については、これから非常に重要な要素であると考えている。単に行政がNPOを活用するというのではなく、対等な関係で連携を図ることが必要であるが、それ以前に必要なことは、行政とNPOがそれぞれの持っている情報やノウハウをお互いに提供、開示し合いながら、信頼感を高めることであり、そこから連携を深め、新たな活動を展開していくことが必要だと思う。そういうベーシックな部分を地道に進めていかなければならないと考えており、こういうことも含めて取組んでまいりたい。
  次に、個の主体性については、昨年度も小学生、中学生の合宿生活が人権基礎教育に非常に役立つというご意見をいただき、教育委員会も内部で人権教育に関しての効果的な事業を模索していると思う。今後、
教育委員会とも連携しながら、ご提案のあった合宿生活などの取組みも含めて、効果的な人権教育、特に若い世代への人権教育のあり方を議論し、検討してまいりたい。

  ○ 人権教育や人権に関わる活動について、大阪府は自治体の中でも非常に重要で責任のある立場にあり、また、非常に先進的に幅広く取組んできたことに敬意を表する。 しかし、先ほどから意見がでているように、今の取組みは、行政主導の人権教育であると思う。これは、ある段階までは非常に重要で必要なことであるが、いつまでも続けることがいいのかどうかは、根本的に考えるべき段階にきていると思う。
  先ほど「個」という話が出たが、今後もう少し司法を使って人権を守っていこうという局面を育てることを考えなければいけない。司法改革で司法を身近にしようと、今様々な取組みをしてきている。国民に裁判員制度という負担を課すこともあるが、司法総合法律支援法という法律ができ、司法ネットを全国的に展開しようとしているところである。これは人権や様々な権利を侵害された人たちが、どこでどのようにしたら権利が実現されるのか、実現しえるのかという仕組みを目に見えるようにして整えようとしているわけである。
  従来、日本では、司法は国の話であり自治体とは関係がないと思われてきた。しかし、司法を育てる、司法を使って住民の権利の実現が十分になされるような体制を整えるということは、むしろ地方自治の根幹である。闇金業者に食い物にされたり、権利の実現がなされない、放っておくということは、自治の最もベーシックなところを放ってきたということになるのではないかと思う。「行政でいろいろやります。」「これからもやります。」というのは大事なことだが、行政がすべて人権を守るというのではなく、根本は各人が自分の置かれた人権の状況の中で、自分の人権を実現するためにはどうすべきなのか、どうしたらいいのかを、もっとしっかりと考えなければならない。国の司法ネットの構築もあるのだから、自治体も国任せではなく、大阪府として司法ネットの構築に、自治体としてこういう形で参画していくという視点があって然るべきべきであると思う。
  もう一つは、法教育、司法教育は、司法改革に関連して重要な柱として出てきている。昨年の11月に法務省に法教育研究会が作られ、中学や高校の先生なども入ってレポートが出された。これまでの教科書では、
三権がこういう仕組みである、人権にはこういう種類がある、ということしか教えていない。例えば、人権について闘うのに法というものがいかに有力な手段であるかということを学ばせる実験的な教育が既に東京で行われており、指導要領にも反映させようとしている。そういうことについて、大阪府としてもう少し真剣に取組んでほしい。行政は大事だが、行政からもう少し司法へ、各人が主体的に法を使うシステムに展開の芽を見出すべきだと思う。

  ● ご指摘のように、地方自治体にとって、法の問題との関係は、行政上の権限の問題などこれまで非常に難しい問題があった。反省的にいえば、地方は腰が引けてることもあったと思っている。様々な人権上の問題が現象として起こっていることについて、行政だけで対応することには限界がある。府民一人ひとりがそういうことを十分に理解し、人権を守る行為を進めていけるような社会を、行政のみではなく府民と共につくっていくことが非常に重要なことだと思う。
  今後の人権行政の構築には、基本方針でいう人権侵害をしない、自己実現を図るという二つの大きな理念のほかに何が必要なのかを、これから向かっていく方向を見極め、考えていかなければならない時期にある。
社会的な情勢、例えばの同和対策でいえば特別措置法の期限切れなどの人権を取り巻く状況、また
行政自身が抱えている厳しい財政状況などを総合的に考えながら、今後のあり方を十分に検討していきたい。

