自治の窓 住民参加型市場公募地方債のススメ 「第2章」

更新日:平成28年8月2日

2.住民参加型市場公募地方債の成功事例 

(1)事例紹介

 近年、募集額が発行総額に満たない募集残が一部銘柄で生じている中、住民参加型市場公募地方債の成功例として興味深い事例があるので取り上げたいと思う。
 
地方公共団体金融機構の「第1回地方公共団体ファイナンス賞[1]」を受賞した山形県鶴岡市の「加茂水族館クラゲドリーム債」と兵庫県として初めて特定の事業を対象として発行され、優先販売した淡路島島内のみで完売した「あわじ環境未来島債」である。 

<1>  山形県鶴岡市「加茂水族館クラゲドリーム債」

(a)概要

 加茂水族館クラゲドリーム債は、クラゲ展示種類数でギネス世界記録の認定を受けた世界一のクラゲ水族館として有名な鶴岡市立加茂水族館の改築事業費(約30億円)の一部(9億円)に充てるために発行された。
 
利率は各年3月入札発行の5年利付国債の応募者利回りに0.266%のスプレッドを上乗せして設定され、購入単位は10万円単位で上限200万円、購入対象者の住所制限なしで発行され、平成25年度の3億円分及び平成26年度の6億円分につき、好評のうちに完売した(表2参照)。 

表2:加茂水族館クラゲドリーム債の発行状況

 

第1回公募公債

第2回公募公債

対象事業

加茂水族館改築事業(総事業費 約30億円)

発行額

3億円

6億円

償還方法

5年満期一括償還

発行日

平成25年4月30日(火曜日)

平成26年4月30日(水曜日)

利率

0.536%0.270%0.266%

0.470%0.204%0.266%

購入単位

10万円単位、ひとり10万円から200万円まで

購入対象者

市内外の個人、法人、団体(住所制限なし)

購入者数

303

715

募集方法

窓口販売(先着順)

抽選方式

取扱金融機関

荘内銀行、山形銀行、きらやか銀行、鶴岡信用金庫

(市内外の各本支店)

(b)成功要因

 鶴岡市では、次に上げる「3つのK」が加茂水族館クラゲドリーム債の成功要因であると分析している

(イ)共感

・一時は年間入館者数が10万人を割り込み経営難に苦しんでいたが、水槽内で偶然発生したクラゲを展示したことをきっかけに、クラゲ展示種類数世界一の水族館として人気を博するまでになったという起死回生の物語に共感し、水族館を応援したいという思いを喚起した。

(ロ)興味

・公募債の説明よりも新水族館の周知に重点を置き、「加茂水族館クラゲドリーム債」というインパクトのあるネーミングを採用した。
・5年利付国債の応募者利回りに上乗せするスプレッドは、新水族館がオープンする「平成26年6月」にちなみ、「0.266%」とした。
・新水族館オープン前内覧会への招待及び抽選によるクラゲドリームバッグ(加茂水族館グッズの詰め合わせ)のプレゼントという購入特典を用意した。
・抽選方法は、クラゲが漂い辿りついた数字で選ぶという遊び心あふれる手法を採った。

(ハ)活性

・資金調達の一手段に留まらず、地域をあげた観光振興の旗印・地域振興の起爆剤としての目的を打ち出した結果、新聞・テレビその他のマスメディアで大々的に取り上げられ、公募債発表(平成25年2月19日)後の入館者数(平成25年2月から4月)は、前年比127.8%となった。

 
なお、リニューアル後の入館者数は、鶴岡市によると改築前の3倍から4倍に達したとのことである(平成26年6月1日から7月31日の入館者は205,696人。1日平均の入館者は平日2,400人、休日5,600人)

<2>兵庫県「あわじ環境未来島債」

(a)概要

 あわじ環境未来島債は、兵庫県及び淡路島島内3市が地域活性化総合特区の指定を受けて進めている「あわじ環境未来島構想」において、事業者や団体のみならず、島民一人ひとりが参画する取組の象徴として実施される住民参加型の太陽光発電事業にかかる財源(4億円)に充てるために発行された。
 
