資料1 大阪府障害を理由とする差別の解消の推進に関する条例施行状況の検討について(提言 案)   1 はじめに  大阪府(以下、「府」という。)では、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(以下、「障害者差別解消法」という。)の施行に伴い、障がいを理由とする差別のない、共に生きる大阪の社会をめざし、平成28年4月に「大阪府障害を理由とする差別の解消の推進に関する条例」(以下、「条例」という。)が施行された。  平成30年度をもって条例施行から3年が経過したことに伴い、令和元年度、条例附則の施行後3年を目途とした見直し検討規定を踏まえ、知事の附属機関である「大阪府障がい者差別解消協議会」(以下、「解消協」という。)において、条例の施行状況を検討し、課題や対応を整理したうえで、条例の運用上の取組みや必要な方策について意見を取りまとめた。  具体的には、計6回にわたり、下記項目について検討をおこなった。  項目1 相談及び紛争の防止又は解決のための体制の整備  (1)広域支援相談員の機能  (2)府による市町村への助言等の機能  (3)大阪府障がい者差別解消協議会の機能  (4)合議体の機能  項目2 啓発活動  項目3 事業者による合理的配慮の提供  検討内容をここに整理したので、府におかれては、本提言を踏まえ、条例の施行状況について検討を加え、その結果に応じて所要の見直しを行っていただきたい。  なお、条例の施行状況の検討にあたり、解消協では、府で実施された、府内事業者1,000社を抽出したアンケート(以下、「事業者アンケート」という。)や、事業者団体及び障がい者団体へのアンケート(以下、「団体アンケート」という。)の結果を踏まえ、事業者による合理的配慮について広く意見を聴いたうえで検討を行った。   2 大阪府障がい者差別解消条例施行状況の検討について  項目1 相談及び紛争の防止又は解決のための体制の整備  (1)広域支援相談員の機能について  条例第7条第1項規定に基づき、府には、平成28年4月より広域支援相談員が配置されている。相談員の職務については、同条第3項において、以下の3点について規定されている。  ア、相談機関(相談事案に対応する市町村の機関)における相談事案の解決を支援するため、必要な助言、調査及び相談事案に関する関係者間の調整を行うこと。  イ、障がい者等及び事業者からの相談に応じ、相談機関と連携して、必要な助言、調査及び相談事案に関する関係者間の調整を行うこと。  ウ、相談機関相互の連携の促進を図り、並びに相談事案に係る情報の収集及び分析を行うこと。      府は、平成30年度に設置した「大阪府障がい者差別解消条例運用状況に関するワーキング」で整理した「平成30年度大阪府障がい者差別解消条例に関する運用状況について」(以下、「平成30年度条例運用状況の整理」という。)で、以下のとおり自己評価している。  「相談員は、条例上の対応の対象範囲外の相談(障がい者差別につながりかねない不適切な行為や、障がい者等が不快・不満に感じるような行為等)にも、当事者の思いに寄り添いながら丁寧に対応してきた。また、相談事案に関し、組織内で情報の共有化を図るための日報の作成や、定期的なミーティングによる事例検討など、相談員間の連携強化により、円滑な相談対応と対応力の向上に努めてきた。条例施行後3年が経過し、このような取組みや事例の蓄積、合議体からの助言により、相談員の対応力は向上しつつある。今後、相談事案の増加と複雑化・多様化に伴い、より高度な専門性や調整力を有する人材の確保と育成を図っていく必要がある。」      解消協では、府の自己評価を踏まえたうえで、以下の2点について検討を行い、広域支援相談員が障がい者差別解消をすすめるうえで、その職務を果たし、機能してきたかを整理した。  ア、広域支援相談員が果たしてきた機能・役割について  広域支援相談員が受け付けた相談への対応状況などから、相談員は有効に機能していると考えるが、相談員の入れ替わりに伴い、相談対応の質の低下や変化が懸念される。  