6ページ 第2章 よい出会いのために 1.障害のある子ども、保護者との出会いを築く 入学・入園は、子どもや保護者にとって、新たな世界への期待が大きくふくらむとともに不安な側面もあります。学校えんにおいて、子どもや保護者の期待や不安を共感的に受けとめながら「よい出会い」を築いていくことが、その後の子どもの成長や保護者との信頼関係を深めていくうえで極めて重要です。 ○よい出会いを築くためのとりくみのポイント ・子どもや保護者の思いや願いを共感的に受けとめ、早い段階から受け入れ準備に取り組む。・ ・子どもの一人ひとりの教育的ニーズに応えるために、子どもの障がいの状況を把握する。 ・体験入学・入園を積極的に実施し、子どもや保護者の不安を解消するとともに、教職員の障害に対する理解を深める。 ・指導・支援の一貫性や継続性を保障するために、保護者参画のもと、関係機関や学校えんかんとの連携を図る。 (1)入学までの過程 障がいのある子どもと保護者は、入学まで次のようなスケジュールの中で、学校えんの選択をすることになります。子どもを受け入れる学校えんでは、それぞれの段階で、子どもや保護者が、最良の選択ができるよう、願いを受けとめながら支援を行うことが必要です。 《小学校・小学部 入学の例》 6月  地域の小学校を見学 7月から支援学校見学・教育相談 8月  就学相談会     (教育委員会・関係機関・学校等) 11月 就学時健診 12月から 地域の小学校か、支援学校かの選択 支援学級か、通常の学級かの選択 1月  体験入学 4月  入学式 《高等学校・高等部 入学の例》 7月から 支援学校見学 10月  進路相談 学校説明会 11月  支援学校見学 12月  進路相談 学校を選択 2月から 出願・検査・合格者発表 4月   入学式 7ページ (2)保護者とのよい出会いを築くために オルシャンスキー(1962)は、保護者の障害受容に関して、「障害受容の過程は、段階ではなく、肯定と否定の両面を持つらせん状の過程ととらえる」と述べています。子どもが言葉を話すようになる時期、就学時などの成長・発達の時期、人生の節目ごとに保護者は悩み、不安になると述べています。保護者の気持ちの揺れ動きを理解し、その気持ちを共感的に理解し、不安を少しでも和らげるよう、保護者の気持ちに寄り添うことが、よい出会いを築くための基本です。 ○「障害受容の過程は、段階ではなく、肯定と否定の両面を持つらせん状の過程ととらえる」のイメージ図 幼稚園を卒えんし、小学校に入学する児童の保護者の提言 幼稚園や小学校に期待すること エイさん「幼稚園と小学校の連携は、なくてはならないもの」 ○1歳半健診で発達の遅れを指摘され、保健師さんの勧めで2かしょの療育教室に通いました。通うだけでも本当に大変でした。道ばたやお店などで関係なしにパニックを起こし、私はなだめるのに必死でした。いつの間にか人だかりができていたりして、通りすがりの人の視線がたまらなくイヤでした。「あのお母さん、あんなに子ども泣かして」と、その人のめが言っていたように見えました。 ○娘のパニックをおさえるのはすごくエネルギーを使うし、おさまった後はものすごく落ち込むので「いかに泣かさず過ごすか」を考えるようになっていました。 ○公立幼稚園のいいところは、地域に育ててもらえるということ、毎日のえんへの送り迎えを親が行っており、先生と話がすぐできる環境にあるということだと思います。特別な訓練や療育などはありませんが、子どもが肌で感じ、経験していくという「生活」のなかで、成長できる場所なんだな、と思いました。娘は、たくさんのお友達と触れ合い、過ごすことで、この1年間にずいぶん成長しました。〇〇幼稚園は先生どうしも仲良しでとても明るい雰囲気です。これからも、この雰囲気で子どもたちを見守ってほしいと思います。 ○卒えんの際には、小学校との連携もあり、安心でした。幼稚園と小学校との連携は、なくてはならないものだと思います。幼稚園で積み上げたものが、小学校で生かされないと1年間頑張ったことがムダになってしまいます。義務的な引継ぎで終わることなく、幼・小の先生どうしのつながりを強く希望します。 Bさん「その子らしく生きていけるような支援を一緒に考えて」 ○保健センターの1歳半健診を受診して、発達の遅れを指摘され専門機関を紹介してもらい受診することにしました。専門機関ではその頃はまだ診断名はつけられておらず、少しずつではありますが、順調に成長していたので、幼稚園に行く頃には、みんなに追いつけると思っていました。 ○幼稚園の先生方は、長男が在えんの頃より次男のことをよく知ってくれていたので、相談に行くと 「来てくれると思っていたよ。」と声をかけてくださり、迷っていた私の背中をポンと押してくれました。 ○幼稚園に入園して、担任の先生だけでなく、加配の先生、園長先生、えん務員さん、保護者の方々など、たくさんの人によって子どもの成長を温かく見守ってもらいました。 ○例えば、私の子どもは、クラスで集まって話を聞く時など、なかなかみんなの輪の中に入れませんでした。その様子だけ見てがっかりしていた私に先生は、最初はもっと離れた位置にいたこと、その距離が少しずつ縮まっていること、少し離れた場所からも何をしているか様子を見ていて少しずつ関心がでてきていることなどを教えてくださり、無理にその場所に座らせるのではなく、子どもの気持ちを大切にしてくれていることがわかり、とてもうれしく思いました。場面を見ただけでは、わかりにくいことも先生が状況を話してくれることによって、子どものことを同じ見方で見てくれていることを親が感じ安心でき、信頼することが出来るのではないでしょうか。幼稚園の個別の指導計画は親と教師が、長期と短期の目標を一緒に考え、学期ごとにどうだったか話し合い、評価する事で同じ見方で子どものことを見つめ話し合う 8ページ ことが出来ました。 ○障害のあるなしにかかわらず、すべての子どもたちはオーダーメイドな支援を求めています。そして、その子のよいところも、これから頑張るべきことも幼・しょう・ちゅうが連携して共通理解をして欲しいです。大切な子どものことだから、今までの経過をわかってもらったうえで、今の課題(問題)に向き合いたいと親は考えています。 ○私たち障害のある子どもを持つ親は、どんなに頑張っても、子どもより長く生きることが出来ません。親亡き後、この子どもたちが社会の中で生きていけるだろうか、生活していけるだろうかということが悩みであり、いつもそんな不安な思いを抱いて子育てをしています。 ○その不安のために、訳もなく涙が止まらない日もあります。家庭でどんなに頑張っても、社会性を身につけていくことには限界があります。 ○幼・しょう・ちゅうの生活の中で、子どもが、その子らしく生きていける力を、少しずつでもいいから確実に身につけていって欲しいということが、親の切実な願いです。 ○障害のある子どもたちは、よく大人から困った子どもだと言われます。でも本当に困っているのは大人ではなく、適切な支援を受けていない子どものほうです。 ○障学のある子どもたち、その子らしく生きていけるような支援を一緒に考えてください。それが親からの願いです。 ○入学までのスケジュールにあるように、保護者は限られた時間の中で、このような気持ちを整理しながら、子どもの就学を決定していかなければなりません。 ○保護者からの聞き取り内容については、生育歴、家庭や地域での生活状況だけでなく、本人の希望や保護者の子育てかんや将来の希望など、子どもや保護者の思いや願い、悩みなどをしっかり受けとめることが大切です。 ○なお、子どもや保護者の個人情報については、個人のプライバシー保護の観点から、適切に取扱うことが必要です。 ≪聞き取る内容例/小学校の例≫ ○子どもの願いや様子 学校生活への願い、日常生活の状況(コミュニケーションの手段、身辺自立の状況等) 本人の生かしたい良さ、興味・関心、学校生活において配慮すべき事柄家庭や地域における生活の様子、社会性や対人関係 ○障がいの状況 生育歴、保育歴、療育歴、医療や療育機関利用状況、救急対応、利用している福祉用具等 ○保護者の願い 子育てかん、将来の生活についての希望、保護者の学校への要望 9ページ (3)体験入学・入園のすすめ 入学・入園が近づいてくると、子どもや保護者の不安を和らげるためにも、また、学校えんが、子どもの状況を理解するためにも、体験入学・入園が効果的です。 その際、子どもの自立をめざして、登下校についても集団登校や近所の子どもたちと登校・登えん体験してみることや、施設設備の改善や給食等の細かな配慮についても、保護者と一緒に具体的に検討することが大切です。 ○表 ・時期  体験入学・入園前  実施する内容 共通理解を図るため、体験を行う学校えんとの打ち合わせ会を実施する。 目的の確認(学校えんに慣れる、普段と違う環境への適応の様子を見る等) 個々の子どもの障害について理解を深める。 「個別の教育支援計画」及び「個別の指導計画」を活用する。 ・時期 体験入学・入園児時 実施する内容 子どもの様子を見る。 どんなことに、積極的に参加しているか。 どんなことに、とまどっているか。 ・時期 体験入学・入園後 実施する内容 ・入学・入園に向けての打ち合わせ会を行い、次のような点について検討する。 新しい環境で子どもの様子がどうであったか。 どのようなことが不適応(不自由)の要因になっているか。 ・入学・入園後の配慮すべき事項を検討する。 2.