今月の事例解説(H31.3)

更新日:平成31年4月1日

今月の労働相談事例解説(Q&A)

Q1 在宅勤務で働く方から労働者と個人事業主の違いに関する相談

 自宅でパソコンを使って仕事をしています。会社とは契約書は交わしていませんが、週5日、午前中にメールで会社から指示を受けて書類作成等を行っています。週1回会社に出向いて進捗状況を報告しています。報酬は、月末締めで毎月10日に指定の口座に振り込まれます。
 先日、会社から「仕事の受注量が減ったので、1か月の契約単価を下げる」と一方的に連絡がありました。
 それについて、「労働条件の不利益変更なので同意できない」と回答しましたが、「あなたは労働者ではなく個人事業主であるので、会社から契約を一方的に解除・変更できる」と言われました。私は、労働者ではないのでしょうか。
  

 労務を提供し金銭を受け取る場合、それが「労働契約」に当たるのか「請負契約や委任契約」に当たるのか、区別が難しい場合があります。一般に、「労働者」は、使用者に使用され、すなわち、使用者の指揮命令下で労務の提供を行い、賃金を受け取る、という使用従属関係にある者をいいます。形式的には請負・委任契約であっても、実態として労働者と認められる場合には、労働契約関係にあるということになります。

 使用従属関係にあり労働者であることの判断要素としては、1985年の労働省労働基準法研究会報告が、(1)仕事の依頼への諾否の自由、(2)業務遂行上の指揮監督、(3)時間的、場所的拘束性、(4)代替性、(5)報酬の算定・支払方法を主要な判断要素とし、また、(1)機械・器具の負担、報酬の額等に現れた事業者性、(2)専属制等を補足的な判断要素として判断することを示し、以後、これらの要素が用いられています。

 労働者でない場合には、労働関係法規は適用されないことになります。 

 労働者ではない場合、自営型テレワーク(在宅ワーク)という働き方が当てはまる可能性があります。自営型テレワーク(在宅ワーク)とは、注文者から委託を受け、情報通信機器を活用して主として自宅又は自宅に準じた自ら選択した場所において、成果物の作成又は役務の提供を行う就労をいいます。例えば、データ入力、テープ起こし、ホームページ作成、翻訳、設計・製図などがあります。

 平成30年には、厚生労働省から「自営型テレワークの適正な実施のためのガイドライン」が示されました。この中で、「契約条件を変更する場合には、自営型テレワーカーと十分協議の上、契約条件の内容を確認し、文書又は電子メール等で交付すること。その際、自営型テレワーカーに不利益が生ずるような変更をテレワーカーに強要しないこと」と記されています。

 本件については、契約書がなかったということですが、口頭でどのような契約が行われていたのかを整理し、実際には週5日、午前中にメールで指示があること、週1回出社して進捗状況を報告することが求められていること、報酬が月末締めで毎月10日に支払われていることなどの事実を元に、上記の判断要素に照らし合わせ、労働者か否かを検討することになると思われます。自営型テレワークについては、以下の厚生労働省のホームページを参考にしてください。
   
〇 厚生労働省ホームページ「情報通信機器を利用して自宅などで仕事をしている方へ(自営型テレワーク(在宅ワーク))」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index.html

〇 厚生労働省ホームページ「自営型テレワーク(在宅ワーク)に関する総合支援サイト」
http://homeworkers.mhlw.go.jp/

Q2 正社員から退職についての相談

 正社員として4月から勤務していましたが、どうしても我慢できないことがあり、退職しようと決心しました。今日、上司あてに「今日で退職します」と書いたメールを送りました。これで退職したことになるのでしょうか。

 期間の定めのない労働契約の場合、労働者が退職届を提出するなど、使用者に労働契約の解約を申し入れた場合、その後2週間を経過することによって労働契約が終了するのが原則です。ただし、労働者と使用者が退職日を合意した場合には、2週間を経過しなくても、合意した日で退職することができます【民法第627条第1項】。

 また、労働契約を結ぶ際に明示された労働条件が事実と異なる場合においては、即時に、労働契約を解除することができます【労働基準法第15条第2項】。

 なお、労働条件通知書や就業規則等で、「退職の1か月前までに申し出ること」などと規定されていることがあります。この場合でも民法の規定が優先されるという考え方もありますが、円満な退職を希望する場合は、就業規則等の規定を確認し、会社とよく話し合うことが望ましいといえます。退職届の様式は、法定されたものはありませんが、就業規則等で様式が規定されている場合もあります。

 本件の場合ですが、「退職する」という意思表示を確実に使用者に伝えることが必要です。上司へのメールを元に退職の手続きが進んでいく場合もあると思われますが、まずは、就業規則を確認し、退職届について所定の様式があればそれに記載し、なければ、退職の日付や退職理由などを記載し、署名捺印した退職届を作成し、会社あてに手交や郵送などで確実に届けてはどうでしょうか。可能であれば、上記のように、退職日についても会社と話し合ったり、引継ぎをきちんと行うことが、円満退職につながり望ましいと思われます。

Q3 使用者から、従業員に対する損害賠償請求についての相談

 スーパーマーケットを経営しています。最近、アルバイトが店舗内で撮影した不適切な動画や写真をインターネットに投稿するという事件が相次いで起こっているのをテレビ等で見ました。今後、もしも、このようないたずらや従業員のミス等により、商品廃棄や設備の入れ替え、クレーム対応等を行った場合、被害の全額を従業員に負担させることはできるのでしょうか。

  労働基準法では、使用者が、労働契約の不履行について違約金を定めることや、損害賠償額を予定する契約をすることを禁じています【労働基準法第16条】が、これは、現実に生じた損害(労働者の債務不履行、不法行為に基づく損害など)について賠償請求することを禁止するものではありません【昭22.9.13 発基第17号】。

 労働者の債務不履行(労働契約上の労働義務や秘密保持等の付随的義務に反する行為)や不法行為(故意又は過失によって他人の権利を侵害し損害を発生させる行為)によって使用者が損害を与えられた場合、使用者は労働者に対し、損害賠償を請求することができます【民法第415条、416条、709条】。

 また、使用者は労働者に対し、賃金の全額を支払わなければならず、一方的に賃金を控除することはできません【労働基準法第24条第1項】。使用者による賃金債権の「相殺」も「控除」の一種として禁止されています。したがって、使用者は、賃金を全額支払ったうえで、別途労働者に対して損害賠償請求をすることになります。

 なお、労働者に損害賠償責任がある場合でも、使用者が労働者の労働によって利益を得ているにもかかわらず、業務を遂行する中で発生した損害のすべてを労働者に負担させるというのは公平を欠いていることなどから、労働者の責任は制限されるべきものと考えられています。判例では、「使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである」との判断基準が示されています【茨城石炭商事事件 最一小判 昭51.7.8】。

 ご相談内容については、まずは、トラブルが起こらないよう、アルバイトの方に対し、事前の研修、教育を十分に行うことが必要です。その上で、実際にトラブルが起きてしまった場合には、上記の考え方から、労働者の故意又は過失によって生じた損害の賠償請求を行うことは可能となりますので、労働者の当該故意又は過失によって具体的に生じた損害の金額を正確に積算し、その中で労働者が負担すべき内容を検討することになると思われます。

このページの作成所属
商工労働部 総合労働事務所 相談課

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