  (2)「大阪府人権教育推進計画(案)」について

  ・ 事務局から、「大阪府人権教育推進計画(案)」について説明、報告を行った。

  ・ 意見交換


  ○ この大阪府人権教育推進計画案(以下、『計画案』)を具体化するに当たって、議題1で出た問題も関連していたと思うので、十分に組み込んでもらいたい。

  ○ 取材をしていて思うことだが、例えば神戸の震災の後も、被災者がその教訓をいかした危機管理の方策などをボランティア的に他の都市で報告されたりしている。また、児童委員などの研修に講師としていっても、委員には仕事が忙しい中、不満を持ちながらもボランティアで活動している人も多くいる。官による活動ばかりではなく、この資源についてだけは、予算を確保してボランティアやNPOなどを公募してやってみようという試みがあってもいいのではないか。本来、行政がやることとはどこか違う、というような限界を感じるものもあると思う。例えば、大阪市は、演劇のストーリーを全国から公募し、その作品を上演している。民主導の各種会議などに公務員が傍聴に行き、これまで官の委員制度による検討や議論によっても解決できなかったのはなぜか、など逆に意見をもらってくるなど、プラスになるものは吸収し、今までよりも開かれた試みをしてみて、それを点検するといったようなことを考えてほしい。

  ● 官がやらなければならないことは官が責任を持ってやるが、民から提案をもらってやるほうがより
効果的、効率的なものがたくさんあると思う。大阪府では、現在、ppp、
パブリック・プライベート・パートナーシップで、民との協働をどう進めていくか、どんな施策ができるかということについて、具体的に施策の棚卸しをしてやっていこうと研究している。人権問題に限らず、広く施策手法を考えていこうとしており、ご指摘のあったような視点をもって取組んでいこうと考えている。来年度はモデル的に
実施するという形になると思うが、今後、幅広く棚卸しをする中で人権に関わる施策についても検討したい。

  ○ この「計画案」については、人権教育に関するものであるから、非常に多方面の展開を必要とするのは分かるし、これはこれで正しいと思う。ただ、「大阪府人権施策推進基本方針」にもあるが、人権教育の基本中の基本は、初等教育である。その中で必要なものが「道徳」と司法教育の「法」である。発達年齢が高くなれば法は分かるし、法に関する教育はしなくてはならないが、発達年齢の低い初等教育、中でも小学校の場合は、むしろ道徳の意識を高めることが大事である。そうして法と道徳が両輪のごとくになっていくわけで、その道徳としての人権基礎教育が重要なのである。ここにも書いてある「人権基礎教育指導事例集」は、大変立派だと思うが、この大きな「計画案」の中に埋もれてしまっていて、「学校における人権教育の推進」の中にちょっと書かれているだけである。人権基礎教育は、大阪府全体の小学校教育の根本的なことであり、これがしっかりしていないと小学校を卒業した子どもたちに司法教育や人権教育をしても身につかない。だから、小学校の初等教育における人権基礎教育をしっかりやってくれと言ってきたし、上田委員は「人の人たる道」という
石田梅岩の言葉まで添えておっしゃった。これになぜもっとスポットをあてないのか。これを大阪の人権教育の1つの目玉とする、特色とするという形にすれば、他府県と違う特色が出せる。しかし、これなら一般的な
人権教育でしかなく従来型である。だから私はあえて、今までの人権教育は間違っているとはっきりと言った。なぜなら、人権教育というのは非常に高級なハイレベルなことを小学生に教えてもだめであり、むしろ「人の人たる道」をきちんと教えて、初等教育から中等教育へ進んだ段階で司法教育をすべきではないか。しかし、これでは人権基礎教育の重要性が埋もれてしまっている。

  ○ 国連の人権教育のための10年が終わり、第59回総会で世界プログラムの第1段階で、初等教育、
中等教育の中でどう具体化するかを決めている。だから基礎が大事であり、幼少の頃からの教育が重要となってくる。ところが、これが網羅的に示されていて、基本的な理念として十分に反映されていないではないかという意見である。

  ● 人権基礎教育については、かなり大きな柱としてとらえている。「家庭、学校、地域等における人権教育の取組みに対する支援」として、「人権教育の支援に当たっては、自己を肯定し、誇りをもって社会に関わろうとする自尊感情や、他者の立場や痛みを理解し、その権利を尊重することを学び身につけることが、社会生活を営む上での基礎となるものであること、さらには、幼少期から、生命の尊さや人の人たる道(人間として
基本的に守らなければならないルール)に気づかせ、豊かな情操や思いやりを育み、お互いを大切にする態度と人格を培うことはその後の成長に応じた人権教育を実効的なものとする上で、大きな役割を果たすものであることを踏まえた取組みが必要です」として取り上げており、学校における取組みの中では重視した柱として掲げている。

