平成29年度 障がい者差別解消の取組みと相談事例等の検証報告書(概要) 広域支援相談員の相談事例等の分析から  「助言・検証実施型」の合議体における広域支援相談員の相談事例等の総合的な分析・検証  相談事例の対応件数といった量的調査に加え質的調査による分析といった新たな試み  府内市町村への支援や啓発活動を含めた、大阪府における障がい者差別の解消の取組みを報告   1 広域支援相談員の体制等と相談対応  1.広域支援相談員の体制と役割  広域支援相談員の職務  「広域支援相談員」業務の信頼を強化するため、相談員間の情報共有と質の高い相談対応力が必須  (情報共有のための日報、定期的なミーティングでの事例検討により相談員間の連携を強化、円滑な相談対応と対応力の向上)  今後、相談事案の複雑化・多様化や増加が見込まれるため、さらに高度な専門性や調整力が求められるとともに、市町村への支援の充実が必要  したがって、広域支援相談員の人材の確保や育成が課題  2.広域支援相談員の対応実績(平成29年4月1日から平成30年3月31日まで)  新規事案件数は163件(平成28年度継続件数7件と合わせ実相談件数170件)(前年度4〜3月は125件)  (「不当な差別的取扱い」 31件、「合理的配慮の不提供」 14件、その他125件(うち、「不適切な行為」 16件 など)   対応回数は989回と前年度より大幅に増加。 (前年度4〜3月 517回)  相談1件あたりの対応回数は、一件あたり平均6.1件と前年に比べ増加。(前年度一件あたり4.1回)  相談者の内訳は、市町村の比率が約3割と前年度(約2割)よりやや増加傾向。  障がい種別は、前年度は肢体不自由が多かったが、今年度は視覚障がいや精神障がいが増加。  相談内容の多様化・複雑化や、紛争解決に向けた調整の深化  広域支援相談員の機能の周知や具体的な連携の積み重ねによる市町村との関係構築の進展  法の趣旨や広域支援相談員の窓口が周知され始めたことによる障がい者からの多様な相談が増加   2 合議体における助言・検証の実施  1.広域支援相談員の相談対応  合議体での主な意見  当事者間の言い分が異なっても、相談員の役割はジャッジではなく紛争解決につなげること。そのため、事業者側に対して法の趣旨の理解を促し、解決を図ることが重要ではないか。  差別に該当するか否かを判断するにあたって、その事案の具体的な状況について、深く調査をする必要があるのではないか。  府における整理と検証  相談員は、中立・公正な立場で、解決の方向を示すもの。そのため、障がい者の意向を確認した上で対応方針を検討し、事業者側が法の趣旨を理解し、円満解決を図ることが第一義的な目的であると認識し対応する。  差別の当否について曖昧な情報だけで判断しないよう、詳細な事実確認や情報収集を行う。特に、正当な理由や過重な負担の判断にあたり、合議体の助言をふまえ調査を行う。  2.相談の分類と整理  合議体での主な意見  明確な事実確認ができなかったとしても、分類にあたっては、「もし事業者側がサービスを拒否する言動があったとすれば」等の仮定をすることにより、障がい者差別に該当する可能性を示唆することも必要ではないか。  「他の者とは異なる取扱い」に関して、「不当な差別的取扱い」の当否の判断は、権利を不当に侵害しているかという観点で考えられるのではないか。  府における整理と検証  明確な事実確認ができなかったとしても、事業者側からサービスを拒否するような言動があった可能性について十分考慮し、検証していく。  「他の者とは異なる取扱い」については、その対応がいかに権利を不当に侵害しているか、という観点から、事案によっては「不当な差別的取扱い」に該当する可能性があるものとして取り扱う。      3.合議体による「あっせん」の考え方  合議体で主な意見  あっせんの申出の取扱いについては、拒否・制限・条件付けのみに限らず、不当な権利侵害の観点から具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断する必要があるのではないか。  合議体は、柔軟に紛争解決の調整をする機関。このため、正当な理由の判断が難しい場合も、その取扱いについて検討するものと思われる。  府における整理と検証  拒否・制限・条件付けのみに限定して判断するのではなく、「諸事情が同じ障がい者でない者より不利に扱うこと」に該当するか否かという観点から、あっせんの申出の取扱いについて検討する。  合議体は、柔軟に紛争解決することを目的とした機関であるという認識のもと、正当な理由の当否が難しい場合でも、合議体の助言をふまえ、その取扱いを十分に検討する。  4.今後の課題   合議体からの助言により広域支援相談員の対応力も向上していることから、合議体に求められる広域支援相談員への助言の在り方について、より一層有効に機能させていくためのしくみの検討が必要。  さらには、解消協が「支援地域協議会」の機能も兼ね備えていることから、ネットワークを活用し、相談員のみでは対応困難な事案の紛争解決の後押しを行うことが考えられる。