関係機関や学校園との連携 (1)関係機関との連携 障害のある子どもの受け入れにあたっては、就学相談を担当している市町村教育委員会との連携が必要です。 また、障害のある子どもたちを支援する公的関係機関として、次の4つの機関があります。障害のある子どもたちの多くは、これらの公的関係機関で発達相談や支援を受けながら幼稚園・保育所や療育施設にかよっています。この他、民間療育施設に通所している場合もあります。 《各市町村立の施設》 ●保健センター 3ヶ月健診、6ヶ月健診、1歳半健診、3歳児健診を行い、障害のあることが分かると、その後定期的に発達相談を実施しています。 ●家庭児童相談しつ 18歳までの子どもの相談を実施しています。 《大阪府立の施設》 ●保健所 しんたい障害や疾病等をともなう障がいのある子ども等に対する専門的な支援・相談、医療費公費負担等をおこなっています。 ●子ども家庭センター 障害のある子どもの発達相談や発達検査、療育手帳の発行等をおこなっています。 (大阪市・堺市を除く) 子どもに関する情報を得ようとする場合は、「個人情報保護」の観点から、保護者を交えて、その了解を得ながら連携を進める必要があります。 10ページ (2)学校えんかんの連携 学校や幼稚園に入学・入園する際、障害のある子どもを含めたすべての子どもとその保護者は、大きな期待をいだく反面、それまでの生活環境との変化が生じるなどにより、大きな戸惑いを感じます。このことは、特に、障害のある子どもにおいては、顕著です。 この状況を解消するため、関係する学校えんかんにおいては、第一に子どもの障害の状況を共通理解したうえで、指導・支援の方法や内容の継続を図る等、公立・私立を含めた学校えんかん連携を進めることが大切です。 そのためには、日ごろから教職員どうしや子どもどうしのつながりをつくり、一人ひとりの子どもについての情報や個に応じた指導・支援方法等に関する意見の交換をするなど、公私かんを含む学校えんかんの関係づくりが重要です。また、保育所や療育施設との連携も大切です。 事例 入学式に向けたエイ小学校のとりくみ 自閉症の子どもの場合、新しい環境に出会うと自分の経験のパターンに頼ろうとするため、今までに経験のない場面がなかなか理解できず、緊張や不安を感じることがある。特に小学校入学式への参加は、新しい場所や新しい人々との初めての出会いであり、当日や当日までの支援が大切である。そのため、エイ小学校では次のような取組みをおこなっている。 【入学式までに】 ・事前に担当者と保護者が話し合い、本人に予定を具体的に説明するなど参加方法を伝えておく。 ・小学校で作成した式に登場する人の顔写真や終了時刻を書いたスケジュールカードを用いて、保護者の協力のもと、本人に知らせておく。 ・前日の予行へ保護者とともに参加できるよう調整し、会場の雰囲気などを経験させておく。 【入学式当日】 ・座席については、出入りがしやすいよう端の席を確保する。 ・本人が安心できるよう、同じ幼稚園で仲の良かった子どもの座席を横にしておく。 ・スケジュールカードを座席の前に掲示し、式の流れが本人に視覚的にわかるようにする。 ・放送での一斉指示が多いので、支援学級担任が横につき、本人がする動作の見本を示す。 ・支援学級担任が、残り時間や進行状況をカードで伝え、見通しを持たせる。 ・式途中で、本人が落ち着けなくなった場合はトイレに行き、気分転換を図る。 11ページ 事例 B市における入学に向けての幼稚園のとりくみと小学校の受け入れ ○障害のある子どもの受け入れにおける幼稚園と小学校の連携のイメージ図 ○連携の年間モデル 6月 ○幼稚園の子どもが小学校を訪問し、学校見学と授業体験。 ◇管理職かんで情報交換。 8月 ◇小学校の校長と教職員が家庭訪問をおこない、子どもの様子を聞く。 ◇幼稚園の教職員が、就学に備えて小学校を見学し、指導方法等について研修。 9月 ○小学校を訪問し、遊具体験や施設見学。 ◇小学校の校長と教職員が、幼稚園を訪問・参観。 11月 ◇継続して小学校教職員が幼稚園を訪問。子どもの様子を参観し支援の方法を検討。 2月 ◇入学式までに、幼稚園教職員が保護者とともに学校訪問を数回実施。 3月 ○幼稚園児と1年せいとの交流実施。 入学式前 ○前日、本人と保護者で小学校を訪問。入学式の式場を見学し、当日に、不安なく参加できる よう説明を受ける。 入学式  ○当日は小学校支援学級担当の付き添いで入学式に参加。 ◇幼稚園教職員も入学式に参列。 ・入学式に備えて、小学校では入学式の8カ月前から準備を始めた。 ・小学校では、対象の子どもへの理解を深めるために、幼稚園での環境の工夫や教材について情報を求めたり家庭訪問をするなどして、具体的な支援を幼稚園や保護者と一緒になって考えた。 ・特に効果的だったのは、幼稚園における「個別の指導計画」が細かく書かれており、それを中心資料にして体験入学や合同会議を重ね、入学後の指導に活かせたことだった。 ・入学式にさいしては、校門に入ってからの略図やスケジュール、登場人物(校長先生、来賓、   担任等)、お母さんがどこにいるかなど、本人にわかるように事前に示した。本人は入学式当日、安心して参加することができた。 12ページ 3.環境整備について  (1)配慮すべきこと ・子どもの障害の状況に応じた施設設備の改善ならびに必要備品をそろえるためには、保護者や本人の教育的ニーズを十分受けとめるとともに、在籍している学校えんと関係機関とが連携を図ることが重要です。 ・学校えんにおいては、障害のある子どもの入園入学に向けて、校えん内委員会等が中心となり、入園入学前の早い時期から速やかに準備を進める必要があります。 ・学校施設や設備、補助機器、教科用図書(P13で後述)、教材教具等について学校の設置者である教育委員会等と連携し、事前に準備を進めることが大切です。 ・障害のある子どもが十分な教育を受けられるために、どんな配慮や工夫が必要か、何を優先して配慮・整備するかについて検討・工夫することが大切です。 「合理的配慮」について 「合理的配慮」については、障害者基本法(平成23年一部改正)に「なんびとも、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない。」「社会的障壁(日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう)の除去は、それを必要としている障害者が現に存し、かつ、その実施に伴う負担が過重でないときは、それを怠ることによって前項の規定に違反することとならないよう、その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならない。」と示されています。 (2)環境整備の具体例 「ともに学び、ともに育つ」学校づくりのために、子どもの障がいの状況や教育的ニーズをふまえ、学校園では様々な工夫により、配慮や環境の整備が行われています。 1全盲の子どもが学んでいる学校の例 <学習機器の利用> 点字プリンター 点字タイプライターの写真 2医療的ケアを受けている子どもや肢体不自由の子どもが学んでいる学校の例 <医療的ケアを安全に行うための設備の整備> 導尿を行うためのトイレスペースの確保の写真 <移動のための配慮>  手すりの設置の写真   階段昇降機などの整備の写真 13ページ 3支援学級の教室整備 <学習スペース> 学習ブース(学習に集中しやすいようついたてで仕切る)の写真 <教室の構造化> 教室を使用目的に合わせて学習スペースと生活的スペースに仕切る写真 (3) 教科用図書等の準備 1拡大教科書・点字教科書について 視覚に障害のある子どものために、検定教科書の文字や図形を拡大して教科書を複製した「拡大教科書」と、点字により教科書を複製した「点字教科書」があります。「拡大教科書」「点字教科書」は、これまでも一般図書として無償給与されていました。 また、平成16年からはしょう中学校の通常の学級に在籍する弱視の子どもに対しても、無償給与が実施されました。 さらに、平成20年6月に教科用特定図書等普及促進法が成立し、「拡大教科書」「点字教科書」の無償給与が法制化されました。 2学校教育法附則第9条に基づく教科用図書について 子どもの障害の状況に応じ、検定教科書(対象児童生徒の学年より下の学年の検定教科書も使用できます)、あるいは文部科学省著作教科書から教科書を選びます。 しかし、上記の教科用図書では子どもの学習に適さないと判断した場合は、学校教育法附則第9条に基づく教科用図書として一般図書を選ぶことができます。これらの教科用図書の見本本については、大阪府教育センターに展示されています。 3情報通信技術の活用について 支援を必要とする子どもたちについては、それぞれの障がいの状態や程度、必要とされる支援の内容が一人ひとり異なっており、障がいの状態や特性等に応じて、情報通信技術を活用することは、各教科や自立活動等の指導において、その効果を高めるためには極めて有用です。 情報通信技術には、ボランティア団体等が作成している「マルチメディアDAISY版教科書」(※)などがあり、読むことに困難のある子どもにとっては有効なツールです。 ※マルチメディアDAISY版教科書とは、通常の教科書と同様のテキスト、画像を使用し、テキストに音声をシンクロ(同期)させて読むことができるものです。 ユーザーは音声を聞きながらハイライトされたテキストを読み、同じ画面上で絵をみることもできます。