  ● 人権基礎教育については、教育委員会においても人権教育を行っていく上での基盤となる大切なものであるとの認識から、「人権基礎教育実践事例集」を平成16年度に作成し、幼稚園から小・中・高校に配布し、併せて保育所等にも参考配布した。その後、夏、冬の各市町村教育委員会のヒアリングにおいて、どのように
活用されているのか、改善すべきところはあるか、などを聴きながら進めている。加えて、市町村への
要望事項、府立学校への指示事項でも重点的な課題として取り上げ、周知を図っている。また、各市町村の教育委員会等が主催する研修でも指導主事が講師となり、人権基礎教育全般について話し、また実践の
情報交換も行うなど、この事例集が冊子として埋もれず、活用されるよう取組みを行っているところである。

  ○  そういう取組みが教育委員会だけで把握するのではなく、公開されるべきである。先ほどの事業の評価の問題とも関わってくるが、取組みの実績報告を本審議会でも行ってほしい。理念も大事だが、結果がどうなったかということも報告に入れてほしい。

  ○ 言わずもがなのことかもが知れないが、一説によると、日本の初等教育は、初等の前のほうはまあまあだが、小学校の高学年から中学校、高校にはいってきた頃からが非常に難しいといわれる。教える側も同様である。ちょうどこの時期は、法、社会のルールは自分達を裁くものだと感じ、大人が一方的に押し付けてくるものだというイメージがかなり強い。大人の偽善、欺瞞、建前だけを押し付けて、人権だってきれいごとじゃないか、現実の社会は何だと、そういう疑問を持ち始める難しい時期である。そのときに、法というのは人が与えてくれるのではなく、ルールというものがなければ自分の自由もいじめからも守れないんだということを実感させるような教育をやれるかどうかが問題である。
  今年の1月15日、法務大臣と裁判員制度関連でタウンミーティングに行ったときに、「中学生や高校生は、法なんていったって、それは人を裁くものでしかないと思っている。そうではないということをどうやってあの難しい時期に自ら考えさせるのかを考えなければ、治安も悪化するし、ドメスティック・バイオレンスなどいろいろなことがあるが、こうしたものに対応していく上で、やはりそこがベーシック中のベーシックではないか」という話がでた。
  自分を振り返っても、中学・高校時代は、一種のシュトルム・ウント・ドランクの時代で、社会の偽善性を感じる一番難しい時期なので、その時期に、法というのは決して与件ではない、大人が勝手に押し付けてくるものではないという教え方の工夫の端緒を大阪府でできれば非常にいいと思う。

  ○ 今後の基礎教育はどうあるべきかという意味で、「法」と「道徳」は両輪であるという大変大事なご指摘である。

  ○ 「計画案」の「現実に起こっている人権問題を踏まえた課題の共有・教材化」は、、様々な差別事象や
人権侵害を題材化して、そこから学ぶことの大切さを強調することが目的だと思うが、これからの人権教育を考えたときに、従来、人権教育の4つの側面の「人権についての教育」に当たるのがこれだと思う。例えば、日本という非常に豊かな社会に生きる子どもたちが、世界の貧富の差の問題、地球環境の破壊、戦争、異文化の摩擦など、ある意味での地球的な視野を持って人権問題を見るという視点が重要である。非常に身近に起こっているいじめや差別事象が教材化されたとしても、そこから出発して地球と私たちをどう見るのか、異文化との関係をどう見るのか、あるいは日本人とは一体何なのかなど、ある意味で日本を越えて、日本人でありつつも地球的な視野でものを考えたり、つながっていけるということは、やはり人権教育の中で今後強化していくべきことだと思う。そういう意味で現実に世界で起こっている、人権を制約する、あるいは不公平を作り出すといった諸問題も視野において、カリキュラムの初等教育から中等教育への流れを考えるということにしなければ、
下手をすると非常に狭いものになってしまう危険性があると思うので、そういうことのないようにしてほしい。

