連載コラム「大阪のだし」  第4回 (平成24年10月18日掲載) 

更新日:2013年3月26日

「大阪の昆布・堺の昆布」                  お話いただいた方 : 郷田 光信 さん  

 

                                                                                       

 大阪のだしを語るのに、昆布は欠かせない。
 
  北海道産の昆布が1000キロも離れた大阪で珍重されはじめたのは、鎌倉時代の後半頃から。北海道から日本海を通って敦賀・小浜に陸揚げされた昆布が、陸路や琵琶湖を使って京都・大阪に運ばれるようになってからのことだ。
 
 江戸時代に入ると、西周り航路の開通によって、北前船が下関から瀬戸内海を通り、直接大阪に入ってくるようになった。昆布も、それまでとは比較にならないほど、大量に大阪に入ってくるようになった。
  
 「北前船の最終寄港地は、堺だったんですよ。」
  
 堺で3代にわたり昆布商を営んでいる郷田さんはちょっと自慢げに切り出した。

 「堺には、刃物の技術があったので、昆布を削っておぼろ昆布、とろろ昆布を作るという加工業が盛んになったんです。最盛期の大正末期から昭和の初め頃には、150人くらいの手漉き職人がいたそうですよ。」
  
 ところが、戦争があり、食生活の変化がありで、現在、堺昆布加工業協同組合の組合員は12業者だけ。そのうち、手加工している業者は、郷田商店を入れてたったの4業者だけになってしまったそうだ。
 
 「おぼろ昆布は、乾燥昆布をお酢に浸して柔らかくし、それを表面から削っていったものです。厚めの一枚ものの昆布を使いますが、薄く削るには、熟練した職人技が必要なんです。一方、とろろ昆布は現在はほとんどが機械で加工されていて、昆布を何枚も重ねてブロックにし、それを側面から削っていくので、薄かったり、折れたりした昆布でも使えるんです。」
  
 職人さんの手加工からは、おぼろ昆布以外に、もうひとつ大切な商品が生まれる。それは、バッテラ寿司に使われるバッテラ昆布(白板昆布)だ。バッテラ昆布とは、おぼろ昆布を削りだした後に残る、昆布の芯の部分のこと。
 
 「バッテラ昆布は、おぼろ昆布を削らないとできませんから、(おぼろ昆布を作る職人さんが少なくなった今)、全然足りないんです。」
  
 だから、安い「バッテラ寿司」などには、昆布の粉を糊状のもので固めた「バッテラシート」という模造品が、よく使われているのだそうだ。
  
 さて、郷田商店では、おぼろ昆布、とろろ昆布以外にも、昆布の佃煮やだし昆布など、様々な昆布商品を扱っている。郷田さんに、昆布に関する基礎知識をお聞きした。
 
 「食用にできる昆布には、真昆布、長昆布、三石(日高)昆布、利尻昆布、羅臼昆布などの品種があって、それぞれ北海道で獲れるエリアが決まっています。」
 
 「さらに、同じ種類の昆布でも、獲れる浜によって、幅の広さや肉の厚みなどの違いがあるんです。あと、昆布が生えている水深によっても違ってきます。浅瀬で獲れる昆布は、幅が狭くて肉が厚いんですが、深い海で獲れる昆布は、幅が広くて肉が薄いんです。光合成をするために、深い場所では、面積を広げようとしてそうなるんじゃないかなぁと思います。」
  
 「(昆布の生育には)海流も影響するようです。昆布がよく育つ場所は、潮の流れがうまくあたるところ。だから、ちょっとした護岸工事なんかで潮の流れが変わると、今まで獲れていた昆布が獲れなくなったりするんですよ。」
  
 このように生育場所などの微妙な違いで変わってしまう品質を保証するために、昆布は、銘柄や等級で細かく分類・表示されて、北海道から出荷される。だが、昆布は、大阪にきてからも、変化するらしいのだ。湿気の多い大阪で倉庫に寝かせておくと、熟成して旨みが出てくるという。
  
 「新昆布は磯の香りが強いけど、1年くらい置いたほうが美味しくなるんですよね。なんでかは、よく知らないんだけど。」
 
 はあ。なんと昆布の世界は、奥が深い。では、よいだしがとれる昆布とは?
 