府の相談対応の質が担保できる仕組みとして、相談員の体制整備の充実が求められる。今後も相談員同士の交流や事例検証の取組みを継続されたい。  また、相談対応の質の担保として、合議体による広域支援相談員への助言機能に加え、相談員OBによるスーパーバイズの仕組みを設けることが考えられる。  イ、広域支援相談員の相談対応における限界について  障害者差別解消法が、行政措置によって実効性を確保する行政法的アプローチを採用していることから、行政が紛争解決を行うことにはそもそも限界がある。       以上2点について、以下、二通りの意見があった。  (ア)広域支援相談員が行う調査協力に係る義務規定を新たに追加することで、相談員が紛争解決の機能を有効に果たせるようにすることが求められる。ただし、規定は、事業者を指導したり、調査に協力しない場合に罰則を適用するものではないことや、事業者に過度な負担が及ばないよう、調査対象等を明確に規定することが必要である。なお、条例第5条(事業者に対する府施策への協力に係る努力義務規定)は、極めて一般的・理念的で原則的なルールを規定したものである。 (イ)事業者が広域支援相談員の活動に非協力的であるがために解決が見込めない場合でも、あっせんでの紛争解決の仕組みが条例に規定されていることから、調査協力義務規定は不要である。また、規定には法的効果がなく、知事による勧告・公表のように実効性を担保するものではない。  (2)府による市町村への助言等の機能について  条例第4条第1項では、府は市町村との適切な役割分担のもとで相談体制を整備するものと規定し、市町村との連携で実施することとしている。具体的には、府は市町村に対し、情報の提供、技術的な助言や必要な支援を行い、住民に身近な相談窓口である市町村において相談事案の解決が図られることを基本としている。    府は、平成30年度条例運用状況の整理で、以下のとおり自己評価している。 「府は、市町村に対し、相談への対応姿勢等についての情報伝達を積極的に行うとともに、相談対応力の向上に向け、市町村の個々の状況を踏まえた意見交換の場を設定するなど支援に取り組んできたが、事例や対応ノウハウの蓄積が十分とは言えない。」    解消協では、府の自己評価を踏まえたうえで、以下の2点について検討を行い、広域自治体である府が市町村に対する助言等の機能を果たしてきたかを整理した。  ア、府と市町村との関係について  イ、市町村との連携や支援のあり方について  広域支援相談員が受け付けた相談者の内訳として直接相談が非常に多い(約8割)ということは、各市町村の相談窓口が十分に機能していない可能性があり、市町村での相談体制の更なる整備が求められる。具体的には、相談支援など障がい福祉サービスを行う様々な事業者・関係機関と連携した取組みなどが考えられる。  府は、市町村に対して専門的な助言や好事例の提供、市町村同士の交流の機会、特に相談担当者の交流や連絡会議などを通じて、市町村の取組みの格差を埋め、すべての市町村で取組みの促進が図られるよう、市町村支援等の方策を充実させていく必要がある。  また、府が市町村の課題等を把握し、解消協の場で市町村への支援や連携の仕方などを市町村とともに検討することも考えられる。  一方で、障がい者にとっては、顔見知りである市町村職員には相談しにくいという場合も想定されるため、府の広域支援相談員にも相談できる仕組みは継続すべきである。  (3)大阪府障がい者差別解消協議会の機能について  府では、条例第8条第1項に基づき、障がいを理由とする差別の解消の推進に関して審議するため、障がい者、事業者、学識経験者等で構成する解消協を知事の附属機関として設置している。  解消協は、条例施行後、毎年数回程度開催し、相談体制等の整備や相談対応状況、啓発の取組みなどについて審議をしている。また、5人の構成員で構成し、あっせんや広域支援相談員への助言という機能を担う合議体を解消協の下に組織している。    府は、平成30年度条例運用状況の整理で、以下のとおり自己評価している。  