今月の事例解説(H27年9月分)

更新日:令和2年4月1日

今月の労働相談事例解説

Q1 退職者からの団体交渉に関する相談

 既に退職をしたのですが、在職中の賃金支払いに疑問があり、退職した会社に未払い賃金の請求の申し入れをしたいと考えています。同じような状況の元社員が数名いるので、皆で地域のユニオン(合同労組)に加入しようと相談をしているのですが、退職後でも団体交渉を申し入れることは可能でしょうか。 


 一般的には、解雇された者や退職した者は、使用者との雇用関係は終了しており、その意味で「雇用する労働者」には該当しません。

 しかし、元従業員を「使用者が雇用する労働者」【労働組合法第7条第2号】と認め、使用者に団体交渉応諾義務を負わせるのが相当とした判例【住友ゴム工業事件 大阪高判 H21.12.22】があり、その要件として、「(1)当該紛争が雇用関係と密接に関連して発生したこと、(2)使用者において、当該紛争を処理することが可能かつ適当であること、(3)団体交渉の申入れが、雇用関係終了後、社会通念上合理的といえる期間内にされたこと」を挙げており、退職前の未払い賃金の請求申し入れに関しては、団体交渉事項となりえると思われます。

 また、申入れの「社会通念上合理的な期間」については、諸般の事情を考慮して判断されますので、一概に数字を示すのは困難ですが、「解雇後10年を経て労働組合に加入し、その4か月後に団体交渉を求めた例では、使用者に団体交渉に応じる義務はない」とされており【日立メディコ事件 中央労働委員会命令 S60.11.13】、一定の期間内に交渉を求めることが必要となります。

 なお、「使用者が雇用する労働者の代表者」【労働組合法第7条第2号】とは、企業別労働組合であるか、合同労組であるかは問われておらず、使用者は、地域のユニオン(合同労組)から団体交渉を求められた場合においても、団体交渉応諾義務があると解されています。

 *  労働組合の結成、団体交渉の進め方などについては、次の当所発行啓発冊子もご参照ください。
    「あすへの対話―労働組合の結成と運営―

Q2 正社員からの労働組合の結成に関する相談

 会社の有志で労働組合を結成しようと準備中です。以下の内容について教えてください。

 (1)組合事務所はないので、事務所の所在地は、執行委員長の自宅にしたいのですが、問題ないですか。

 (2)組合結成後、上部団体への加入や、どこかへ登録する必要がありますか。

 (3)組合結成後、すぐに会社に団体交渉を申入れなければならないのでしょうか。


 労働組合法第5条第2項には、労働組合の規約に掲げるべき規定について示されており、その中で「主たる事務所の所在地」を記載することとされています。これは、組合の所在する場所を記載するもので、具体的な「組合事務所」を必要とするものではありません。したがって、(1)については、執行委員長の自宅とされることに特段の問題はないと思われます。

 (2)の上部団体への加入は、当該労働組合の任意によります。労働者の賃金・労働条件の向上を図るために、企業の枠を超えて、同一産業や地域での共通課題や労働環境の改善に取り組むために上部団体に加盟することは、企業内では得ることができない情報の提供、助言や指導、争議支援などを受けるメリットといえます。一方で、上部団体の活動や方針に縛られることなどを理由に、無所属を選択する労働組合もあります。

 労働組合は、自由設立主義ですので、官公庁の許可や登録は必要ありません。ただし、法人格を取得する場合や、不当労働行為の救済を受けようとする場合等には、都道府県労働委員会の資格審査を経る必要があります【労働組合法第5条第1項】。

 (3)については、結成後ただちに団体交渉を申し入れることは必須ではありませんが、組合員の団結を強め、要求の実現を図るため使用者に対し速やかに結成を通知するとともに、結成大会等で確認した要求書を提出し、団体交渉を申し入れることで、組合活動を軌道に乗せる方法が一般的であるといえます。

Q3 使用者から経費援助及び団交出席者に関する相談

 労働組合から、勤務時間内に団体交渉を行っている間についての賃金の支払いを求められています。支払い義務はあるのでしょうか。

 また、パワハラを議題とする団体交渉において、加害者とされる従業員の出席を求められていますが、業務上困難です。組合が求める出席者が参加しなければ、不誠実団交に問われるのでしょうか。


 
使用者が、労働組合の就業時間中の組合活動に係る時間に対して賃金を支払うことは、「経費援助」とみなされ、原則として禁止されていますが、(1)労働者が労働時間中に賃金を失うことなく使用者と協議し、または交渉することを使用者が認めること、(2)使用者が厚生資金または福利資金として労働組合に寄付をすること、(3)最小限の広さの事務所の供与をすること、は例外とされています【労働組合法第2条第2号】。

 従って、団体交渉に要した時間分について、使用者が賃金を支払うことは差し支えありませんが、支払い義務があるわけではありません。今後、労働組合と協議をし、ルール化を図ることが望ましいでしょう。また、例外として認められているのは、「協議又は交渉」であり、組合の内部の協議や独自活動について賃金を支払い、労働組合の自主性を阻害するような場合は、不当労働行為になると解されています。

 団体交渉の出席者については、団交議題の当事者が出席しなくても、使用者側の交渉担当者が実質的交渉権限を有し、誠実交渉義務が果たされるなら、問題はないと考えられます。しかし、実質的検討に入れず、交渉の進展に支障が生じるようであれば、不誠実団交を問われる可能性が出てくるでしょう。

このページの作成所属
商工労働部 雇用推進室労働環境課 相談グループ

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