講演3 糖尿病性腎症重症化予防 医薬連携による地域薬局を活用した患者自己管理支援プログラム 講師 茨木市薬剤師会 望月 道彦 生活習慣病患者の自己管理を高める社会システムは、人的、社会的、経済的な効果を継続的にもたらす(WHO報告書より) 生活習慣病は、患者の生活の場である地域での患者の自己管理を支援する仕組みが必要です。 患者のメリットとして本来避けられる苦痛を回避できる、良好なQOLを維持できるということがあり 茨木市のメリットとして医療費の適正化、社会生産性低下の回避ができるということがあります。 糖尿病性腎症の重症化予防は、医療費の適正化効果が大きいことが期待されています(茨木市データヘルス計画より) 医薬連携による地域薬局を活用した患者自己管理支援プログラムによる患者・医師・薬剤師の協働による生活習慣病の 重症化予防について平成29年度より、茨木市、医師会、薬剤師会で連携し、患者の自己管理を支援する事業を実施しています。 プログラム参加者は平成29年度10人、平成30年度13人です。 2型糖尿病性腎症2期〜3期で通院治療している方で、主治医が本期間での実施に問題ないと判断し、以下の基準を満たす者が対象基準です。 ・茨木市国民健康保険加入者 ・40歳以上75歳未満で、性別、治療内容は問わない ・薬局薬剤師から本プログラムを説明され、同意が得られた者 ・精神疾患を有さない者 ・がんで治療中でない者 ・重度の合併症(*)を有さない者 ・終末期及び認知機能障害のない者 *重度の合併症とは ・眼底出血あるいは出血の可能性の高い増殖前網膜症 ・レーザー光凝固後3カ月以内の網膜症 ・重篤な心血管系障害がある場合 ・高度の糖尿病自律神経障害がある場合 ・糖尿病壊疽 の5つのことをいいます。 薬剤師による支援概要について 薬剤師は、6か月間にわたり毎月1回薬局で患者と面談し、自己効力感を高めるコーチングを実施します。 患者が自ら行動目標を設定し、薬剤師はその実践を支援。 食事指導では、管理栄養士が患者の食事写真等をもとに評価し、連携する薬剤師は評価結果を患者に説明。 残薬確認では、薬の飲み残しを患者と薬剤師が一緒に数えながら、服薬を阻害する課題を解決。 薬剤師のコーチング支援の適切性は、糖尿病療養指導士や専門医が担保します。 管理栄養士と薬剤師の連携による食事に関するアドバイスについて 参加者は1日に摂取した食事(間食を含む)を薬剤師に提供し、 薬剤師は管理栄養士の評価記録を参加者にフィードバックします。 プログラムの評価について 6か月支援の評価は、3種の指標から総合的に評価します。 6か月間のプログラム終了後は、通常の服薬指導の中でフォローアップの支援を行い、 食事・運動習慣の改善や嗜好意識の改善などを評価し、長期的に、重症化予防効果を評価します。 服薬率の推移について 糖尿病内服薬の支援前の服薬アドヒアランスは89%であったのに対し、6か月後は96%でした。 特に初回アドヒアランスが52%であった1人(昼食後の服用ができず、ストレスを感じていた方)は、 配合剤による服薬の単純化がなされ、97%に改善しました。 理解度と自己効力感の変化について 理解度調査10項目、食事に対する自己効力感15項目での支援前後の調査を行った結果、知識や自己効力感(できる感)が向上していました。 平成29年度プログラムの結果について 平成29年度に支援をした10人の参加者は、すべて6か月間のプログラムを修了し、患者満足度も高く、腎症ステージも全員、維持されていました。 まとめ 平成29年度より、糖尿病性腎症重症化予防を目的として、医薬連携による地域薬局を活用した患者自己管理支援プログラムを実施し、 良好な結果が示唆された。 今後、茨木市の糖尿病患者のQOLの維持と医療費適正化を目指して、以下の3つを実施していきたい。 1 平成29年度、30年度に支援した患者のフォローアップ支援による自己管理改善の定着化 2 プログラムの継続的な実施(平成31年度以降) 3 ハイリスク患者への支援に加え、ポピュレーションアプローチの実施(健診や診療への受診勧奨) 生活習慣病患者の自己管理を継続的に高める社会システムとして、茨木市で検討した地域の医師、看護師、薬剤師、管理栄養士など、 多職種が連携する方法は有用な方策であると考えます。