「合議体は、5人の構成員で構成し、あっせんや相談員への助言という機能を担う一方、解消協は、障がい者差別解消の推進に関する事項に関する協議等の機能を有しており、それぞれが異なる役割を果たしてきた。また、解消協は、法に規定される「障がい者差別解消支援地域協議会」(以下、「支援地域協議会」という。)の機能も兼ね備えており、この機能の一部は、合議体による助言・検証により果たしてきた。今後、相談員に対する助言を担う合議体、その母体となる解消協が、支援地域協議会としての機能を果たすために、どのような役割が求められ、その責務をどのように果たしていくことができるのかを検討することが必要である。」    解消協では、府の自己評価を踏まえたうえで、以下の点について検討を行い、解消協がその機能、特に支援地域協議会としての機能を果たしてきたかを整理した。  ア、支援地域協議会としての機能について  支援地域協議会としての機能を有する解消協は、他都道府県の支援地域協議会と比較すると事例の共有はすすんでいる。  今後は、府政に対して意見を述べるだけではなく、法の支援地域協議会設置の趣旨を踏まえ、解消協に参画する構成員が、地域の差別解消のネットワークとつながり、地域や業界で起きている埋もれた差別事案が紛争に至る前に、行政と連携しながら、意識啓発などを通じて解決できるような取組みが求められる。  また、解消協の運営のあり方として、グループディスカッション等により、障がい種別や分野、場面ごとに、地域や広域、障がい者や事業者の立場から様々な視点で障がい者差別解消に向けてどう取り組んでいくかを検討することも必要である。    (4)合議体の機能について  府では、条例第8条第5項に基づき、解消協委員及び専門委員から選任される合議体を組織し、同項に基づき、以下を取り扱うこととしている。  (ア)法第8条第1項に規定する事項(事業者による不当な差別的取扱い)に係る紛争事案を解決するためのあっせん  (イ)広域支援相談員が行う職務に関する助言  合議体は、これまであっせんに至った紛争事案はないが、もう1つの機能である「助言・検証実施型合議体」を開催し、広域支援相談員への助言を行うとともに、条例に位置付けられた合議体の職務の一つであるあっせんが効果的に運用できるよう、あっせんの求めがあった場合を想定しながら、合議体での検討をすすめてきた。  府は、平成30年度条例運用状況の整理で、以下のとおり自己評価している。 「合議体における委員の多様な議論の積み重ねと個々の事例を深く掘り下げた分析は、府の障がい者差別解消の取組みの推進に向けた貴重な財産となっている。一方で、相談事案の複雑化・多様化などを背景に、広域支援相談員が相談対応にあたって合議体からの即時助言を求めるケースの増加が想定され、今後、広域支援相談員の対応力の強化に向け、合議体による助言や検証の取組みを継続しつつ、広域支援相談員への助言を一層有効に機能させていくための手法の検討が必要である。」  解消協では、府の自己評価を踏まえたうえで、以下2点について検討を行い、合議体がその機能を果たしてきたのかを整理した。  ア、あっせん実施型合議体について  あっせんは、障がい者、事業者双方に建設的対話を促す場として非常に効果的である。  当事者が話し合いで合意できない場合、合議体が解決策の案を作り、双方がその案で合意すれば、それがあっせん案になる。このことにより、広域支援相談員が行う当事者間の調整よりも、一歩踏み込んだ紛争解決が可能になる。  あっせんの対象に合理的配慮の不提供を加えるべきかについては、広域支援相談員による対応には限界があることから、努力義務であるか、法的義務であるかを問わず、合理的配慮の不提供をあっせんの対象に加えるべきであるという意見があった。  しかし、合議体によるあっせんが知事の勧告・公表という事実上の制裁を伴うことから、努力義務である合理的配慮の不提供をあっせんの対象にすることは難しい。  よって、合理的配慮の不提供をあっせんの対象にするためには、合理的配慮を法的義務化する必要があると考える。  