ガイドブックの目次(3.障がい種別の特性・配慮(3)中途失聴・難聴者)

更新日:2009年8月5日

3.障がい種別の特性・配慮(3)中途失聴・難聴者

1、中途失聴・難聴者について

  • 中途失聴・難聴者は聞こえなくなった障がいを受け入れるまでに時間がかかります。そして、絶望感を乗り越え障がいを受容した後、あらゆる場で聞こえない人間はいかに情報が遮断されていることかと気づき愕然とします。
  • 今までは耳から当たり前に得ていた音声言語情報が、ある日を境に得られなくなるその落差に茫然自失してしまいがちです。徐々に聴力を失っていく進行性難聴も、一晩で完全に失聴してしまう突発性難聴でも同じように、音声を二度と聴き取ることができない喪失感を持ちます。
  • 音声言語によるコミュニケーションが難しくなりますので、家族、友人、職場の同僚、一般社会のすべての人々との会話がスムーズにできなくなります。人との会話を避けるのは、聴き取れないという現実に否応なく直面するからです。
  • 補聴器が使える人はある程度の聞こえは取り戻せます。また、完全に聞こえない人には人工内耳の手術をすることにより、少しは聞こえを取り戻せます。しかし、自分が慣れ親しんできた健聴者時代の音声言語を聴き取る力は取り戻せません。
  • 補聴器や人工内耳を装用している人は、残存聴力を何とか活かそうとしている人です。それ以外に、手術や事故で聴覚神経を損傷した人がいます。このような人は、補聴器も人工内耳も使えません。

2、コミュニケーション

  • 「ろうあ者」と「難聴者」のコミュニケーションの違いは、手話を主なコミュニケーション手段とする「ろうあ者」と、補聴器等や文字情報を主なコミュニケーション手段とする「中途失聴・難聴者」との違いです。聞こえないという面では同じですが、音声言語を使いたいと願うのが中途失聴・難聴者です。
  • 中途失聴・難聴者は、社会参加するに当たって次のように願っています。
    • 今まで使ってきた音声言語を続けて使いたい。
    • 聴き取れないところは文字情報で話の内容を得たい。
    • 聴き取れないところは要約筆記者派遣でカバーしたい。
    • 要約筆記者を伴えない時には、相手先には筆談で対応して欲しい。
    • 電話やインターホンを聴き取るのは難しいので、視覚情報が欲しい。
    • 緊急事態の場合は目で読める文字情報で出して欲しい。
    • 質問には、筆談や身振りを用いて分かるように答えて欲しい。
    • 病院の受診においては、配慮をして欲しい。

外来における配慮

受付
  • 中途失聴・難聴者は一般に言葉を喋れますが、聴き取れないということを理解しましょう。
  • 呼び出しが聞こえないので、合図するなどで知らせます。
  • 呼び出しても返事がない時は、聞こえない人がいるのではないかと考えます。
  • (呼び出し番号カードを介した呼び出しの受付番号表示や、振動型呼出器などを介し振動で順番を知らせる方法もあります。)
  • やりとりが聴き取れませんので、質問カードを見せたり、筆談することは有用です。
  • 難聴者のカルテには「難聴者」の明示や「耳マーク」を貼ります。難聴者が付ける「耳マーク」を用意しておき、渡します(別紙参照)。
  • 検査室や外来看護師へ難聴者であることを申し送ります。
院内移動
  • 受診科の窓口への略図を渡します。
待合室
  • 外待合室はもちろんのこと中待合室でも聞こえないことがありますので、呼び出しに配慮します。
診察室
  • 家族や要約筆記者が同行していても、必ず難聴者に向かって話します。
  • 問診時は難聴者がどの程度聴き取れるのかを見て、筆談などの対応をします。
  • 難聴者は聞き取れた言葉で判断をするため、聴き取れないまま、曖昧にうなずくことがあります。話が通じていないと思ったら、表現を変えたり、筆談をします。
  • 顔と口を見せながら話します。マスクをしたままや、横向きになりカルテを読みながらもしくはパソコンに向かったまま話すことは止めましょう。
  • (聴覚障がい者は、話し手の口元を見て、口の動きで言葉を読み取って聞こえを補っていることがあります。)
  • 声を大きくしても中途失聴・難聴者は、聴き取れるとは限りません。ゆっくりはっきり喋ったり、紙に書いて説明する等の配慮が必要です。また、何種類かのパターンを文字カードで用意しておくのも有用です。
検査室
  • 難聴者であることを念頭に置いて検査の説明をします。絵カードや手順を書いたカードを用いることは有用です。
  • レントゲンの検査などでのスピーカーから流れる「○○して下さい」等は聴き取れません。文字カードをガラス越しに見せたり、電光表示で読み取れるようにします。しかし、検査で体の向きを変えると、文字カードや電光表示が見えなくなることがありますので注意します。
支払い
  • 順番がきたら合図します。
  • 請求額を目で見えるような形で示します。
薬剤受け取り
  • 病院の薬局では、難聴者であると分かる「耳マーク」を活かします。
  • 呼び出しの際の配慮をします。
  • 薬の飲み方や説明書などを指さしながら説明します。筆談や文字カードを用いたり、薬の飲み方を書いた注意書きを渡すことも必要です。
  • 後日、薬に関する質問をFAXやメールで受けられるよう配慮します。
  • 院外処方では、受け取る薬局に難聴者であることを知らせます。

