講演1 糖尿病合併症に対する対応と地域連携における済生会茨木病院の取り組み     腎症重症化予防の地域医療連携について 講師 大阪府済生会茨木病院 内科(糖尿病・内分泌)西 重生氏 糖尿病治療の目標として、まずは 血糖、体重、血圧、血清脂質の良好なコントロール状態の維持、 次に糖尿病細小血管合併症(網膜症、腎症、神経障害)および 動脈硬化性疾患(冠動脈疾患、脳血管障害、末梢動脈疾患)の発症、進展の阻止、 最後に健康な人と変わらない日常生活の質(QOL)の維持、健康な人と変わらない寿命の確保につながります。 糖尿病の合併症とは? 糖尿病性細小血管障害(3大合併症)として  1 眼は糖尿病性網膜症  2 腎臓は糖尿病性腎症  3 神経は糖尿病性神経障害 が挙げられます。 大血管障害としては動脈硬化症が挙げられ、心筋梗塞症、脳梗塞症、手足の閉塞性動脈硬化症、足壊疽などが症状です。 その他、白内障や緑内障、感染症(肺炎、尿路感染症、胆嚢炎など)も糖尿病の合併症です。 透析導入患者の主要原疾患の推移では、糖尿病性腎症が増加しています。 糖尿病性腎症とは(糖尿病が発病してから、末期までは10から15年程度) 腎機能正常から微量アルブミン尿(特別に敏感な方法で測定できる)が測定されるようになり、 持続的蛋白尿(試験紙による検尿で簡単に検査できる)から腎不全、透析に至ります。 糖尿病性腎症の内科的治療とは 1 血糖コントロール 2 血圧コントロール アンギオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)など 3 塩分制限食 4 タンパク質制限食 5 薬物療法 GLP−1RA(リラグルチドなど)、SGLT2阻害薬(エンパグルフロジンなど) 6 その他 運動制限、脂質異常症治療薬、禁煙、過体重是正など 以上の6通りの治療があります。 糖尿病透析予防指導の評価について 第1 基本的な考え方 透析患者数が増加している中、透析導入患者の原疾患は糖尿病性腎症が最も多くなっており、これらに 係る医療費も増加していることを勘案し、糖尿病患者に対し、外来において、医師と看護師又は保健師、 管理栄養士等が連携して、重点的な医学管理を行うことについて評価を行います。 第2 具体的な内容 糖尿病患者に対し、外来において、透析予防診療チームで行う透析予防に資する指導の評価を新設します。 新 糖尿病透析予防指導管理料 350 点 とは ヘモグロビンA1c(HbA1c)が6.1%(JDS 値)以上、6.5%(国際標準値)以上又は内服薬やインスリン製剤を 使用している外来糖尿病患者であって、糖尿病性腎症第2期以上の患者(透析療法を行っている者を除く)に対し、 透析予防診療チームが透析予防に係る指導管理を行った場合に算定するものです。 施設基準とは 1 以下から構成される透析予防診療チームが設置されていること。  ア 糖尿病指導の経験を有する専任の医師  イ 糖尿病指導の経験を有する専任の看護師又は保健師  ウ 糖尿病指導の経験を有する専任の管理栄養士 2 糖尿病教室等を実施していること。 3 一年間に当該指導管理料を算定した患者の人数、状態の変化等について報告を行うこと。 以上の3つが施設基準となっています。 糖尿病重症化予防のために 病院内での糖尿病腎症に対する治療やチーム医療による糖尿病透析予防外来での指導は有効であるが、それだけでは地域の 透析患者の新規導入を減らすには不十分です。地域全体での取り組み、地域医療連携が必要です。 地域医療連携について 医療機関の機能を明確にし、それぞれの役割を分担しながら相互に連携を図り、切れ目のない一貫した医療を提供するものです。 高齢化の急激な進展、疾病構造の変化、健康への関心の高まり、医療が高度化・専門化したことから 良質かつ適切な医療を効率的に提供し、医療機関の連携により、限られた医療資源を有効に活用しましょう。 クリニカルパスと地域連携パスの違い クリニカルパスとは 良質な医療を効率的、かつ安全、適正に提供するための手段として開発された診療計画表。 地域連携パスとは ・急性期病院から回復期病院を経て早期に自宅に帰れるような診療計画を作成し、治療を受ける全ての医療機関で共有して用いるもの。 ・診療にあたる複数の医療機関が、役割分担を含め、あらかじめ診療内容を患者に提示・説明することにより、患者が安心して  医療を受けることができるようにするもの。 ・内容としては、施設ごとの治療経過に従って、診療ガイドライン等に基づき、診療内容や達成目標等を診療計画として明示。 ・回復期病院では、患者がどのような状態で転院してくるかをあらかじめ把握できるため、重複した検査をせずにすむなど、転院早々から  効果的なリハビリを開始可能。 ・維持期施設においても急性期・回復期病院と同様統一した治療方針・治療内容の共有を図ることができ、エリア内の治療成績の向上や  患者に提供できる医療の質の向上に繋がる。 連携パス導入・運用における効果・メリット 1 診療目標やプロセスの共有化   診療の目標やプロセスを医療機関同士で共有することにより、より効果的で効率的な医療サービスの提供が行えます。 2 平均在院日数の短縮化   急性期・回復期を通じての平均在院日数の短縮が図られます。 3 病院間の診療内容に関する説明の不一致の解消   診療内容に関する医療機関間での説明の不一致の解消が図られます。 