なお、現行においても、合理的配慮の不提供により、不当な差別的取扱いに至る事例はあっせんの対象にすることとしている。  イ、助言・検証実施型合議体について  合議体は、事案に応じて、解消協委員・専門委員から会長が指名する5名をもって構成することで様々な意見を踏まえながら判断の安定性を確保する仕組みである。基本的な考え方を委員間で共有することは必要だが、今後も現行の仕組みのまま、合議体を運用することが望ましい。  項目2 啓発活動について  (1)府民の障がいに対する理解の促進について  府では、条例第1条及び第6条により、障害者差別解消法第15条に規定する啓発活動を、相談及び紛争の防止又は解決のための体制の整備とともに車の両輪の一つと位置付け、取り組んできた。  府は、平成30年度条例運用状況の整理で、以下のとおり自己評価している。  「府では、障がいを理由とする差別の解消は、全ての府民が共に社会の一員として解決すべき社会全体の課題であるとの認識のもと、障がいを理由とする差別の解消について、府民の関心と理解を深めるためのガイドラインの作成や、障がい者団体や関係団体、行政が連携した「大阪ふれあいキャンペーン」など、様々な啓発活動等に取り組んでいる。多様な主体との連携による周知機会の創出や、府民の行動につながるよう企画内容の充実が重要であり、今後も、府民の障がいや障がい者に対する理解を一層深めるために、関係機関等と連携をすすめるとともに、より効果的な周知・啓発手法の検討が求められる。」      解消協では、府の自己評価を踏まえたうえで、以下の点について検討を行い、これまでの啓発活動のあり方を整理した。  ア、府民の障がいに対する理解の促進について  府民の障がい理解が十分ではないと考えられる。解消協が有する支援地域協議会の機能を発揮しながら、障がい者差別解消に向けて、地域と連携しながら、啓発のあり方を考え、取り組んでいくことが必要である。  子どものころから障がい理解や共生社会づくりの意識を醸成することが必要である。学校教育は、障がい理解の促進に大きな役割を持つことから、教育と連携した啓発の取組みがより一層求められる。具体的には、学齢期から発達段階に応じた障がい理解に関する主体的・体験的な学習をすすめることや、障がい者と接する機会を増やしながら、保護者や地域の方とともに障がい理解の促進につながる取組みを行うこと、子どもたちの学びを深めるための教員への研修等の機会の充実などが考えられる。  また、障がい者に対しても、合理的配慮の概念等の法理解に関する更なる啓発が必要である。  (2)事業者に対する啓発について  府は、平成30年度条例運用状況の整理で、以下のとおり自己評価している。  「条例施行を見据えてガイドラインを策定するとともに、施行後、新たな取組みとして、障がい者を講師として事業者に派遣し、障がい理解を深める出前講座の実施や、汎用性のある研修プログラム(DVDなど)の開発・周知による事業者の研修実施の支援により、事業者の障がい理解や差別解消に向けた自主的な取組みの促進を図ってきた。しかし、合理的配慮の概念は社会全体に十分に定着しているとは言えず、建設的対話を通じた合理的配慮の提供の必要性を広く社会で共有し、浸透させることが重要である。今後も、事業者に対するガイドライン等を活用した啓発とともに、事業者が自ら障がい理解を深める取組みを行うような支援の充実が求められる。」  解消協では、府の自己評価を踏まえたうえで、以下の点について検討を行い、事業者による合理的配慮の概念の浸透状況や配慮の実施状況、事業者に対する啓発の取組みへの評価と今後求められる取組みを整理した。  ア、事業者における合理的配慮の概念の浸透状況について  事業者アンケート結果から、事業者の障害者差別解消法(合理的配慮の概念)の浸透度は不十分であると考えられるが、過重な負担がないにもかかわらず配慮を行わないことは差別であるという認識は浸透していると言える。  障害者差別解消法・条例施行後、努力義務であるため合理的配慮を提供しないという事業者は見受けられず、大半の事業者は、努力義務であっても社会的責任としてできる限り対応していると考えられる。  