入院における配慮

入院初日
  • 院内の各部署に「耳マーク」と、「耳マーク」をつけている患者は難聴者とわかるように周知します。難聴者への対応で留意することも周知します。
  • 院内放送やナースコールの伝達では聴き取れないので、病室において患者に合わせたコミュニケーション手段を用いて伝えます。
  • 筆談には簡易筆談器(書いて消すを繰り返せるもの)が便利です。
  • 検査・手術の日程や内容は事前に筆談やカードで説明します。
  • 急な予定の変更も筆談で知らせます。
  • 検査・手術の際は、難聴であることを検査・手術の担当者に伝えます。
治療開始
  • 治療に関する話は、家族や要約筆記者がいても患者本人に話します。その際、補聴器で何とか聴き取れる患者には分かりやすくはっきりと説明し、聴き取れない人には筆談をします。
  • 患者である難聴者の意志で治療方法を選ぶ場合には、特に納得のいくまで説明します。またこのような場合には、事前に知らせ、患者の希望により要約筆記者や家族に立ち会ってもらいます。
  • 服薬の注意や食事制限の指示は、文字や絵カードを用いて視覚的に説明します。
  • 難聴者はスピーカーによる指示は聴き取れません。目に見える形でもしくは事前に決めた合図で指示します。また、体の向きにより表示が見えなくなる場合の配慮をします。
  • 回診等で話があるときは、分かりやすく話し、必要に応じて筆談をします。
入院生活
  • ナースコールや院内放送での重要な情報は文字に書いたもので知らせます。
  • 家族や外部への連絡のためにファックスなどが使えるように配慮します。
  • テレビはイヤホーンでは聴き取れませんので、字幕放送が受信できる受信装置の持ち込みを認めて下さい。
  • 医療機器に影響がない限り、音声を振動で知らせる装置の持ち込みを認めて下さい。(赤ちゃんの泣き声を振動で伝える器具等)