4 患者・家族の不安の解消   急性期病院から回復期リハビリテーション施設への転院に対する患者・家族の不安・不満の解消が図られます。 5 連携医療の質と効率の向上   データベースを作成することにより、容易に目標達成状況等の分析を行うことが可能になります。   また、連携パスの見直しを通じて、連携医療の質と効率の向上につなげていくことも可能となります。 以上が、連携パス導入・運用における効果・メリットとなります。 連携パスが普及しない理由については 1 新しい取り組みに対して不安、インセンティブの欠如等   ・新しいことへの取り込みであり、手間がかかる、どうしていいかわからない。   ・多忙で、会議等に参加したり、検討・作成する時間がない。   ・既存のシステムで十分対応でき、メリットを感じない。 2 信頼関係・調整力の不足   ・他の医療機関と治療内容などを協議する素地が乏しい。   ・他職種で協議する素地が乏しい。   ・施設を超えて診療方針・治療方針を策定する調整役・調整力が乏しい。 3 標準化・均てん化への不安   ・標準化・均てん化に必要な情報(ガイドライン・エビデンス)が不足している。   ・診療の独自性・裁量幅が減少するため標準化したくない、チェックを受けたくない。   ・バリアンス(逸脱例)への対処が確立しておらず、急変時等のパスの逸脱例への説明が難しい。   ・転院基準・退院基準が不明確である。 といったことが挙げられます。 「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針(平成15年厚生労働省告示第195号)」について、 平成24年7月10日に全面改訂されました。(いわゆる「健康日本21(第2次)」) 最終目標として、脳血管疾患死亡率の減少、虚血性心疾患の減少、糖尿病腎症による新規透析導入患者数の減少が挙げられます。 日本健康会議「健康なまち・職場づくり宣言2020」の宣言2に、 かかりつけ医等と連携して生活習慣病の重症化予防に取り組む自治体を800市町村、広域連合を24団体以上とする。その際、糖尿病対策推進会議等の活用を図る。 というものがあります。 糖尿病腎症重症化予防プログラムとして、表で医師会、保険者(行政)、専門医、かかりつけ医との連携について説明されています。 健康診査データ・レセプトデータ等を活用したハイリスク者の抽出方法に関する抽出基準について プログラムの対象となるハイリスク者の抽出に当たっては、糖尿病性腎症に関する日本糖尿病学会、日本腎臓学会のガイドラインに基づく基準を設定し、 健康診査等で得られるデータと突合して抽出されるハイリスク者を対象としています。 eGFR30〜44mL/分/1.73m2の場合CKD重症度分類によるとG3bに該当する。糖尿病性腎症の病期に加え、eGFRも参考にして対象者の優先順位を決めることが望ましいです。 健診・レセプトデータで抽出した対象者に対する対応例(検査値別)は 検査値の目安がHbA1C<5.6の場合は対応不要レベル、 検査値の目安が5.6≦HbA1C<6.5の場合は情報提供レベル、 検査値の目安が6.5≦HbA1C<7.0の場合は受診勧奨(集団対応レベル)、 検査値の目安が7.0≦HbA1C<8.5の場合は医療機関連携・個別対応レベル、 検査値の目安が8.5≦HbA1Cの場合は医療機関連携・個別対応レベルです。 かかりつけ医からの腎臓専門医・専門医療機関への紹介基準について、一覧表で蛋白尿区分、原疾患、GFR区分ごとに記載されています。 かかりつけ医からの糖尿病専門医・専門医療機関への紹介基準について 1.血糖コントロール改善・治療調整 〇薬剤を使用しても十分な血糖コントロールが得られない場合、あるいは次第に血糖コントロール状態が悪化した場合  (血糖コントロール目標が達成できない状態が3ヵ月以上持続する場合は、生活習慣の更なる介入強化や悪性腫瘍などの  検索を含めて、紹介が望ましい)。 〇新たな治療の導入(血糖降下薬の選択など)に悩む場合。 〇内因性インスリン分泌が高度に枯渇している場合(1型糖尿病等)。 〇低血糖発作を頻回に繰り返す場合。 〇妊婦へのインスリン療法を検討する場合。 〇感染症が合併している場合。 2.教育入院 〇食事・運動療法、服薬、インスリン注射、血糖自己測定など、外来で十分に指導ができない場合(特に診断直後の患者や、教育入院 経験のない患者ではその可能性を考慮する)。 3.慢性合併症 〇慢性合併症(網膜症、腎症(※2)、神経障害、冠動脈疾患、脳血管疾患、末梢動脈疾患など)発症のハイリスク者(血糖・血圧・脂質・  体重等の難治例)である場合。 〇上記糖尿病合併症の発症、進展が認められる場合。 4.急性合併症 〇糖尿病ケトアシドーシスの場合(直ちに初期治療を開始し、同時に専門医療機関への緊急の移送を図る)。 〇ケトン体陰性でも高血糖(300mg/dl以上)で、高齢者などで脱水徴候が著しい場合  (高血糖高浸透圧症候群の可能性があるため速やかに紹介することが望ましい)。 5.手術 〇待機手術の場合(患者指導と、手術を実施する医療機関への日頃の診療状態や患者データの提供が求められる)。 〇緊急手術の場合(手術を実施する医療機関からの情報提供の依頼について、迅速に連携をとることが求められる)。