  ○ 「人権基礎教育実践事例集」については、どこで評価するかということが大事であり、内部で評価をしていても、外部の新しい風やアイディアが入ってこない。
  例えば、法教育の問題でも、ここ数年、弁護士会では夏休みに中学生を集め、
ジュニア・ロースクール(junior law   school)を開催している。弁護士、検察官、裁判官、被告人という役割をもって模擬裁判をやったり、例えば、ローラースケートの禁止条例を作ることについて、推進派と反対派、愛好者側と住民側というような立場に立って条例の是非を議論するといったプログラムを組んでやっているが、参加した子どもたちは結構楽しそうに議論して自分の意見を述べている。
  年齢が低ければ講義をしてもあまり頭に入らないし、身にもつかない。だから、こういうことをしながら
人権感覚や自分の意見を主張することを実践を通して身につけていくことが必要だと思う。内部での評価だけでなく、他ではどのような取組みをしているのか、内部で実施していることは果たして効果があるのかどうかということは、第三者の意見も聴いた上で、もう一度見直すことが重要なのではないかと思う。

  ○ 計画案も人権教育のための国連10年から始まっているといえる。国連10年の取組みについても、大阪府は国に先駆けて行動計画を策定した。しかし、国も大阪府もその取組みへの評価がはっきりしない。10年間に何がなされて、何がなされなかったのかという評価が見えてこない。結局できたことといえば、国ではいろいろな法律が作られ、府では条例と基本方針が作られた。国連の人権規約でも、そこに書かれた義務をどのように実施したか、その結果がどうであったかということを定期的に報告することになっている。そういう意味で、
法律や条例を作ったことで、人権教育を総合的・計画的に推進していくことが可能になったことが成果であるといえる。しかし、これだけでは次の取組みになかなか結びついていかない。結局、国連10年が世界プログラムになり、その第1段階が初等・中等制度における人権教育に重点をおくということになった。それならば、次の計画で、今までの評価に基づいてどのように組み込んでいくのかがはっきり出れば、今後の計画にメリハリができる。総合的な計画はともかく、重点項目である初等・中等教育においては、特にこういうことが必要である。
  もう一つ言いたいことは、重要な人権問題であったにもかかわらず、十分に扱われてこなかった問題に
人身売買がある。これは、国連でも取り上げられているし、非常に大きな問題であるのに、日本はどうも鈍感で、今はむしろ外圧によって取り上げなければならない状況になっている。これは外国人の問題であると同時に女性の問題でもあるが、どこにもでてきていない。人権問題として取り上げるべきである。

  ○ 「様々な人権問題」として、インターネットによる差別表現の流布が取り上げられている一方、「人権意識の高揚につながる情報の提供」の手法の一つとして、インターネットの積極的活用があげられている。今、大きな問題になっているインターネットによる様々な人権侵害に対しどう対応するのかということをもっと積極的に考えなければならない。「調査・研究機能の強化、充実に向けた取組み支援」に、調査・研究がなされているという表現があるが、そういうレベルではなく、もっと現場に対する教育をしてほしいし、インターネット関連の知識をどのように人権問題と結び付けて教えていくのかということを強調して示してほしい。

  ○ 人権教育を実際に行うのは、小学校、中学校でいえば学校の先生である。人権をテーマにした講演などで、いろいろな学校に行く機会が多くある。先生にも様々な人がいるとは思うが、先生という仕事をしている人のプライベートでの人権に対する意識については、私たちの子どもの頃と変わっていないのではないかと思うことがある。
  私の子どもの頃は、親も先生もかなりはっきりとした差別意識を持った言葉を普通に使っており、民族的な、あるいは特定の友達、生徒に対する差別的な発言をしていたが、私自身、成長していく中で、いろいろな人と付き合い、親や先生がいっていたことなどは関係がないと分かった。
  今、そうした差別意識がなくなったかといえば、一概にそうとは思えない状況がある。私自身に教育に携わる人との結婚の話がでたとき、教育者である相手方の親に、「落語家、芸人さんとは住む世界が違うのでお付き合いはやめてほしい」と言われたことがあった。先生という顔のときとプライベートの顔のときとでは随分違う人もいる。教育関係者が自分の子どもが差別されるような立場にある人と結婚したいと言ったときに、「ああ、よかったね」と言えるかどうかが非常に大事なことだと思う。こういう教育をしていこう、こう進めていこう、と言う前に、教える立場にある者が意識改革していくことがとても重要なのだと思う。

  ○ 日常の生活が差別を許さない、差別をしないという行動に裏付けされていないと、結局、信頼されない
教師になってしまう。いかに生徒に信頼される教師になるのかという問題でもあり、教育委員会でも今の意見を十分うけとめてほしい。

  ● 長時間にわたり、多くの貴重なご意見をいただき、ありがとうございました。今後の人権施策の中にいかしてまいりたい。

このページの作成所属
府民文化部 人権局人権企画課 企画グループ

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