 「だし昆布としては、真昆布、利尻昆布、羅臼昆布が高級品です。肉が厚いほうが、いいだしが取れますね。それに、やっぱり天然物ですね。養殖とは全然違います。」
  
 「養殖といったって、別に餌をやって育てるわけちゃいますよ。ロープに胞子をつけて、海中に沈めておくだけなんで、天然物と同じ海で育つんですけど、やっぱり自然に岩に生えて育つ昆布とは、全然違うんですよ。硬い岩に張り付いて育つからなんですかねぇ、天然のほうがうまみ成分が濃いんですよ。葉も固くて。だから、職人は天然物を加工するのは嫌がりますね。」
 
 北海道の昆布の生産量は、ここ20年ほどの間に半分近くにまで激減している。温暖化による水温の上昇といった環境の変化や、コンブ漁師さんの高齢化や後継者不足などが原因のようらしい。また、昆布は、輸入が自由化されておらず、割当て制となっていて、主に中国・韓国などから輸入されている。では、こんぶの消費量はどうか。
 
 「やはり減っていますよ。だしは、うどん屋さんが一番よく使うけど、近頃は、だしがたっぷり入った大阪うどんのお店が減ってきてしまいましたからねぇ。おぼろやとろろ昆布も、だしのたっぷり入ったうどんやから合うのであって、讃岐のぶっかけうどんには、あまり合いませんしね。」
  
 「うちの店にだし昆布を買いに来てくれる個人のお客さんもたくさんいらっしゃいますが、やはり年配の方が多いですね。今は、味噌でもだし入りのが売っているし、鍋用のスープもパックで売ってますしね。」
 
 しかし、もちろん郷田家では、毎日、昆布でだしをとっている。
  
 「真昆布は、水に一晩漬けてだしを出すのが一番いいです。で、そのまま火にかけて、沸騰する前に引き上げる。利尻昆布は固いのでだしが出るのに時間がかかるが、真昆布は柔らかいからだしは出やすいです。羅臼昆布はなら、もっと早く出る。スーパーなどでよく売っている日高昆布は、だし用にはあまり向かないと思いますね。」
  
 「思うほど、時間もお金もかからないですから、特に子供さんのいる家庭では、ぜひ本当のおいしいだしを取って、子供さんに飲ませてやってほしいですね。」
  
 と真剣な表情で語る郷田さん。若い人たちに、昆布のおいしさをもっと知ってもらうために、塩麹と昆布を使った調味料など、洋風にもあう昆布調味料も開発・提案していきたい、と夢を語ってくれた。 

      

                       

                                      

                                     

      

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郷田 光信 さんのプロフィール

郷田光信氏画像

郷田 光伸 (ごうだ みつのぶ)
昆布商 株式会社郷田商店 代表取締役
昭和46年大阪堺市生まれ。
郷田商店では、職人によるおぼろ昆布の手加工を中心にあらゆる昆布製品を取り扱っている。業務用の商品が中心だが、進物商品等、小売も行っており、おぼろ昆布、手製とろろ昆布、太白とろろ昆布が「大阪産名品」に選ばれている。
 
 
株式会社 郷田商店
〒590-0952   堺市堺区市之町東5−1−23    
電話番号 072-222-6688
ホームページアドレス http://www.godashoten.com/ (製作中)

                   
         
     
           
             
手漉き職人      

           

        

         
  
    
大阪産名品のおぼろ昆布商品

         
  
   
     
    
       

             

         

          

         
昆布画像

         

           

          

                            

       
                        
                               
                        
            
            
             
               
             
             
         
       
         
            
              
              
              
       
                   
                          
         
            

                                    

            文=日下部貴美子  写真=山田泰常

このページの作成所属
府民文化部 都市魅力創造局魅力づくり推進課 魅力推進・ミュージアムグループ

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