イ、事業者に対する啓発の取組みへの評価と今後求められる取組みについて  障がい者に接する現場の従業員に障害者差別解消法の理念等をどう浸透させるかが課題であり、今後は、解消協が有する支援地域協議会の機能(ネットワーク)を活用しながら、浸透方法を検討していくことが求められる。  具体的な手法として、事業者が、合理的配慮という抽象的でわかりにくい概念や配慮の望ましい事例を具体的に理解し、取り組めるよう、事例検討を通じた研修への支援が考えられる。また、解消協で、分野ごとの差別事例を検証しながら、差別が起こらない環境や構造をどう作っていくかを検討し、業界に啓発していくことが考えられる。併せて、飲食や公共交通利用時など場面に応じて対象を絞った啓発物の作成や、合理的配慮の提供にあたっての補助制度の創設、合理的配慮の提供に積極的に取り組んでいる事業者の表彰制度なども考えられる。    項目3 事業者による合理的配慮の提供について  条例制定にあたり、大阪府障がい者施策推進協議会に設置した差別解消部会において、事業者による合理的配慮の提供について、以下のとおり整理している。  (ア)事業者も一方の当事者であり、同じ共生社会をめざす一員という認識で取組みをすすめる必要がある一方で、中小企業、とりわけ規模の零細な企業にとって、過重な負担とならないよう経営状況等にも配慮した慎重な検討を求める意見がある。  (イ)特に、新しい概念である合理的配慮は、法律上、努力義務とされている趣旨を踏まえつつ、零細企業を含む事業者に対し、広く概念自体の周知と十分な浸透が重要であることから、事業者の納得を十分に得ながら、一歩一歩、差別解消の取組みを社会に定着させていくことが大事である。  以上の部会での整理を踏まえ、府では、事業者による合理的配慮の提供は障害者差別解消法と同様、努力義務としている。  なお、条例附則において、「法第8条第2項に規定する配慮の実施状況について特に留意するとともに、必要があると認めるときは、この条例の施行後3年以内においても速やかに当該配慮の義務付けの在り方も含めた見直しを検討するものとする。」と規定されている。  解消協では、上記条例附則の規定に基づき、事業者による合理的配慮の義務化の是非を整理した。  ア、事業者による合理的配慮の義務化の検討について  (a)合理的配慮の義務化の意義や社会的・法的効果  条例制定にあたっては、合理的配慮が法律上、努力義務とされている趣旨を踏まえつつ、零細企業を含む事業者に対し、広く概念自体の周知と十分な浸透が重要であることから、条例においても努力義務とした経緯がある。  この経緯を踏まえたうえで、義務化の是非の検討にあたり、義務化する根拠を以下のとおり整理した。  障害者権利条約では、合理的配慮は、公民の区別なく、法的義務と定められていること。  障害者差別解消法では、行政機関等は合理的配慮の提供を義務と規定されているが、同じ内容のサービスを提供するにあたり、実施主体が行政機関か事業者かで、配慮を区別すること自体が極めて不合理であること。  努力義務である現状では、建設的対話の働きかけが困難になる事例が想定され、合理的配慮の提供に不可欠な建設的対話を促すためには努力義務では極めて不十分であること。  SDGsに基づいた取組みや大阪・関西万博に向けて国際基準を満たした共生社会づくりが求められていること。  障害者差別解消法の理念等の浸透と障がい者差別解消のためには、啓発以外での仕組みや取組みの充実が求められていること。     なお、整理にあたっては、以下の点も考慮して検討した。  合理的配慮の概念が浸透していることは、義務化の前提条件ではない。  他都道府県や茨木市では条例により義務化しているが、特段の支障や課題は生じていない。  障害者差別解消法では、地方の実情に応じて、条例による「上乗せ」「横出し」を認めている。  事業者アンケートの結果では、義務化への賛成意見が8割程度である。      また、義務化による効果については、以下のとおり整理できる。  