このため、相談員のみならず、協議会・合議体の役割や在り方を検証する必要がある。   3 質的調査手法を用いた相談事例の検証  障がい者差別の相談対応として有効と思われる取組みの視点や課題を整理するため、広域支援相談員の受け付けた相談事例について、質的調査手法を用いた分析を実施。  相談事例の具体的な状況、対応の経過、紛争に至った要因、紛争解決に係る今後の課題等を分析。  1.方法  広域支援相談員が受け付けた相談事例の中から、以下に該当する事例について分析  相談分類が「不当な差別的取扱い」「合理的配慮の不提供」「不適切な行為」であったもの  活動手法が「調整(自主解決型・助言型・指導型)」であったもの  2.結果・考察  (相談事例の記録よりカテゴリーを抽出。相談事案が紛争に至る要因と経過、相談員の対応について分析。)  紛争に至る要因:事業者においては「知識や経験の不足」「障がい者に対する『偏見』」「不適切な初期対応」「相談体制が未整備」「事業者が構える」といったことなどが、相談者においては「相談者の不快」「周囲にとっての困りごと」などが要因となり、建設的対話ができない状況となる。  そのため、広域支援相談員は「第三者としての介入」をし、「詳しい経過や事実確認」や「相談者への意向確認」を行なった上で、上記の要因について紛争解決が図られるよう「対応方針の検討」をし、調整を行なっている。  ((以下、広域支援相談員、市町村、事業者、相談者との関係について示した図について説明します。))  (1)広域支援相談員  第三者としての介入  詳しい経過や事実確認  相談者への意向確認  相談者と事業者との齟齬  対応方針の検討  具体的知識や配慮の助言  指導的な対応改善の求め  上層部への働きかけ    (2)市町村  相談者・事業者へのアプローチ、府との連携  (3)事業者  知識や経験の不足  障がい者に対する「偏見」   不適切な初期対応  相談体制が未整備  事業者が構える  その後、反省・謝罪、感謝もしくは「頑な」な対応につながる  (4)相談者  相談者の不快(ショック・遠慮・怒り)  周囲にとっての困りごと  揺れ動くニーズ  その後、感謝と安心につながる  3.まとめ  質的調査手法を用いた分析により、紛争に至る要因となりうる具体的事象を抽出し、分析・整理がなされた。  本調査における結果は仮説生成の段階ではあるが、事業者に向けた差別の未然防止・再発防止の一助となるとともに、身近な相談窓口である市町村における相談対応の道標となる。    4 府内市町村に対する支援の取組み  1.府内市町村の取組みに向けた支援  (1)市町村ワーキングの実施  相談対応の実務的な手引きとなる「相談の流れ」を作成、差別解消の取組みに関する協議  (2)市町村勉強会の開催  府内市町村職員を対象に、基礎知識の習得、実務の理解、取組に関する情報共有  (3)出張情報交換会の実施  広域支援相談員が市町村に直接出向き、H28〜29にかけて府内43市町村と情報交換を実施。  「相談事例がないため事案が挙がった時の対応に不安がある」といった意見がある。  2.市町村支援における課題  市町村における障がい者差別の認識の浸透、事例のキャッチ力の向上  広域支援相談員と市町村の連携、対応スキームの検証  市町村における障がい者差別解消支援地域協議会の設置   5 障がい理解に関する啓発の取組み  大阪ふれあいキャンペーン、共に生きる障がい者展、心の輪を広げる障がい者理解促進事業、大阪府障がい者等利用駐車区画利用証制度、ヘルプマークの周知・普及  大阪府は、広域的な観点から、府民や事業者が障がい理解を深められるよう、工夫した取組みを行なっていく   6 まとめ  今後、市町村より助言や支援が求められる相談事例が増加すれば、多様化・複雑化した相談への対応を求められることが想定されるため、広域支援相談員の高い専門性の担保が課題。  「大阪府障がい者差別解消ガイドライン」による府民への啓発活動の充実を図るとともに、事業者における「心のバリアフリー」の実践を支援するなど、必要な取組みを進めていく。  府の役割  広域支援相談員の相談対応において、合議体の助言・検証をふまえ、質の高い対応力と専門性を確保し調整力の強化・充実を図る。  法の趣旨や相談内容の判断の考え方について市町村への周知を行うとともに、質的調査による分析をふまえて広域支援相談員の相談対応方法を伝達することにより、市町村の相談対応力の向上を図る。  障がいに関する知識や経験の不足、意識の偏りが要因となって障がい者差別が起こることが見受けられたことから、特に法によって具体的な取組みを求められている事業者に対して周知・啓発活動を充実する。  相談対応にあたっては、事業者に対し、今回の質的調査で示唆された要因などを改善点として示すことにより、差別の未然防止や再発防止の自主的な取組みにつなげていく。  広域支援相談員が受け付ける相談事例の中で、類似の事業者が多い、もしくは他分野でも同様の相談が多い場合などにおいては、国機関とも情報共有や連携を図る。