今月の事例解説(H29年5月分)

更新日:平成29年6月1日

今月の労働相談事例解説(Q&A)

 Q1 正社員から転居を伴う配置転換についての相談

 この度、定期異動による他府県への転勤を打診されました。
 しかし、子供が数年来、体調不良で、自宅近くの専門病院に通院しています。今年に入って回復の兆しが見える状況になって来たところです。引越しにより生活環境が変わり病院も変わることで、子供の体調が悪化するのではと心配なので、今回の転勤は断りたいと考えています。今後の対応についてアドバイスはありますか。

 勤務地や仕事内容について、特別に限定した労働契約がある場合、労働者の合意なく、その契約内容を変更するような配置転換はできません。しかし、そのような労働契約でなければ、通常、配置転換については、就業規則上の規定を根拠に、使用者に配転命令権が認められていると考えられます。ただし、配転命令の行使にあたっては、権利を濫用することがあってはならないとされています。【労働契約法第3条第5項】

 判例では、配転命令について「業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わされるものであるとき」には、権利の濫用となるとの考え方が示されています【東亜ペイント事件 最二小判 昭61.7.14】。

 なお、育児介護休業法では、就業場所の変更により、就業しつつその子の養育又は家族の介護を行うことが困難となる労働者がいるときには、当該労働者の子の養育や家族の介護の状況に配慮することが求められています【育児介護休業法第26条】。

 以上のことを参考にしながら、会社側に対し家庭の事情を説明し、当面の猶予を求める等、改めて話合いを行われてはどうでしょうか。その際、可能であれば、通院されている病院の専門的な所見等を示し、具体的かつ客観的な説明を心掛けられてはどうでしょうか。

Q2 元正社員からの会社による損害賠償請求への対応についての相談

 業績の悪化を理由に、一方的に賃金を減額されました。同意できないと主張しましたが、聞き入れてもらえませんでした。これまで度々使用者から暴言を受けていたこともあり、これを機に同日付で退職する旨の退職届を提出し、会社を退職しました。以後、出社していませんが、会社から特に何も言われませんでした。
 2か月後、突然、その会社から具体的な理由も示されず「損害賠償について誠意ある対応を求める」旨の手紙が送られてきました。どのように対応すればよいのでしょうか。  

 労働契約法では、「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる」と定められています【労働契約法第8条】。使用者による労働条件の一方的な不利益変更は認められていません。

 また、正社員のように雇用期間に定めがない労働者は、いつでも解約の申入れをすることができ、解約の申入れの翌日から2週間を経過することで労働契約が終了します【民法第627条第1項】。ただし、労働者と使用者との合意があれば、2週間を経過しなくとも、合意した日で退職することができます。

 業務上の損害賠償について、労働基準法では、使用者が労働契約の不履行について違約金を定めることや、損害賠償額を予定する契約をすることを禁じています【労働基準法第16条】。この条文は、労働者が違約金又は賠償予定額を支払わされることをおそれて労働関係の継続を強いられること等を防止しようとするものです。ただし、これは、現実に生じた損害について賠償請求をすることを禁止するものではありません【昭22.9.13発基17号】。しかし、業務上発生した損害の全てを労働者が負担することは公平性の観点から問題があると考えられています。「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において」、労働者に対し損害賠償の請求等ができるとされた判例があります【茨城石炭商事事件 最一小判 昭51.7.8】。

 本件の場合、会社が請求する損害賠償の内容が不明なので、損害賠償の内容について説明を求めることになるでしょう。仮に退職の意思表示後、2週間経過しない間に退職したことに関して損害賠償を求めているのであれば、会社との間に退職の合意があったと認識していた旨説明し、併せて、あなたの退職によって実際に2週間に会社が被った損害について具体的かつ詳細に示すよう求め、その上で対応を検討されてはどうでしょうか。
 

Q3 使用者から休業手当についての相談

 会社が経営不振に陥ったので、しばらくの間、これまで勤務日であった金曜日を休業にしようと考えています。このような場合でも休業手当は必要なのでしょうか。
 また、金曜日を休業日とせずに、従業員の有給休暇取得日として取り扱うことは可能でしょうか。

 民法では、使用者の責に帰すべき事由によって労働者が労務の提供をすることができなくなった場合は、労働者は、反対給付である賃金を受ける権利があるとされています【民法第536条第2項】。

 また、労働基準法では、「使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない」と定められています【労働基準法第26条】。

 「使用者の責による場合」については、企業の経営者としての天災地変などの不可抗力を主張しえない全ての場合を含むとされています。したがって、使用者に起因する経営上の理由による休業は、使用者の責めに帰すべき事由に当たるとされています。例えば、「親会社からのみ資材の資金の供給を受けて事業を営む下請工場において、現下の経済情勢から親会社自体が経営難のため資材資金の獲得に支障を来し、下請工場が所要の供給をうけることができずしかも他よりの獲得もできないため休業した場合」は、「使用者の責に帰すべき事由」に該当するとされています【昭和23.6.11基収1998号】。

 また、有給休暇の付与については、労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養を図るため、また、今日、ゆとりある生活の実現にも資するという位置づけから、休日のほかに毎年一定日数の有給休暇を与えることが労働基準法に規定されています【労働基準法第39条】。休暇の取得時季については労働者に選択権を与え、原則として労働者の請求する時季に与えるべきこととされています。

  以上のことから、本件については、有給休暇として取得させるのではなく、使用者の都合による休業であるとし、休業手当を支払うという対応になると考えられます。

このページの作成所属
商工労働部 総合労働事務所 相談課

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