事業者が合理的配慮の提供を社会的責務として受け止め、建設的対話への姿勢、障害者差別解消法の理念等の理解が深まるという社会的効果があること。  広域支援相談員による調整以外に、あっせんという、建設的対話を促すための紛争解決の仕組みが整う法的効果があること。    ただし、法的効果については、上述のとおり、あっせん対象になるという点で義務化の意味はあるが、現行においても合理的配慮の不提供による不当な差別的取扱いはあっせんの対象としている。また、努力義務であっても行政指導の対象であり、それにより紛争解決の方法を見出すという条例の基本的な考え方は、努力でも義務でも変わらないため、義務化による法的効果は必ずしも大きいとは言い切れない。  このことから、義務化の効果としては、障害者差別解消法の理念等の浸透という啓発効果(社会的効果)に重点があると考えられる。     なお、あっせんを含めた紛争解決については、以下の点を考慮する必要がある。  (ア)義務化により合理的配慮もあっせん対象に加わることになるが、あっせんの効力の及ぶ範囲と限界について、解消協の認識を一致させておくべきである。  (イ)府条例に規定する紛争予防や解決の仕組みは、府が当事者間の建設的対話を促し、柔軟・現実的な方法を見出していくものであり、過重な負担に該当するか否か、合理的配慮の不提供か否か、法的責任を事業者に問うか否かの判断を行うものではない。  また、条例制定時に、障害者差別解消法を補完するものとして合理的配慮を努力義務とした以上、条例改正により法的義務化する立法趣旨を明確化し、府民に説明することが求められる。    (b)合理的配慮の義務化による事業者への影響  事業者には、義務化にあたって合理的配慮の提供の範囲や過重な負担の基準等に関する不安や懸念の声がある。  義務化により事業者に影響が生じるのか、義務化すると仮定した場合に、事業者の不安や懸念に対しどのような対応をすべきかを検討した。    事業者への影響については、過重な負担のない範囲での合理的配慮の提供という前提条件の規定があることから、義務化により事業者の負担が大きくなるということはないと結論づけられる。   しかし、事業者の不安や課題として、過重な負担の基準が不明確であることや、公平性・安全性との整理、現場での柔軟なルール変更の難しさなどが挙げられることから、義務化の検討にあたっては、課題等を解消するための具体的な取組みを検討し、実行していくことが求められる。  事業者が最も不安や課題を感じている点が、合理的配慮や過重な負担という概念が極めて曖昧なことである。  この点については、解消協においても、これまでの事例から、若干ではあるが、障がい者が、合理的配慮ではないと考えられることを、合理的配慮として申し出る例が見られるという意見があった。合理的配慮とは障がい者の機会平等の確保のための変更や調整であり、配慮や思いやり、手伝いという概念ではない。合理的配慮は、事業者による「善意」とは異なるものであり、具体的に合理的配慮とは何かということを社会全体に周知していくことが必要である。  過重な負担については、業種や規模、状況や場面等でその都度異なることから、基準を明確に示すことは困難である。そのため、行政には、過重な負担も含め、合理的配慮に関する事例を積み重ね、事例ごとの考え方を事業者に対し周知することが求められる。  事業者アンケートや団体アンケートの結果から、合理的配慮と、不特定多数の障がい者を主な対象として行われる事前的改善措置(環境の整備)とを混在して捉え、義務化に慎重な意見を述べている事業者がいる。  合理的配慮と、法で「実施に努めること」とされている環境の整備は異なる概念であることを、事業者により一層、啓発していくことが必要である。  ※事前的改善措置(環境の整備)  いわゆるバリアフリー法に基づく公共施設や交通機関におけるバリアフリー化、意思表示やコミュニケーションを支援するためのサービス・介助者等の人的支援、障害者による円滑な情報の取得・利用・発信のための情報アクセシビリティの向上等をさす  上記のほか、事業者が合理的配慮の提供にあたって課題と感じる点として、公平性・安全性や現場での柔軟なルールの変更が挙げられる。  