トップページ > 教育・文化・観光 > 観光・都市魅力 > 大阪ミュージアム > 特集ページ > 連載コラム「大阪のだし」 > 連載コラム「大阪のだし」 第10回 (平成25年1月17日)

印刷

更新日:2024年5月28日

ページID:32864

ここから本文です。

連載コラム「大阪のだし」 第10回 (平成25年1月17日)

「コナモンとだし」 ご寄稿いただいた方:門上 武司 さん

人間は言葉に左右されやすい。

京料理といえば、すぐに「雅」や「伝統」などが頭に浮かぶ。「京都」という言葉が持つ魅力(魔力といってもよいかも。)に、一つのイメージを持ってしまう。同様に「江戸前」という言葉がある。江戸前、つまり東京湾で穫れた食材を使った料理のことを指していたのだろうが、いつのまにか、江戸の流儀のような解釈が多くなり、そして「粋」や「気風の良さ」などという印象となる。

では、大阪の食を考えると、どういった言葉がふさわしいのだろうか。割烹の魁(さきがけ)が大阪新町だからといって、大阪割烹や、なにわ割烹では、いささか通じにくい。カウンターが人気といっても、それを謳い上げる言葉がない。分かり易いところでは、どうしても「コナモン」に行き着いてしまう。もちろん、「コナモン」だけが大阪の食ではない、という声も聞こえてくるだろうが、大阪の食はあまりにも多様性を帯びているので、焦点を定めにくいというのが実情だと思う。かつて、東京の識者やジャーナリスト、編集者にアンケートを取ったことがある。質問は「大阪の食と聞いてイメージするものは?」「では、大阪の飲食店で親しい人間を連れてゆくのはどんな店ですか?」というものであった。

前者は、圧倒的に「コナモン」という回答が多かった。しかし、後者の質問には「コナモン」は極めて少なく、「割烹」や「居酒屋」、「フランス料理店」、「イタリア料理店」、「立ち飲み」など多彩な回答であった。かように、大阪の「食」に対するイメージは「コナモン」に代表され、それが象徴的だが、実情はやや異なっていることがわかる。

もし、「コナモン」からの脱却を目指すならば、「コナモン」に変わる言葉を探さなければならない。ところが、あまりにも「コナモン」パワーが大きくて、これを凌駕する言葉が見つからないのが現実である。

ところで、「コナモン」の定義については、最近、「日本コナモン協会」では、うどん、そば、ラーメンを「コナモン」と呼び、お好み焼き、たこ焼きは「鉄板コナモン」と呼んで峻別することにしたようだ。自分たちの資産である「コナモン」を極めようという意欲が感じ取れる動きである。

この「コナモン」「鉄板コナモン」は、なぜ多くの人達に愛され、人気を博しているのだろうか。「鉄板コナモン」に関しては、旨さの重要な要素である「メイラード反応(※)」が明確であることが考えられる。メイラード反応とは、糖分とアミノ酸、タンパク質を加熱したときに生じる褐変反応のこと。簡単にいえば、肉を加熱することによって茶色になることである。そこにソースや醤油(実はこれらも、長い時間をかけてメイラード反応を起こしたもの。)を加えると、旨さも倍以上に感じる。つまり、メイラード反応が目立った料理が、「鉄板コナモン」ということなる。

しかし、もう一歩突っ込んで考えてみたい。

「コナモン」は、つまり、その素になる「粉」を食べる料理であるが、「粉」を調理し、食すためには「水分」が必要となる。

この「水分」が重要なのである。単純な水で調理し、食すわけではない。うどん、そばに関しては、粉を水で溶くが、食すときにはつゆやだしが必要となる。昆布とかつおだけでなく、他の魚介類をいかに加えるかで、各店の味わいを表現しようとしている。ラーメンにいたっては、いかに個性的なスープを作るかに懸命である。お好み焼き、たこ焼きは、作るときにだしが必要だ。昆布だしをベースにしながら、それぞれの個性を尊びながら動物性のだしを加えるなど、探求する意欲は並大抵ではない。

つまり、「コナモン」「鉄板コナモン」の評価を定めるのは「だし」の存在が極めて重要となってくるのだ。極論すれば、「だし」なくして「コナモン」「鉄板コナモン」は成立しないともいえる。

考えれば、だしの基本となるのは昆布とかつおである。昆布は、北前船で遠く北海道から届いたものだ。古くは大阪城築城の際に大きな石を運ぶために使用されたという記述が残っており、その後は、だしに使われることとなった。かつお節は土佐の高知から届いた。その双方が大阪で出会い、堺の包丁の技術も加わり、だしが生まれたといっても過言ではない。

いわば「だし」のふるさととでも呼ぶべき地、大阪では、「だし」は、「コナモン」「鉄板コナモン」の世界でも欠くことのできない非常に重要なファクターとなっている。

したがって、「コナモン」「鉄板コナモン」と十把一絡げにするのではなく、むしろいかなる「だし」がそこに含まれているのかを探ることが、楽しいはずである。

モノを食し、「だしがよう利いてますな」などという言葉を発するのは、大阪人ならではの特徴だ。重ねて申す。大阪の食を象徴する「コナモン」、「鉄板コナモン」にも、大阪の伝統ある重要な「だし」が含まれているのだ。

連載コラム大阪のだしトップページに戻る

門上 武司さんのプロフィール

かどかみたけしさんの写真

門上 武司(かどかみ たけし)
1952年大阪生まれ。フードコラムニスト。
大阪外国語大学 露西亜語学科中退。
料理雑誌『あまから手帖』の編集顧問を務めるかたわら、食関係の執筆、編集業務を中心に、プロデューサーとして活動。「関西の食ならこの男に聞け」と評判高く、テレビ、雑誌、新聞等のメディアにて発言も多い。主な著書に、『僕を呼ぶ料理店』(クリエテ関西)、『スローフードな宿』(木楽舎)、『京料理、おあがりやす』(廣済堂出版)等。
「水野真紀の魔法のレストラン」(毎日放送)ではコメンテーターを務める。
(社)全日本・食学会 代表理事。その他、大阪ミュージアム構想企画委員、「食の都・大阪」推進会議委員、日本コナモン協会理事、関西食文化研究会コアメンバーなど、関わる団体は数多い。
国内を旅することも多く、各地の生産者たちとのネットワークも拡がっている。食に携わる生産者・流通・料理人・サービス・消費者をつなぐ役割を果たす存在。

より良いウェブサイトにするためにみなさまのご意見をお聞かせください

このページの情報は役に立ちましたか?

このページの情報は見つけやすかったですか?