参考資料

《要約筆記》

  • 聞き取りにくい中途失聴・難聴者が社会参加する際に一番困ることは、話の内容を聞き取れないことです。ろうあ者のコミュニケーション支援事業に「手話」があるように、中途失聴・難聴者のためのコミュニケーション支援事業に「要約筆記」があります。主に集会や会議の場などで使われ、大阪府や市町村で行われています。団体派遣と個人派遣があり自立支援法で、市町村の派遣が明記されましたので、これからは市町村が主体になって要約筆記者派遣が行われることになります。要約筆記には大別して以下の2通りがあります。
    1.手書き要約筆記
    • 話を聞きながらその話を要約して、要約筆記者が文字を書いて伝える「手書き要約筆記」があります。専門的な講習を受け、ある程度の経験を積まないと要約筆記者にはなれません。
    • また話し言葉は、通常1分間に300語ほど話すとされますが、手で書く文字数は60から80文字しか書けませんので要約して伝えることになります。
    • この手書き要約筆記を形態別にみると、さらに二つに分けられます。
      OHPまたはOHCを使う要約筆記
      • 要約筆記者が4人でチームになって、OHPの上でロールシートにマジックペンで話を要約して書いていくもので、OHP(オーバーヘッドプロジェクター)に書かれた文字をスクリーンに投射して情報保障するものです。
      • OHPの代わりにOHC(オーバーヘッドカメラ)を使うこともあります。この場合は、プロジェクターを介してスクリーンに投射します。
      ノートテイクによる要約筆記
      • 要約筆記者が要約してB5サイズのペンの滑りやすい紙の上で書いて伝える情報保障です。一般に個人や少人数を対象にする場合にとられる方法です。このやり方の利点は、小回りが効くので、移動を伴う場合でも支障がないことです。また、屋外などで電源がなくともいつでも対応できることです。
      • よく筆談と混同されますが、筆談はお互いに文字を書いて話し合うものであり、ノートテイクは第3者(要約筆記者)が話を要約して中途失聴・難聴者に伝えるという違いがあります。
      • なお、ホワイトボードの上で書いていき、いっぱいになると消して再び書いていく方法もあります。
    2.パソコン要約筆記
    • 話を聞きながら要約筆記者が自分のノートパソコンに話を入力していって、それを中途失聴・難聴者が読む「パソコン要約筆記」があります。この入力スピードを上げるために、文節ごとに2人で分担して入力していき、中途失聴・難聴者が読む画面では1行に合成して出すようにします。
    • 手書き要約筆記と同様に高度なパソコン知識と入力技術が必要で、講座を受けた後の自己訓練が必要になります。通常、4人でチームを組みますが、利用者の人数などで以下のように分けられます。手書き要約筆記では1分間に80文字ほど書くのが限界ですが、パソコン要約筆記では150から250文字を入力します。情報量が手書き要約筆記に比べて多くなる利点と、パソコンで作られた資料や文書などを容易に画面に表示できる利点などがあります。
    • 難点としては、LANの事前設定に約10から20分の設定時間が必要になることです。
      スクリーンに投射するパソコン要約筆記
      • 室内でプロジェクターとスクリーンが用意できる場合は、スクリーンに投射します。一般に利用者の多い団体派遣の場合にとられる情報保障です。
      パソコン画面を読むパソコン要約筆記
      • 個人派遣として研修などに使われる形で、要約筆記者が話を入力していき合成した文を別に用意した表示用のパソコンに出してそれを読み取る方法です。
    • 部屋の中ではOHPやパソコンを使うことが多いのですが、屋外の様に陽のあたる場所や屋内でも動き回るところではOHPやパソコンが使えませんので、手書き要約筆記のノートテイクが中心になります。
    • 病院受診の場合などは、紙に書いていく方法と、携帯用のホワイトボードを使う方法があります。要約筆記者は水溶性のペンでホワイトボードに書き、伝え終えると消してまた新しい話を書いていく形をとります。
    • 大阪府の要約筆記者の養成・派遣事業は昭和58年秋から始まっており、毎年10月から3月まで16日間の要約筆記者養成講座が開講されます。平成12年度からパソコン要約筆記も加わり、手書き要約筆記コースとパソコン要約筆記コースの二つに分かれました。基礎課程32時間、応用課程20時間の計52時間の講座が開かれています。大阪府内の市町村に居住する方か大阪府内市町村に勤務先のある方が受講申込の条件になります。パソコンコース受講には、ノートパソコンの持ち込みができる人でタッチタイピングができることが受講条件です。
    <大阪府要約筆記者養成・派遣に関する問い合わせ先>
    特定非営利活動法人大阪府中途失聴・難聴者協会
    〒581-0023 大阪府八尾市都塚1−9
    理事長  上野哲人
    FAX番号:072-998-2907

《耳マーク》

  • 外見ではわかりにくい、聴覚に障がいを持つ人のために考案されたマークです。
  • 病院や銀行、役所などで後回しにされたり、誤解されたり、危険な目にあったりすることなく日常生活が円滑に進められるようにと配慮され、作られました。
  • (社)全日本難聴者・中途失聴者団体連合会では、正しく使用していただきために全国に普及、周知活動を展開しています。
耳マークグッズの活用方法
耳マークシール
  • 受診カードや、カルテに貼って、聴覚障がいを持つことを明示できます。
耳マーク表示板
  • 受付などに置きます。「耳の不自由な方は筆談しますのでお申し出下さい」と、病院側から呼びかける形のグッズです。
首から提げる耳マークカード
  • 本人が聴覚障がいを持つことを周囲にわかってもらうために「呼ばれても聞こえません=手で合図してください=お手数ですが筆記してください=はっきり口元を見せて話してください」と、明記してあります。医療機関でいくつか用意して、聞こえにくい人に院内で利用していただくと便利です。
耳マークメモ帳
  • 聴覚障がい者が持つと便利です。
  • メモ帳には「耳が不自由ですので、筆談でお願いします」と、明記されています。聴覚障がい者がわからないことや聞きたいことがあったときに差し出せば、書いてもらうことができます。
耳マークポスター
  • 耳マークを一般の人々にも広く認識していただくためのポスターです。
  • 院内に貼れば、耳マークをつけている人に対する対応も変わります。
耳マークを使用している患者には
  • 呼ぶときはそばに来て合図するなどの配慮をしてください。
  • 対面で、はっきりと口元を見せてゆっくりと話してください。
  • 通じないときや、日時、金銭表示など間違えやすい内容、大切なことは必ず筆談でお願いいたします。
  • 時には、手話や、ジェスチャー等も使って表現してください。
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このページの作成所属
福祉部 障がい福祉室地域生活支援課 地域生活推進グループ

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