利率は0.33%に設定され、購入単位は5万円単位で上限200万円、購入対象者を兵庫県在住・在勤の個人として発行され、4億円につき、販売期間終了を待たず、淡路島島内優先販売期間中に完売した(表3参照)。

表3:あわじ環境未来島債の発行状況

対象事業

住民参加型太陽光発電事業

発行額

4億円

償還方法

5年満期一括償還

発行日

平成25年8月30日(金曜日)

利率

0.33%

購入単位

5万円単位、ひとり5万円から200万円まで

購入対象者

兵庫県在住・在勤の個人(募集期間7月31日から8月26日のうち、
8月13日までは淡路島島内にある店舗での優先販売)

購入者数

471

募集方法

窓口販売(先着順)

取扱金融機関

三井住友銀行、みなと銀行、JA兵庫信連、淡路信用金庫、みずほ証券

出所:兵庫県ウェブサイト(https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk45/miraijimasai.html

(b)成功要因

 兵庫県では、購入者全員に充電式電池付き急速充電器セットを記念品としてプレゼントするなどの工夫に加え、自治会等の各種団体を通じて購入の呼びかけを行うなど、行政や関係団体が一体となって「あわじ環境未来島構想」の周知と販売促進を行った結果、環境問題に対する島民意識の高まりや「あわじ環境未来島構想」に協力しようとする意欲がわき上がったことが好調な販売につながったとみている[2]

(2)事例分析

 鶴岡市の加茂水族館クラゲドリーム債は、こうしたプレミアム特典(新水族館の内覧会招待・抽選によるプレゼント付与)に加え、住民(利用者)が応援したくなるような事業性のあるテーマ設定、新水族館リニューアルオープン日にちなんだ利回り設定等の遊び心ある工夫により付加価値をもたせ、単なる資金調達の一手段に留まらず、地域活性化のためのツールとして活用することに成功した好事例であると言える。

  また、兵庫県のあわじ環境未来島債は、行政や地域が一体となった公募債の募集を通じて、対象事業が目的に掲げる住民一人ひとりの参画・環境意識の高揚を実現し、販売方法においても島内優先期間を設けるなど、地域を巻き込む工夫を凝らしている。

  先述したように公共事業投資が減少していることから、住民の関心事となる魅力的な事業も相対的に少なくなっており、また、利率設定のベースとなる国債利率が低迷する中、発行団体においては、いかにして住民の購入意欲を刺激するかが問われている。
 
この点において、加茂水族館クラゲドリーム債及びあわじ環境未来島債の例は、住民の関心が高い事業を選定することの重要性に加え、利率のみならず、プレミアム感を演出する創意工夫の必要性を示していると言える。

  なお、鶴岡市の加茂水族館クラゲドリーム債や兵庫県のあわじ環境未来島債以外にも、単なる金銭的な損得を超えて、購入者しか体験できないプレミアム感を持たせる購入特典を工夫している事例があるので、表4で紹介する。

表4:住民参加型市場公募地方債の購入特典例

団体

対象事業

特典

東京都

港湾・堤防や橋梁の整備等

船上見学会に招待(抽選)

石川県

北陸新幹線の開業PR

ピンバッジ(全員)
北陸新幹線乗車券、能登棚田米を進呈(抽選)

北九州市
(福岡県)

市民太陽光発電所建設事業

表示板への記銘(全員)
発電所見学会に招待(10万円以上購入者)

鯖江市
(福井県)

小学校屋内運動場、体育館整備

特産品の進呈、屋内運動場見学会に招待(抽選)

出所:「住民参加型市場公募地方債について」(地方債協会ウェブサイト http://www.chihousai.or.jp/05/pdf/05_03_01_01.pdf)より抜粋

第3章はこちらから


[1]地方公共団体全体のより良い資金調達・資金運用につなげるため、地方公共団体金融機構が模範・参考となる取組を表彰したものである。
[2]市町村への地方債情報」2014年6月号より。

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総務部 市町村課 財政グループ

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