これらは、過重な負担とは考えにくい合理性の問題であり、公平性に関しては、障がいによる社会的障壁を除去するために合理的配慮を行い、障がいのない人と機会平等を確保すること、安全性に関しては抽象的・一般的な安全上の理由だけで障がい者の社会参加の機会を奪ってはならないことの理解が必要となる。  今後も、事例ごとに対話を積み重ね、その事例をガイドラインにより提示し、周知していくことが求められる。  なお、事業者のなかには、義務化について国の動向を踏まえた慎重な対応を求める意見がある。この点に関しては、事業者の姿勢から建設的対話がすすまなかった事例が現にあることを踏まえると、努力義務のままでは実効性が担保されないことから、国の動向を待たずして義務化し、建設的対話をすすめるための取組みを具体的に検討していくことが考えられる。  (c)義務化に伴う条例上の仕組みや取組み  (i)罰則規定について  罰則規定については、障害者差別解消法が事業者の自主的な取組みを促していること、建設的対話による解決を図ることを踏まえた取組みにそぐわないこと、罰則規定により事業者の活動に過度な制限をもたらす懸念があること、条例で知事の勧告・公表という実質上の制裁措置が規定されていることから、現行条例には規定していない。  知事の勧告・公表によってもなお、問題が解決されず、著しく公益に反する事態が具体に生じた場合には検討の余地があるが、現時点ではそのような事態はなく、今は社会に理念等を啓発していくことが重要である。  罰則という手法ではなく、障がい者が社会参加できるようにするために今後何が必要かを検討することが権利救済のあるべき姿であり、罰則規定は現時点では不要である。  なお、今後、行政罰を規定する必要性が生じた場合は、再度検討してはどうかとの意見があった。  (A)条例に基づく取組みについて  義務化にあたっては、事業者任せにすることなく、府として状況に応じた柔軟な支援・対応を行うことを内外に示すことが必要である。  具体的には、事業者による合理的配慮の提供を直接・間接に支援する仕組みの整備が必要である。当面は府による広域的な仕組みの構築が必要となるが、将来的には基礎自治体が主体的に運営することができるよう、府による財政措置も含めた支援制度の構築も検討いただきたい。  支援制度の一つとして、義務化に伴い広域支援相談員の業務範囲が拡大することが想定されるため、相談体制の更なる整備にも取り組んでいただきたい。  また、事業者が合理的配慮の提供が社会的責務であると肯定的に受け止めることができるよう、既に義務となっている行政機関等における積極的な取組みを広く周知・広報するとともに、事業者の積極的な取組みを評価・交流していく機会を設けていただきたい。  なお、本提言では、条例附則に基づき、条例施行状況の検討と、事業者による合理的配慮の義務付けのあり方について意見を取りまとめている。  解消協では、各則や障がいの定義等についても見直し検討を行うべきであり、障がい者への偏見・無理解や現に起きている差別について、部局間で連携して取り組むことの明記も必要であるとの意見や、今後も実態に応じて継続して見直しを行う必要があるとの意見があった。   3 まとめ  解消協における検討の結果、条例に基づく車の両輪の一つである「相談及び紛争の防止又は解決のための体制の整備」として条例に規定した、広域支援相談員や解消協、合議体の仕組みはうまく機能していると評価できる。  その点においては、条例を改正する必要性はないが、条例に基づく相談等の体制の更なる整備、充実に向けて取り組んでいくことが求められる。  具体的には、府の相談対応の質が担保できるよう広域支援相談員の体制整備や、すべての市町村で取組みの促進が図られるよう、市町村支援等の方策を充実させていく必要がある。  また、広域支援相談員は、相談事案の当事者それぞれの立場を理解した上で、より良い解決をめざして、当事者間の建設的対話を促し、具体的な解決策を提案している。