平成9年版 大阪経済白書 の概要

更新日:2009年8月5日

平成9年版 大阪経済白書 の概要大阪産業の再構築戦略

 

第1部 平成8年の大阪経済

 大阪経済は、8年夏に個人消費がO-157の影響などもあって落ち込んだことや、公共工事が低迷したこともあり、足踏み状態となった。しかし、7年後半からの円安傾向や低金利の継続を背景に、設備投資が好調に推移し、住宅投資は、消費税引き上げ前の駆け込み需要などもあって、大幅に増加した。この結果、8年後半には緩やかな回復の動きがみられた。中小企業の景況は、7年後半には、震災や円高の影響による低迷から脱し、持ち直しの動きとなった。8年も回復基調で推移したものの、大企業に比べると力強さがなく、一進一退の緩やかな回復となった。

 

第2部 大阪産業の再構築戦略

 大阪産業では、新産業など力強く発展しつつある部門がみられる一方で、既存分野の中小企業は、小規模企業層を中心に企業数が減少するなど、活力が低下しつつある。このため、産業構造の変革を進めるとともに、厳しい状況に置かれている既存分野の中小企業を再活性化することが喫緊の課題となっている。

 

(新局面を迎えた大阪産業)

 大阪の府内総生産は、平成5年度及び6年度には実質値でマイナス成長を記録したが、平成7年度は前年度比で実質2.3%増と回復基調にある。ただし、法人企業について売上高経常利益率(全国)を資本金規模別にみてみると、平成4年度以降、資本金1千万円未満の企業でかつてなかったほどに低下しており、大企業との格差も拡大している。こうした格差の拡大は、産業の約9割が小規模事業所である大阪府の経済活性化にとって見過ごせない問題である。

 大阪産業は、ほとんどの製品やサービスを府内で自給できるようなオール・イン・ワン型の産業構造を持っている。また、バブル経済末期の平成2年時点でブームに乗って積極投資を行っていた産業は、平成不況期に入って厳しい対応を迫られ、リストラクチャリングやリエンジニアリングなどを行った。そのしわ寄せが小零細規模層に集中し、大阪産業全体の動向に影響を与えてきた。

 

(再構築を進める大阪中小工業)

 経済環境変化に伴い、中小工業では売上額が減少しており、利益状況も厳しい。とはいえ、中規模企業では黒字基調の企業の方が多く、小規模企業にも黒字企業の企業がみられるなど、規模間、企業間で格差が生じている。

 格差を生じさせた主な要因としては、各企業がもつ強みと、売上額の維持拡大やコスト削減のための対応があげられる。黒字企業の多くは、独自製品、技術力、ニーズへの対応力といった強みを持っており、新製品開発や製品・加工の高付加価値化に取り組んでいる。また、生産面の合理化でも成果をあげており、今後は間接部門の合理化も重視している。一方、赤字企業には強みを持たない企業が相対的に多い。売上額の維持拡大は製品・加工単価の引き下げが多く、コスト削減では設備投資の抑制や賃金の削減という対応が目立つ。グラフ(同業他社と比べた強み)

 今後の経営方針としては、中規模層には事業規模拡大をめざす企業も多いが、小規模層では現状維持でよいとする企業が多い。小規模層のなかでも、1〜3人規模層には廃業予定企業が少なくない。廃業予定企業は赤字基調であり、経営者が高齢で後継者がいないため事業から撤退するというケースが多い。

 大阪中小工業が事業を継続するためには、官民の試験研究機関の活用や未活用特許の活用による技術力の強化、受注の広域化などによる販路の拡大、間接部門を含めたコストの削減などが重要である。新分野への進出も有効だが、その手段としてM&Aの活用も視野に入れるべきであろう。廃業予定企業は円滑に退出することが望ましいことはいうまでもないが、地域経済にとっては工場跡地の再利用や就業対策が課題となる。また、技術や技能の保存も検討されるべきである。

 

(流通再編下の大阪中小商業) 