そのためには、当事者からの信頼を得ることが不可欠である。広域支援相談員の活動に実効性を担保する仕組みを設けるか否かについては、相談体制の強化に資するかという観点から、今後も十分に検討いただきたい。  また、解消協については、解消協委員各自が有するネットワークを活用し、市町村や府と連携しながら、障がい者差別のない地域社会づくりに向けて、地域住民や事業者の意識を喚起する取組みを推進するなど、支援地域協議会の機能強化に向けて協議会のあり方を検討する必要がある。合議体については、今後、広域支援相談員の対応力の強化に向け、合議体による助言や検証の取組みを継続しつつ、あっせんの効力の及ぶ範囲や限界を整理しておくことが求められる。  車の両輪の一つである啓発についても、条例を改正する必要性はないが、府民の障がい理解が十分とはいえないことから、幼少期からの障がい理解の推進に取り組まれたい。また、事業者の障害者差別解消法の浸透度が不十分であることから、今後は、分野ごとの差別事例の検証やそれに基づく周知啓発等の浸透方法を検討していくべきである。  これらの啓発にあたっては、解消協が有する支援地域協議会としてのネットワークも活用しながら、多様な主体との連携した取組みが欠かせない。  以上が現行条例の施行状況を検討した結果である。     次に、条例附則規定に基づき、障害者差別解消法第8条第2項に定める事業者による合理的配慮の義務付けのあり方について検討した結果について述べる。  事業者が、社会的責任として合理的配慮の提供を当然のこととして考え、自主的に取り組むことができるよう、行政が各関係機関と連携しながら、施策を重層的に講じることが今まで以上に求められる。事業者による合理的配慮の義務付けはその一つの手段として有効である。  解消協としては、意義や効果、影響等を整理した結果、義務化に対する明確な反対意見はなく、義務化の方向で検討をすすめるべきである。  ただし、事業者には、義務化について、合理的配慮の提供の範囲や過重な負担の基準等に関する不安や懸念があり、慎重な検討を望む意見も多いことから、義務化にあたっては、これらの不安や懸念を解消するための具体的な取組みを併せて検討し、実行していくことが必要である。また、事業者のみならず、障がい者や府民に対しても法の理念等をより一層周知し、社会を構成する一人ひとりが障がいを理由とする差別のない地域社会を築いていくよう取り組んでいくことが求められる。    参考資料1(記載を省略) 大阪府障害を理由とする差別の解消の推進に関する条例  参考資料2(記載を省略) 大阪府障がい者差別解消協議会委員名簿  参考資料3 協議会の開催状況及び議題等  以下、開催日、議題等の順に記載します。  第8回、令和元年5月27日、議題1 大阪府障がい者差別解消条例施行状況の検討について(審議の進め方など)、議題2 令和元年度 合議体の運営について、議題3 その他(平成30年度大阪府広域支援相談員対応状況等について、府内市町村の状況について)  第9回、令和元年7月8日、議題1大阪府障がい者差別解消条例施行状況の検討について(広域支援相談員の機能について、大阪府による市町村への助言等の機能)  第10回、令和元年9月18日、議題1 事業者等に対するアンケートの実施について、議題2 大阪府障がい者差別解消条例施行状況の検討について(大阪府障がい者差別解消協議会の機能について、合議体の機能について、府民の障がいに対する理解の促進について)  第11回、令和元年11月25日、議題1 大阪府障がい者差別解消条例施行状況の検討について(事業者による合理的配慮の提供について)  第12回、令和2年1月31日、議題1 大阪府障がい者差別解消条例施行状況の検討について(事業者による合理的配慮の提供について)、議題2 大阪府障がい者差別解消条例施行状況の検討にかかる提言素案について  第13回、令和2年3月2日、議題1 大阪府障がい者差別解消条例施行状況の検討にかかる提言案について、議題2 障害者差別解消の取組みと相談事例等の検証報告書案について(相談事例等の共有)