 大阪の中小卸売業は、低価格化の進行、多頻度小口配送の要求、オンライン取引の要請、製販統合の動きなどの経営環境変化に前向きに対応している。しかし、売上は低迷しているほか、今後果たしていくべき卸機能についても方向性をやや見失っており、卸売業のあり方が問われている。中小卸売業が生き残っていくためには、取引先支援機能の強化、事業分野の見直し、情報機器の積極的な活用、協業化やグループ化の取り組みが重要となる。

グラフ(中小卸売業の取引先が取り組みだした機能)

グラフ(中小卸売業の取引先が取り込みだした機能)

 大阪の中小小売業も低価格化の影響や大型店問題など、取り巻く経営環境は厳しくなっている。こうしたなかでも売上を伸ばしている商店があり、それらは売上減少商店と比べて内外装の設備投資や顧客管理を行うなどの様々な対応をしている。

 従業者数1〜4人の零細層では廃業を予定する商店も少なくない。また、商店街や小売市場では、空き店舗やしもた屋の発生がみられ、周囲の小売業者に影響を与えている。

 中小小売業が生き残っていくためには、強みを強化し、工夫を重ねることや、生業から企業に経営体質を変換することが必要である。中小小売業の集積である商店街や小売市場では、地域住民の支持が得られるよう共感型の商店街や小売市場になることが求められる。

 大阪の中小商業を活性化するための施策課題として、既存企業が経営資源の強化を図ったり、他分野進出を予定する場合に支援することや、企業化を図るための意識の醸成、二世経営者の育成、時代に応じた組織活性化対策や転廃業対策の検討、街づくりと連動した空き店舗対策の実施などがあげられる。

グラフ(大型店と比べた中小小売業の強みと強化したいもの)

(地域主導型の産業構造再構築をめざして)

 産業構造高度化の担い手は企業自身であり、行政はそれがスムーズに行えるよう支援をする立場にある。自治体が行う商工施策は、自主的な企業努力に基づき活動する中小企業の小規模性からくる不利を是正したり、個別企業では対処できない産業配置に関わるようなグランドデザインを描くことを主な目的としている。

 個々の自治体では、新規創業等支援対策に力を入れているほか、独自施策や個別企業対策を実施する自治体も多い。自治体はこれまでの組合を通じた支援のあり方に一定の評価をしている。しかし、組合員数が減少傾向にあるほか、小規模企業の組合加盟率が低いといった問題がある。今後は、企業グループや個別企業を振興する必要性がより一層高まっている。

 今後、都道府県間や市町村間の連携の強化とともに、自治体内部においても連携の強化を図ることが求められる。

 

(大阪産業の再構築のために)

 既存分野で活動する中小企業の基本的経営方針として、既存分野での事業継続、事業分野の多角化ないし整理、転業、廃業がある。事業継続のための生き残り条件は厳しく、積極的な経営姿勢が要求される。多角化や転業では、新規事業分野を見極める経営者能力がカギになる。廃業の場合は、社会的な影響が問題になる。

 中小企業が直面している問題として、中小工業ではコストダウンが要求されており、今後は間接部門でも一層の合理化が必要である。高付加価値な製品・加工の開発を進める方向も有効である。中小卸売業では、製販統合と中抜きが重要な問題である。卸売業者としては、自社のセールスポイントを強化する一方で、自ら製造や小売の機能を備えていく方向も考えられる。既存分野の中小小売業の活力低下に対しては、個別店舗の対応とともに、商業集積全体としての魅力向上も重要である。

 対応策の実施に当たって、中小企業は生業的な性格に伴う強みを活かし、弱みを補強する必要がある。

 地方自治体は、それぞれの産業集積に基づいて、自主的、積極的な事業展開を図る中小企業に支援策を講じることになる。その際、産業構造改革に資する対象分野・企業の見極め、行政ニーズ多様化への対応と施策のPR、自治体間の競争、調整、連携のための枠組みづくりが課題である。

大阪には多様な産業が集積し、ハード・ソフトの産業基盤も整備されている。それらをさらに充実させ、有機的な連携を図りつつ、新たな産業分野をも視野に入れて、来るべき時代に向けて産業の再構築を進めていくことが求められている。

 

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商工労働部 商工労働総務課 企画グループ

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